日本臨床救急医学会雑誌
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13 巻, 4 号
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原著
  • 塩津 正己, 二宮 宣文, 田中 秀治
    原稿種別: 原著
    2010 年 13 巻 4 号 p. 479-486
    発行日: 2010/08/31
    公開日: 2023/03/31
    ジャーナル フリー

    再教育病院実習に臨む救急救命士の多くは,病院実習ガイドラインに特殊領域診療科と記されている精神科,小児科,産科での実習を望んでいる。本研究では特殊領域診療科での病院実習の必要性を明らかにして,特殊領域を含む新しい病院実習プログラムを試験的に実施したので,その効果を含め報告する。対象とした近隣地域の救急救命士計85名に対しアンケート調査を実施した。研究1:特殊領域を含む実習の必要性の根拠と近隣地域の2次救急病院の実習受け入れ体制の調査。研究2:特殊領域を含む新しい実習プログラムの内容への評価。結果:2次救急病院での特殊領域の実習機会は少なく,特殊領域診療科を併設する3次救急施設での病院実習を100%の救急救命士が希望した。今後,救急救命士の救急活動上発生する特殊疾患に沿った病院実習の実践が望まれた。また,本研究で試験的に実施したプログラムは,特殊領域診療科の協力体制下では可能であった。

  • 坪内 逸美, 小濱 啓次, 櫻井 瑛大, 服部 未来, 松田 幸恵, 吉岡 美貴
    原稿種別: 原著
    2010 年 13 巻 4 号 p. 487-492
    発行日: 2010/08/31
    公開日: 2023/03/31
    ジャーナル フリー

    目的:大都市東京都と小さな地方都市鳥取県の救急医療体制の現状を比較検討し,両都県における救急医療体制の今後のあり方を考えようとした。方法:東京都と鳥取県の救急医療に関する資料(救急医療機関数,医師数,救急隊員数,救急車数,救急出場件数,転送率等)を集め,比較検討した。結果:東京都は救急医療機関数,救急隊員数等において鳥取県を大きく凌駕していたが,人口10万人あたりでその実態をみると,東京都は鳥取県より小さい数値を示し,傷病者が119番通報から医療機関に収容されるまでの時間も鳥取県の方が早かった。一方,都民の救急車の要請件数は鳥取県の1.5倍であった。結論:東京都においては,救急医療機関と救急隊の不足,救急車の過度の要請があり, これを改善するためには大学病院の救急診療への積極的な参加とドクターカーの運用,民間救急の導入,救急車の適切な利用を促すための普及啓発が必要であると思われた。また鳥取県においては,転送件数が多く,鳥取県中部地区における救命救急センターの整備と地域連携,医療機関の役割分担が重要であると考えられた。

  • 今西 正巳, 奥地 一夫, 西尾 健治, 小延 俊文, 平林 秀裕
    原稿種別: 原著
    2010 年 13 巻 4 号 p. 493-497
    発行日: 2010/08/31
    公開日: 2023/03/31
    ジャーナル フリー

    プレホスピタルケアを担う救急隊員(おもに救急救命士)に対して,奈良県メディカルコントロール協議会の下,PSLSコースを導入した。救急救命士には,その受講を義務づけ,研修会を継続開催している。奈良県内で冬季3ヶ月に救急隊員によって脳卒中が疑われたあるいは脳卒中であった搬送症例について, その有用性について検討した。脳卒中の疾病分類では,虚血性脳卒中が約70%を占め,全国的な報告と同様であった。救急隊員による脳卒中判断の的中率は,PSLSコースの受講あり群78.4%,受講なし群75.1%で,受講あり群が若干高率であった。患者搬送において,搬送時間は,受講あり群40.0分,受講なし群42.6分で,受講あり群が短い傾向であった。とくに現場滞在時間は,受講あり群17.1分,受講なし群19.7分で,受講あり群が有意に短いものであった。脳卒中は早期対応が要求されることから,PSLSコースを継続開催することは有用なことと考えられた。

調査・報告
  • 阿南 英明, 近藤 久禎, 森野 一真, 赤坂 理, 本間 正人, 中山 伸一, 小井土 雄一, 大友 康裕, 辺見 弘
    原稿種別: 調査・報告
    2010 年 13 巻 4 号 p. 498-504
    発行日: 2010/08/31
    公開日: 2023/03/31
    ジャーナル フリー

