日本臨床救急医学会雑誌
Online ISSN : 2187-9001
Print ISSN : 1345-0581
ISSN-L : 1345-0581
18 巻, 5 号
選択された号の論文の14件中1~14を表示しています
原著
  • ―愁訴・態様・症候による分類を用いる試み―
    山口 陽子, 田中 博之
    2015 年 18 巻 5 号 p. 611-617
    発行日: 2015/10/31
    公開日: 2015/10/31
    ジャーナル フリー
    目的:救急車搬送症例のうち,「診断名」が不明確な症例を「診断名」以外の方法を用いて分類する。方法:2009年4月1日から2012年3月31日までの3年間に救急車で当院へ搬送され,他院からの転送ではなく,非外傷症例と外傷の受傷に何らかの病態が関わっていた6,585例を抽出し,その年齢,性別,愁訴,態様,症候,病態,疾病名,基礎疾患,入院,転帰などを調査した。結果:病態あるいは疾病の診断がつかなかったのは558例で,全例,愁訴・態様・症候のいずれかが記載されていた。結論:診断がつかない症例は少なくないが,愁訴・態様・症候をまったく挙げられない症例はなく,愁訴・態様・症候が不明確ということは起こり難いと思われる。そこで,通常の診断名による分類以外に,愁訴・態様・症候による分類の併用を提唱した。併せて,診断不明確の比率がさらに高い消防機関においても,救急隊員らがこれまでも聴取してきた愁訴・態様・症候を記録し,それらを集計・分類することによって,統計として活用することも提言したい。
  • 今村 武尊, 太田 育夫, 田口 博一, 窪田 愛恵, 太田 宗夫, 平出 敦
    2015 年 18 巻 5 号 p. 618-623
    発行日: 2015/10/31
    公開日: 2015/10/31
    ジャーナル フリー
    救急救命士の民間養成機関(大学を含む)とその卒業生が就職した医療機関を通じて,医療機関で働く救急救命士に対して調査を行い,内容を分析した。男性87名,女性35名の123名から回答を得た(回収率83%)。平均年齢は30.4±12.4歳,およそ3/4が正規雇用で,月給は平均21万円であった。就職の理由は,医療に興味がある(71名)が最も多く,56名が医療機関を第一希望としていた。ただし実際の業務内容に関しては,看護補助が主体(91名)で,蘇生補助(82名)もあげられていたものの,患者や救急隊員との電話対応,蘇生教育など多様であった。勤務に満足していると回答した者は91名いたが,処遇や給与に関連せず,救急救命士の知識や技能が活かされているという回答と関連していた(P<0.005)。本研究の結果は救急救命士の医療機関での職域拡大を検討する基礎資料として重要と考えられる。
調査・報告
  • ―自己心拍再開との関連についての前向き観察研究―
    渡辺 徹, 瀧澤 栄史東, 田中 敏春, 廣瀬 保夫
    2015 年 18 巻 5 号 p. 624-628
    発行日: 2015/10/31
    公開日: 2015/10/31
    ジャーナル フリー
    目的:院外心肺停止症例における声門上気道デバイス使用下での呼気終末二酸化炭素(end-tidal CO2,以下EtCO2)測定の臨床的意義を明らかにする。対象と方法:2011年10月1日から2012年9月30日までの1年間,新潟市における院外心肺停止症例でラリンゲルチューブ(laryngel tube,以下LT)が挿入された例を対象とした。救急車内収容時にEtCO2の測定を行い,測定時の心電図波形,自己心拍再開の有無などについて前方視的に検討した。結果:院外心肺停止症例数は869例,うちLT挿入例でEtCO2の測定を実施したのは160例。全測定例のEtCO2値(mmHg)は中央値で19,測定時の心電図波形別ではVF・PEA 群(n=35);25,Asystole群(n=125);17と,VF・PEA群で有意に高値であった(p<0.01)。自己心拍再開群(n=8)では53で,非自己心拍再開群(n=152)の18に比べて有意に高値であった(p<0.01)。結論:声門上気道デバイス使用下の院外心肺停止例においてEtCO2値は,ROSCの有無,心電図波形の有無と関連していた。声門上気道デバイス下でもEtCO2値は病態を反映し,EtCO2値が高値を示す場合は,ROSCの可能性が高いことが示唆された。
  • 山田 浩二郎, 鈴木 明人, 山本 直之, 須賀 啓臣, 天野 尽, 茅野 俊幸, 杉本 一郎, 速水 広樹, 杉木 大輔, 池上 敬一
    2015 年 18 巻 5 号 p. 629-637
