日本臨床救急医学会雑誌
Online ISSN : 2187-9001
Print ISSN : 1345-0581
ISSN-L : 1345-0581
15 巻, 5 号
選択された号の論文の14件中1~14を表示しています
原著
  • 藤村 一郎, 西池 成章, 相良 健司, 坂下 惠治, 松岡 哲也
    原稿種別: 原著
    2012 年15 巻5 号 p. 617-624
    発行日: 2012/10/31
    公開日: 2023/01/12
    ジャーナル フリー

    背景:外傷パンスキャンは,多発外傷患者の早期全身観察を目的としたCT撮影法であるが,具体的な撮影手順やプロトコールは一部の施設で明らかにされているのみで,学会や研究会を通じた技術的な論議はいまだ不十分である。目的:本研究では,外傷パンスキャンの特徴である,患者がバックボードに固定されたまま撮影されることと,頭から少なくとも骨盤までを連続して撮影するsingle-pass scan法であることに着目し,その被ばくと画質について検討を行った。結果:外傷パンスキャンは被ばくと画質の適正化において問題を有しており,現有のCT機能の改良,ならびに装置の仕様と物理特性をふまえた撮影プロトコールの再構築が必要であった。

  • 網木 政江, 福田 進太郎, 西村 伸子, 田村 一恵, 原 哲也
    原稿種別: 原著
    2012 年15 巻5 号 p. 625-634
    発行日: 2012/10/31
    公開日: 2023/01/12
    ジャーナル フリー

    目的:二次救急医療機関における開業医応援当直の試行結果からその効果および導入に向けての課題を検討する。方法:二次医療機関の1施設にて,2010年4月1日~11月31日(244日間),開業医応援当直を試行した。救急患者数の変化および診療に携わった勤務医,開業医,看護師の意識を調査し,その効果と課題を検討した。結果:救急患者総数および救急搬送数は,開業医応援当直日のほうが勤務医のみの当直日より有意に多かった。開業医応援当直は勤務医の負担軽減につながったが,【応援時間帯】【医師の負担】【医療者間の連携】【オーダリングシステム】【報酬】に関する課題が明らかとなった。結論:開業医応援当直は勤務医の負担軽減の一助となり,二次医療機関の機能を維持するうえで有効である。導入に向けては,『開業医と協同した体制づくり』と『院内ルールの整備』について, さらなる検討が必要である。

  • 一小児・乳児への有用性と課題―
    諌山 憲司, 平川 昭彦, 中谷 壽男
    原稿種別: 原著
    2012 年15 巻5 号 p. 635-640
    発行日: 2012/10/31
    公開日: 2023/01/12
    ジャーナル フリー

    はじめに:救急救命士の小児への静脈内輸液は困難と考えられる。目的:従来の用手ネジ式骨髄針よりも簡便とされるBone Injection Gun(BIG)による小児・乳児への骨髄内輸液(IOI)の有用性と課題を検討する。対象と方法:救急救命士(130名)を対象に,訓練用BIGと下肢モデル(①成人,②小児,③乳児)を用いIOIの所要時間を測定し,成功・不成功を判定した。BIG使用法の説明後,デモンストレーション行い,対象者はゴム手袋を装着し,全員が練習と本番を各1回,①②③の順で実施し,アンケート調査を行った。結果:所要時間と成功率は,成人29.0秒で90.8%,小児28.6秒で91.5%,乳児29.1秒で79.2%と,乳児の成功率は有意に低かった。考察:BIGによる小児へのIOIの有用性は示唆されたが,乳児への実施は成人・小児と比較し成功率が低く,穿刺部位選定も難しいことから慎重に検討する必要がある。

調査・報告
  • 一日本赤十字社和歌山医療センターでの10年間の使用実績よリー
    千代 孝夫, 木内 俊一郎
    原稿種別: 調査・報告
    2012 年15 巻5 号 p. 641-644
    発行日: 2012/10/31
    公開日: 2023/01/12
    ジャーナル フリー

