日本臨床救急医学会雑誌
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2 巻, 4 号
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原著
  • ―5地域における病院外心停止患者の疫学調査―
    松尾 汎, 稲葉 英夫, 上嶋 権兵衛, 金 弘, 坂本 哲也, 武澤 純, 多治見 公高, 森田 大
    原稿種別: 原著
    1999 年2 巻4 号 p. 375-385
    発行日: 1999/12/31
    公開日: 2025/03/15
    ジャーナル フリー

    救急活動をUtstein方式で記録している5地域(秋田市,船橋市,東京北多摩北部地区,名古屋市,大阪北摂地区)の人口当たりの疫学的数値(population-based)を基に,院外心停止症例の予後を改善するに有効な「病院前救急医療システム(EMS)」の機能評価を行った。調査結果に地域差はみられたが,人口10万人当たりの病院外心停止数は年間51.9人であった。約3/4が蘇生対象となり,心原性は44.5%(21.8人/年/10万人),心室細動・心室性頻拍例(VF/VT)は1.9人/年/10万人であった。VF/VT群は他の心電図群よりも転帰は良好だが,欧米に比し頻度は低かった。生存退院は目撃者がある例に多く,bystanderによる心肺蘇生法が施行された例に多かった。今回の検討から院外心停止例の予後改善には,①心肺蘇生法の普及・訓練や②現場での二次救命処置の実施が有効と思われた。異なるシステムを有する地域間での成績を解析した結果からみると,一般救急隊と上級隊の二層構造(two tired EMS)を有するシステムの方が院外心停止例の予後を改善するには有効であると思われた。

  • 髙山 隼人, 米倉 正大, 馬場 啓至, 寺本 成美
    原稿種別: 原著
    1999 年2 巻4 号 p. 386-390
    発行日: 1999/12/31
    公開日: 2025/03/15
    ジャーナル フリー

    長崎県の有人離島75のなかに約16万人が生活しており,そこで発生した三次救急患者の医療支援のためにヘリコプター搬送が行われている。離島の救急医療体制のなかで脳神経外科疾患を中心に検討した。方法:1989年から96年までの8年間に脳神経外科疾患搬送で疾患や年齢・発症率を離島医療圏毎に検討した。結果:同搬送は590例であり,医療圏の平均搬送患者数(人/年)と発症率(/人口10万人)みると,対馬地区19.1人で発症率45.2人,壱岐地区19.0人で発症率55.3人,上五島地区年間15.6人で発症率37.6人,下五島地区20.0例で発症率43.6人であった。発症率は全地区50歳以上から増加しており,とくに壱岐の70歳代は125.8人と高かった。まとめ:離島の各医療圏で集中治療が必要な脳神経外科患者は年20名程度であり,脳神経外科施設を運営するには経営上問題がある。ヘリコプターを含めた搬送をさらに早く安全にできる体制に費用をかけるべきだと思われる。

  • 福本 仁志, 大野 正博, 森田 大, 冨士原 彰
    原稿種別: 原著
    1999 年2 巻4 号 p. 391-397
    発行日: 1999/12/31
    公開日: 2025/03/15
    ジャーナル フリー

    当救急医療センターは,開設後26年の応急診療所と開設後13年の三次救命救急センターからなり,両組織は財政と人事の面では別組織として運営されている。応急診療所の総受診患者数は545,026人(年平均は20,963人)であった。二次・三次転送患者は17,157人(年平均660人)で,このうち三次(救命センター)への転送は513人(年平均39人)で,虚血性心疾患が212例(41.3%)と最も多かった。応急診療所内での死亡例は当初の13年間に64人(年平均5人),救命センター開設後は1例と減少した。応急診療所内での心肺停止7例は救命センターに搬入し,5例を救命,4例が社会復帰した。当救急医療センターは一次と三次からなるまれな形態であるが,両組織の連携は応急診療所での重症例への対応, トリアージの適正化など利点も多く,地域によつては選択肢となりうる救急医療センターの一形態である。

  • 永納 和子, 山中 郁男, 中澤 暁雄, 坂本 三樹, 田尻 治, 岡田 吉史
    原稿種別: 原著
    1999 年2 巻4 号 p. 398-402
    発行日: 1999/12/31
    公開日: 2025/03/15
    ジャーナル フリー

