日本環境感染学会誌
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32 巻, 6 号
選択された号の論文の9件中1~9を表示しています
総説
  • 萱場 広之
    2017 年 32 巻 6 号 p. 317-321
    発行日: 2017/11/25
    公開日: 2018/05/25
    ジャーナル フリー

    抗菌薬の発見によって一時は克服されるかと思われた感染症は,現在も人類への脅威である.MRSAをはじめとする耐性菌による医療関連感染の抑制には感染制御活動が不可欠である.感染制御の専門スタッフが実働を開始したことにより,2000年代初頭からMRSAの黄色ブドウ球菌に占める割合が年々低下していることも感染制御活動によるものである.しかし,多剤耐性菌の制御は,ヒトの医療に携わるスタッフの対応のみでは十分とは言えないことも事実である.多剤耐性菌は,食品を介したヒトへの伝播が危惧されていることから,国際的視点に立脚した農畜水産分野における抗菌薬の慎重使用が感染対策の一つとして実施されることが望まれる.感染制御の知識と活動は,医療施設内のみではなく,農畜水産分野を含めた学際的・国際的視点に立脚した活動とともに,一般市民の啓発が重要と思われる.

  • 田村 豊
    2017 年 32 巻 6 号 p. 322-329
    発行日: 2017/11/25
    公開日: 2018/05/25
    ジャーナル フリー

    Swann Reportが公表されて以来,食用動物由来耐性菌のヒトの健康への影響が指摘されるようになった.農林水産省では,家畜衛生分野における薬剤耐性モニタリング制度を設立し,抗菌薬の使用量と耐性菌の出現状況を監視している.内閣府食品安全委員会では科学的資料により抗菌性飼料添加物と治療用抗菌薬により出現する耐性菌の食品媒介性のヒトの健康影響評価を実施している.次いで農林水産省はその評価結果に基づき,リスクの低減化対策を実施している.最近,海外で問題となっているST398の家畜関連メチシリン耐性黄色ブドウ球菌は現時点で食用動物から分離されたとの報告はない.また,プラスミド性コリスチン耐性遺伝子であるmcr-1を保有する大腸菌は病豚から高頻度に分離されているが,まだヒト由来株では検出されていない.今後は薬剤耐性アクション・プランに従ってOne Healthに基づいた耐性菌対策を医療と獣医療の連携のもとに強化する必要がある.

  • 山口 諒, 高山 和郎
    2017 年 32 巻 6 号 p. 330-336
    発行日: 2017/11/25
    公開日: 2018/05/25
    ジャーナル フリー

    感染制御において,消毒薬の適正使用は極めて重要である.消毒薬の効果に影響を与える因子として「濃度」「温度」「時間」が挙げられる.スポルディングの器具分類は器材の感染リスクに基づき,クリティカル,セミクリティカル,ノンクリティカルの3種類のカテゴリーに分けるものである.消毒薬は,そのスペクトルや生体毒性に応じて高水準消毒薬,中水準消毒薬,低水準消毒薬に分けられる.適切に消毒を行うためには,消毒薬の特徴,被消毒物品の特徴を理解し,「濃度」「温度」「時間」を意識して消毒薬を使用する必要がある.ICT担当者は,速乾性手指消毒薬の配置及び石鹸・流水による手洗いとの区別,消毒薬の噴霧,経管栄養セットの消毒,カテーテル関連血流感染症(Catheter Related Blood Stream Infection, CRBSI)予防のための消毒薬,血液培養採取時の消毒薬などを常にチェックし,消毒薬の適正使用を推進することが求められる.

  • 宮垣 朝光
    2017 年 32 巻 6 号 p. 337-343
    発行日: 2017/11/25
    公開日: 2018/05/25
    ジャーナル フリー

    糖尿病は,血糖値が高い状態が持続することで,さまざまな合併症を引き起こし,患者のQOLの低下,寿命の短縮に至る慢性全身性疾患である.患者数,医療費は増加の一途を辿っており,その多彩な合併症のコントロールは非常に重要な命題となっている.皮膚科で主に遭遇する合併症は皮膚感染症と糖尿病性足病変である.ともに,患者の命を脅かすことがあり,生命の危機に陥らない場合であっても,患肢の切断などにより患者のQOLの低下につながる重要な合併症と考えられている.このような皮膚の合併症は,皮膚科医のみならず,糖尿病診療に携わる医療関係者は避けて通ることのできない領域と考えられる.本稿では,糖尿病性足病変および糖尿病に合併する皮膚感染症およびその対策について概説する.

  • 細矢 光亮
    2017 年 32 巻 6 号 p. 344-354
    発行日: 2017/11/25
    公開日: 2018/05/25
    ジャーナル フリー

    エンテロウイルスは,ピコルナウイルス科に分類される小型RNAウイルスである.エンテロウイルスには,ポリオウイルス,エコーウイルス,コクサッキーウイルスAとB,エンテロウイルスがある.エンテロウイルス感染症の病型としては非特異的熱性疾患が多い.その他,咽頭炎,ヘルパンギーナ,手足口病,非特異的発疹症,無菌性髄膜炎,急性出血性結膜炎,脳炎・脳症,急性弛緩性麻痺,心筋炎・心膜炎,流行性筋痛症などがある.本総説に於いては,小児のエンテロウイルス感染症の病因,疫学,臨床症状,診断法,感染制御,治療などについて解説する.