    日本DMAT(Disaster Medical Assistance Team:災害医療派遣チーム)隊員養成研修を開始後4年以上が経過した。その間に実災害を経験したことにより得られた,さまざまな教訓や改善された仕組みがある。これを生かすために,研修内容の改訂が必要になった。そこで研修講師に対して現行プログラムの改良点に関するアンケートを実施した。そして,その結果を基に厚生労働科学研究「健康危機・大規模災害に対する初動期医療体制のあり方に関する研究」の研究会議において,プログラム見直しに関する議論を行った。これにより得られた結論は,以下の3点にまとめられる。①新しいプログラム内容や研修方法に関する改訂案の提示,②隊員の知識や技能レベルを標準化し,効率的な研修を実施するために,事前のJPTECTM,JATECTM受講が望ましいことの提示,③ DMAT研修受講後の隊員が知識と技能を維持,更新するために標準化された継続研修案の提示。

  • ―香川県消防学校での試み―
    中村 丈洋, 細見 直永, 黒田 泰弘, 東條 仁, 田宮 隆, 奥寺 敬
    原稿種別: 調査・報告
    2010 年 13 巻 4 号 p. 505-511
    発行日: 2010/08/31
    公開日: 2023/03/31
    ジャーナル フリー

    目的:脳梗塞の決定的な治療であるrt-PAが2005年10月より保険適応になり,脳卒中初期対応の重要性が認識されるようになった。日本臨床救急医学会が中心となり脳卒中病院前救護(PSLS)コースが開発され,全国的に学会併設などで開催されている。しかし,地域医療の向上が目的でもあるので,地域での定期開催が理想である。地方ではコース開催が限られており,受講が制限される現状がある。その解決策の1つとして,著者らは消防学校における教育にPSLSコースを導入し検討を行ったので報告する。方法:半日3時間半のコースの設定とし,学習項目を「初期評価ABC」,「意識障害の評価」,「病院前脳卒中スケール」,「症例検討(ケースシミュレーション)」とした。各学習項目で到達目標を設定し実習を行った。また研修終了後にアンケート調査を実施した。結果:項目別目標到達度は,「初期評価ABC」:91%,「意識障害の評価」:89%,「病院前脳卒中スケール」88%,「症例検討(ケースシミュレーション)」83%であった。結論:今回,救急隊員対象のコースを消防学校学生向けに改変して実施し,初めての試みであったが,各学習目標の到達度が80%を超えたことから開催の意義はあったと思われる。今後も,改良を行い継続していく必要がある。

  • 古田 幸一, 岩橋 勝一, 最所 純平
    原稿種別: 調査・報告
    2010 年 13 巻 4 号 p. 512-516
    発行日: 2010/08/31
    公開日: 2023/03/31
    ジャーナル フリー

    救急隊が行った過剰な換気で胃内容物が逆流したと思われる突然の心停止症例を経験した。日本版救急蘇生ガイドラインの下地であるAHAガイドライン2005での人工呼吸の勧告では,「過大な換気量または強すぎる換気」が胃の膨満とそれに伴う合併症をきたす要因とされており,その勧告内容が軽視されている可能性を懸念し,実状と課題を調査した。救急隊員38名に対し人工呼吸の勧告についての知識と換気量,換気時間を調査し,逆流発生のリスクを検討した。知識調査では勧告内容は知っていても根拠の理解が46%と低かった。手技は多くの救急隊員が人工呼吸を短い換気時間と過大な換気量で実施していた。5年以上の救急隊経験者で根拠の理解が不十分である者に換気量がより大きい傾向がみられた。結果,人工呼吸の習熟度が不十分であり,逆流発生のリスクを高めると考えられた。今後は勧告内容を習熟し手技を確実に身に付けることが必須であると考えられた。

  • ―大阪千里メディカルラリーにおける観察研究―
    小林 正直, 冨士原 彰, 森田 大, 西本 泰久, 三嶋 隆之, 新田 雅彦, 林 敏雅, 林 靖之, 小林 誠人, 里 憲士
    原稿種別: 調査・報告
    2010 年 13 巻 4 号 p. 517-524
    発行日: 2010/08/31
    公開日: 2023/03/31
    ジャーナル フリー

