日本環境感染学会誌
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32 巻, 1 号
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総説
  • 坂本 史衣
    2017 年 32 巻 1 号 p. 1-5
    発行日: 2017/01/25
    公開日: 2017/03/06
    ジャーナル フリー

    国内の医療機関で実施されている主な手指衛生モニタリングの方法には,直接観察法と手指衛生製剤使用量調査がある.手指衛生の実態を把握するには,モニタリングの訓練を受けた担当者が,様々な職種について,様々な部門と時間帯における実施率を,観察者の存在が目立たない直接観察法(UDO)を用いて明らかにする必要がある.手指衛生製剤使用量は手指衛生実施率と相関しない場合があることから,手指衛生の評価指標には適さないとの指摘がある.本来,WHOが推奨する手指衛生の5つのタイミングのすべてを観察するのが理想であるが,UDOによりベッドサイドでの行動を観察するのは難しいことが多いため,患者ゾーンへの入退時のみを観察対象とする場合もある.入退時の実施率は,条件により,全タイミングの実施率の代替指標となり得ると報告されている.手指衛生実施率を改善する第一段階は,観察対象部門への結果のフィードバックである.このとき,①施設全体の目標値との比較,②観察対象部門の経時的変化,③他部門との比較の3側面から実施率を評価した結果を報告すると,現状と課題を共有することが可能になる.改善には,患者の協力を得ることや各部門に手指衛生を支持するchampionを配置することなども有効である.手指衛生championの活動には,部門管理者,感染対策チームなどの質の管理者,そして幹部が十分な支援を提供する.そのような組織の安全文化が手指衛生実施率の改善には必須である.

原著
  • 和田 耕治, 吉川 徹, 李 宗子, 満田 年宏, 木戸内 清, 網中 眞由美, 黒須 一見, 森澤 雄司, 森屋 恭爾
    2017 年 32 巻 1 号 p. 6-12
    発行日: 2017/01/25
    公開日: 2017/03/06
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,病室と病室外で発生した針刺し切創のデータを元に,リスクの高い器材や事例発生状況を明らかにすることである.エピネット日本版サーベイランスに参加している118施設に対し,2013年4月から2015年3月における針刺し切創事例全数のデータの提供を求めた.87施設から6,201件が収集された.病室では1,698件,病室外では593件の針刺し切創が報告された.針刺し切創が最も多かった器材は,使い捨て注射器の針(病室30.6%,病室外35.9%)であった.事例発生状況は,病室では患者に器材を使用中,病室外では器材の分解時が最も多かった.病室での器材別の事例発生状況としては,使い捨て注射器の針では使用済み注射針のリキャップ時(23.9%),翼状針は使用中(48.4%),薬剤の充填されている注射器の針では器材の分解時(21.9%),静脈留置針と真空採血セットの針は使用中(30.2%,35.4%)であった.病室外での器材別の事例発生状況としては,使い捨て注射器の針では器材を患者に使用する前(21.6%),薬剤の充填されている注射器の針では器材の分解時(27.2%),静脈留置針と真空採血セットの針は,廃棄ボックスに器材を入れる時(24.4%,29.4%)であった.病室と病室外では,針刺し切創が起こりやすい器材や事例発生状況が異なっていた.

短報
  • 森 尚義, 高羽 桂, 垣内 由美, 時松 一成
    2017 年 32 巻 1 号 p. 13-17
    発行日: 2017/01/25
    公開日: 2017/03/06
    ジャーナル フリー

    小児は,尿路感染症(UTI)の罹患頻度が高く,主な起炎菌はEscherichia coliE. coli)であると言われている.一方で,高い頻度で基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ(ESBL)産生E. coliが検出されており,初期治療の選択が重要となる.そこで,小児尿培養におけるESBL産生E. coliの検出状況と,患児の臨床背景を調査した.小児尿培養から検出されたE. coli 88検体中,ESBL産生E. coliは12検体(13.6%)であった.ESBL産生E. coli検出群において,再発性UTIの診断症例,医療介入歴のある症例,フルオロキノロン系抗菌薬耐性の割合が有意に高かった.よって,市中で小児のUTIをみた時には,フルオロキノロン系抗菌薬耐性のESBL産生E. coliを念頭に,過去の医療介入歴も十分問診することが重要であると考えられた.

報告
  • 中澤 弘子, 土屋 守克, 高橋 誠一, 加藤 祐樹, 神谷 円, 吉村 将規
    2017 年 32 巻 1 号 p. 18-22
    発行日: 2017/01/25
    公開日: 2017/03/06
    ジャーナル フリー

    近年,人工呼吸器関連肺炎(VAP)の予防策の一つとして,気管チューブに付属した専用のポートから吸引する,カフ上部吸引(subglottic secretion drainage:SSD)の有効性が示されている.本研究では,気管挿管,気管切開を行った患者56名を対象とし,カフ上部から吸引される分泌物の有無の関連因子を検討した.結果,気管切開チューブを使用している患者の方が,気管内チューブを使用している患者に比べ,約5倍カフ上部から分泌物が吸引されやすい傾向にあることが明らかとなった.その要因として,「チューブ挿入部周囲の組織の構造および位置」,「気管チューブの構造」の2点が推察された.今後は,カフ上部吸引回数やカフ上部吸引のタイミング,吸引量などの因子を加えて検討を行い,サイレントアスピレーションの予防に努める必要がある.