    1992年4月から1998年3月までの6年間に聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院救命救急センターを受診した18歳以上の成人気管支喘息患者について検討した。受診延べ患者数は1995年から減少したが,心肺機能停止症例数の減少傾向はなかった。心肺機能停止症例は即座に蘇生された1例以外全例死亡したが,来院時呼吸停止状態かつ高度の徐脈や循環虚脱を呈した症例は,喘息が直接原因となる死亡例はなく完全回復した。両者の病型には差がなく,喘息発作死は心肺機能停止以前に医療機関に搬送されるか否かによって左右されると考えられた。アンケート調査では,喘息に悩む患者の姿とともに家族の喘息に対する認識不足が浮かび上がった。発作予防の自己管理や重積発作の認識などの患者自身への教育に加え,家族や職場での啓蒙により発作への理解と協力を得,心肺機能停止に陥る前に医療機関を受診することが,喘息発作死の予防の一因となると思われた。

  • 山本 栄司, 山口 和盛, 西村 英士, 山本 亮一, 武田 啓志, 筑後 一徳, 中山 博識, 尾崎 信弘, 中川 正久
    原稿種別: 原著
    1999 年2 巻4 号 p. 403-408
    発行日: 1999/12/31
    公開日: 2025/03/15
    ジャーナル フリー

    閉鎖孔ヘルニア嵌頓は高齢女性に好発する絞扼性イレウスのひとつであるが,高齢者周術期管理の進歩で救命可能となったものの,術後のQOLは必ずしも良好とはいえない。今回,当科で過去17年間に手術した22症例を対象に,術後の経過に影響を及ぼす因子につき臨床的検討を行った。その結果,発症から手術までが3日未満の症例では,全例PS不変で早期退院できていたが,3日以上の症例では術後入院期間が有意に長く(14.7±1.5 vs 52.3±10.2;p=0.007),PS悪化例がみられた。本疾患でひとりの寝たきり高齢者もつくらぬためには,初期診療における的確な外科へのトリアージと早期手術が不可欠である。

  • 中島 正一, 江口 寛正, 吉田 哲二, 高松 純, 瀧 健治, 津田 邦良, 草場 靖
    原稿種別: 原著
    1999 年2 巻4 号 p. 409-412
    発行日: 1999/12/31
    公開日: 2025/03/15
    ジャーナル フリー

    耳鼻咽喉科領域のなかで高気圧酸素療(HBOT)は突発性難聴によく行われている。HBOTを発症後どの時期に併用するかで,より効果的な治療が行えるか検討する目的で,HBOT(2~2.5絶対気圧60分間,2週間)が施行された突発性難聴75症例(HBOT治療群;男性34名,女性41名)と,HBOTの施行されなかった17症例(対照群;男性6名,女性11名)の聴力検査値をretrospectiveに調査した。治療効果の判定は,オージオグラムによる厚生省の聴力回復判定基準に従って行い,発症からHBOT開始までの日数を7日毎に3群に分けて,著明回復率と治療前後の平均聴力を各群間で各々比較した。突発性難聴の発症からHBOTを開始までの日数とその予後については,発症14日以内にHBOTを開始すると有意な聴力回復が認められ,とくに発症後7日以内の症例の予後改善は著明であり,HBOTは効果的な治療法であると示唆された。

  • 三橋 武司, 深澤 浩, 橋本 徹, 島田 和之, 鈴川 正之
    原稿種別: 原著
    1999 年2 巻4 号 p. 413-416
    発行日: 1999/12/31
    公開日: 2025/03/15
    ジャーナル フリー

    目的:前胸部叩打の心臓に対する影響を心臓超音波およびドップラー法を用い,前胸部叩打前後の心収縮,左室内血流速度の観察を行った。対象と方法:当院にて心房粗細動の待機的除細動を行った6例を対象とし,直流除細動直前から前胸部叩打まで心臓超音波法を用い,連続的に記録した。結果:直流除細動,前胸部叩打法いずれの処置でも肉眼的に明らかな心収縮の変化は認められなかった。超音波ドップラー法により観察した左室拡張期急速流入速度は叩打前後で明らかな増加は認められなかった(54.5±7.3cm/sec vs 52.2±10.9cm/sec,p=0.27)。結語:前胸部叩打法の心臓に対する機械的影響はほとんど認められなかった。本法は心室細動より心室頻拍で有効性が高いと思われるが,その効果を得るには可及的早期に行うことが大切と思われた。

