日本臨床救急医学会雑誌
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18 巻, 6 号
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会告
原著
  • ―ガイドライン2010施行前後での比較―
    大森 達矢, 樽井 武彦, 守永 広征, 松田 岳人, 八木橋 厳, 山田 賢治, 松田 剛明, 山口 芳裕
    2015 年 18 巻 6 号 p. 703-707
    発行日: 2015/12/28
    公開日: 2015/12/28
    ジャーナル フリー
    背景:ガイドライン2010(以下,G2010と略す)施行以降,胸骨圧迫の重要性が強調されており,強い胸骨圧迫による合併症の増加や,治療成績に与える影響も懸念される。方法:平成24年に当施設に搬送された院外心停止患者のうち外傷例を除く210例を対象とし,G2010による東京消防庁救急活動基準変更の前後(105例ずつ)で,胸骨圧迫の合併症,自己心拍再開率を比較した。結果:肋骨骨折は105例(50%),気胸は26例(13%)で,救急活動基準変更の前後で有意差はなく,心拍再開率にも差はなかった(前後期とも19%)。合併症は75歳以上で有意に多く発生したが,心拍再開率には影響がなかった。また,気胸が発症した症例では心拍再開率が12%と低い傾向があった。結論:ガイドラインの変更に伴い合併症の増加が心配されたが,本研究はそれを否定するものであった。治療成績向上のためには,効果的かつ合併症を最小限に抑えるような胸骨圧迫が重要である。
  • 山口 陽子, 田中 博之
    2015 年 18 巻 6 号 p. 708-714
    発行日: 2015/12/28
    公開日: 2015/12/28
    ジャーナル フリー
    目的:過換気症候群(HVS)と診断された症例を後方視的に検討した。方法:2009年4月からの3年間に当院へ救急車で搬送されたHVS 653例の特徴を検討した。結果:当院へのHVS救急車搬送は,全搬送数に占めるHVSの比率が高く,若年者・女性・昼間発症例が多く,複数回搬送が少なく,精神疾患の既往が多く,鎮静薬の投与比率が低い,などの特徴があげられた。これらの特徴は,当院の立地が大きく影響していると考えられた。結論:HVSは「過換気と呼吸性アルカローシス(RA)に関連する症状」と「症状の急速な改善」だけで診断することが可能と考えられた。ただし,症状の速やかな改善がない場合は必ず,可及的に過換気を生じる器質的疾患を除外する,あるいは血液ガス分析でRAを確認する必要があると考える。
  • 門口 直仁, 田中 聡, 宮本 典文, 山本 創一, 喜多村 泰輔
    2015 年 18 巻 6 号 p. 715-719
    発行日: 2015/12/28
    公開日: 2015/12/28
    ジャーナル フリー
    目的:ICUにおいて,プロポフォール注射液は鎮静薬として繁用されているが,その投与による静脈炎の発生が臨床上問題となる。そこで,プロポフォール注射液投与による静脈炎の発生状況を調査した。方法:2012年9月から12月までに救命救急センターにおいてプロポフォール注射液が末梢静脈から2日間以上持続投与された症例を対象とした。結果:調査期間中の対象患者は41名で,静脈炎が発生した患者は19名(46.3%)であった。投与時間と平均投与速度が静脈炎発現の有意な因子であり,投与時間77時間以上,投与速度3.44mg/kg/hr以上で静脈炎が高頻度に発現していた。考察:プロポフォール注射液による静脈炎は添付文書上では頻度不明とされているが,今回の調査では46.3%と高頻度に発生していた。静脈炎の発生および重症化を防ぐため,投与時間,投与速度の確認と頻回な穿刺部位モニタリングの必要性が示唆された。
調査・報告
  • ―救急救命士2名乗車が与える影響―
    落合 敏夫, 森本 文雄, 渋谷 正德, 大山 豊, 岩井 伸幸, 飯田 友巳, 宇佐美 一幸
    2015 年 18 巻 6 号 p. 720-722
