日本環境感染学会誌
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31 巻, 3 号
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総説
  • 森兼 啓太
    2016 年 31 巻 3 号 p. 141-150
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/18
    ジャーナル フリー
     1970年代,アメリカ疾病対策予防センターによって構築された医療関連感染サーベイランスシステムであるNNIS(national nosocomial infections surveillance)システムは,様々な試行錯誤を繰り返しながら,やがて安定したサーベイランスシステムとして運用されるようになった.NNISは2006年に発展的に解消し,NHSN(national healthcare safety network)が発足した.NHSNは新たなサーベイランス要素を加え,参加施設数も大幅に増加して膨大なサイズのデータベースとなった.その一方で,判定基準の頻繁な変更,医療関連感染の公的報告制度の影響とみられる低すぎる感染率などの問題をかかえている.日本のサーベイランスの進むべき方向性を考える上で,世界最大のサーベイランスシステムであるNNIS・NHSNの歩んできた道を概観した.
  • 渡邉 都貴子
    2016 年 31 巻 3 号 p. 151-157
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/18
    ジャーナル フリー
     2013年,The Centers for Disease Control and Prevention (CDC)は,成人の入院施設に於いて,これまでのventilator-associated pneumonia (VAP)サーベイランスを,ventilator-associated events (VAE)サーベイランスに変更するとし,VAEの定義を発表した.定義が発表されてからも,サーベイランスの方法や定義について多くの変更がなされた.一方,VAEの疫学,VAEとVAPサーベイランスの関連,VAEのリスクファクター,予防策について多くの研究が発表された.この論文では,VAEサーベイランスの定義の最新版と,最近発表されたVAEに関する研究をレビューし要旨を述べる.
原著論文
  • 小林 由佳, 吉澤 重克, 金子 誠二, 清水 敏克
    2016 年 31 巻 3 号 p. 158-164
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/18
    ジャーナル フリー
     現在,消毒剤として広く使用されている次亜塩素酸ナトリウムに比して,人体への影響が少なく,有機物存在下でも殺菌効果が期待できる亜塩素酸水について,Escherichia coli (E. coli)の殺菌効果とネコカリチウイルス(feline calicivirus: FCV)の不活化効果およびその濃度と効果との関係を検証した.
     亜塩素酸水は有機物としてのウシ血清アルブミン(bovine serum albumin: BSA)存在下でも,殺菌・不活化効果があり,この時の遊離塩素濃度と殺菌・不活化効果に高い相関性が認められた.
     さらに,亜塩素酸水と次亜塩素酸ナトリウムを,有機物としてのBSAと接触させ,接触前後の遊離塩素濃度の推移並びに溶液に対するE. coliの殺菌効果およびFCVの不活化効果を検討した.
     亜塩素酸水のBSA接触後の遊離塩素濃度は,30分以上の接触時間でほぼ一定となり,残存遊離塩素は40~70%であった.高濃度の次亜塩素酸ナトリウム溶液でもBSAと30分間接触後の遊離塩素は激減した.
     亜塩素酸水はBSA接触後,E. coliおよびFCVに対する有効な殺菌効果およびウイルス不活化効果が確認されたが,次亜塩素酸ナトリウムではそれらが認められなかった.
     亜塩素酸水は次亜塩素酸ナトリウムと比較して有機物との共存下における遊離塩素濃度が高く,有機物存在下でも消毒効果が期待できる薬剤であると考えられた.
  • 伊藤 重彦, 中川 祐子, 南 博子, 橋本 治, 堀江 恭子, 樋渡 美紀, 諸永 幸子, 元石 和世, 谷口 初美, 松本 哲朗
    2016 年 31 巻 3 号 p. 165-172
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/18
    ジャーナル フリー
     一般病棟における除菌剤含有ワイプによる清拭回数と環境表面付着細菌数の減少効果について検討した.
     1施設の外科病棟において,複数箇所の環境表面を対象に付着細菌数を測定した.その結果,一般細菌生菌数(生菌数)が多かった病棟患者用トイレの便座,洗浄操作パネル,手洗い場蛇口周囲の3箇所の環境表面を対象に,6施設が参加して,清拭回数と除菌効果について検討した.各施設が準備した2つのトイレをA群(1日1回清拭群),B群(1日2回清拭群)の2群にわけ,除菌剤含有ワイプを用いて清拭した.連続した5日間において.調査1日目,2日目,5日日朝の清拭前に環境表面から検体を採取し,全菌数,生菌数,アデノシン三リン酸(ATP値)を測定した.清拭方法は6施設で統一し,ペルオキソー硫酸水素カリウム(酸化剤)配合剤含有ワイプを用いた.