症例
  • 清水 あさみ, 柳田 国夫, 須田 高之, 伊藤 樹史
    原稿種別: 症例報告
    1999 年2 巻4 号 p. 417-422
    発行日: 1999/12/31
    公開日: 2025/03/15
    ジャーナル フリー

    若年性関節リウマチ(juvenile rheumatoid arthritis,以下JRA)に合併した急性間質性肺炎(acute interstitial pneumonitis,以下AIP)を経験した。症例は4歳の女児。平成■年■月に若年性関節リウマチ多関節型と診断された。平成■年■月感冒症状が出現し,■月■日肺炎の診断にて当院小児科に入院した。マイコプラズマ肺炎を疑い点滴加療,ステロイドパルス療法を施行したが呼吸不全を呈したため,第11病日にICU入室となった。入室直後に人工呼吸管理を開始したがPaO2/FiO2 70.2と不良で,肺コンプライアンスの低下を認めた。2回のステロイドパルス療法,血漿交換,免疫抑制剤の投与を行ったが改善が認められず全身状態不良となり,第27病日に死亡した。死後採取した病理所見にてAIPを示した。本例は診断および治療に難渋し救命し得なかったが,JRAに合併したAIPの報告はなく貴重な症例と考えた。

  • 菅原 淳, 黒田 清司, 吉田 雄樹, 薮田 昭典, 西川 泰正, 小林 正和, 谷口 繁, 小川 彰
    原稿種別: 症例報告
    1999 年2 巻4 号 p. 423-426
    発行日: 1999/12/31
    公開日: 2025/03/15
    ジャーナル フリー

    症例:56歳,女性。歩行中にバイクとの接触による転倒で,後頭部ほぼ正中部を強打した。来院時の神経学的所見は,GCS7点(E2V1M4),左不全麻痺を認めた。頭部単純撮影で正中やや右側の後頭骨線状骨折を認め,受傷1時間後のCTで両側基底核に出血を認めた。受傷2時間後,意識レベルの低下を認め,CTで全脳の脳腫脹と血腫の増大を確認した。受傷後15時間では,さらに右側の血腫が増大し,左への正中偏位を来した。そこで右側の基底核出血に対して,CT定位血腫吸引術を施行した後,barbiturate coma therapyを併用し,術後3週目にはGCS14点(E4V4M6)まで回復した。考察:外傷性基底核出血のうち,両側性は比較的まれである。CT定位血腫吸引術により,経時的に増大した血腫を簡便かつ低侵襲に除去することができ,転帰良好であった。

  • 吉永 恵, 伊藤 重彦, 中村 昭博, 井手 昇, 井手 誠一郎, 小林 誠博
    原稿種別: 症例報告
    1999 年2 巻4 号 p. 427-431
    発行日: 1999/12/31
    公開日: 2025/03/15
    ジャーナル フリー

    近年,特発性食道破裂は報告例増加に伴い,その疾患概念の認識が広がりつつあるが治療方法はいまだ確立されていない。今回著者らは破裂部の直接縫合閉鎖後に有茎横隔膜弁を用いて補強し,良好な経過を得た症例を経験したので報告する。症例は53歳の男性,平成■年■月■日頃より心窩部痛が持続していたが,■月■日の夜,突然,胸部苦悶感と心窩部痛の増強を認めたため当院へ救急搬送された。胸部CTや食道造影にて特発性食道破裂と診断し,発症より4時間後に緊急手術を施行した。第7肋間で開胸し下部食道左側に約1.5cm大の破裂孔を認めた。破裂部および周囲の挫減,浮腫が強かったための破裂部を二層に縫合した後有茎横隔膜弁を用いて補強を行った。有茎横隔膜弁は広い被覆面積を容易に得ることができ,強靱で弾力性に富む補強材料で直接縫合閉鎖後の補強材料として有用である。

  • 小林 正直, 冨士原 彰, 秋元 寛, 田中 英夫
    原稿種別: 症例報告
    1999 年2 巻4 号 p. 432-437
    発行日: 1999/12/31
    公開日: 2025/03/15
    ジャーナル フリー