    発行日: 2015/12/28
    公開日: 2015/12/28
    ジャーナル フリー
    目的:千葉県東葛飾北部地域における蘇生対象となったCPA(cardiopulmonary arrest)に対する静脈路確保について,現場における救急救命士数の影響を検討する。対象および方法:東葛飾北部地域メディカルコントロール協議会の検証グループで静脈路確保に関するチェックシートを作成した。平成22年4月1日から平成23年3月31日の間,域内で発生し救急隊が出動し心肺蘇生術(cardiopulmonary resuscitation)を施行した845件について記入を行った。得られたデータを基に,救急救命士1名乗車と2名乗車とに分け,静脈路確保の試行と成功とを検討した。また救急救命士2名乗車における薬剤投与認定救急救命士(以下,認定と略す)の影響を,認定2名の場合と認定1名の場合および非認定2名とで比較検討した。結果:救急救命士1名乗車589件(69.8%)に対し,2名乗車は256件(30.2%)であった。1名乗車の静脈路確保試行は290件(49.2%),成功は150件で,成功率は51.7%であった。2名乗車での静脈路確保試行は172件(67.2%),成功は116件で,成功率は67.4%と,1名乗車と比較し有意な差を認めた。認定2名乗車時は統計学的に有意な差はないが,最も高い試行率・成功率であった。結語:救急救命士2名乗車は,1名乗車に比べて静脈路確保の試行率・成功率ともに高く,薬剤投与認定救急救命士2名乗車が最も高かった。救急救命士2名乗車体制の有用性が示唆された。
  • 榎本 有希, 賀来 典之, 六車 崇, クナウプ 絵美里, 野坂 宜之, 塚原 紘平
    2015 年 18 巻 6 号 p. 723-728
    発行日: 2015/12/28
    公開日: 2015/12/28
    ジャーナル フリー
    目的:わが国の小児病院前救護に関する教育の実態は不明である。小児病院前救護に関する教育の課題を抽出するために本研究を行った。方法:2013年6月にわが国の消防本部を対象に小児病院前救護に関するアンケートを施行し,そのうち教育に関する部分を抽出し解析した。結果:多くの項目で小児病院前救護に関する教育の必要性は認識されていた。一方で,教育が必要量の50%以上行われている(充足している)との回答は半数未満であった。また,救命救急センターの少ない地域では,多い地域に比べて教育の充足度が有意に低い分野が複数みられた。考察:小児病院前救護に関する教育の必要性は認識されているが,十分な教育がなされていない可能性がある。教育内容を再検討のうえで,処置基準や装備デバイスと一貫性をもった,効率的なoff the job trainingを行う必要がある。
  • 問田 千晶, 六車 崇, 松本 正太朗
    2015 年 18 巻 6 号 p. 729-734
    発行日: 2015/12/28
    公開日: 2015/12/28
    ジャーナル フリー
    目的:小児救命救急センターの指定を受け,かつ小児特定集中治療室管理料を算定する国内唯一の施設である当施設が,重篤小児の救急診療の集約拠点となり得るのかを検討した。方法:2012〜14年に,救急搬送後にPICUに入室した15歳未満の小児を対象とした。当施設への集約状況および救命救急センター充実段階評価基準を用いた救急診療実績の検証を行った。結果:対象は793例であった。転送402例のうち43%が東京都以外の広域から集約されており,直送例と比べ,転送により集約された症例の重症度は高かった。一方で,当施設の救急診療実績は,救命救急センターと比べ充実段階評価は低く,是正すべき項目を多く認めた。結論:当施設は重篤小児の集約には寄与していたが,その救急診療実績は救命救急センターと比べ不十分であった。小児専門施設を重篤小児の救命救急診療拠点として整備するためには,より広域からの集約かつ救急診療機能の向上が求められる。
症例報告
  • 則末 泰博, 藤谷 茂樹
    2015 年 18 巻 6 号 p. 735-737