    目的:心停止時の高度な気道確保器具挿入が胸骨圧迫と換気の中断時間に与える影響を検証する。方法:大阪千里メディカルラリー(2006年~2009年)にて,70の競技チームを対象として観察研究を行った。気管挿管に関連した胸骨圧迫と換気の中断時間,挿管操作時間,換気中断時間延長の理由を検討した。結果:用手法にて気道を確保したテームに,胸骨圧迫や換気の中断はなかった。挿管確認時の胸骨圧迫中断時間中央値は2006年で13.1秒,2007年で6.3秒,2008年で6.4秒,2009年で8.3秒であった。一方,気管挿管に関連した換気中断時間総和の中央値は2006~2009年にて85秒に達した。挿管達成時に限った検討では,挿管操作時間が30秒未満であったものは72.3%であったが,換気中断時間が30秒未満であったものは8.5%のみであった。換気中断時間延長の最多理由は,換気再開の手順を1つずつ実施している場合であった。結語:2007年以降,胸骨圧迫中断時間の短縮が認められたが,換気中断時間の短縮は十分でなかった。

臨床経験
  • 森本 文雄, 池上 敬一
    原稿種別: 臨床経験
    2010 年 13 巻 4 号 p. 525-528
    発行日: 2010/08/31
    公開日: 2023/09/05
    ジャーナル フリー

    方法:プロポフォール単剤による救急患者における迅速気管挿管の状態を,下顎の弛緩,喉頭鏡に対する抵抗,声帯の位置,声帯の動き,チユーブ挿入時の刺激による四肢および横隔膜の動きで評価した。結果:22例全例がプロポフォール単剤で気管挿管できた。下顎の弛緩は21例で良好で,喉頭鏡に対する抵抗もなかった。声帯は13例(59%)が開口状態で,動きもなかった。チューブ挿入時の刺激に対して11例(50%)で四肢の動きはなく,10例(45%)で横隔膜の動きもなかった。チューブ挿入時の刺激に対し2例(10%)で四肢は激しく動き,2例(10%)で横隔膜が激しく動いた。うち1例は四肢・横隔膜ともに激しく動いた。気管挿管時の総合評価は,excellent 10例(45%),good 9例(41%),poor 3例(14%)であった。まとめ:プロポフォール単剤で,救急患者における迅速気管挿管可能な状態が作成できる。

症例報告
  • 白井 知佐子, 早川 達也, 上松 東宏, 近土 善行, 名倉 博史
    原稿種別: 症例報告
    2010 年 13 巻 4 号 p. 529-533
    発行日: 2010/08/31
    公開日: 2023/03/31
    ジャーナル フリー

    症例は82歳,男性。嘔気・両肩の痺れ・下肢の不随意運動を主訴に救急受診。右足のミオクローヌス以外に症状なく,血液・画像検査上 異常なく,症状も消失したため,帰宅とした。翌朝,両肩の痺れ・両下肢の脱力感・左下肢の不随意運動を主訴に再来。左下肢のミオクローヌス以外は神経学的異常なく,血液・画像検査上 異常なく,症状もほどなく消失して歩行も可能となる。経過観察中,左半身の不全麻痺・右側表在覚障害・排尿困難出現し,Brown-Séquard様の症状を呈した。頚髄MRIにてC3-C5部位にT2高信号あり,髄液検査などで他の疾患が否定的であり,脊髄梗塞として入院加療とした。本症例ではTransient Ischemic Attack(以下TIAと略)を繰り返した後,症状が完成したものと思われた。

  • 本田 真広, 岡村 宏, 井上 健
    原稿種別: 症例報告
    2010 年 13 巻 4 号 p. 534-540
    発行日: 2010/08/31
    公開日: 2023/03/31
    ジャーナル フリー

    症例は21歳,女性。後部座席に乗車中後ろからバスが追突し受傷。近医で肝損傷,脾損傷,骨盤骨折および上肢骨折を指摘され,受傷後約6時間後に当院へ紹介搬入となった。直ちに濃厚赤血球の大量投与を開始し,一時的に循環動態が安定したため造影CTを施行。左葉・尾状葉のⅢb型肝損傷および左葉・肝門部・肝後面下大静月サR背側・右恥骨内側 にextravasationを認め,TAE後に開腹ガーゼパッキングを施行しsilo closureとした。術後ドレーンからの出血が多量で,低体温と凝固障害に伴う止血制御不能が強く疑われた。大量輸血投与および低体温の補正を行うも止血せず,活性型第Ⅶ因子製剤の投与で止血し得た。イスラエルでは外傷における緊急出血に対して本剤の使用が承認されているが,外科的処置および輸血を行い,かつアシドーシスと低体温の補正を行っても止血できない症例に投与すべきとされている。今後日本でも本剤の適切な使用のため,ガイドラインの作成が必要であろう。

