日本臨床救急医学会雑誌
Online ISSN : 2187-9001
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15 巻, 4 号
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原著
  • 佐々木 千裕, 安田 貢, 萩谷 圭一, 下條 信威, 河野 了, 鬼澤 沙織, 中村 泰大, 水谷 太郎
    原稿種別: 原著
    2012 年 15 巻 4 号 p. 479-484
    発行日: 2012/08/31
    公開日: 2023/02/17
    ジャーナル フリー

    フッ化水素酸(hydrofluoric acid,以下HFAと略す)は,弱酸であるが経皮接触で深達性局所障害をきたす。低濃度の場合,初期症状は軽度であるが,時間経過に伴い重症化するため,有効とされるグルコン酸カルシウム(Calcium Gluconate,以下CGと略す)を用いた治療を早期から行う必要がある。われわれは初期症状が乏しかったため治療開始が遅れたHFA化学熱傷の1例を経験した。日本におけるHFA化学熱傷の報告40例を検討したところ,受傷後治療開始までの経過時間が12時間を超える例が41.2%を占めていた。とくに低濃度症例で治療開始の遅れが目立ち,低濃度症例の重症化の一因と考えられた。重症化を防ぐためにはCGを早期に使用すべきことを,救急医療関係者およびHFA使用関係者は認識すべきである。

  • 福島 英賢, 奥地 一夫, 渡邉 知朗, 伊藤 真吾, 川井 康之, 関 匡彦, 瓜園 泰之, 藤岡 政行, 畑 倫明, 今西 正巳
    原稿種別: 原著
    2012 年 15 巻 4 号 p. 485-490
    発行日: 2012/08/31
    公開日: 2023/02/17
    ジャーナル フリー

    目的:一般市民が認識する異常な呼吸を明らかにし,死戦期呼吸との関連を検討する。方法:奈良県下の6消防の救急通報記録のなかから,反応のない傷病者の呼吸状態の記録があった254例を対象とし,救急隊傷病者接触時の状態と医療機関搬送時病名との関連を後ろ向きに検討した。結果:「いびき呼吸」の96例が最多で,「呼吸はしている」,「呼吸がない」,「呼吸しているかわからない」や「呼吸が弱い」など,さまざまな呼吸の異常が通報されていた。院外心肺停止(CPA)事例では,「呼吸がない」が最も多かった(26例,33%).「いびき呼吸」は非CPA事例に多く(88例,50%),「呼吸はしている」は非CPAとCPAでほぼ同じ割合であった。また,CPA事例のうち,心電図初期波形がVF/VTであった10例中,4例が「いびき呼吸」であった。結論:市民による評価のうち,「呼吸がない」,「呼吸はしている」,「いびき呼吸」には死戦期呼吸が含まれていたと考えられる。

  • ―全国ウツタイン様式データよリー
    諌山 憲司, 平川 昭彦, 中谷 壽男
    原稿種別: 原著
    2012 年 15 巻 4 号 p. 491-496
    発行日: 2012/08/31
    公開日: 2023/02/17
    ジャーナル フリー

    はじめに:全国のウツタイン様式に基づいたデータ(ウツタインデータ)から,救急救命士による静脈路確保については十分に検討されていない。目的:ウツタインデータから救急救命士による静脈路確保の現状について検討する。方法:消防庁に集積されたウツタインデータ[2005年1月から2009年12月における全国消防本部の救急車によって病院搬送された全心肺機能停止(CPA)者]から,CPA傷病者数と静脈路確保数を年齢区分別に分析し,静脈路確保率を抽出した。小児を15歳未満とし,0歳児のデータを除外,薬剤投与非適用・適用で1~7歳と8~14歳に分類した。結果:全CPA傷病者数は547,224件であった。15歳以上の静脈路確保率は経年変化で増加したが,1~7歳では2%前後と低率推移であった。考察:救急救命士による小児への静脈路確保の状況が改善される可能性が少ない現状を鑑みると,改善するための対策が必要である。

調査・報告
  • 濱舘 香葉, 今 明秀
    原稿種別: 調査・報告
    2012 年 15 巻 4 号 p. 497-502
    発行日: 2012/08/31
    公開日: 2023/02/17
    ジャーナル フリー