報告
  • 川崎 和男, 舩山 俊克, 山本 浩一
    2017 年 32 巻 6 号 p. 355-363
    発行日: 2017/11/25
    公開日: 2018/05/25
    ジャーナル フリー

    本研究の最終目標は,強い殺菌効果で知られている深紫外線を生体に利用することである.本論文ではそのための検証の一つとして,深紫外線の近接場における殺菌効果の生体への影響について調べた.大腸菌および創傷を付けたラットの皮膚を対象に,深紫外線の近接場が与える影響を,観察からデータを取得し比較検討した.その結果,深紫外線の近接場において,大腸菌に対しては670 mJ/cm2の照射量で90%の細菌を死滅させることができ,同様にラットの創傷に対しては傷の回復に悪影響がないことが観察された.これらから近接場においては,大腸菌への殺菌効果がある線量でも,ラットを対象とした場合は生体の回復に悪影響を与えないことがわかった.本研究は,デザイン工学者が工学者の新技術を理解し,医学者とともに医学的な提案を考え,実験の実施まで行った.

  • 福地 邦彦, 秋間 悦子, 中根 香織, 宇賀神 和久, 田原 佐知子, 二木 芳人
    2017 年 32 巻 6 号 p. 364-368
    発行日: 2017/11/25
    公開日: 2018/05/25
    ジャーナル フリー

    Clostridium difficile(以下CD)はCD関連腸炎の原因となり,水平伝播によるアウトブレイクを発生させる.CDの検出には迅速診断キットが繁用されるが,近年,感度および特異度が改良された製品が開発されている.我々は検査方法の見直しによるCDの検出感度の向上に取り組み,その結果CD関連腸炎の診断精度が向上した.しかし検査方法の見直しによる検出感度の向上にも関わらず,水平伝播の疑いによるCDの感染拡大が認められたため,平時の環境整備の見直しに取り組んだ.従来は平時の環境整備に第4級アンモニウム塩製剤を使用し,CD感染症の発症者が発生した際は,患者周囲を次亜塩素酸ナトリウムにて環境消毒していた.今回リウマチ膠原病内科を中心とする病棟において,平時の環境整備にペルオキソ一硫酸水素カリウムを主成分とする複合型塩素系除菌・洗浄剤ルビスタ(以下,RST)を導入し,2年間での有用性の評価を行った.その結果RST導入後にCDの水平伝播は認められなかった.本検討において検査方法と平時の環境整備の見直しはCDの水平伝播抑制に関して一定の有用性を示すことが示唆された.

  • 佐々木 康弘, 金丸 亜佑美, 山口 明子, 矢野 雅隆
    2017 年 32 巻 6 号 p. 369-373
    発行日: 2017/11/25
    公開日: 2018/05/25
    ジャーナル フリー

    Antimicrobial stewardship program(ASPs)は抗菌薬の適正使用を目的とした方法の一つである.当院では薬剤師が主導して第4世代セフェム系抗菌薬の採用医薬品整理とカルバペネム系抗菌薬の使用監査を導入した.1000患者あたりの抗菌薬使用日数は,第4世代セフェム系抗菌薬では採用医薬品整理により51.87日から28.09日へ減少し(p<0.001),カルバペネム系抗菌薬では監査導入により9.35日から3.80日へ減少した(p<0.001).全抗菌薬集計の薬剤費は,1ヶ月あたり約40万円(18%)削減できた.緑膿菌の感受性率に大きな変化はなかった.薬剤師主導による抗菌薬処方適正化を目的とした院内政策の導入により,第4世代セフェム系抗菌薬とカルバペネム系抗菌薬の使用日数と薬剤費を減少させることができた.

正誤表
  • 2017 年 32 巻 6 号 p. 374
    発行日: 2017/11/25
    公開日: 2018/05/25
    ジャーナル フリー

    環境感染誌に掲載した以下の論文中に下記の誤りがありました.慎んでお詫び申し上げるとともに,以下に修正致しますので,宜しくご確認下さい.

    掲載巻号:Vol. 32,No. 4,p. 210-215

    論文タイトル:

    拭取りアデノシン三リン酸測定法を用いた病院調理場の衛生状態実態調査

    著者名:青山  高

    修正内容:

    p. 211 図1(注2)

    (誤)次亜塩素酸ナトリウム水溶液(次亜塩素酸ナトリウム10%):1000倍希釈:1000ppm(0.1%:1000mLの水に原液10mLを希釈する)

    ⇒(正)次亜塩素酸ナトリウム水溶液(次亜塩素酸ナトリウム10%):200倍希釈:200ppm(0.02%:1000mLの水に原液2mLを希釈する)

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