    発行日: 2015/10/31
    公開日: 2015/10/31
    ジャーナル フリー
    目的:平成25年9月2日,埼玉県東部地域に発生した竜巻への対応時に行われた県下初の消防相互応援を受けた警防本部活動を検証し,課題を抽出して,今後の実災害および訓練における進むべき方向を探る。対象と方法:地域MC協議会の承認を受け,各消防組織の活動報告書の収集・関係者へ聴取等を行い,MIMMSの考え方に基づき整理し,まとめる。結果と考察:初期対応;発災は119番通報の集中により認識され,その6分後に警防本部の立ち上げが開始された。一方,発災認識10分後には救急車両は全て出動していた。車両の不足を主因とし,37分後ブロック応援,101分後県下応援要請が行われた。情報収集;119番回線,一般加入電話は応需状態が約90分間連続し,また通報の整理に難渋した。指揮;当初被災地域の把握は,それが細長く形成されたことおよび119番通報応需時出動隊との交信が困難となり遅滞した。その後人員・資器材の充足および被災概要の把握が進み,機能した。指揮支援は発災地域の消防が起案し円滑に実施された。中規模災害時の受援消防本部を想定した訓練が不足していたことなどの課題が明らかになり,今後の施策に生かせるものと考える。
  • ―医師派遣システムの日常活用による医療圏連携―
    石井 一誠, 石井 圭亮, 山北 真也, 白石 晴士, 黒川 英次, 田邉 三思, 黒澤 慶子
    2015 年 18 巻 5 号 p. 638-644
    発行日: 2015/10/31
    公開日: 2015/10/31
    ジャーナル フリー
    医師不足の深刻化により救急医療崩壊の危機に直面した地方小都市において,救急医療体制の立て直しは喫緊の課題である。われわれが救急医療の地域格差是正の鍵として挙げたのは“広域救急医療体制”と“医療圏連携”である。地元の消防機関と医療機関,大学病院との間での緊密な連携下に,ドクターヘリ・ドクターカーを完備した大学病院高度救命救急センターの医師派遣システムの有効活用による地域救急医療体制の再構築を進めた。救急要請に対するホットラインシステムと初期対応マニュアルの院内整備を行い,同時に,オーバートリアージを容認した救急現場からの早期情報提供による地元医療機関の受け入れ対応の迅速化を行った。大学病院からの専門医師派遣による病院前救急診療および病院支援体制の充実により,地元医療機関における救急車の受け入れは月平均23.2件から33.3件へ増加し,救急受け入れの不応需率は50%から30%へ減少した。
  • 大松 健太郎, 鈴木 哲司
    2015 年 18 巻 5 号 p. 645-649
    発行日: 2015/10/31
    公開日: 2015/10/31
    ジャーナル フリー
    目的:医療機関に勤務する救急救命士の就業実態を明らかにすることを目的とした。方法:全国の救命救急センター265施設に対して,救急救命士の就業実態についてアンケート調査を行った。結果:123施設から回答を得た(有効回答率46.4%)。救急救命士は25施設(20.3%)で雇用され,各施設の雇用人数の中央値は3名であった。担当業務は,事務,看護補助,救急診療補助に関する業務など多岐にわたり,救急救命処置に含まれる行為も実施されていた。救急救命管理料については,雇用している施設のほうが知っている割合が有意に高かったが,実際に算定していると回答した施設は7施設(28%)にとどまった。28施設(28.6%)が非雇用施設であっても医療機関内で行える業務が明示されれば雇用すると回答した。結論:医療機関勤務の救急救命士は増えており,その業務を診療報酬や法整備で評価することが必要である。
  • 平井 国雄, 大保 勇, 住田 知隆, 宇内 大祐, 嶋崎 龍洋, 高橋 大樹, 玉井 勲, 山田 尚史, 坂下 惠治
    2015 年 18 巻 5 号 p. 650-657
    発行日: 2015/10/31
    公開日: 2015/10/31
    ジャーナル フリー
    救急診療に携わる診療放射線技師は,患者の突発的な急変や愛護的対応を要する外傷患者の対応を求められるとともに高リスクな状況下で検査を行っている。このような場合,医師や看護師に対応を任せきりにするのではなく診療放射線技師も積極的に介入し協力する必要があると考えるが,各施設の診療体制や診療放射線技師の能力によって対応が異なっているのが現状である。そこで診療放射線技師が高リスクな状況に対応するためのスキル獲得にどのようなoff the job trainingを受講し,どのような効果を得ているかなど,その受講状況を把握するための実態調査を行った。その結果,診療放射線技師を対象とする急変対応や外傷診療に特化した教育コースの検討が必要であることが示唆された。