  • 山本 理絵, 守田 誠司, 青木 弘道, 櫻井 馨士, 猪股 誠司, 中川 儀英, 山本 五十年, 猪口 貞樹
    原稿種別: 症例報告
    2010 年 13 巻 4 号 p. 541-544
    発行日: 2010/08/31
    公開日: 2023/03/31
    ジャーナル フリー

    カルバマゼピン(テグレトールTM)の過量服薬による急性中毒に伴って伝導障害を呈した若年の症例を経験したので報告する。症例:20歳代,女性。境界型人格障害の診断で精神科へ通院中。衝動的にカルバマゼピン9,800mgを服用し,当院救命救急センターヘ搬送となった。来院時,高度意識障害と嘔吐を認め,気管挿管後に胃洗浄し集中治療室へ収容して人工呼吸器管理を行った。来院時心電図は正常であったが,カルバマゼピン血中濃度の上昇に伴い伝導障害がみられ,血中濃度の低下とともに正常化した。意識障害もカルバマゼピン血中濃度の低下とともに改善して第4病日には意識清明となり,第7病日精神科病院へ転院となった。結語:カルバマゼピンの過量服薬による急性薬物中毒の患者では,長期服用者や高齢・心疾患などの危険因子をもつ症例と同様に,経時的な血中濃度とECGの測定が必要と考えられた。

  • 山田 哲久, 名取 良弘, 由比 文顕, 中塚 昭男, 鮎川 勝彦
    原稿種別: 症例報告
    2010 年 13 巻 4 号 p. 545-552
    発行日: 2010/08/31
    公開日: 2023/03/31
    ジャーナル フリー

    くも膜下出血の典型的な症状としては,突然の激しい頭痛である。しかし,症状が軽い場合には,医療機関を受診しなかったり初診時に見逃されたりして,症候性脳血管攣縮の状態で受診することがある。受診時の頭部CTですでにくも膜下出血が消退していれば,脳梗塞との鑑別が困難になる可能性がある。また,手術を行うタイミングを含めた治療戦略も問題となる。今回,症候性脳血管攣縮で受診したくも膜下出血を4症例経験した。3症例は急性期に医療機関を受診していたが見逃されていた。症例の検討から見逃しを防ぐためには詳細な病歴聴取が必要であることが考えられた。また,4症例とも待機的に手術を行い社会復帰可能であった。手術時期としては脳血管攣縮が改善するまで待機して,改善後は可能な限り早期に開頭クリッピング術を行うことが必要と考えた。

  • 大野 雄康, 池上 之浩, 島田 二郎, 長谷川 有史, 塚田 泰彦, 田勢 長―郎
    原稿種別: 症例報告
    2010 年 13 巻 4 号 p. 553-557
    発行日: 2010/08/31
    公開日: 2023/03/31
    ジャーナル フリー

    ドクターヘリにより搬送された急性心筋梗塞の1例を経験した。症例は60歳代,男性。強い前胸部痛を自覚し救急車を要請した。救急隊による搬送中にVTが出現したため,救急救命士の判断によリドクターヘリが要請された。搭乗医師が患者に接触した直後にVFに陥った。直ちに二次救命処置を施行し,心拍再開後にヘリで当院へ搬送した。収容後,大動脈バルーンパンピング(IABP)および経皮的ペーシング(TCP)を行いながら緊急心臓カテーテル治療(PCI)を開始した。VFを繰り返し計17回の電気的除細動を行ったが,循環動態が不安定なため経皮的心肺補助(PCPS)下に治療を続行した。#1の再灌流を得た後に治療を終了しCCU入室となった。経過は良好であり,第2病日にPCPSから離脱,第7病日にCCUを退室することができた。本症例はドクターヘリによる適切な初期治療と迅速な搬送が奏功し完全社会復帰できたと考えられた。

  • 小口 はるみ, 神應 太朗, 小口 正義, 依田 祐介, 小川 新史, 木口 雄之, 末吉 孝一郎, 瀧本 浩樹, 矢澤 和虎
    原稿種別: 症例報告
    2010 年 13 巻 4 号 p. 558-562
    発行日: 2010/08/31
    公開日: 2023/03/31
    ジャーナル フリー