    膵十二指腸動脈瘤はまれな腹腔内臓動脈瘤のなかでも2%の頻度でしかない。破裂例が過半数を占め,膵十二指腸動脈の解剖学的特殊性から,外科治療は容易ではない。経カテーテル動脈塞栓術(TAE)で治療し得た膵十二指腸動脈瘤の1例を報告するとともに,本邦の膵十二指腸動脈瘤40例 を集計し検討を加えた結果を述べる。症例:患者は53歳女性,心窩部痛,ショック状態で搬入され た。造影CTで膵頭部後面に血腫を認めたが,出血点は不明であった。補液・輸血で循環動態が安定し,血管造影を行った。後膵十二指腸動脈に径5mm大の嚢状動脈瘤を認めたためマイクロコイルで瘤内塞栓術を行った。塞栓術後,十二指腸血流低下によると思われる一過性の十二指腸通過障害を呈し た以外に合併症なく軽快退院した。結語:膵十二指腸動脈瘤ことに破裂例に対しては低侵襲性と確実性からみて,まず第一にTAEを考慮すべきである。

  • 中島 義仁, 福岡 敏雄, 真弓 俊彦, 榊原 陽子, 横田 修一, 山田 浩二郎, 高橋 英夫, 武澤 純
    原稿種別: 症例報告
    1999 年2 巻4 号 p. 438-442
    発行日: 1999/12/31
    公開日: 2025/03/15
    ジャーナル フリー

    栗粒結核によるARDS(acute respiratory distress syndrome,急性呼吸窮迫症候群)患者に,ステロイドパルス療法が有効であった症例を経験したので報告する。症例は27歳の女性,全身倦󠄀怠感と肝機能異常にて発症し,当院消化器科に紹介転院となった。胸部X線写真で両側びまん性小粒状影があり呼吸器科に転科した。胸部X線写真より粟粒結核を疑い,抗結核薬開始したが,低酸素血症が続くためICU入室し,気管内挿管後,人工呼吸器を装着した。さらに肺酸素化能が悪化したため,メチルプレドニゾロン1g/日を3日間施行したところ動脈血酸素分圧の著明改善みられた。粟粒結核に,DIC(disseminated intravascular coagulation,播種性血管内凝固症候群)や,呼吸不全を合併すると死亡率が非常に高くなると報告されており,本症例では,早めの抗結核薬投与,DIC対策,呼吸不全に対するステロイドパルス療法が有効であった。ステロイド使用については,議論の分かれるところであり,今後の研究が必要である。

臨床経験
  • 岡田 保誠, 繁田 正毅, 稲川 博司, 坂本 哲也
    原稿種別: 臨床経験
    1999 年2 巻4 号 p. 443-449
    発行日: 1999/12/31
    公開日: 2025/03/15
    ジャーナル フリー

    重症ANCA関連肺腎症候群の治療上の問題点を明らかにする目的で,最近経験した4症例を検討した。来院時心肺機能停止状態で来院した1例を除く3例では,ステロイド療法を中心とする免疫抑制療法とともに血漿交換療法を行った。全例肺出血は著しく,呼吸不全の悪化は急速かつ重篤であった。免疫抑制療法とともに血漿交換療法を行うことにより,肺出血は早期に改善し,1例では寛解を得たが,2例では急性期管理には成功したものの結局は感染合併症による呼吸状態の悪化により死亡した。本疾患の予後を改善するためには,第一に疾患の診断や病勢をより迅速に判断するための臨床検査の確立,第二に臨床的知見の積み重ねを踏まえたより適切で実際的な治療指針の策定が重要であると考えられる。

視点・論点
  • —指令員の行動変化からの一考察—
    披田野 啓子, 森川 知美, 三上 剛人, 五十嵐 美恵子, 中村 宏治, 松原 泉, 杉林 晴彦, 上浦 慎司
    原稿種別: 視点・論点
    1999 年2 巻4 号 p. 450-453
    発行日: 1999/12/31
    公開日: 2025/03/15
    ジャーナル フリー

    救急医療はプレホスピタルと病院内医療の連携で成り立っている。そのなかで,プレホスピタルケアは重要な役割を担っている。救急看護婦(士)が指令員の119番通報の対応から始まるプレホスピタルケアという新たな認識をもち,指令センターの見学を行った。看護婦(士)は指令員の119番通報の対応に看護の視点からかかわり,指令員はその専門性に危機介入という役割を担っていることを知った。救急医療を担う各分野の人々がその専門性を高めているなか,救急医療における看護婦(士)の役割について考察した。その結果,看護婦(士)は臨床における専門性を高める努力はもとより,危機状態にある患者・家族が身体的・精神的にも順調に危機回避プロセスを経ていくために,その専門的視点からプレホスピタルケアにかかわっていくことも役割であると考える。

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