日本臨床救急医学会雑誌
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20 巻, 3 号
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会告
総説
  • 七崎 之利, 諏訪部 章
    2017 年 20 巻 3 号 p. 489-498
    発行日: 2017/06/30
    公開日: 2017/06/30
    ジャーナル フリー

    パニック値の概念は,1972年のLundbergまで遡る。それは,単なる検査値の定義ではなく,システムである。統計的に設定した基準範囲から,大きく外れた検査値である極端値は,検査データの保証を前提に,検査室で種々のエラーを否定した後,パニック値として,臨床へ報告される。パニック値リストやその連絡システムは,臨床と協議の上,作成,構築される。近年のパニック値に関する医療事故は,いずれもLundbergが定義したパニック値の連絡体制の不備に起因する。したがって,この概念は現代も必要不可欠である。一方,救急初期診療の標準化や救急現場へのPOCT(臨床現場即時検査)の導入,検査室のISO15189認定取得などにより,パニック値は,新たな変化が求められている。これからのパニック値は医師や臨床検査技師などの専門知識に関する互いの教育,知識の共有,これらに基づいたより緊密な連携を必要とする。

  • 太田 智行, 西岡 真樹子, 中田 典生, 福田 国彦
    2017 年 20 巻 3 号 p. 499-507
    発行日: 2017/06/30
    公開日: 2017/06/30
    ジャーナル フリー

    米国を中心に発展しているポイントオブケア超音波検査(point of care ultrasound, POCUS)は,臨床上重要と判断されたものを中心に評価するfocused ultrasound examination(的を絞った超音波検査法)が主体となる超音波検査であり,系統的で連続的な評価を行う従来の超音波検査とは異なる。臨床上の判断を間違えば,的外れな診療になってしまうリスクを負う。FAST,FATE,BLUE,RUSH,two-point compression methodはPOCUSの代表的プロトコールであるが,これらの開発された経緯や概略を理解することでfocused ultrasound examinationがCT検査に依存した日本の医療にもたらし得る変化を想像できるのではないかと思われる。CT検査依存で得た便利さや確実さと引き換えに,日本人は過剰な医療被ばくのリスクに直面している。今後,日本の医療がどう変化していくか,focused ultrasound examinationが普及するかどうかにかかっている。今後の動向を注視していく必要がある。

原著
  • 吉田 真紀, 大木 亜紀, 島 美貴子
    2017 年 20 巻 3 号 p. 508-515
    発行日: 2017/06/30
    公開日: 2017/06/30
    ジャーナル フリー

    外傷看護の標準化と外傷患者受け入れへの看護師の不安軽減を目的に作成した外傷看護チェックシート(以下,チェックシート)運用による効果と課題を明らかにするために,外傷患者「受け入れ準備」,「観察」,「処置」をリッカート尺度による自己評価点とし得点比率を救急経験年数別に比較した。「受け入れ準備」の得点比率は救急経験1年未満で52.5%,1年以上で85.0%以上,「観察」の比率は救急経験年数にかかわらず72.5%以上,「処置」は救急経験1年未満で50.0%,1年以上で74.0%以上だった。以上のことから,チェックシートは救急経験年数にかかわらず,観察項目を確認でき,外傷患者受け入れへの不安を軽減する効果があった。しかし,救急経験1 年未満の看護師はチェックシートだけでは不十分であり,「受け入れ準備」に適切な指示が,「処置」には現場等で経験を積む必要性が示唆された。

  • 竹本 正明, 浅賀 知也, 金 崇豪, 宮崎 真奈美, 中野 貴明, 広海 亮, 稲村 宏紀, 山本 晃永, 伊藤 敏孝
    2017 年 20 巻 3 号 p. 516-520
    発行日: 2017/06/30
    公開日: 2017/06/30
    ジャーナル フリー

    背景:現在日本では高齢者が増加しており,高齢者の救急搬送数そして高齢者施設からの救急搬送数も年々増加している。目的:高齢者施設からの救急搬送例を検証し,その傾向と問題点を検討した。方法:2014年1月から2015年12月までの24カ月間に高齢者施設から当院救急外来に救急車で搬送された患者を対象として後ろ向きの研究を行った。結果:症例は715例。平均年齢は85.3歳であった。中等症以上の症例は67.0%であった。搬送元としては特別養護老人ホーム,介護老人保健施設,介護付き有料老人ホームが多かった。搬送理由としては心肺停止49件,内因性591件,外因性75件であった。内因性疾患の中等症以上の割合は69.5%であり,外因性では中等症以上が26.7%であった。考察:明らかに緊急度が低い症例も散見され,とくに外傷では念のための受診を目的とした救急要請も多いと考えられた。不要な救急要請を減らすためにも各高齢者施設ではかかりつけ医との連携を深め,患者の緊急性の要否を判断ができる状況をつくる必要があると考えた。

