日本臨床救急医学会雑誌
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17 巻, 6 号
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原著
  • 次橋 幸男, 泉 知里, 石丸 裕康
    2014 年 17 巻 6 号 p. 731-736
    発行日: 2014/12/31
    公開日: 2015/01/24
    ジャーナル フリー
    目的:救急救命士に対する肘正中皮静脈路確保に注目した病院実習が末梢静脈路確保のスキル向上に与える影響を検証する。方法:救急救命士72名を対象として,1)手術室における静脈路確保,2)肘正中皮静脈の確認,3)シミュレータを用いた肘正中皮静脈穿刺の機会を病院実習において提供した。アウトカムは,活動現場におけるCPA症例への静脈穿刺の選択部位とその成功割合とした。結果:外傷を除くCPA症例に対して計170回(実習前62回,後108回)の静脈路確保が試みられた。穿刺部位は,手背静脈(実習前47%,後46%)が最多であった。成功割合は,肘正中皮静脈(実習前29%,後66%)が手背静脈(実習前21%,後22%)を上回った。多変量解析において,病院実習の履修,肘正中皮静脈路の選択,現場での静脈路確保が静脈路確保の成功と関連していた。結論:肘正中皮静脈確保に注目した病院実習の履修は,救急救命士による静脈路確保の成功に寄与していた。
調査・報告
  • 石橋 悟, 小林 道生, 小林 正和, 佐々木 功, 高橋 邦治, 高橋 洋子, 市川 宏文, 古田 昭彦, 石井 正, 久志本 成樹
    2014 年 17 巻 6 号 p. 737-742
    発行日: 2014/12/31
    公開日: 2015/01/24
    ジャーナル フリー
    東日本大震災後,緊急被ばく医療の体制強化が重要な課題となった。原子力発電所所在地域を支える災害拠点病院である当院の緊急被ばく医療に対する取り組みを報告する。2002年4月に「緊急被ばく医療マニュアル」を作成し,同時に緊急被ばく医療チームを結成した。院内研修会,緊急被ばく傷病者受け入れ訓練を継続的に実施し,実際の管理区域内労働災害傷病者もほぼ毎年受入れた。原子力安全研究協会主催の緊急被ばく医療研修は2012年度までにのべ280名の職員が受講した。2002年度から,地域を越える広域対応のために宮城地区被ばく医療ネットワーク会議に参加するとともに,2008年度には,当院独自のネットワークを基本として石巻地区被ばく医療ネットワーク会議を立ち上げ,地域の緊急被ばく医療体制を構築した。実効性のある緊急被ばく医療を提供するには,職員の放射線に対する知識習得に加えて,緊急被ばく医療を災害医療の重要な一領域と捉え,最悪の事態は必ず起こるという現実的危機をもった広域の体制作りが肝要と思われる。
  • 熊田 恵介, 村上 啓雄, 白井 邦博, 豊田 泉, 小倉 真治, 福田 充宏
    2014 年 17 巻 6 号 p. 743-747
    発行日: 2014/12/31
    公開日: 2015/01/24
    ジャーナル フリー
    高度救命救急センターで施行された気管切開事例を対象に,原疾患,施行場所,施行方法,施行時期,術者,人工呼吸器設定条件,出血傾向などの因子をもとに,早期合併症事例の特徴,早期合併症ありの事例となしの事例との比較,手術切開と経皮切開との比較について検討した。その結果,早期合併症は,カニューレ挿入・迷入が多く,熱傷事例で経皮切開の発生事例が多かったこと,経皮切開でP/F比が高い傾向にあることがわかった。気管切開は救急医療に携わる医師にとって必須の手技ではあるが,適応や施行時期等の検討だけでなく,施行手技により発生する合併症の特徴を踏まえ,高リスク症例の認識,酸素化や出血傾向などを検討したうえで,安全な気管切開が可能となるような体制構築が必要である。
  • 佐藤 博, 田原 英樹
    2014 年 17 巻 6 号 p. 748-752
    発行日: 2014/12/31
    公開日: 2015/01/24
