日本環境感染学会誌
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31 巻, 4 号
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
総説
  • 大久保 憲
    2016 年 31 巻 4 号 p. 213-223
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/05
    ジャーナル フリー
     厚生労働省は,医療関連感染制御の方向性を示すための柱となる通知を適宜発出してきた.
     メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)感染が注目されていた1991年の通知では,臨床現場における常識的な感染対策の留意点が示されていた.
     2005年の通知では,エビデンスに基づいた対策が重要視され,2011年の通知では,感染制御チーム(ICT)活動の基本,医療機関相互の連携,アウトブレイクの定義とその対応について述べられている.その後,2014年には薬剤耐性菌(AMR)に対する基本的な考え方が示され,感染制御の組織化と地域の医療連携が急速に推進されることとなった.
     厚生労働省の多くの通知が,わが国の感染制御関連施策の骨格と方向性を形成してきた状況について述べると同時に,感染に関わる諸問題に対する国の基本的な考え方についてまとめてみたい.
  • 白石 正
    2016 年 31 巻 4 号 p. 224-229
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/05
    ジャーナル フリー
     消毒薬はいつ頃から使用され,どのような経緯で現在の感染防止に役立っているか,その変遷を歴史から考察した.1840年代にクロール石灰による手指衛生を始めとし,その後,石炭酸,昇汞の使用へと変わっていった.1870年後半に感染症は微生物が原因であることが判明して以来,消毒薬の重要性が広く認識されるようになる.1900年代には合成技術の進歩から多くの消毒薬が合成され,現在でも使用されている消毒薬が登場する.消毒薬は異なっても接触感染防止を唱えたSemmelweis IPやLister Jの意思は現在でも引き継がれている.本稿においては,手指衛生,環境消毒および器具消毒の方法についてその変遷を記述する.
短報
報告
  • 中村 忠之, 西條 美恵, 田口 実里, 丸茂 健治, 柳川 容子
    2016 年 31 巻 4 号 p. 235-240
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/05
    ジャーナル フリー
     我々は,1.0 w/v%および0.5 w/v%クロルヘキシジングルコン酸塩エタノール液(1.0%および0.5%CHG–AL)における即時効果および持続効果を,0.2 w/v%ベンザルコニウム塩化物エタノール液(0.2%BAC–AL)を対照として,看護師41名を対象にグローブジュース法(一部改変)にて比較検討した.1.0%CHG–AL群における消毒直後と消毒3時間後の細菌数は,0.2%BAC–AL群に比べて有意に減少し即時効果と持続効果は統計学的に優れていた.CHG–AL群の両濃度よる消毒後に検出された主な細菌はBacillus属およびコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)であった.CHG–AL群の両濃度を比較すると,CNS生残菌数は1.0%CHG–AL群で1/170~1/219, 0.5%CHG–AL群では1/513と有意に減少し,Bacillus属は1.0%CHG–AL群で1/7~1/11に有意に減少したが,0.5%CHG–AL群では減少しなかった.CHG–AL群の両濃度の消毒直後と消毒3時間後で,全分離細菌数,CNS菌数は指数減少が有意に認められCHG–ALが強い持続効果を有することを示した.以上の結果から,1.0%CHG–AL群の消毒効果はBacillus属の除菌効果を考慮すると0.5%CHG–AL群より優れていると考えられた.
  • 塚本 千絵, 小佐井 康介, 志岐 直美, 寺坂 陽子, 今村 政信, 賀来 敬仁, 田代 将人, 塚本 美鈴, 栗原 慎太郎, 泉川 公一 ...
    2016 年 31 巻 4 号 p. 241-246
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/05
    ジャーナル フリー