  • 〜蘇生行為を希望しないことの事前指示表明の把握も含めて〜
    真弓 俊彦, 竹村 春起, 志水 清和, 平林 祥, 家出 清継, 中村 俊介, 江崎 友香, 松井 智子, 永田 二郎
    2017 年 20 巻 3 号 p. 521-528
    発行日: 2017/06/30
    公開日: 2017/06/30
    ジャーナル フリー

    目的:高齢者福祉施設入所者が増加し,心停止例の施設からの救急搬送も増加している。しかし,なかには,蘇生行為を希望しない事前指示を表明している患者も救急搬送されることが少なくない。そこで,施設での蘇生処置を希望しない事前指示(以下,事前指示)表明の確認や急変時の対応について明らかにするために,施設にアンケート調査を行った。対象と方法:高齢者福祉施設に,入所者の事前指示の表明の確認や急変時の対応について書面によるアンケート調査を行った。結果:回答率は59.8%であった。入所者に事前指示の表明の有無を確認していない施設が44.8%,急変時のマニュアルがある施設は18.1%,「マニュアルも対応の仕方も定まっていない」施設が34.3%あり,体制が十分整っていないことが明らかになった。また,事前指示を表明している入所者が急変した場合でも,全例救急搬送を要請する施設が43.6%と少なくなく,入所者の看取りができていないことも判明した。しかし,これらの割合は,施設の形態,医師が対応可能な施設とそうでない施設,マニュアルや急変時の対応の整備の有無によって,大きな相違があった。結語:尊厳な死を迎える権利を尊重するための対策が必要である。施設は医師との連携を確立するとともに,施設だけではなく,関連学会など関係組織の協力によって,マニュアルや対応の仕方を定めるとともに,急変時の対応や看取りに関する教育が必要である。

  • 小林 晃, 畑 泰司, 山本 浩文, 三井 啓吾, 鈴木 真紀, 宮上 寛之
    2017 年 20 巻 3 号 p. 529-533
    発行日: 2017/06/30
    公開日: 2017/06/30
    ジャーナル フリー

    目的:当院で診断した22例の虚血性大腸炎(Ischemic colitis,以下,IC)について発症因子を中心とした臨床像を明らかにすること。方法:平成20年1月より平成26年10月までに当院でICと診断した22例を対象として,後方視的に検討した。結果:高齢女性に多く,左側結腸に病変が多くみられた。壊死型症例は認めなかった。発症因子として,22例中17例(77.3%)が腸管側因子陽性で,11例(50%)が血管側因子陽性であった。65歳以上の高齢者15例のうち11例(73.3%)が,腸管側因子陽性であった。結論:IC の発症には高齢者であっても腸管側因子が関与する割合が高かった。腸管側因子に関する病歴は見落とすことが多く,ICの診断のために便秘や排便時に努責があったかなど誘導的なの質問し,詳細な病歴をとることが重要である。

  • 西島 功, 小畑 慎也, 小山 淳, 土田 真史, 友利 隆一郎, 猪谷 克彦, 池村 綾, 宮城 和史, 比嘉 信喜, 伊波 潔
    2017 年 20 巻 3 号 p. 534-538
    発行日: 2017/06/30
    公開日: 2017/06/30
    ジャーナル フリー