    家族内伝播した劇症型A群β溶連菌感染症(Streptococcal toxic shock syndrome,以下STSS)の1例を経験した。症例は60歳代,男性。3日前から感冒症状にて近医で抗菌薬,消炎鎮痛薬等を処方されていたが,呼吸苦も認めたため救命救急センターヘ搬送された。意識清明,体温39.1℃。外表上に異常なく,頭・胸・腹部CTでも異常を認めなかった。 腰椎穿刺施行中,急に血圧が低下し心肺停止となり来院3時間後死亡した。後日,血液培養にてA群β溶血性連鎖球菌(以下A群溶連菌)が検出された。数日後,配偶者も咽頭痛,発熱にて当院受診し,11因頭培養にてA群溶連菌が検出された。両者から検出された菌の血清型および遺伝子型が一致した。孫も同じ症状で当院小児科受診するも迅速検査キットでは陰性だった。家族内発症し, 同じ菌株と同定したもののSTSSに移行した例としなかった例があった。

  • 尾中 敦彦, 片山 祐介, 岡 宏保, 日野 裕志, 切通 雅也, 松阪 正訓, 塩野 茂
    原稿種別: 症例報告
    2010 年 13 巻 4 号 p. 563-567
    発行日: 2010/08/31
    公開日: 2023/03/31
    ジャーナル フリー

    膵損傷の治療方針決定において主膵管損傷の有無の評価は重要である。近年,外傷以外の分野ではmultidetector row CT(以下MDCT)が主膵管病変の評価に有用とされているが,主膵管損傷をMDCTにより直接描出し得た報告は,われわれが検索し得たかぎりでは海外の報告が1編認められるのみであり,非常に少ない。今回,MDCTを用いて主膵管損傷を直接描出し得た鋭的膵損傷症例を経験したため報告する。症例は49歳の男性,腹部刺創のため当センターに救急搬送となった。MDCT所見では膵頭部に膵損傷分類2008(日本外傷学会)Ⅲb型損傷を認めた。術中所見では上腸間膜静脈の約1cm右側に主膵管損傷を伴う膵離断が確認され,膵頭側断端閉鎖・尾側膵管空腸吻合術を施行した。

    本症例の主膵管損傷は,来院時のMDCTデータを再構成することにより,描出が可能で あった。その際,任意多断面再構成法(multi planer reconstruction)および最小値投影法 (minimum intensity projection)が有用であった。

  • 杉本 龍史, 比嘉 信喜, 轟 純平, 関口 秀文
    原稿種別: 症例報告
    2010 年 13 巻 4 号 p. 568-572
    発行日: 2010/08/31
    公開日: 2023/03/31
    ジャーナル フリー

    院外心肺停止に対し,病院到着前から低体温療法を開始した。50歳代男性が仕事中に卒倒,心肺停止と判断され,バイスタンダーによる一次救命処置が行われた。ドクターカーが救急隊より先に現場に到着し,救命処置を継続した。さらに,冷却した生理食塩水を点滴し,低体温療法を導入した。病院到着後(心停止より約35分後)に自己心拍再開し,体外循環回路を用いて低体温療法を継続した。心拍再開110分後に深部体温は34.0度に達した。低体温療法終了後は,意識回復し,人工呼吸器を離脱した。心停止の原因は,冠動脈造影により心筋梗塞と診断され,経皮的冠動脈形成術の後,退院となった。神経学的後遺症を残さず,退院後には社会復帰が可能であった。病院到着前から救命処置と並行して低体温療法を導入することは,神経学的予後の改善に寄与する可能性がある。

  • 吉川 俊輔 , 加地 正人, 磯谷 栄二, 大友 康裕
    原稿種別: 症例報告
    2010 年 13 巻 4 号 p. 573-576
    発行日: 2010/08/31
    公開日: 2023/03/31
    ジャーナル フリー

    Fournier’s gangrene症例において早期デブリードマンと集中治療により救命に成功後,睾丸の被覆を目的として睾丸を大腿皮下に埋没した1例を経験した。症例は45歳,男性。突然の陰囊腫脹,意識レベル低下のため救急搬送された。陰囊腫脹著明,画像検査にて陰囊から左側腹部にかけて皮下・軟部組織にガス像を認め,壊死性筋膜炎と診断した。緊急手術・集中治療により救命,全身状態安定後,睾丸の被覆を目的として睾丸を大腿󠄀皮下に埋没した。陰部再建には睾丸皮下埋没法以外にも植皮・皮弁による再建法などがあるが,比較的簡便な手技で早期からActivities of Daily Living(ADL)が改善でき,二期的皮弁再建術へのbridge therapyとしても利用できる睾丸皮下埋没法は有用な再建法と考えられた。

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