    日本赤十字社和歌山医療センターは,救急専従医が数名しかいないなかで,ドクターカーの出動要請には可能な限り応じるよう努力している。過去10年間の当センターでのドクターカーの出動事例37件を分析することで,その効果や問題点を検討した。出動は年平均3.7件,出動形式は現場出動が5件,ヘリ搬送や救急車とのドッキングが32件,片道走行時間は30分以内が33件,気管挿管や止血術など現場での処置が7件であった。これらの数字をみると残念ながら有効に機能しているとはいい難いが,運用を断念するわけにはいかない。救急医の少ない施設でもドクターカーを運用していくためには,長距離,長時間の出動は行わない,院外心肺停止症例には出動しないといった出動基準や,時間内だけの運用にする,運転は病院専属の運転手に任せるといった運用方法など,規模を縮小し医師への負担も軽くした運用形態の工夫を考慮する必要があると思われた。

  • 清水 茂, 野口 宏, 小澤 和弘, 中川 隆, 近藤 久禎
    原稿種別: 調査・報告
    2012 年15 巻5 号 p. 645-651
    発行日: 2012/10/31
    公開日: 2023/01/12
    ジャーナル フリー

    救急医療の崩壊が危惧されている現在,医療の質の確保と医療資源の適時,適正活用を図ることが急務である。そのためには,昭和52年から全国の自治体ごとに順次導入された救急医療情報システムが,救急患者受入の円滑化を図るという本来の役割を適切に担い,機能する必要がある。全国の救急医療情報システムの運営状況については,平成21年度および22年度の厚生労働科学研究での調査によると,とくに消防機関(救急隊)に活用されていない地域が多いことが明らかになり,その主たる要因は,医療機関の受入れ可否情報の鮮度の欠如であった。その対応策として,愛知県では,消防による救急医療情報システムの活用を念頭においた救急搬送情報共有システム(ETIS)を開発し,平成21年度から消防本部での実践に導入し,現在愛知県内の36消防本部のうち22の消防本部で使用されている。ETIS導入後,現在までに得られた知見および検討結果は,消防機関に従来ほとんど利用されなかった愛知県救急医療情報システムが利用されるようになったことである。その要因は,救急隊による現場からの搬送先医療機関の繁忙状況を救急隊員による搬送履歴の入力結果により検索できること,管轄内・外の医療機関の救急車の搬入状況がわかるようになり, さらに遠隔搬送の比率,重症度別の搬送実績などが,消防本部別にも把握できるようになったことである。本稿において愛知県で導入したETISを紹介し,その運用実績の一部を検討したので報告する。

  • 高橋 邦彦, 武村 真治, 長谷川 学, 金谷 泰宏, 齋藤 大蔵, 阪本 敏久
    原稿種別: 調査・報告
    2012 年15 巻5 号 p. 652-661
    発行日: 2012/10/31
    公開日: 2023/01/12
    ジャーナル フリー

    目的:一般に心肺機能停止傷病者の発生は冬季に多いことが知られており,消防庁救急統計活用検討会でのデータの集計結果でも明らかになっている。本研究では心肺機能停止傷病者の救急搬送件数が多くなる冬季に注目し,そのなかで特異的に件数が高く集積している期間があるかどうかを客観的に判断するために解析,検討を行った。方法:2005~2008年の日本全国において救急搬送された心肺機能停止傷病者の救急蘇生統計データを用い,性別,心原性・非心原性の別などについて集計を行い,12~1月の期間に注目し,発生の有意な集積期間があるか時間集積性の検定を行った。結果:いずれの年も,男女ともに年末年始時期に最も有意な時間集積が認められた。また,心原性・非心原性とも同様の集積があり,原因による差は認められなかった。結論:わが国における心肺機能停止傷病者の救急搬送件数が,年末年始時期に統計的に有意に集積していることが明らかになった。

  • 後藤 健太郎, 小久保 有祐, 織田 順, 行岡 哲男, 三島 史朗, 山下 淳
    原稿種別: 調査・報告
    2012 年15 巻5 号 p. 662-667
    発行日: 2012/10/31
    公開日: 2023/01/12
    ジャーナル フリー