    ジャーナル フリー
    目的:マンパワーの少ない施設におけるRRS導入の工夫と,RRS導入前後の変化を明らかにすること。対象と方法:対象は当院でRRS導入前の2011年度に入院加療されたのべ患者55,802人と,RRS導入後の2012年度に入院加療されたのべ患者61,153人。RRSの起動対象を明確にするために,患者のコードステータスを,①Full code(RRS対応だけでなく,コードブルー対応/心肺蘇生も行う),②Do Not Attempt Resuscitation(DNAR;RRS対応は行うが,コードブルー対応/心肺蘇生は行わない),③Best Supportive Care(BSC;緩和ケアでRRS対応をしない)の3つに分類し,RRS起動対象は①Full code と②DNARの患者とした。予想しない死亡退院を「死亡退院前に状態悪化についての病状説明がない場合」と定義し,RRS導入前後の一年間におけるコードブルー件数,死亡退院数,予想しない死亡退院数の推移を調べた。結果:RRS導入後の一年間に182件のRRSコールがあった。RRS導入前後一年間の比較では,コードブルー件数や死亡退院数は減少しなかったが,予想しない死亡退院数の有意な減少傾向〔80人(34.0%)→35人(13.0%)〕を認めた。結語:マンパワーの少ない施設においても,RRS導入により予想しない死亡退院を減らせる可能性が示唆された。
  • 瀧 健治, 有吉 孝一, 堺 淳, 石川 浩史, 中嶋 一寿, 遠藤 容子
    2014 年 17 巻 6 号 p. 753-760
    発行日: 2014/12/31
    公開日: 2015/01/24
    ジャーナル フリー
    マムシ咬傷は一般に広く知られているが,全国での発生件数やその治療法は今なお不明確である。目的:本邦のマムシ咬傷の治療法を含む現況を検討する。方法:全国の二次・三次救急病院9,433施設に調査票を郵送し,2007年4月から10月までのマムシ咬傷症例について,発生状況,治療内容,転帰などを調査した。回答率47.2% 975症例のうち,詳細な回答が得られた178症例(18.1%)を分析対象とした。結果・考察:受傷時に応急処置をして,できるだけ早く受診することがすすめられた。治療法は施設によってさまざまであるが,セファランチン®と抗マムシ血清の投与の有無で咬傷による腫脹,腫脹のピークに至る日数,入院日数に差はなかった。しかし,受傷時の安静の必要性はなく,むしろ応急処置や初期治療の必要性が明らかとなった。結語:全国調査でマムシ咬傷の治療法に再考が必要と示唆された。
  • 中薗 健一, 高野 尊行, 根本 真人, 長谷川 伸之
    2014 年 17 巻 6 号 p. 761-765
    発行日: 2014/12/31
    公開日: 2015/01/24
    ジャーナル フリー
    集中治療室(ICU)では,時間経過とともに刻々と変化する病態に合わせた薬物治療計画が必要である。そのため,薬剤師による迅速な薬学的介入は重要であると考えられる。今回,ICU専従薬剤師による全身管理への薬学的関与の影響について検討した。方法:那須赤十字病院ICUへ入室した患者を対象とした。2010年1月から12月の270名を専従前群,2013年1月の49名を専従後群とした。薬剤管理指導記録から薬学的介入の内容,薬物治療変更の有無について比較検討した。結果:薬剤管理指導実施率は専従前64.1%から,専従後91.8%へ有意に増加した。薬学的介入による薬物治療変更は,専従前51.3%,専従後73.2%へ有意な増加を認めた。考察:ICUへの薬剤師専従化により,薬学的介入件数,薬物治療変更率はともに増加した。これより,患者の病態変化に合わせた迅速な薬学的介入を行うことができた。
  • 西本 香王里, 上山 進, 石丸 美枝子, 濱田 宏輝, 上林 哲生, 三宅 千鶴子, 竹下 仁, 小畑 仁司, 大石 泰男, 秋元 寛
    2014 年 17 巻 6 号 p. 766-773
    発行日: 2014/12/31
    公開日: 2015/01/24
    ジャーナル フリー