  • 前野 良人
    2015 年 18 巻 5 号 p. 658-663
    発行日: 2015/10/31
    公開日: 2015/10/31
    ジャーナル フリー
    目的:二次救急病院へのドクターカー導入効果を検証すること。対象と方法:2010年10月から2014年10月までに出動した385例を対象に,奈良市消防局出動記録と市立奈良病院診療録を検証した。結果:要請理由の2/3がCPAで,現場活動196件は当院から5km圏内および山間地域に局在していた。ドクターカーによる医療介入時間短縮は市街地症例で29分,山間地域症例では45分で有意差を認めた。救命センター搬送は14件と少なかった。自院搬送156例中,CPAが6割,内因性疾患が3割を占め,外因性疾患は1割未満であった。外来転帰は外来死亡64例,入院68例,帰宅18例,転送6例で,入院68例の転帰は自宅退院26例,死亡25例,転院17例であった。CPA症例の最終生存率はドクターカー関与症例で7%,非関与症例は3%で有意差は認めなかった。まとめ:ドクターカー導入はCPA症例に対して予後改善効果はなかったが,山間地域では市街地に比べて医療介入時間短縮効果があった。
  • 岩瀬 史明, 松田 潔, 岡本 優司, 石原 武司, 宮崎 善史, 小林 辰輔, 松本 学, 大嶽 康介, 加藤 頼子, 井上 潤一
    2015 年 18 巻 5 号 p. 664-668
    発行日: 2015/10/31
    公開日: 2015/10/31
    ジャーナル フリー
    防ぎ得た外傷死をなくすためには病院前救護のシステムと標準化が重要であり,本邦では2003年よりJapan Prehospital Trauma Evaluation and Care(以下JPTECTMと略す)プロバイダーコースがその役割を担ってきた。山梨県ではメディカルコントロール(Medical Control,以下MCと略す)協議会がJPTECTMプロバイダーコースの普及を行い,病院前外傷診療の向上に努めてきた。2003年のコース設立時より山梨県でもコース開催を開始し,Load & Go〔生命維持に関係のない部位の観察や処置を省略し,生命維持に必要な処置のみを行って一刻も早く外傷治療が可能な医療機関(救命救急センター等)へ搬送しなければならない症例〕対応の外傷症例をMC協議会の事後検証の対象とした。2005年からは救急車にJPTECTMプロバイダーの乗務を必須とした。山梨県の救急隊員の80%はプロバイダー資格を取得,更新しており,外傷救急事案の99.5%の救急車には,JPTECTMプロバイダーが少なくとも1人は乗務していた。今後は,災害時も見据えて消防職員以外の多職種への普及も重要となると思われる。
症例報告
  • 佐藤 哲哉, 鈴木 秀明, 工藤 大介, 浅沼 敬一郎, 久志本 成樹
    2015 年 18 巻 5 号 p. 669-674
    発行日: 2015/10/31
    公開日: 2015/10/31
    ジャーナル フリー
    急性冠症候群を原因とする心停止蘇生後患者に対する緊急冠動脈造影/経皮的冠動脈形成術が推奨されているが,適応判断とタイミングは明確ではない。今回,院外心停止蘇生直後には急性冠症候群を疑わせる所見に乏しく,低体温療法を施行,その後,再度心停止となり緊急冠動脈造影を要した症例を経験したので報告する。症例は60歳代の男性。血液透析へ行く準備中に心肺停止となった。救急隊到着時初期波形は心室細動であり,除細動を施行し,波形は無脈性電気活動へと変化,その後自己心拍が再開した。来院時,明らかな虚血を疑わせる心電図所見,心筋逸脱酵素の上昇はなく,心エコー上は全周性心筋肥大を認め,局所性収縮異常所見はなく,肥大型心筋症による心室細動と診断した。第6病日,再度心室細動となり,心エコーにおける前壁壁運動低下,広範なST低下を伴う心電図所見から急性冠症候群を疑い緊急冠動脈造影を施行し,冠動脈狭窄を認めた。来院時に急性冠症候群を示唆する所見に乏しい心停止蘇生後患者に対する緊急冠動脈造影の適応・施行時期に関し,さらなる検討が必要である。
  • 海老原 貴之, 矢作 宏, 後藤 英聖, 松本 光司, 中島 伸哉, 徳橋 泰明
    2015 年 18 巻 5 号 p. 675-681
    発行日: 2015/10/31
    公開日: 2015/10/31
    ジャーナル フリー