    背景と目的:田子診療所は,2007年に常勤医師4名,60床の田子病院から常勤医師2名の無床診療所へ機能転換した。診療所への機能転換が田子町の救急体制に与えた影響を検討した。対象と方法:2004年4月から2010年3月までの,三戸消防署田子分署からの救急搬送数と,その内訳を比較検討した。結果:病院時代は救急事案の70%は田子病院へ収容されていたが,診療所では約10%へと激減した。覚知から病院収容までの時間の中央値は26分から41分へ延長した。結論:診療所へ機能転換後,救急患者は町外の医療施設へ搬送され,初療開始が遅くなった。しかし,青森県ドクターヘリの運航が開始され,町内の救急車や診療所医師の不在時間短縮だけでなく,救急患者の治療開始時間の前倒しにも貢献している。病院の診療所化は,救急医療からみると住民にとってマイナスと思われたが, ドクターヘリによりそのマイナス面はある程度補完されている。

  • 横山 直, 駒田 真由, 郡司 繭子, 湯浅 貴裕, 添田 真司, 長田 悟
    原稿種別: 調査・報告
    2012 年 15 巻 4 号 p. 503-508
    発行日: 2012/08/31
    公開日: 2023/02/17
    ジャーナル フリー

    近年,救急医療の現場では患者増と医療の高度化に伴い,医師,看護師の疲弊が問題となっており,チーム医療の推進,とりわけ薬剤師の参画が強く求められている。当院でも1987年から薬剤師が常駐し医薬品管理を中心に業務を行ってきたが,2004年からTDM業務,2008年から注射薬混合業務,さらに2009年からは薬剤管理指導「1」業務を開始した。当院では,救命救急センターに薬剤師が常駐してから約25年が経過したが,医師,看護師の要望に応えるかたちで順次業務の拡充を行ってきた。しかし,救命救急センターにおける薬剤師業務は,拡大の余地が残されており,蘇生室における初期治療への参画や休診日を含めた24時間対応など,課題も残っている。今後も積極的に救命領域における治療に参画し,安全で効果的な薬物療法が行えるよう努めていかなければならないと考える。

  • 青木 瑠里, 井上 保介, 田島 典夫, 中川 隆
    原稿種別: 調査・報告
    2012 年 15 巻 4 号 p. 509-513
    発行日: 2012/08/31
    公開日: 2023/02/17
    ジャーナル フリー

    救急救命士養成教育制度開始後20年が経過した。養成所でのシミュレーション訓練は,座学による知識と現場活動を結びつける教育手法として,重要な位置にある。名古屋市消防局救急救命士養成所でも開設以来,実際の現場に即した,人形を使った訓練を繰り返してきたが,そのほとんどが心肺停止傷病者に対する特定行為であった。平成21年の消防法改正に伴い,各種の重症病態に関する知識とスキルの総合的な習得がより重要となると考えられる。名古屋市消防局救急救命士養成所の学生(30名)を対象とし,心肺停止傷病者に対するプロトコール訓練と並行し,重症度・緊急度の高い疾患を対象とする机上訓練を行った。その後,同疾患の救急現場を想定した病態活動訓練,情報を医療機関に伝達する訓練を合わせて実施し,机上訓練の結果を評価したうえでのフィードバックを行った。机上・活動バイタルサイントレーニングでは,80%以上の学生が有用であると評価した。傷病者の観察や観察内容の評価に対する重要性や意識づけに役立った。また机上・活動病態トレーニングでも同様に80%以上の学生がその必要性を感じていた。重症傷病者の観察や病態変化の予測に関してはほとんど経験がなく,病態悪化を避けることの重要性を認識できたとの意見が得られた。少人数の養成所である故に,座学および実際の現場を想定した,人形を使用した訓練を実施し,フイードバックを繰り返すことで,より理解度の高いトレーニングが行えると思われた。

  • 渡邉 恵理, 岩永 由美, 畑中 哲生, 山口 真由美
    原稿種別: 調査・報告
    2012 年 15 巻 4 号 p. 514-518
    発行日: 2012/08/31
    公開日: 2023/02/17
    ジャーナル フリー

