日本臨床救急医学会雑誌
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20 巻, 1 号
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会告
原著
  • ―圧迫単独法と標準法の比較―
    菊川 忠臣, 小関 一英, 大松 健太郎, 小林 國男
    2017 年 20 巻 1 号 p. 1-9
    発行日: 2017/02/28
    公開日: 2017/02/28
    ジャーナル フリー

    JRC蘇生ガイドライン2010に準拠した10分間のCPRを圧迫単独法で行う場合と,標準法で行う場合でのCPRの質の違いについて,CPR習熟者群(救急隊員)と非習熟者群(一般大学生)間で比較検討した。圧迫単独法は手技が容易であるが,経時的な圧迫深度の低下が標準法に比べて大きかった。標準法では非習熟者群が行う人工呼吸は習熟者群と比べて過剰換気になりやすく(p<0.01),圧迫中断時間が習熟者群に比べて長かった(p<0.01)。圧迫単独法は標準法と比べて疲労度が高い手法であった(p<0.01)。救助者が一人で長時間のCPRを行わざるを得ない場合は,圧迫深度の維持が期待できる標準法が適しているが,人工呼吸に伴う胸骨圧迫の中断時間を最小限にとどめる必要がある。

  • 真弓 俊彦, 竹村 春起, 志水 清和, 平林 祥, 家出 清継, 中村 俊介, 江崎 友香, 松井 智子, 永田 二郎
    2017 年 20 巻 1 号 p. 10-17
    発行日: 2017/02/28
    公開日: 2017/02/28
    ジャーナル フリー

    目的および方法:終末期類似状態の心肺停止(CPA)搬送患者の実態を明らかにするため,平成22年4 月より2年間の当院救命救急センターへの全CPA搬送例のうち,終末期類似状態であった患者を後方視的に検討した。結果:334例のCPA搬送者のうち終末期類似状態であった患者は43例(12.9%)であった。高齢者福祉施設や訪問看護師からの要請は21例,自宅からの要請は22例であった。事前にdo not attempt resuscitation(DNAR)表明があったのは16例(37.2%)のみで,8例は施設や訪問看護師からの要請であったが,CPA時にDNARであることを施設職員や看護師が把握していた例はなく,いずれも救急隊に通知されていなかった。11例では自己心拍が再開し,8例が入院したが,最長生存は9日であった。結語:施設入所時や訪問看護導入時には看取りについて協議し,急変時には近医の往診を依頼する病診連携の構築が必要である。

調査・報告
  • 地域特性からみた救急支援のあり方
    熊田 恵介, 村上 啓雄, 吉田 実, 豊田 泉, 小倉 真治, 福田 充宏
    2017 年 20 巻 1 号 p. 18-22
    発行日: 2017/02/28
    公開日: 2017/02/28
    ジャーナル フリー

    対象と方法:平成22年1月から平成26年12月末まで5年間の下呂市消防署管轄における入浴関連救急搬送事例と基幹病院へ搬送となった重症事例を対象に,重症度別,月別,時間帯別,要請元・発生場所別ならびに画像を含めた所見を回顧的に検討した。結果:全死亡例のうち入浴関連の割合は35.2%であったこと,月別では冬季に,時間帯別では夜間帯に重症例の発生件数が多かったこと,ホテル・旅館等と自宅等からの要請が多いこと,浴槽内での死亡例が多かったことが明らかとなった。また,重症例では血管系の内因性疾患が多く予後不良で,死後画像診断の実施率は80%で確定診断に至ったものは25.7%であった。考察:地方では温泉地など地域特性を明確化したうえで,関連諸機関が一体となった有効かつ効果的な救急医療支援策を講じておく必要がある。

  • 服部 光良
    2017 年 20 巻 1 号 p. 23-27
    発行日: 2017/02/28
    公開日: 2017/02/28
    ジャーナル フリー

    背景:当院では診療放射線技師に向けた患者急変時対応の教育はなされておらず,知識・技術の習得が課題である。目的:シミュレーション実施による患者急変時の初期対応の知識・技術の習得である。方法:はじめに放射線診療下における患者急変時の不安要素を調べ,一般撮影室・CT室・MRI室で起こり得る状況を想定し,患者急変時対応シミュレーションを行う。また,シミュレーション前後に記述式調査を行い,効果の定量をする。結果:シミュレーション前では,院内コールをして終わる受講者が38%を占めていたが,シミュレーション後には0%となり,一次救命処置(Basic Life Support,以下BLSと略す)を実行するとの回答が50%,できることをするとの回答が50%となった。結語:放射線診療下でのシミュレーションにて,BLS,アレルギーの初期対応,搬出方法などを学ぶことで初期対応の習得になり,患者急変時の知識・技術が高まった。