    目的:迅速対応システム(Rapid response system:RRS)を導入する施設が増えているが,その起動が困難で,また本邦でのエビデンスが希薄である。修正早期警戒スコア(Modified early warning score:MEWS)は,患者急変を予知できるツールであり,RRS起動基準として有用ではないかと考えた。方法:2012 年10 月,MEWS が高値となり急変する可能性の高いWZ(Warning Zone)に入った患者に対して,主治医・ICU 看護師が迅速に対応する,MEWS-RRSを導入した。研究1としてMEWSの点数別院内心停止(in-hospital cardiac arrest:IHCA)率を比較,研究2としてMEWS-RRSの起動件数を評価し,研究3としてMEWS-RRS はIHCAを減少させるか検討した。結果:<研究1>MEWS の点数別IHCA 率は,6点0.18%,7点1.40%,8点1.75%,9点以上3.57%で,6点に比べ7点・8点・9点以上では有意にIHCA 率が高かった(p<0.05)。<研究2>新入院1,000人当たりのMEWS-RRS の起動件数は,WZをMEWS 6点以上とした第1 期では99.8 件,WZをMEWS 7点以上とした第2 期では46.6件と有意に減少するも(p<0.01),IHCA 率は1.50 vs 2.30と有意差はなかった。<研究3>MEWS-RRS 導入前の第0 期と,第1 期・第2期において,新入院1,000人当たりの月別IHCA率を比較すると,5.21 ± 3.47 vs 1.50 ± 1.07 vs 2.30 ± 1.43とMEWS-RRS導入後有意に低下した(p<0.01)。考察・結論:WZをMEWS 7点以上としたMEWS-RRSは,適正なRRS起動件数が得られ,IHCAの減少に寄与する有用なシステムである。

調査・報告
  • 中尾 博之, 森野 一真, 山本 保博
    2017 年 20 巻 3 号 p. 539-544
    発行日: 2017/06/30
    公開日: 2017/06/30
    ジャーナル フリー

    はじめに:患者受け入れ困難に関する評価は4回以上の交渉を要した合計でなされてきたが,より効果的な評価方法として,指数近似曲線を用いた新しい評価方法を創出し,その妥当性について検証する。方法:重症受け入れ交渉回数の推移が,指数近似曲線の形態となると仮定し検証した。また,従来の評価方法と新評価方法とを比較検討した。結果:全国都道府県の救急搬送収容交渉状況は指数近似式で表され,その相関係数はR>0.83であった。さらに,受け入れ状況は,従来評価方法では大きく変動しているが,指数近似式から求められた減衰定数による評価ではy=0.011x+0.1816,R=0.922で表され,改善してきていることが判明した。考察:減衰定数を評価することが客観的な救急搬送受入実態の評価につながると考えている。今後多変数解析を行えば,変動に影響を与えた因子を検索することも可能であろう。

  • 五味 知之, 渡辺 仁, 依田 尚美, 斉藤 まゆみ, 岡田 邦彦
    2017 年 20 巻 3 号 p. 545-550
    発行日: 2017/06/30
    公開日: 2017/06/30
    ジャーナル フリー

    ワルファリン内服中に発症した頭蓋内出血症例への乾燥人血液凝固第Ⅸ因子複合体(prothrombin complex concentrate:PCC)の有効性が複数報告されている。当院では,左室補助装置装着患者の頭蓋内出血を経験したことを契機にPCC を導入し,複数の症例に使用してきたが,各症例について検証すると複数の問題点があった。そこで,関係各科の医師に呼びかけ,PCC使用時の院内ガイドラインを作成した。ワルファリン内服中,新規経口抗凝固薬(novel oral anticoagulants:NOAC)内服中の2群に分け,PCCの初回投与量,プロトロンビン時間国際標準比の再検時間(ワルファリンのみ),追加投与についてフローを作成した。また,医師が院内ガイドラインに則った治療を確実に行うことを支援するため,注射・検査オーダー,書類等が一括発行されるパスセットを作成した。今後も脳卒中治療ガイドラインや他施設での使用報告などをもとに院内ガイドラインの修正やシステムの改善を行い,より使用しやすいものにしていく必要がある。

  • 西本 幸夫
    2017 年 20 巻 3 号 p. 551-554
    発行日: 2017/06/30
    公開日: 2017/06/30
    ジャーナル フリー

    病院前において,心肺機能停止状態の傷病者に対して救急要請により救急隊が出動した場合,救命を目的に救命処置を実施している。一方で,救急隊が傷病者に接触後,救命処置を希望しないという意思を家族から伝えられる場合や,延命治療拒否(以下,DNAR)の書類を掲示される場合も存在する。そうした中,広島市消防局においては,「救急隊現場活動プロトコール」に基づき主治医に連絡を取るように努め,主治医から「CPRを行わない」旨の指示が取得された場合に限り心肺蘇生を中止することを文書で示し対応している。しかし,全国的に救命処置を希望しない場合の心肺蘇生の実施の有無については明らかでない。今回,広島市消防局での取り組みを報告することで,心肺機能停止状態の傷病者に救命処置を希望しない意思を示した事例に対する現状を明らかにする。そこで今後は,標準的な活動基準等の指針作成について全国的な展開が図られることを望む。

編集後記
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