日本臨床救急医学会雑誌
Online ISSN : 2187-9001
Print ISSN : 1345-0581
ISSN-L : 1345-0581
21 巻, 3 号
選択された号の論文の12件中1~12を表示しています
会告
総説
  • 〜フレイルを考慮した適正医療とは〜
    山下 寿, 矢野 和美, 古賀 仁士, 爲廣 一仁
    2018 年 21 巻 3 号 p. 471-477
    発行日: 2018/06/30
    公開日: 2018/06/30
    ジャーナル フリー

    総務省の発表では,2015年の国勢調査で日本は世界最高の高齢化率である26.7%を示し,さらに進行することが予測されている。当院の2010〜2014年の高齢者救急の実態調査を行い,これからの方向性を検討した。高齢者の搬入時重症度は,調査期間を通じて外来帰宅・ICU入院・一般病棟入院・外来死亡の順であった。特徴は,ICU入院が高率であったことであり(28.6〜32.7%),その平均年齢は80±8歳であった。また病院到着時心肺停止例に関しては,救命率・社会復帰率・神経学的予後は非高齢者に比して有意に劣っており,一方では医療費には有意差は認めなかった。今後はフレイルに関する臨床データが蓄積され,高齢者各自に応じた適正医療の指針が示されれば,すべての高齢者に一律に最新の高度な救急集中治療を行う医療から,過剰医療・過少医療など不適切な医療が減少し,結果的に医療費削減につながる。

原著
  • 小島 好子, 阿江 竜介, 笹原 鉄平, 古城 隆雄, 角田 圭佑, 米川 力, 森澤 雄司, 鈴川 正之
    2018 年 21 巻 3 号 p. 478-487
    発行日: 2018/06/30
    公開日: 2018/06/30
    ジャーナル フリー

    目的:医療ソーシャルワーカー(MSW)介入の必要性を評価するために当院で使用しているソーシャルハイリスク(SHR)シートを解析し,MSW介入に影響する要因を明らかにする。方法:平成26年7月1日〜10月31日に当救命救急センターに入院した患者を対象とした。患者基本情報6項目,SHRシート9項目(SHR要因),入院原因8項目,以上の各項目とMSW介入の関連を検討した。統計手法にはロジスティック回帰分析を用いた。結果:189名の患者情報が調査された。MSW介入があった患者の62%では,何らかのSHR要因が認められた。入院日数7日以上,転院,意思決定能力が低い,転倒,の4項目がMSW介入と有意に関連した。結論:上記の4因子は,救急医療におけるMSW介入要因である可能性が示唆された。またSHRシートはMSW介入の必要性を抽出するために有用であるが,本研究結果を踏まえたさらなる改良が課題である。

  • 佐久間 泰司, 百田 義弘, 黒須 正明
    2018 年 21 巻 3 号 p. 488-497
    発行日: 2018/06/30
    公開日: 2018/06/30
    ジャーナル フリー

    目的:一般市民も使用するAEDは,ユーザビリティに配慮すべきである。一般市民に近いと考えられる歯科衛生士専門学校生徒を対象に,AEDのユーザビリティを調査した。方法:参加者に「私が胸を押すので,あなたはAEDを操作してください」と促し,参加者がAEDを操作しショックを行う過程を観察した。その後90分の救急講習を行い,再度,同じ実験を行い比較検討した。6種類(A〜F)のAEDトレーナーを用いた。結果:AEDの蓋の開け方がわからず迷った参加者が,蓋を開けるタイプのAEDを用いた21名中8名いた。AEDの使用を促されてからAEDが心電図解析を始めるまでの時間は,講習により17.0〜66.0秒短縮した。AEDのショックボタンが点滅してからボタンを押すまでの時間は,講習により0.8〜4.8秒短縮した。使用法のガイダンスのアナウンスは機種によりまちまちで,呼吸や脈拍の確認を求める機種もあれば,上半身の衣服を脱がせ絵のとおりパッドを貼れという指示しかしない機種もあった。AEDのパッドを左右逆に貼る参加者が42例中11例にみられた。結論:AEDを一般市民が使用するにはユーザビリティ上の問題点があることがわかった。改善が必要である。

  • 横田 茉莉, 西田 昌道, 中原 慎二, 坂本 哲也
    2018 年 21 巻 3 号 p. 498-503
    発行日: 2018/06/30
    公開日: 2018/06/30
    ジャーナル フリー