    多職種間での病院前情報の可視化と共有化を図る目的で,救急連携パスを導入した結果,1年間で1,097件の症例で使用された。これらのデータからパスコメントの件数と傾向,連携パス様式,フィードバック方法についてカテゴリ別に分類し検証を行った。連携パス使用症例の15.5%で医師からのコメントが得られ,その内容は救急隊への指導や要望,今後の活動に有用なものであった。コメントにはポジテイブな内容も多く含まれた。病棟に入院した667件のパス適用症例では,病棟スタッフに対する情報共有に活用された。パス様式は使用状況を考慮し改訂を行い,フィードバックレスポンスの向上を図った。連携パスの導入は医療機関選定理由を含めた病院前情報の提供,患者の院内経過を救急隊ヘフィードバック,院内における病院前情報の共有化が可能になるなど,多職種における情報共有の効率化において有用な結果が得られた。

  • 久保田 慎吾, 山田 賢治, 小笠原 英昭, 亀ヶ谷 利生, 塩野目 淑, 樽井 武彦, 後藤 英昭, 松田 剛明, 島崎 修次, 山口 芳 ...
    原稿種別: 調査・報告
    2012 年15 巻5 号 p. 668-678
    発行日: 2012/10/31
    公開日: 2023/01/12
    ジャーナル フリー

    目的:疾患の季節変動や統計的な背景を明らかにし,救急業務遂行に役立てることを目的とした。対象と方法:平成20年1月1日から平成22年12月31日までの3年間に,当院に搬送された二次および三次救急患者を対象とした。傷病者搬送通知書の病名,重症度などを集計し検討した。結果:二次救急17,492名,三次救急3,941名で,総数21,433名であった。月別の比較では,冬季に重症患者が多い傾向があり,夏季に比べ約1.2倍増加した。時間帯では,10~12時ごろと19~21時ごろに二峰性の搬送数増加がみられた。年齢別では,0~5歳ごろの幼少期と76~85歳ごろの高齢期にピークを認めた。疾患別に月別分布をみると,循環器系疾患が冬季に多かった。心肺停止状態の患者数は,夏季に少なく冬季に多い分布を示した。結語:冬季に多い疾患や,発症頻度の高い時間帯について理解することは,迅速な患者の病態把握に有用であると考えられた。

  • 黒目 恭子, 柴田 喜幸, 七戸 康夫, 梶木 繁之, 岡本 吉生, 田村 裕子, 氏家 良人
    原稿種別: 調査・報告
    2012 年15 巻5 号 p. 679-684
    発行日: 2012/10/31
    公開日: 2023/01/12
    ジャーナル フリー

    目的:学校現場における児の疾病・負傷に対する養護教員の病院前救護事例について分析を行い,養護教員への医学教育のあり方を検討した。対象と方法:2007年にA県の養護教員研修会の「今までの教員生活の中で一番印象に残ったヒヤリハット体験」のグループワークで提出された事例226例を,①4M分析,②傷病名の2つの方法で分類し,各々の件数の単純集計を行った。結果:累計で362件のインシデント・アクシデント,237件の傷病を集計した。4M分析では人的要因194件(養護教員の重症度・緊急度評価能力にかかわるものが主),作業環境要因132件(事例発生時の職員連携に関するものが主),管理要因9件,その他27件,傷病の内訳は身体疾患217件,精神系疾患17件,心肺停止3件であった。結語:学校現場での救護事例は養護教員による重症度緊急度評価,学校職員連携が大切である。また,傷病内容は身体疾患から精神系疾患と幅広く,養護教員には広範囲の医学教育が必要である。

  • 伊関 憲, 高橋 一則, 三澤 友誉, 林田 昌子, 篠崎 克洋, 山下 英俊, 佐藤 慎哉
    原稿種別: 調査・報告
    2012 年15 巻5 号 p. 685-689
    発行日: 2012/10/31
    公開日: 2023/01/12
    ジャーナル フリー