  • 中谷 安寿, 清水 健太郎, 大西 光雄, 小倉 裕司, 中堀 泰賢, 山野 修平, 幡川 由香里, 日高 泰徳, 瀬尾 恵子, 嶋津 岳士
    2017 年 20 巻 1 号 p. 28-35
    発行日: 2017/02/28
    公開日: 2017/02/28
    ジャーナル フリー

    医療情報が増加するなか,安全かつ確実な医療を行うためにチェックリストの使用は有効な手段の一つである。今回,栄養チェックリストを用いて栄養管理を遂行できるかを検討した。ICUの非経口摂取患者を対象とし,週1回,看護師が栄養チェックリストを用いて評価を行った。評価項目は栄養,脱水,便通(便秘・排便異常)とした。栄養回診を通して医師と共有し,治療に反映した。その後,効果について判定を行った。総回診数は計39回,対象患者は125人(のべ235人)であった。栄養46.4%(109/235人),脱水25.1%(59/235人),便秘20.4%(48/235人),排便異常6.0%(14/235人)がチェック項目に該当し,その一部の患者の栄養投与計画を変更した。栄養チェックリストは看護師の経験年数にかかわらず,栄養評価を実施するツールとして役立った。救命救急センターにおける看護師主導の栄養チェックリストは,患者の栄養状態の把握と栄養管理の業務プロセスの改善に有用であると考えられた。

  • 森本 文雄, 吉岡 伴樹, 岩井 直路
    2017 年 20 巻 1 号 p. 36-38
    発行日: 2017/02/28
    公開日: 2017/02/28
    ジャーナル フリー

    はじめに:松戸市立福祉医療センター東松戸病院(以下,病院と略す)には約140名の高齢者が入院し,周辺には約450名が居住する有料老人ホームや高齢化の進む約600世帯の団地がある。病院は,有料老人ホーム,自治体,団地自治会・管理組合と協議を重ね,有料老人ホーム併設大ホールにおける避難所運営ゲーム(Hinanjyo Unei Game,以下HUGと略す)を用いた地域災害訓練を企画した。対象および方法:病院職員,有料老人ホーム職員,団地自治会役員・管理組合職員へのHUG試行後,2015年3月5日にHUGを用いた地域災害訓練を実施した。先行してHUG を受けた者は協力スタッフとして参加した。無記名アンケートでHUGを評価した。結果:参加者は66名で64名からアンケートを回収した。59名(92%)がHUGは有意義だったと回答した。

  • 〜重症薬物中毒搬送の実態から薬学的教育の工夫〜
    齋藤 靖弘, 山下 友也, 武田 清孝, 増井 伸高, 松田 知倫
    2017 年 20 巻 1 号 p. 39-46
    発行日: 2017/02/28
    公開日: 2017/02/28
    ジャーナル フリー

    救急隊員に急性薬物中毒の知識をアンケート調査し,薬剤に関する知識不足から搬送・病院選択に苦慮していることが明らかとなった。そこで,重症急性薬物中毒に陥りやすい薬剤の中で,致死性不整脈へ移行しやすく,PCPS等の補助循環可能な高次医療機関搬送が必要となる三環系抗うつ薬に関して,薬学的知識を補う簡単な手製のリーフレットを薬剤師が中心となって作成し,4消防本部の救急隊員へ配布・説明した。その後,調査票を配り,①薬剤リストから三環系抗うつ薬を選択,②三環系抗うつ薬過量内服患者の観察強化項目を選択する,という2つの項目の正答率ならびに回答率と自由記載コメントから,リーフレットによる教育効果を評価した。リーフレットを作成して救急隊員へ薬学的知識を支援することは,教育効果以外に搬送先選定などの救急対応を改善する効果も期待でき,プレホスピタルにおける薬学的支援の重要性を感じるものだった。

  • 江川 香奈, 水嶋 知也, 角地 祐幸, 境田 康二, 木村 敦
    2017 年 20 巻 1 号 p. 47-54
    発行日: 2017/02/28
    公開日: 2017/02/28
    ジャーナル フリー