    目的:Richmond Agitation-Sedation Scale(RASS)を用いた医師による鎮静目標の設定と,鎮静スケールを活用した鎮静管理により,有効な鎮静が図れ,自己抜管の回避につながっているか検討する。方法:集中治療室で鎮静薬投与下に気管挿管・人工呼吸器管理を受けた患者の,自己抜管率と鎮静薬投与開始から24時間のRASSスコアおよび鎮静に関する医師への報告を必要とした人数について,鎮静目標設定前(対照群)と鎮静目標設定後(研究群)で比較した。結果:自己抜管を認めた患者は,対照群86名中4名(4.7%),研究群100名中0名(0%)で,研究群は有意に減少していた(P=0.044)。RASSスコアの中央値は,研究群のほうが有意に増加していた(−3.85[−4.40~−2.92]vs −3.33[−3.98~−2.09],P=0.024)。医師への報告では,対照群86名中32名(37.2%),研究群100名中6名(10.7%)で,研究群は有意に減少していた(P<0.001)。結語:鎮静目標の明確化と共有化を図り,鎮静スケールを用いた鎮静管理を行うことで不要な鎮静薬投与の予防,自己抜管の減少につながった。

  • 稲垣 和人, 日比野 圭秀, 加納 秀記, 稲田 眞治, 市原 利彦, 上山 昌史, 鈴木 伸行, 浅岡 峰雄, 田中 孝也, 北川 喜己
    原稿種別: 調査・報告
    2012 年 15 巻 4 号 p. 519-522
    発行日: 2012/08/31
    公開日: 2023/02/17
    ジャーナル フリー

    愛知県では,平成19年7月に県下5か所の救命救急センターに搬送された外傷患者を対象に現場活動調査を行った。この現場活動調査により浮き彫りとなった不十分な傷病者評価および応急処置の遅延を補い,救急隊活動のさらなる向上と県下の交通死亡事故の減少を目指して,県消防学校教育の一環として外傷病院前救護教育を実施した。実施期間は平成20年から平成22年の3年間で,1日コースをのべ17回実施した。参加対象者は救急隊,消防隊および救助隊の隊長クラスならびに警察機動隊員とし,1日約36人とした。プログラムは外傷病院前救護ガイドライン(以下JPTECと略す)に準じるものの,受講生の背景を考慮して臨機応変に変更することを可能とした。JPTECなどの外傷教育には興味があるものの,参加には至らなかった多くの隊長クラスが参加したことで,所属を挙げての事前訓練となり継続訓練への足がかりとなった。

  • 国島 正義, 松尾 直樹, 香川 泰寛, 森光 毅, 田槙 幸子, 宮加谷 靖介
    原稿種別: 調査・報告
    2012 年 15 巻 4 号 p. 523-528
    発行日: 2012/08/31
    公開日: 2023/02/17
    ジャーナル フリー

    吸引手技における手指衛生・個人防護具の着用についての現状を調査し,救命救急センターにおける吸引手技に関する感染防止の問題点に影響を与える因子を明らかにすることを目的とした。吸引前後の手指衛生・個人防護具の着用についてチェックリストを用いて評価を行った。各チェック項目に得点をつけ,影響因子もチェックした。チェック項目と影響因子別にカイ2乗検定を行い,連関係数を算出した(p<0.05)。総合得点では,吸引前の手洗いが最も得点が低く,個人防護具の着用ではマスク着用が最も得点が低かった。手洗いの遵守に関して, 日勤帯,2年目看護師,続けて処置を行った場合に遵守率低下に影響があることがわかった。個人防護具では,手袋の着用はできており,エプロンの着用に関しては,急遠吸引が必要になった状況で影響があり,マスクの着用では,経験年数や受け持ち人数によって遵守率に差があることがわかった。

  • 伊達岡 要, 新井 隆成, 飯塚 崇, 加藤 一朗, 村井 隆, 土肥 聡, 伊藤 雄二
    原稿種別: 調査・報告
    2012 年 15 巻 4 号 p. 529-535
    発行日: 2012/08/31
    公開日: 2023/02/17
    ジャーナル フリー

    病院前分娩事例は相当数存在し,昨今の事情から,非周産期医療従事者が対応せざるを得ない場面は今後増加傾向にあると推察される。産科救急に遭遇する可能性があるプロバイダーすべてに対する標準化されたコースを目標に,周産期のより切迫した内容に特化したBasic Life Support in Obstetricsプロバイダーコースを作成した。受講動機に対するアンケートでは,受講生は産科診療に強く苦手意識をもち,同時に周産期救急医療への貢献を考え,受講していることが示された。筆記試験・実技試験の得点,コースに対するアンケート結果を解析したところ,職種を問わず受講生の得点の有意な上昇とニーズの充足があり,本コースは職種を問わず一定の教育効果の役割を果たしていることが示された。