    2012(平成24)年の診療報酬改定に伴い,大阪府三島救命救急センターでは診療報酬の「感染防止対策加算2」を算定し,多職種による感染症ラウンドを開始した。多職種により感染症ラウンドを行うことで,それぞれの専門的な立場から主治医とディスカッションし,治療方針を確認したうえでアドバイスができるようになった。そのツールとして独自のデータベース(以下,感染回診データベース)を作成し,情報の共有化を図った。われわれは重症度によって抗菌薬の使用状況は変化すると考え,重症度を等級づけるAcute Physiology and Chronic Health Evaluation Ⅱ(以下,APACHE Ⅱ)スコア別に抗菌薬使用状況を検討した。ラウンド前後の年度別死亡数,死亡率には有意な差はなかった。抗菌薬の使用状況ではカルバペネム系抗菌薬の投与日数,使用バイアル総数,1日使用バイアル数には有意な差はなかったが,カルバペネム系抗菌薬に対する緑膿菌の耐性率は有意に改善した。
  • ―札幌市消防局の取組―
    菩提寺 浩
    2014 年 17 巻 6 号 p. 774-781
    発行日: 2014/12/31
    公開日: 2015/01/24
    ジャーナル フリー
    札幌市は,救急救命士の処置範囲拡大に係る実証研究に参加した。取組内容:実証研究を行うため,関係機関との連携および市民への広報を実施し,当市所属全救急隊が参加した。また,有識者を交え有害事象発生時の傷病者初期対応フローを策定し,危機管理体制の強化を図った。結果:心肺停止前の静脈路確保と輸液の対象症例が多く発生し,三次救急医療機関への搬送が多かった。血糖測定と低血糖発作症例へのブドウ糖溶液の投与の対象症例については,三次救急医療機関以外への搬送が多かった。考察:心肺機能停止前の静脈路確保と輸液の対象症例では,血圧上昇等といった改善兆候がみられた。今後は,救急救命士の静脈路確保技術向上に向けた取組が必要である。結語:救急救命士制度発足後初となった実証研究への参加は,他の実証研究地域との情報共有が図られ,今後の救急救命士制度のあり方等について,参加者が共に考え,行動した非常に有益なものとなった。
  • 石川 幸史, 山田 賢治, 樽井 武彦, 海田 賢彦, 八木橋 厳, 松田 剛明, 島崎 修次, 山口 芳裕
    2014 年 17 巻 6 号 p. 782-788
    発行日: 2014/12/31
    公開日: 2015/01/24
    ジャーナル フリー
    病院前救護では,熱傷患者に対し生理学的評価および熱傷程度評価を行い,重症度を判断して医療機関に搬送している。救命センター搬送例の中には軽症例が散見されるため,病院前の熱傷深度・面積評価の精度,および気道熱傷を疑う要因について検討した。平成22年1月1日から平成24年12月31日までの3年間に当院の救命センターに収容された,転院例を除く熱傷患者67例について記録調査を行った。救急隊による熱傷深度・面積評価は,医師の評価と比較すると1症例あたりの絶対誤差は平均5.2%で,8歳未満の乳幼児に限定すると1症例あたり平均7.5%であった。熱傷深度・面積は,誤差にばらつきがあり,乳幼児で過剰評価の傾向がみられた。気道熱傷疑いの搬送例のうち,広範囲熱傷を除いた32例について顔面熱傷が15例に認められ,そのうち12例(80%)に気道熱傷が認められた。顔面熱傷の合併は気道熱傷を強く疑う要因であった。
  • 亀倉 暁, 金井 宏幸, 小林 篤樹, 田中 祐治, 金沢 明秀, 増山 直子, 伊澤 一也, 柴山 一洋, 清水 玄雄, 北村 大祐
    2014 年 17 巻 6 号 p. 789-793
    発行日: 2014/12/31
    公開日: 2015/01/24
    ジャーナル フリー
    緊急または早期に整形外科手術が必要な患者が,当院での手術実施が困難なため転院となった事例や受け入れが困難となった事例を手術不応需例として調査しその原因を検討した。最近一年間での手術不応需例の累計は141例であり,外傷・骨折の症例が大部分であった。不応需の理由としては「手術枠確保が不可能で早期手術困難のため」が最も多く92例(65%)であり,ついで「他科が手術中のため,手術室を利用できないため」が26例(18%)であった。大部分の手術不応需例は必要な手術枠を確保できないことが原因であった。今回の調査では,手術不応需のため収容できなかった事例のみならず受診・収容後に早期転院となった事例も検討し,当院の医療体制の問題点を明らかにできた。救急医療・急性期医療の評価において,手術不応需例の調査が臨床指標として活用されることが期待される。