    目的:東日本大震災後の医学生の行動とボランティア活動について検討した。方法:平成23年9月の卒業試験において,震災当時5年生であった山形大学医学部医学科生を対象にアンケートを行った。調査内容は,震災直後の行動とボランティア活動の内容と場所,Disaster Medical Assistance Team(以下,DMAT)や災害医療班への参加希望などである。結果:卒業試験を受けた101名が対象となった。地震後の17時以降は,医学部に29名おり,うちの7名は病院業務を手伝った。その後,災害ボランティアに参加したものは45名であり,活動場所は山形県32名,宮城県16名などであった。活動内容は,医療ボランティアを行ったのは6名であった。将来,DMATに対しては42名が,災害医療班については67名が参加したいと回答があった。結論:今回の震災後には医学生が医療ボランティアに参加する学生もいた。しかし,現在の大学教育では災害医療の講義や実習は十分とはいえず,さらなる教育の充実が望まれる。

  • 吉井 友和, 手銭 俊貴, 山内 健嗣, 橋口 尚幸
    原稿種別: 調査・報告
    2012 年15 巻5 号 p. 690-697
    発行日: 2012/10/31
    公開日: 2023/01/12
    ジャーナル フリー

    学校における教職員対象の救命講習について,教職員主導で作成したアクションカードを取り入れた講習方法を開発した。アクションカードの効果により,リーダーが明確化し,集まった教職員それぞれに役割が与えられ,連携がスムーズとなり,その結果対応に不備が少なくなり,教職員から好印象であった。受講する教職員が陥りやすいピットフォールは,講習に慣れてきた際にアクションカードから逸脱することである。解決策としては,シミュレーション前に指揮命令系統の重要性を強調し,アクションカードの最大の目的は教員同士が連携できるためのカードであることを説明する必要がある。また教職員の救護活動レベルの底上げを図るために,講習後の適切なフィードバックも必要である。今後,一次救命処置のスキル指導はもちろん,それにプラスした組織として連携対応できるように,消防機関が協力し指導を行うべき次の時期が来ていると考えられた。

症例報告
  • 遠藤 洋, 森本 文雄
    原稿種別: 症例報告
    2012 年15 巻5 号 p. 698-700
    発行日: 2012/10/31
    公開日: 2023/01/12
    ジャーナル フリー

    指令管制員がAEDの口頭指導を行い社会復帰したCPAの1例を経験したので報告する。症例:52歳の女性。走行中の列車内で患者が突然意識を失い倒れた。目撃した乗客はSOSブザーで乗務員に知らせ,乗務員は次駅に車両無線で急病人がいることを伝え,次駅職員が119番通報した。指令管制員は,AEDが設置場所であることを消防指令管制システム画面で知り,電話でAEDの携行と通話の継続を促した。ホームに待機していた駅員4名によりCPRが開始され,「除細動メッセージガイダンス」を聴取した指令管制員が,除細動ボタンを押すように口頭指導した。後日AEDを解析するとVFにより150 Jで通電され,CPR継続中に洞調律の心電図波形を認めた。患者は救急救命士の救急救命処置により心拍再開し,入院29日目に社会復帰した。

  • 片野 優子, 矢澤 和虎, 野首 元成, 竹原 延治, 梅村 穣
    原稿種別: 症例報告
    2012 年15 巻5 号 p. 701-704
    発行日: 2012/10/31
    公開日: 2023/01/12
    ジャーナル フリー

    症例は90歳女性。前日の昼より悪寒があり,夕方より嘔吐,下痢も出現した。症状改善しないため,翌日10時に救急搬送となった。不穏状態で,心拍数190/分,呼吸数23/分,体温35.5℃。血液検査で高度溶血所見と白血球,肝胆道系酵素の上昇を認めた。腹部CTで肝右葉にガスを伴う低吸収域像を認めたため,ガス産生菌による肝膿瘍を疑い,直ちに抗菌薬の投与と経皮経肝膿瘍ドレナージを施行した。しかし,急激な呼吸状態の悪化,意識レベル,血圧の低下を認め,来院8時間後に死亡した。血液と肝膿瘍培養からClostridium perfringensが検出された。本疾患は電撃的な経過をたどるため,血管内溶血を認め,腹部CTでガス像を伴う肝膿瘍を認めたときには,起因菌として本菌も考慮し,きわめて早期に治療を開始する必要がある。

第15回日本臨床救急医学会 委員会企画開催報告 院内救急対応システム検討委員会
feedback
Top