    発行日: 2015/12/28
    公開日: 2015/12/28
    ジャーナル フリー
    80代の遺伝性出血性毛細血管拡張症および肺動静脈奇形の既往のある女性。呼吸困難感にて来院し,高濃度酸素投与で反応しない低酸素血症を呈していた。気管挿管および陽圧換気開始直後に著しい低酸素血症の増悪を呈し,気道内圧を低下させることにより低酸素血症の改善が認められた。これは,陽圧換気による肺血管床の伸展から肺毛細血管の内径が減少することにより肺血管抵抗が増加し,相対的に肺血管抵抗の低い動静脈奇形に血流が集中し,右-左シャントが増加したためと考えられる。緊急の肺動静脈奇形塞栓術により,低酸素血症は改善し,無事退院した。解剖学的右-左シャントが存在する患者に対し,陽圧換気が酸素化を悪化させる可能性を考慮する重要性を認識させられる症例であった。
  • 山上 浩, 荻野 秀光, 梅澤 耕学, 久米 菜央, 池谷 佑樹, 大淵 尚, 山本 真嗣
    2015 年 18 巻 6 号 p. 738-741
    発行日: 2015/12/28
    公開日: 2015/12/28
    ジャーナル フリー
    腹部大動脈瘤破裂は,腹痛,ショック,腹部拍動性腫瘤を古典的三徴とするが,失神など非典型的症状で来院することもある。今回,痛みを伴わない失神で,来院時正常域血圧を示した腹部大動脈瘤破裂を経験した。症例は70代男性。畑仕事後に前兆なく失神し,救急搬送された。来院時,意識清明,血圧110/83mmHg,脈拍92回/ 分,身体所見では全身に発汗を認めた以外に特記すべき異常なし。前兆のない失神であり,心血管性失神を疑い胸部レントゲン撮影,心筋マーカーのチェックと経胸壁心臓超音波を行うも異常はなかった。来院約2時間後に腰痛を訴え,収縮期血圧が50mmHg台に低下した。大動脈CTで腹部大動脈瘤破裂と診断し緊急手術を行ったが,大量出血によるDICを生じ,術翌日に死亡した。腹部大動脈瘤破裂は痛みを伴わない失神で来院し,正常域血圧を示すことがある。心血管性失神を疑う例では,腹部大動脈瘤破裂の除外が必要である。
  • 種田 靖久, 篠田 康孝, 高田 賢, 松村 知洋, 竹田 亜子, 山口 均, 森 博美, 吉村 知哲
    2015 年 18 巻 6 号 p. 742-746
    発行日: 2015/12/28
    公開日: 2015/12/28
    ジャーナル フリー
    徐放性カリウム製剤(スローケー®錠,以下Sl-K)の経口投与では重篤な高カリウム血症を起こすことは少ないが,排泄機能の低下や大量服用の場合には起きることがある。服用後は,錠剤がX線画像に陰影として写ることがあるとされているが,臨床におけるX線撮影で確認された報告は少ない。今回,われわれは胸・腹部単純X線に写ったSl-Kが服用錠数の評価に影響を与えた症例を経験した。本症例を踏まえ,日本薬局方溶出試験のフロースルーセル法を参考にSl-KのX線非透過性保持時間に関する検討を行った。その結果,溶出開始より4時間後まではX線陰影が確認できたが,6時間後以降はできなかった。また,人体等価ファントム腹上において撮影したX線画像では,試料単独での陰影に比べ確認しにくかった。以上より,Sl-Kの大量服用において腹部X線画像は服用からの時間の推定に貴重な情報源となることが示唆された。
  • 石井 亘, 飯塚 亮二, 大岩 祐介, 岡田 遥平, 市川 哲也, 荒井 裕介, 榊原 謙, 檜垣 聡, 成宮 博理, 北村 誠
    2015 年 18 巻 6 号 p. 747-750
    発行日: 2015/12/28
    公開日: 2015/12/28
    ジャーナル フリー