     当院において適切な血液培養検査の推進キャンペーンを行い,その効果を評価した.キャンペーン内容は,院内スタッフや研修医・学生に対する講習,血液培養陽性症例の調査,院内感染対策会議における血液培養実施状況の報告,医師の指示に基づく看護師による採取の実施,採血手順の簡略化,マニュアルの改定などであった.調査は2009年1月から2014年12月までに提出された血液培養38,813検体を対象とし,提出セット数,複数セット採取率,コンタミネーション率,陽性率を算出した.血液培養の提出セット数は2009年の3,168セットから2014年には4,920セットに,1,000患者日あたりの提出セット数も12.4セットから19.3セットに増加した.成人入院・外来の複数セット採取率は2009年のそれぞれ30.6, 43.0%から2014年の73.3, 85.7%に増加した.コンタミネーション率は2009年に3.5%であったが2010年以降は2%台後半で推移した.成人入院・外来,小児の血液培養陽性率は2009年の15.1, 22.2, 9.4%から2014年には11.0, 18.7, 2.6%とそれぞれ減少した.採取セット数別の陽性率はいずれの年においても1セット採取よりも複数セット採取で高かった.複数の推進活動を組み合わせて継続的に実施することにより,現場の医療従事者に適切な血液培養検査の考え方が浸透し,その実施が推進された.
  • 橋本 治, 宮崎 博章, 山口 征啓, 長南 謙一, 松本 哲朗
    2016 年 31 巻 4 号 p. 247-251
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/05
    ジャーナル フリー
     地域における耐性菌の拡散を防ぐためには,単一の医療機関だけでなく地域間で連携した取り組みが必要とされている.そこで北九州市東部地域にて抗菌薬使用量と薬剤耐性率との関係について調査を行い,その結果を感染防止対策地域連携加算施設1, 2の2群に分けて比較検討を行った.また,各施設における多剤耐性緑膿菌の検出件数の調査も行った.
     抗菌薬の使用密度(AUD)はカルバペネム系抗菌薬AUDを指標とした.カルバペネム系抗菌薬AUD及び緑膿菌耐性率は,2群間での統計学的な有意差は認めなかった.また,カルバペネム系抗菌薬AUDと緑膿菌感受性率の相関は見られなかった.今回の結果より,抗菌薬使用量以外の感染対策が耐性率に寄与している可能性が考えられる.また,多剤耐性緑膿菌が多くの施設に見られたことから,地域間での拡散防止に取り組んでいく必要があると思われる.
  • 桑原 博道, 川崎 志保理
    2016 年 31 巻 4 号 p. 252-268
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/05
    ジャーナル フリー
     複数の裁判例検索システムを用い,メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA),緑膿菌等に対する感染の予防や感染後の対応に関する裁判例83例を抽出し,解析した.
     患者背景としては術後患者が多く,転帰については死亡例が多かった.原因菌については,過去20年(1995~2014年)について見れば,MRSAが最も多かったが,緑膿菌については多剤耐性緑膿菌(MDRP)による死亡例が問題となっていた.「診療ガイドライン」,「SIRS」,「グラム染色」という用語は,年代を追うごとに判決文に引用されることが多くなっていた.感染の予防と感染後の対応とを比較すると,前者は過失が否定され易いが,後者はそのように言えなかった.医療機関としての感染予防策については,院内感染防止対策マニュアルの整備や見直し,職員研修を重要視する裁判例があった.感染後の対応については,血液培養検査に加え,抗菌薬の選択が争点となっていた.
     これらの結果から,まず,術前,MRSA・MDRP検出時,死亡後における患者や家族への説明が重要と考えられた.また,診療ガイドラインに従うかどうかはともかく,診療ガイドラインを意識して,感染の予防や感染後の対応を行う必要があると考えられた.さらに,医療機関としての感染予防策については,具体的な対応内容の書式化が重要であると考えられ,感染後の対応については,グラム染色も重要であると考えられた.
正誤表
  • 小林 美奈子, 楠 正人
    2016 年 31 巻 4 号 p. 269
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/05
    ジャーナル フリー
     Vol. 31, No. 2, p. 87-91, 2016に掲載した以下の論文中に,引用に関して下記の誤りがありましたので,お詫びして訂正いたします.

    論文タイトル:<総説>術後感染予防抗菌薬の適正使用
    著者名:小林美奈子,他

    参考文献の追加
    14) 術後感染予防.社団法人日本感染症学会/公益社団法人日本化学療法学会 JAID/JSC感染症治療ガイド委員会.JAID/JSC感染症治療ガイド2011.第1版.東京.ライフサイエンス出版株式会社.2012. p. 182-8.
    15) 術後感染予防抗菌薬適正使用のための実践ガイドライン.公益社団法人日本化学療法学会/一般社団法人日本外科感染症学会 術後感染予防抗菌薬適正使用に関するガイドライン作成委員会.東京.公益社団法人日本化学療法学会/一般社団法人日本外科感染症学会.2016. p. 9-13.

    表のキャプション修正
    表1 予防抗菌薬 文献14)を参考に一部変更
    表2 1 回投与量 文献15)より引用
    表3 再投与のタイミング 文献15)より引用
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