症例報告
  • 柏浦 正広, 齋藤 一之, 横山 太郎, 小林 未央子, 阿部 裕之, 神尾 学, 田邉 孝大, 杉山 和宏, 明石 曉子, 濱邊 祐一
    2014 年 17 巻 6 号 p. 794-799
    発行日: 2014/12/31
    公開日: 2015/01/24
    ジャーナル フリー
    症例は70歳代男性。気分障害にて入院加療中であったが,一時外出中に自宅のメッキ工場でメッキ加工に使用する無水クロム酸を服毒し,その3時間後に当院救命救急センターに搬送された。来院時,口腔内はびらんが強く,一部粘膜は剝離しており,上部消化管内視鏡検査では食道や胃の粘膜表層が剝離していた。血清クロム濃度は842.6μg/dLであった。ジメルカプロールとアスコルビン酸を投与したが,ショック状態となった。集学的管理を行うも,入院36時間後には肝不全,播種性血管内凝固症候群も併発し52時間後に死亡した。剖検では口腔から食道まで粘膜は剝離しており,凝固壊死がみられた。六価クロムは強い酸化剤であり,容易に吸収され腐食性の損傷を生じる。またその細胞毒性から肝・腎障害を生じることが知られている。本症例でも高度の腐食性の化学損傷を起こし,肝・腎不全の悪化から多臓器不全を生じたものと考えられた。
  • 原田 正公, 江良 正, 狩野 亘平, 山田 周, 櫻井 聖大, 北田 真己, 橋本 聡, 橋本 章子, 木村 文彦, 高橋 毅
    2014 年 17 巻 6 号 p. 800-804
    発行日: 2014/12/31
    公開日: 2015/01/24
    ジャーナル フリー
    症例:80歳代女性 現病歴:歩行中に乗用車と接触し当院に搬送された。来院後経過:右腰動脈の活動性出血に対して,輸血及び動脈塞栓術を施行し,入院となった。入院後,抗菌薬や抗DIC治療を行った。第4病日より呼吸不全を来たし,発熱や頻脈を認めるようになった。第6病日の胸部CTで両側肺野に小葉間隔壁肥厚を伴うスリガラス影を認めた。対症治療およびステロイド治療を行い,呼吸不全および両側肺野のスリガラス影は消失した。リパーゼ上昇,右網膜出血,血中脂肪滴等を認め,さらに他疾患を鑑別することで脂肪塞栓症候群疑いと診断した。考察:脂肪塞栓症候群の症状はいずれも非特異的なものばかりであり,診断が非常に困難である。外傷後の呼吸不全では積極的に疑うことと,他疾患の鑑別が重要である。一般的に治療は対症治療のみであるが,症状に応じてステロイド投与が効果的である可能性がある。
  • 吉田 定義, 八坂 剛一
    2014 年 17 巻 6 号 p. 805-808
    発行日: 2014/12/31
    公開日: 2015/01/24
    ジャーナル フリー
    独居の90代女性が,自宅の庭で倒れているのを居宅介護サービスのヘルパーにより発見され,呼名反応がないため救急要請となる。接触時,意識レベルJCS 200,呼吸数24/分,SpO2 は測定不能。脈拍数36/分,橈骨動脈で微弱に触知。血圧測定不能。体温は,一般に使われている体温計に比べ測定範囲が広い体温計を使用することで,腋下温22.8℃と数値化ができた。発見したヘルパーによると,傷病者の日常生活動作は良好であったため,高度低体温症と判断して高次機能を有する二次医療機関へ搬送した。積極的加温治療により,第2病日には自力による食事摂取が可能となり,4カ月後には自力にて車椅子移乗可能な状態まで回復した。当市では,今回使用した電子体温計を導入したことにより,低体温状態を数値化することが可能となり,適切な医療機関選定につながり,一定の効果があったと評価できる。
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