    幽門側胃切除術後にできる残胃胃石に起因する腸閉塞は比較的まれである。今回,胃石性腸閉塞をきたした症例を経験したので報告する。症例は60歳代,男性。受診1カ月前より心窩部痛を認め,また頻回の嘔気・嘔吐を認めており,当院消化器科に受診予定であったが,頻回の嘔吐と腹痛の増強を認めたため救命救急センターを受診した。腹部CT 検査にて十二指腸水平脚に胃石を認め,残胃の拡張を認めた。既往歴に幽門側胃切除術,Billroth Ⅰ法再建術があった。保存加療としていたが,その後胃石は小腸に嵌頓し腸閉塞症状を呈し,小腸内視鏡にて胃石の粉砕を試みたが困難であり,緊急開腹手術を施行した。手術所見としては,小腸に嵌頓した胃石を同定し,腸管壊死は認めなかったため,用手的に粉砕して閉塞を解除し手術を終了した。胃石は,胃切除後の合併症としてまれであるが,腸閉塞を高率にきたすことがあり,認めた場合には早期に内視鏡下での摘出も考慮すべきである。
  • 赤坂 理, 阿南 英明, 藤井 佳美
    2015 年 18 巻 6 号 p. 751-755
    発行日: 2015/12/28
    公開日: 2015/12/28
    ジャーナル フリー
    症例は70代男性。胸部不快感を主訴に救急車にてショック状態で当院に搬送された。眼瞼結膜に貧血を認めたこと,直腸診で黒色便を認めたこと,来院後吐血したことから上部消化管出血を疑った。輸液で循環動態が安定したため上部消化管内視鏡検査を施行したが,大量持続出血のため胃内は視野不良であった。処置中に血圧が低下したため中止した。気管挿管,輸液,輸血を行い,循環動態が安定した後に,腹部造影CT検査を行ったところ,胃内に造影剤の漏出像を認めた。引き続き腹部動脈造影検査を行い後胃動脈瘤破裂による出血と診断し,コイル止血した。上部消化管出血の場合,上部消化管内視鏡検査ならびに内視鏡的止血術が一般的であるが,自験例のように送気や出血のため循環動態が不安定になることがあり,内視鏡操作に固執せずに撤退するポイントを見極め,速やかに血管造影や手術に移行することが重要である。
  • 文屋 尚史, 上村 修二, 丹野 克俊, 喜屋武 玲子, 平山 傑, 井上 弘行, 成松 英智
    2015 年 18 巻 6 号 p. 756-760
    発行日: 2015/12/28
    公開日: 2015/12/28
    ジャーナル フリー
    症例は50代男性。他院で敗血症,播種性血管内凝固症候群,腎不全と診断され当院に転院となった。当院搬入時はショック状態であり,四肢に対称性の紫斑を認めたため,急性感染性電撃性紫斑病(acute infectious purpura fulminans;AIPF)と診断した。敗血症に対する集学的治療を施行したが,搬入から約22時間後に死亡した。搬入時に採取した血液培養からは黄色ブドウ球菌が同定された。AIPFの起炎菌は海外では髄膜炎菌,本邦では肺炎球菌の報告が多く,黄色ブドウ球菌によるAIPFの報告もあるがその頻度は明らかではない。また,黄色ブドウ球菌によるAIPFではtoxic shock syndrome(TSS)を合併したとの報告もある。急速進行性に出現する紫斑を見た場合,AIPFを念頭に置き治療を開始し,黄色ブドウ球菌感染の可能性を除外できなければ,TSSに対する治療も考慮すべきである。
  • 蛯原 健, 松本 紘典, 天野 浩司, 加藤 文崇, 清水 克修, 西 秀美, 臼井 章浩, 森田 正則, 中田 康城, 横田 順一朗
    2015 年 18 巻 6 号 p. 761-766
    発行日: 2015/12/28
    公開日: 2015/12/28
    ジャーナル フリー
    70代男性。一過性意識障害を主訴に来院した。意識は改善していたが,腹部膨隆,緊満を認めた。腹痛は訴えず,腹膜刺激症状は認めなかった。CT検査にて全結腸の拡張,直腸,S状結腸の便塊貯留,腹水を認めた。著明なアシドーシスを呈していたため,腸管壊死を疑い緊急手術を行った。S状結腸を切開し糞便を吸引し減圧,下行結腸に黒色変化を認めたため左半結腸を切除,断端を人工肛門とした。術後口側断端が壊死したが内視鏡にて残存腸管に壊死所見は認めず,経過観察とした。糞便による閉塞性大腸炎では,腹部所見が乏しい場合でも,救命のためには減圧,壊死腸管切除目的に早急な手術が必要なこともあり,壊死範囲の伸展,新規出現を念頭においた治療を要す。
編集後記
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