臨床経験
  • 鈴木 卓, 神應 知道, 樫見 文枝, 服部 潤, 佐藤 千恵, 片岡 祐一, 相馬 ―亥
    原稿種別: 臨床経験
    2012 年 15 巻 4 号 p. 536-540
    発行日: 2012/08/31
    公開日: 2023/09/05
    ジャーナル フリー

    当救命救急センターにおいて,出血性ショック治療目的で第VII因子製剤の緊急避難的な投与が行われた12名の患者の血液凝固検査値の推移と生命予後を,後ろ向きに検討した。投与直前の血液凝固検査値は,プロトロンビン時間(以下PT-INR)では2例が測定限界を超えた延長を示し,活性化部分トロンボプラスチン時間(以下APTT)も6例が200秒以上の測定限界を超える延長を示していた。投与後は早期死亡したため測定できなかった3例を除くと,測定限界を超えた症例はなく,平均値でPT-INRは0.96,APTTが43.6秒と改善傾向を示していた。しかし,生存退院できたのは12例中6例(50%)で,生存例は投与時の収縮期血圧が全例90mmHg以上だったのに対し,死亡例は1例を除き投与時の収縮期血圧が90mmHg未満であった。第VII因子製剤は血液凝固検査値を回復させる作用は強いが,出血性ショックの末期状態に投与した場合に生命予後を改善させる効果は認められなかった。

  • 小山 茂, 城川 雅光, 加藤 孝征, 梅沢 翔太郎, 堀家 英之, 城野 文武, 秋本 恵子, 藤澤 信隆, 中島 康, 佐々木 勝
    原稿種別: 臨床経験
    2012 年 15 巻 4 号 p. 541-545
    発行日: 2012/08/31
    公開日: 2023/02/17
    ジャーナル フリー

    緊急航空機搬送された急性胆管炎・胆嚢炎の症例を,2006年度から2009年度までretrospectiveに検討した。当科が対応した105例の緊急航空機搬送症例中該当症例は27例で,急性胆管炎21例・急性胆嚢炎6例だった。全例が初療開始後24時間以内に搬送要請されていた。重症8例・中等症19例だったが,搬送中に容体の変化をきたした症例はなかった。バイタルサインや血液検査値を現地要請時と着院時とで比較したところ,白血球数・CRP値上昇とアルブミン値低下のほかは,着院時に安定化もしくは改善していた。白血球数の上昇率は,搬送前に抗菌薬未使用例や軽症用の抗菌薬使用例で有意に高かった。14例に緊急で内視鏡的逆行性膵管胆管造影(ERCP)が施行され,1例を除くすべてに緊急胆道ドレナージが施行された。全例が軽快し帰島退院された。急性胆管炎・胆嚢炎は急激に悪化する可能性があり,適切な初期治療や緊急ドレナージが不可欠であるが,今回の検討では搬送前の適切な抗菌薬投与が課題と考えられた。

症例報告
  • 爲廣 一仁, 島 弘志, 瀧 健治
    原稿種別: 症例報告
    2012 年 15 巻 4 号 p. 546-549
    発行日: 2012/08/31
    公開日: 2023/02/17
    ジャーナル フリー

    農作業中にマムシに咬まれた70歳の男性が致命的な急性腎不全を併発し,血液浄化療法などの集中治療にて救命した。受傷時に近医でセファランチンの投与だけでマムシ抗毒素血清は投与されず,受傷2日目に全身倦怠感,眼瞼下垂,複視が出現し,受傷3日目に腎機能障害と左下肢全体~左下腹部・側腹部までの腫脹が認められ,集中治療を開始した。その後もWBC,AST,ALT,LDH,Amy値の高値に加えて,筋原酵素およびBUN・Crのさらなる上昇を認め,Crush syndromeの治療に準じて腎機能補助を目的に,continuous hemodiafiltration(CHDF)を実施した。CHDF実施で多くの検査データは改善したが,BUNとCr値の改善が認められないことから,hemodialysis(HD)に切り替え,58病日に退院した。マムシ抗毒素血清を投与せずに急性腎不全を併発したマムシ咬傷でも,早期からのCHDFによる積極的な救命治療が救命に効果的であったことを,本症例は示唆した。今後,重篤なマムシ咬傷には,CHDFやHDを含む積極的な集中治療が救命のために試みられるべきである。