  • 野田 洋子, 飯沼 由嗣, 薄田 大輔, 多賀 允俊, 新町 美雪, 前多 一美, 前野 聡子
    2017 年 32 巻 1 号 p. 23-28
    発行日: 2017/01/25
    公開日: 2017/03/06
    ジャーナル フリー

    尿道留置カテーテルの不適切な管理や自動尿測定器の汚染による抗菌薬耐性菌のアウトブレイクが報告されており,尿取り扱い時の衛生管理とともに蓄尿や尿量測定の適正化の必要性が強調されている.当院においては,尿取り扱いに関して統一したマニュアルや手順が無く,2012年感染対策チーム(ICT)メンバーを含む多職種で構成されるワーキンググループを組織し,活動を開始した.病室内トイレ付属の自動尿測定器を全面使用禁止とし,プラスチック製採尿容器の廃止と使い捨ての紙製採尿コップを新たに採用した.また,職員による尿取り扱い方法,蓄尿・尿量測定の適用の厳格化などを盛り込んだ「尿量測定マニュアル」を作成し,周知徹底を行った.その結果,総尿量測定件数,蓄尿件数は2013年にはそれぞれ43%,69%減少し,蓄尿率は42.9%から23.2%へと有意な減少が見られた(p<0.001).また,マニュアル導入後の職員および患者からの意見は肯定的なものであった.今後もこの活動を継続的に行い,さらなる尿取り扱いの適正化に取り組んでいく予定である.

  • 大原 宏司, 松崎 哲也, 早坂 正孝
    2017 年 32 巻 1 号 p. 29-33
    発行日: 2017/01/25
    公開日: 2017/03/06
    ジャーナル フリー

    Candida albicansC. albicans)は,カテーテル関連血流感染(CRBSI)の主な原因菌の一つであり,発症した場合の致死率は高い.既報では,末梢静脈栄養(PPN)輸液へのマルチビタミンの添加が本真菌の増殖を促すことが報告されている.昨今,わが国において9種の水溶性ビタミンを含有するPPN輸液(PP:パレプラス輸液)が発売された.中でもビオチンが真菌の増殖に関与すると報告されており,CRBSIのリスクが高くなることが懸念される.本研究では,PPN輸液中でのC. albicansの増殖能におけるビオチン添加の影響について検討した.市販のビーフリード輸液(BF)とPPを用い,さらにBFにビオチンを添加したもの(BF-Biotin(+)),BFにビオチン以外の水溶性ビタミンを添加したもの(BF-Biotin(-))を調製した.各試験液に一定量のC. albicansを添加し,室温で静置した.継時的に試料を採取し,コロニーを計測した.C. albicansは,BFとBF-Biotin(-)において増殖は緩やかであったが,PPとBF-Biotin(+)において急速な増殖が認められた.本研究結果より,C. albicansの増殖にはビオチンが関与することが明らかとなり,C. albicansの汚染があった場合には,従来のPPN輸液に比べ,ビオチン含有PPN輸液においてはCRBSIのリスクが高くなる可能性が示唆された.

  • 盛次 浩司, 齋藤 信也
    2017 年 32 巻 1 号 p. 34-41
    発行日: 2017/01/25
    公開日: 2017/03/06
    ジャーナル フリー

    非急性期ケアにおける尿道留置カテーテルの取り扱いの現状を把握するとともに,そこでのカテーテル関連尿路感染症(Catheter-associated Urinary Tract Infections:CAUTI)予防のあり方を探るためアンケート調査をおこなった.A県下の訪問看護ステーション(訪看)106施設,特別養護老人ホーム(特養)146施設,介護老人保健施設(老健)77施設,療養型病床(療養病床)130施設を対象とし,カテーテル取り扱いの現状,CDCの「カテーテル関連尿路感染の予防のためのガイドライン2009」にみられる各インディケーターの遵守状況について調査した.有効回答数は175(38.1%)であり,カテーテルの使用率は訪看10.5%,特養3.5%,老健3.8%,療養病床24.6%であった.カテーテル使用理由については,訪看では,医学的理由以外の「介護者の負担軽減」,「尿失禁ケア」の理由も多くみられた.療養病床では,「褥創治療」,「尿閉・神経因性膀胱」,「終末期ケア」の順であった.ガイドラインの遵守状況は施設類型間に差はみられなかったが,閉鎖式セットといった感染対策に役立つとされる材料の選択では,その必要性と使用比率との間に乖離がみられた.今後は,非急性期ケアの実情に適したカテーテルの材質やセット内容の改善,また,感染予防教育などを含んだ総合的な対策が必要と考えられた.

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