    目的:ER 型救急システムを導入している施設の救急部は,さまざまな患者が来院し,多職種の医療者による業務展開があるため,諸室の配置が業務に大きく影響し得る。施設設計を行う際の検討事項を模索する調査研究を実施した。方法:船橋市立医療センター救急部を対象に,室配置に関する質問調査を実施した。結果:診療関連諸室を集約配置した後に,検査関連,患者使用関連,医療者休憩諸室が近接することが望まれた。また,トリアージ室のスタッフステーションとの近接,徒歩患者の医療側との動線分離,救急部外への移動負担の軽減,手術室やMRI検査室,家族説明室などの配置が求められた。結論:ER型救急システムを運用する施設設計の際には,医療者側と患者側の動線に配慮しつつ診療関連諸室を集約配置した後に検査関連諸室を近接させ,他方スタッフステーションとトリアージ室を接点とし診療関連諸室と患者使用諸室を近接させる室配置が望ましい。

  • 田戸 朝美, 川島 裕子, 黒田 早希子, 栗元 麻理菜, 刀禰 真由子, 山勢 博彰, 立野 淳子, 山本 小奈実
    2017 年 20 巻 1 号 p. 55-63
    発行日: 2017/02/28
    公開日: 2017/02/28
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,わが国の地方のひとつである山口県で,救急外来に勤務するトリアージナースの役割実践の度合いと影響する因子について明らかにすることである。影響因子として,トリアージナースとしての「経験」「教育歴」「特性の認識」「能力発揮の度合い」「役割実践の自信と不安の程度」について調査した。山口県内の救急告示病院全60施設から,1施設あたりトリアージナース5名を調査対象者とし(計300名),郵送法による質問紙調査を実施した。有効回答者数は89名であった。トリアージナースがもっとも行っていた役割は「患者・付添人とのコミュニケーション」と「適切な場所への患者の誘導」であった。「トリアージ記録の記載」については,実践の程度がもっとも低く,自信も低かった。役割の実践には,専門的「教育」があることと,トリアージに必要な「能力発揮の度合い」の高さとトリアージ役割に「自信」をもっていることが影響していることがわかった。

症例・事例報告
  • 小野 和幸, 大河原 治平, 阪本 敏久
    2017 年 20 巻 1 号 p. 64-68
    発行日: 2017/02/28
    公開日: 2017/02/28
    ジャーナル フリー

    現場での心肺蘇生拒否(do not attempt resuscitation,以下DNARと略す)の意向をもつ家族等に対応するための「救急隊員が行う応急処置に関する要望書」(以下,要望書と略す)について,その使用状況を調査した。平成18年から24年の間に現場でDNARの要望があった対象例を検討した。調査期間中のDNAR対象は12件あり,11件で要望書が提出された。年齢は72歳から100歳まで,性別は男7名,女5名,DNAR意思確認書類を事前に提出されたのは1名,心肺蘇生実施4名,搬送実施9名であった。要望書はDNARの搬送のほか,特定行為を拒否し一次救命処置のみでの搬送や不搬送とすべき傷病者で活用されていた。傷病者の医療拒否権について合意形成がない中でも現場でDNARに遭遇することがあり,要望書は現状の解決策の1つと思われる。解決策として救急業務実施基準等の改定が望まれる。

  • 宮本 恭兵, 加藤 正哉
    2017 年 20 巻 1 号 p. 69-73
    発行日: 2017/02/28
    公開日: 2017/02/28
    ジャーナル フリー

    硫化水素はさまざまな産業の副産物として生じ,しばしば中毒症例が報告されている。今回われわれは農薬タンク内で硫化水素が発生し中毒を発症した症例を経験したので報告する。症例は37歳男性。農薬タンク内の洗浄のため中に入ったところ意識消失し,救急要請となった。現場周辺は硫黄臭があり,ガス検知器で硫化水素が200ppmであった。タンク下部を切断して内部の換気を行ったのち,救助した。石灰硫黄合剤と第一リン酸カルシウムの混合により硫化水素が発生したことが判明した。当院到着時はGlasgow Coma ScaleでE2V2M5と意識障害があり,気管挿管による純酸素投与,亜硝酸ナトリウム投与を行った。亜硝酸ナトリウムは間欠投与より持続投与でメトヘモグロビンの良好な調整が得られた。どちらの投与法でも明らかな副作用は生じなかった。入院3日目に意識状態が改善し,入院6日目に神経学的症状を残さず自宅に退院となった。

編集後記
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