  • 宮本 和幸, 中森 知毅, 御子神 哲也, 西潟 ―也, 有賀 徹, 木下 弘壽
    原稿種別: 症例報告
    2012 年 15 巻 4 号 p. 550-553
    発行日: 2012/08/31
    公開日: 2023/02/17
    ジャーナル フリー

    腹部内臓動脈瘤は稀な疾患であるが,画像診断の発達に伴い未破裂動脈瘤の発見頻度は増加している。今回,抗凝固・血小板療法中に中結腸動脈解離をきたした多発腹部内臓動脈瘤の1例を経験したので報告する。症例は61歳女性。突然の左下腹部痛を自覚し,当院救命救急センターに搬送された。来院時の腹部~骨盤造影CTで腸間膜周囲からの出血が疑われ,帰室後にショックとなり緊急開腹止血術を施行した。術後に実施した腹部血管造影CTでは多発腹部内臓動脈瘤を認めた。6か月後に施行した同検査では下腸間膜動脈瘤の残存を認めたものの,その他の動脈瘤は自然消退または血栓化し,術後1年から抗凝固・血小板療法を再開した。血栓形成のリスクが高い本症例では,抗凝固・血小板療法の再開は必須であり,今後は適切な凝固能を維持しつつ,残存する動脈瘤に対して定期的な画像検索で経過観察を行う必要があると考えられた。

  • 稲垣 伸洋, 中島 竜太, 秋月 登, 原田 知幸, 武田 宗和, 矢口 有乃
    原稿種別: 症例報告
    2012 年 15 巻 4 号 p. 554-557
    発行日: 2012/08/31
    公開日: 2023/02/17
    ジャーナル フリー

    症例は,60歳代男性。既往歴は,糖尿病,アルコール性肝機能障害,高血圧。発熱3日後に自宅で動けなくなり救急搬送となった。来院時,体温39.2℃,腰背部痛を訴え,採血検査,尿沈渣,腹部CT検査で両側腎盂腎炎による敗血症と診断した。広域スペクトラム抗菌薬とγグロブリンにて治療開始,尿よりグラム陽性球菌が検出されたため,来院6時間後より抗メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)薬を開始した。第3病日に尿と血液培養検査よりMRSAが同定され,治療を継続した。第9病日に急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を合併,人工呼吸器管理,抗菌薬変更など集学的治療を行ったが,多臓器不全に陥り第47病日に死亡した。MRSA分離株はブドウ球菌カセット染色体mec遺伝子(SCCmec)IV型であり,市中感染型MRSAによる尿路感染症症例が広まっている可能性が示唆された。

  • 小寺 厚志, 櫻井 聖大, 北田 真己, 山田 周, 原田 正公, 狩野 亘平, 江良 正, 高橋 毅
    原稿種別: 症例報告
    2012 年 15 巻 4 号 p. 558-561
    発行日: 2012/08/31
    公開日: 2023/02/17
    ジャーナル フリー

    34歳の男性,主訴は嘔吐。深夜0時に自殺目的にテオフィリン(以下THP)200mgを54錠内服し,頻回の嘔吐から興奮状態となり,朝8時に救急搬送された。搬送時の意識は清明だが,興奮に伴う体動が著明であった。血圧134/63mmHg,心拍数107回/分で不整脈はなかった。THP血中濃度が124.0μg/mlと致死域であり,血液吸着療法(以下DHP)を行う方針としたが,体動が著明なため,鎮静下に気管挿管し人工呼吸管理下にDHPを施行した。THP血中濃度は,入院1日目と2日目に合計3回のDHPを施行後に25.1μg/mlに低下し,4日目に2.4μg/mlにまで自然低下した。5日目に人工呼吸管理より離脱し,8日目に退院した。THP血中濃度が100μg/ml以上の症例にDHPが推奨されているが,その導入および施行方法や施行回数に関する明確な基準はなく,本症例での経験を含めて文献的に考察した。

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