ヨウ素125シード線源を用いた密封小線源治療(シード治療)が国内で始まって今年で10年になるが,これまで全国116施設において計27,000例程の治療が実施されている.日本でのシード治療はアメリカよりも10年以上遅れて始まったが,その分,アメリカでのそれまでの経験やエビデンスを踏まえて治療を開始することができた.また早い時期から,アメリカにおいて豊富な経験をもつ医師を招き,その指導を受けることもできたため,日本でのシード治療は全体的に高いレベルで実施されてきている.その証拠に,最近報告されている国内での長期のアウトカムは,アメリカでのシード治療優良施設に比べて勝るとも劣らないものになっている.10年目を迎えたシード治療を,今回本学会誌においてとりあげていただいたことを機に,国内におけるシード治療を長期で見た有効性と安全性を確認したいと考えている.
また,本特集のもう一つのねらいは,シード治療にあまり関わっておられない泌尿器科の先生にもこの治療のことを詳しく知っていただくことにある.というのも,この治療は実施されている施設が限られているため,他施設から,場合によっては遠方から来られて治療を受けられることも多いと思われる.そのため,治療後は患者の地元の施設で経過観察をされることも少なくないだろう.その場合,シード治療にあまりなじみのない医師が見ることになり,シード治療後の特異なPSAの変動や有害事象に戸惑うこともままあると思われる.PSAバウンス,放射線治療後のPSA再発の定義,晩期の有害事象の出現などは是非多くの泌尿器科医に認識しておいてもらいたい事項である.
前立腺癌治療を受けた患者の生活の質(QOL)において,排尿機能,排便機能,性機能の低下は大きく影響するものである.手術,外照射,シード治療,どのような治療法を行っても,これらの機能の低下は少なからず見られるが,シード治療においては比較的QOLは保たれやすいと考えられている.国内において長期的にそれを確認することはシード治療を評価する上で重要だと考えている.特に性機能の温存はシ?ド治療を選択する患者の大きな期待であり,この治療を選択する一つの要因となっている.アメリカでの報告通り,日本人でも治療後の性機能の温存が叶っているのかは是非明らかにしておきたい事項である.
シード治療が国内に導入された当初,この治療は低リスク症例のみが適応と考えられていた.しかし,アメリカにおいて中・高リスク症例においても外照射やホルモン療法と併用することで良好な治療成績が得られることが確認され,シード治療の適応範囲が拡大されている.NCCNガイドラインにおいてもシード治療はどのリスクにおいても推奨されている.国内におけるシード治療の有効性,安全性のエビデンスを得るべく,全国規模の多施設共同研究が3つ行われており,それらから得られる結果は世界においても注目されるものと期待されている.これらの研究も本特集で紹介したいと考えている.
シード治療も10年が経過すると少数とはいえ再発例も経験されてきている.シード治療後に局所再発があった場合,次に何を行うかは今後考えていかなければならない事項である.本特集において,問題提起としてこのことにも少し触れたいと考えている.
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