     洗浄操作パネル,手洗い場蛇口周囲において,B群の生菌数は調査1日目,2日目,5日日にかけて減少した(p<0.05).ATP値は,洗浄操作パネル,手洗い場蛇口周囲でA群,B群ともに低下した(p<0.05).手洗い場蛇口周囲の全菌数,生菌数は,清拭直後に有意な減少を認めなかった.
     除菌剤含有ワイプによる清拭回数を1日1回から1日2回に増やすと,一般病棟患者用トイレの複数箇所において環境表面全菌数,生菌数が経日的に減少した.
  • 髙木 康文, 福田 治久
    2016 年 31 巻 3 号 p. 173-180
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/18
    ジャーナル フリー
     本研究の目的は,MRSA感染症における追加的医療資源(入院日数・出来高換算医療費)の推計である.
     対象は調査病院を2012年12月~2014年12月に退院した患者で,解析手法はMRSA感染有無を目的変数にしたロジスティック回帰によって推定される傾向スコアによるマッチング法を用いた.傾向スコア推定後,DPC10桁が同一でスコアが近似するMRSA感染者と非感染者を1対1でマッチングした.また,時間依存バイアスに対処したマッチング法も併せて行った.両者の医療資源の差異の平均から追加医療資源を算出し有意差の検定は対応のあるt検定を用いた.
     解析対象症例数は24,538例で,感染者数は47名であった.MRSA感染症による入院日数の延長は時間依存バイアスに対処した場合:13.1日(95%信頼区間3.7日–22.4日,p=0.008)および医療費の増加は107.0万円(31.7万円–182.2万円,p=0.007)であり,時間依存バイアスに対処しない場合:21.2日(95%信頼区間11.7日–30.8日,p<0.001)および医療費の増加は160.7万円(64.3万円–257.0万円,p=0.001)と算出された.
     本研究は,傾向スコアを用い時間依存バイアスに対処したマッチング法でMRSA感染症による追加的医療費を推計した.結果,時間依存バイアスに対処しなければ結果を過大評価することが明らかとなった.本推計値は感染制御における費用対効果を計る資料として活用できる.
報告
  • 梅田 由佳, 中積 泰人, 瀬野 晶子
    2016 年 31 巻 3 号 p. 181-186
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/18
    ジャーナル フリー
     銀増幅技術を応用した,高感度インフルエンザ迅速診断システムの効率的な運用法の確立を目的に検討した.対象患者629例から採取した同一の検体にて,従来のイムノクロマト法を利用したインフルエンザ迅速診断キット(用手法)と高感度インフルエンザ迅速診断システム(Auto法)を用いて検査を実施し,その検査結果と臨床学的因子との関係を調査した.
     成人において,用手法・Auto法とも陽性の群(ともに陽性群)にしめるAuto法のみ陽性の群の割合は,発熱後 6 時間未満では26.5%(9/34),発熱後6時間以降では9.1%(5/55)と,前者で有意に高かった(p<0.01).小児では発熱後経過時間と検査結果に関係性は認められなかった.両キットともに陰性442例に対して,ともに陽性162例で有意差があった因子は,検査時高体温,頭痛・頭重感,咳嗽,鼻水,関節痛・筋肉痛の5項目であった.Auto法のみ陽性25例においては,有意な因子はなかった.ともに陽性群において,Auto法のみ陽性群に対して有意であったのは検査時高体温のみであった.
     Auto法での検査実施が診療上有用と考えられたのは,発熱後6時間未満,小児,高熱を伴わない場合であった.また入院患者,職員に対してAuto法を用いることは,インフルエンザ流行期の院内感染対策において非常に有用であると考えられた.
  • 新 康憲, 春藤 和代
    2016 年 31 巻 3 号 p. 187-191
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/18
    ジャーナル フリー
     保育士の流行性ウイルス感染症への意識や対策の実情に関する報告はなく,ワクチン接種啓発における自治体病院による支援に関する報告も皆無である.今回,自治体病院の感染対策チームが保育施設の保育士を対象に研修会を実施し,アンケート調査により現状把握を行った.その結果,保育士自身の罹患およびワクチン接種歴の把握は不十分であり,保育士の抗体価を一元管理している施設は15%と低かった.また園児のワクチン接種歴の把握や未接種時の保護者への指導の割合は,入園時と比較し入園後に低下することが明らかとなった.一方,研修会3ヶ月後のアンケート調査において流行性ウイルス感染症への対応に変化を認めたことから,今回の支援は有効であったと考えられた.
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