    急性アルコール中毒での救急搬送件数は,年々増加傾向にある。2015年1月1日〜2016年12月31日までに当院救急外来を受診した患者のうちエタノール血中濃度を測定した1,265例を対象とし臨床所見(意識レベル・嘔吐の有無,帰宅までに要する時間,輸液量)について検討を行った。男781例,年齢中央値30歳,エタノール血中濃度の中央値は219mg/dlであった。エタノール血中濃度と意識レベルはSpearman相関係数0.50で,弱い相関しか認められなかった。嘔吐の有無でエタノール血中濃度に差はなかった。輸液量,帰宅までの時間もエタノール血中濃度と相関は認められなかった。臨床症状からのエタノール血中濃度の予測は難しいことが示唆された。

  • 菊池 悠, 西山 隆, 城月 徹, 岡田 直己, 安藤 維洋
    2018 年 21 巻 3 号 p. 504-512
    発行日: 2018/06/30
    公開日: 2018/06/30
    ジャーナル フリー

    目的:神戸市消防局における救急救命士の処置拡大行為についてその効果および課題を検討する。方法:2014年4月1日から1年間の神戸市消防局による「血糖測定並びに低血糖発作への静脈路確保とブドウ糖投与」が行われた698症例を対象に血糖測定,静脈路確保,意識レベルの変化,活動時間等を調査した。結果:血糖値50mg/dl未満は202症例,静脈路確保が試みられたものは137症例,静脈路確保成功率約80%,ブドウ糖投与が行われたものは106症例,意識レベルの改善をみたものは101例。平均活動時間は2013年度の比較対象群より血糖測定実施症例で4分57秒,ブドウ糖投与症例で11分22秒延長したが,病院前ブドウ糖投与までの平均時間は病院後投与より12分程度短縮効果があると思われた。結論:低血糖事案に対し病院前ブドウ糖投与で早期の意識レベル改善の効果が認められた。また,静脈路確保の精度向上や活動時間の短縮等の課題もあげられた。

調査・報告
  • 本村 友一, 松本 尚, 益子 邦洋, 篠田 伸夫, 西本 哲也
    2018 年 21 巻 3 号 p. 513-518
    発行日: 2018/06/30
    公開日: 2018/06/30
    ジャーナル フリー

    はじめに:2016年わが国の交通事故死亡者は3,904人であった。重症外傷の転帰には受傷から根治手術までの時間がきわめて大きく影響する。救急自動通報システム:より早期に医師が患者に接触するために,交通事故の工学情報を根拠に医師を現場派遣することが効果的と考えられた。事故情報から乗員の死亡または重症外傷受傷確率(以下,死亡・重症率)を判定するアルゴリズムが開発され,重大事故時には発生場所や乗員の死亡・重症率などをドクターヘリ基地病院と消防へ送信し,医師を現場派遣する救急自動通報システム(D-Call Net)が開発された。すでにトヨタ自動車,本田技研工業の一部車種に搭載され2015年11月より試験運用が開始されており,これによりドクターヘリの起動が17分早まることが見込まれている。考察:D-Call Netは交通事故の工学的情報を根拠に医師派遣システムを起動させる世界初のシステムで,有効活用によりわが国は世界一安全な道路交通社会を実現可能であろう。

症例・事例報告
  • 土手 尚, 峯田 健司, 渥美 生弘, 田中 茂
    2018 年 21 巻 3 号 p. 519-522
    発行日: 2018/06/30
    公開日: 2018/06/30
    ジャーナル フリー

    症例は気管支喘息の既往がある42歳の女性。痙攣を主訴に救急搬送された。テオフィリンの処方を受けており,アドヒアランスは不良であった。来院時の血中テオフィリン濃度が高値であったことからテオフィリン中毒と診断した。第2病日の日中まで痙攣の再発はなくテオフィリン血中濃度も治療域まで低下していたが,同日夜に痙攣が起こった。テオフィリンによりビタミンB6欠乏が生じ痙攣の原因となった可能性を考慮し抗てんかん薬に加えビタミンB6の補充を行った。その後痙攣再発はなく第8病日に退院した。テオフィリン関連痙攣(以下TAS)はテオフィリン使用者にテオフィリン血中濃度と無関係に生じる痙攣で,ビタミンB6欠乏の関与が推測されている。ビタミンB6補充は安価で副作用の懸念も少なく,痙攣の予防や治療という重要な効果が期待され,テオフィリン中毒やTASの可能性がある症例に対してはその早期の補充が有用と考えられた。