    症例は,軸椎歯突起骨折(Anderson-d’Alonzo分類type Ⅲ)の70代男性。Injury Severity Scoreは18点。入院後にアルコール離脱痙攣発作,CO2ナルコーシスなどを生じたため,内固定を回避しhalo-vest固定を行った。しかし固定除去後に偽関節となり,サルベージ手術としてC1-2内固定を施行したが,深部手術創感染を生じた。創内に抗菌薬(vancomycin+gentamicin)を含有させた骨セメントビーズを留置し,最終的に感染源の左側インプラントを抜去して社会復帰に至った。アルコール離脱症候群に対する治療薬は,当初適正量であっても,全身状態により薬剤蓄積や薬効遷延が生じることがあるため,患者管理の経過中,注意が必要である。また頸椎術後感染は,抗菌薬含有骨セメントビーズを使用することにより制圧することが可能であった。
  • 近藤 立樹, 渡邉 出, 渡邉 健司, 津久井 亨, 杉山 義晴, 宇田 憲司, 石山 純三, 吉井 仁
    2015 年 18 巻 5 号 p. 682-685
    発行日: 2015/10/31
    公開日: 2015/10/31
    ジャーナル フリー
    骨盤骨折後に発症した電撃型脂肪塞栓症(FES)の1例を経験した。症例は80代男性。2階から飛び降り,腰部・左右大腿部・後頭部を打撲し当院に救急搬送された。搬送時バイタルサインは安定していた。搬送2時間後より突如意識レベル低下と呼吸循環状態の悪化を認めたが,確定診断に至らぬままICU入室,人工呼吸管理となった。第2病日に再検された頭部MRI検査でstarfield patternの高信号域を認め,FESと診断された。その後,呼吸循環管理等により全身状態は徐々に改善し,車椅子への移乗も可能なまでにADLが改善して,第50病日に後方病院に転院となった。FESはきわめて予後の悪い病態とされているが,骨折後の患者において突然の意識障害・呼吸不全等の症状を認めた場合,本症も鑑別診断の1つに挙げ,早期より呼吸循環・脳圧管理等の集中治療を開始することが予後の改善に有用であると考えた。
  • 竹中 信義, 佐々木 康二, 西尾 博至, 前野 良人
    2015 年 18 巻 5 号 p. 686-690
    発行日: 2015/10/31
    公開日: 2015/10/31
    ジャーナル フリー
    ADLが杖歩行の70代の女性が約1メートル四方の自宅玄関で転倒,両側股関節と左膝関節を屈曲し,右膝関節を伸展した状態で動けなくなった。本人が医療機関への受診を拒否したため,家族が水分や食事を与え2週間経過したが,徐々に衰弱したため救急要請された。救急隊の観察にて上記異常肢位に加え,左大腿に開放骨折創があり,同部から膿汁の流出を認めた。受傷機転より体位性圧挫症候群の発症が危惧されたため,ドクターカーが要請された。現場にて輸液投与し,体位変換を行わずに搬送を行った。搬送中も心室性不整脈を呈さず,初療室にて無動化の後に体位整復を行い,圧迫を解除した。最終的に左股関節離断に至ったが,長期にわたり同一肢位を強制されていた割には致命的な合併症を認めなかった。その要因として下肢血流が保たれ自動運動が辛うじて可能で,左大腿開放骨折創から軟部組織のドレナージがされ,水分摂取により腎不全に至らなかったことが示唆された。
  • 増井 亜紗実, 岩下 義明, 大森 教成, 石倉 健, 武田 多一, 今井 寛
    2015 年 18 巻 5 号 p. 691-695
    発行日: 2015/10/31
    公開日: 2015/10/31
    ジャーナル フリー
    症例は20代の女性。スーパーの店内で意識レベルが低下したため救急要請された。薬を40錠飲んだ,と話していた。統合失調症,うつ病,パニック障害,気管支喘息の既往があり,パロキセチン,アミトリプチリンなど数種類の薬剤を定期内服していた。来院時の意識レベルはGCS E1V1M5であり,血圧107/36mmHg,脈拍132回/min であった。原因薬剤が不明のまま全身管理を開始したが,多尿,低カリウム血症,乳酸アシドーシスなどの所見を呈した。乳酸アシドーシスが改善しないため,薬剤による乳酸アシドーシスの可能性を考え鑑別を行ったところ,低カリウム血症などの所見からテオフィリン中毒を疑うに至った。テオフィリンの血中濃度を測定したところ88μg/mLと中毒域であった(後日家族への聴取で喘息治療をしていたことが判明した)。血液濾過透析を行い,第5病日に独歩退院となった。テオフィリン中毒では血圧低下,低カリウム血症,乳酸アシドーシスなどの所見を呈することがあり,重症の場合致死的となる。乳酸アシドーシスからテオフィリン中毒を疑い診断に至った一例を経験したので報告する。
feedback
Top