  • 渡辺 徹, 稲田 厚, 三浦 克己, 吉田 暁, 田中 敏春
    2018 年 21 巻 3 号 p. 523-527
    発行日: 2018/06/30
    公開日: 2018/06/30
    ジャーナル フリー

    急性左心不全による心原性肺水腫に対して救急隊員が実施可能な処置は,酸素投与とバッグバルブマスク(BVM)による補助呼吸である。今回,病院前救護においてBVMを用いて1名が両手でマスクを顔面に保持密着させ,もう1名がバッグを圧迫し換気を行う二人法補助呼吸によりSpO2値の改善を認めた疾患例を経験した。心原性肺水腫では呼気終末の気道内圧を高めることで低酸素血症を改善させることができるため,近年医療機関ではNPPVが実施されるようになっている。BVMのマスクを顔面に確実に密着させることができる二人法補助呼吸は,適切に実施すればNPPVに近い効果が期待できる。また,起坐呼吸や不穏状態の傷病者にも有効な換気が可能になる。病院前救護で呼吸困難感を訴え急性左心不全が疑われる例において,高流量酸素投与でもSpO2値が改善しない場合,呼吸原性心停止への移行を予防するためにBVMを用いた二人法補助呼吸を考慮してよいと思われる。

  • 矢野 和美, 山下 寿, 財津 昭憲, 瀧 健治, 古賀 仁士
    2018 年 21 巻 3 号 p. 528-533
    発行日: 2018/06/30
    公開日: 2018/06/30
    ジャーナル フリー

    重症の高齢者肺炎患者に対し,どこまで積極的に治療を行うか,救急の現場で医療従事者が悩む症例が増えている。今回,当院救命救急センター搬送後,人工呼吸管理を行った75歳以上の高齢者肺炎患者を生存退院群と死亡退院群に分け患者背景,予後因子を検討した。ICU,HCU入室患者124例中,45名が人工呼吸管理され,転帰は生存退院が13例(28%),死亡退院が32例(72%)であった。また生存退院13例のうち,11例は退院時のADLが入院前と比較して低下しており,人工呼吸器離脱困難が4例,自宅に戻れた患者は2例のみであった。生存退院群と死亡退院群の比較では,アルブミン値,PH,PaCO2値,乳酸値で有意差を認め,アルブミン値とPaCO2値が独立した予後因子であった。今回の結果より人工呼吸管理を行った高齢者肺炎患者の予後は厳しいうえ,生存転帰が社会復帰となることは難しく,患者の栄養状態,社会的背景,退院後転帰を考慮した治療指針が必要ではないかと考えられた。

  • 斗野 敦士, 清水 薫, 菅野 彬, 三宅 健太郎, 竹内 直子, 水落 雄一朗, 有馬 一
    2018 年 21 巻 3 号 p. 534-537
    発行日: 2018/06/30
    公開日: 2018/06/30
    ジャーナル フリー

    仕事中に2tの鉄骨が腰部に落下し当院に救急搬送された。来院時の体表所見では会陰部に裂創を認め持続的に出血しておりショック状態であった。画像検査の結果,不安定型骨盤輪骨折,右大腿骨転子下骨折,左足関節開放脱臼骨折を認めた。受傷当日に右内腸骨動脈結紮,肛門出血部位のガーゼパッキング,S状結腸の開窓術,骨盤創外固定,血管内コイル塞栓術を施行した。術中所見で,会陰裂創部より骨片が露出しており開放性骨盤輪骨折と診断した。翌日循環動態が安定したため再開腹止血術,双孔式人工肛門造設術を施行した。そのほかにも複数箇所の骨折に対し数回にわたる手術を必要とした。経過中偽膜性大腸炎を発症したが,その他重篤な感染を起こすことなく救命することができた。開放性骨盤輪骨折はまれではあるが死亡率が高い外傷であり,とくに会陰部周囲への開放創がある場合は出血,感染コントロールを含め集学的な治療が必要となる。

編集後記
feedback
Top