日本臨床救急医学会雑誌
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21 巻, 4 号
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会告
総説
  • 〜背板使用は胸骨圧迫の質向上に寄与するのか〜
    前田 晃史, 小林 正直, 八田 圭司
    2018 年 21 巻 4 号 p. 545-554
    発行日: 2018/08/31
    公開日: 2018/09/01
    ジャーナル フリー

    目的:胸骨圧迫の質を高める背板の研究は2006年以降さまざまな条件で行われてきたが,システマティックレビューやメタアナリシスはなかった。そのため,臨床現場で心停止患者に対する背板の有効性と今後の具体的な背板の使用方法を明らかにすることを目的に文献検討を行った。方法:主に各国の蘇生ガイドラインで背板使用の推奨の歴史について論述した後,Ovid,PubMed,CINAHL,MEDLINEを用いてキーワード「cardiopulmonary resuscitation」と「backboard」で検索した結果,16件の文献を抽出した。結果:文献を背板が有効,条件により有効,無効に分けて内容を検討した。結論:背板の効果は,背板の大きさや挿入方向,心停止患者の体重,マットレスの硬さにより異なるため,常に有効というわけではない。したがって,ベッド上での胸骨圧迫に背板をルーチンに使用しないとならないというものではなく,マットレスの変形が大きく,やりづらさを感じる場合には使用を考慮してもよい。

原著
  • 寺田 祥子, 萩原 章嘉, 藤谷 順子, 木村 昭夫
    2018 年 21 巻 4 号 p. 555-559
    発行日: 2018/08/31
    公開日: 2018/09/01
    ジャーナル フリー

    われわれはリハビリテーション目的(リハ目的)での自殺企図患者の転院が困難な原因について検討したので報告する。2013年4月1日〜10月31日までに救命救急センターに入院した自殺企図外傷患者(自殺患者)と,同時期に入院した非自殺外傷患者(非自殺患者)のなかで,リハ目的での転院調整に負の影響が大きいと考え得る4項目(意識レベルの状態・感染症の有無・安静度の程度・医療保険の種類)をマッチさせ,各12人に9つの検討項目を調査した。平均入院期間は自殺患者群40.7日,非自殺患者群で22.9日であった。回復期リハビリテーション病院(回復期リハ病院)の転院は,自殺患者1人,非自殺患者5人であった。精神科通院歴は自殺患者9人,非自殺患者1人であった。自殺患者は,入院期間が長くなり,精神科通院歴も多く,回復期リハ病院への転院が難しかった。本研究から,自殺企図患者が回復期リハ病院へ転院しづらい理由は,精神科通院歴,自殺企図であると考えられた。

  • 〜病院前から救急隊の引き揚げまでに行う情報共有の実際〜
    作田 麻由美, 城丸 瑞恵, 澄川 真珠子
    2018 年 21 巻 4 号 p. 560-571
    発行日: 2018/08/31
    公開日: 2018/09/01
    ジャーナル フリー

    本研究は北海道の特別豪雪地帯で地域救急医療に携わる救急救命士と医師・看護師間の情報共有の実際について明らかにすることを目的とした。道内の特別豪雪地帯を管轄する72消防署に勤務する救急救命士552名,および二次救急医療機関で救急活動を行う医師105名・看護師210名に調査し,それぞれ504名,33名,172名から回答を得た。 その結果,「受傷機転(p<.0005)」「負傷部位(p=.045)」「病状程度(p<.0005)」などの情報収集項目において各職種が必要とする程度に差を認め,救急活動で用いる情報共有方法はすべての方法で医師・看護師より救急救命士の認知度が高かった(p<.0005)。またすべての職種において他職種から提供された情報が自らの活動に役立つと感じていること,実際に救急救命士が行う患者の収容依頼時期より医師・看護師は早期の依頼を希望していたことが明らかになった。

  • 森田 正則, 佐々木 淳一, 佐藤 格夫, 望月 徹, 添田 博, 横田 裕行
    2018 年 21 巻 4 号 p. 572-577
    発行日: 2018/08/31
    公開日: 2018/09/01
    ジャーナル フリー

    目的:病院前救護活動での感染対策は非常に重要であるがその実態は明らかではない。今後の感染対策充実を図るために現状の把握が必要と考え調査した。方法:全消防機関を対象に書面にて調査を行った。結果:「感染対策マニュアルが整備されている」が46%,「感染制御に関する研修を定期的に全職員に行っている」が3%,「全症例に標準予防策を行っている」が95%,「気管挿管を行う際に目の保護具とサージカルマスクをどちらも装着をしている」が23%,「職員の感染曝露発生時に特定の医療機関と協力体制は確立している」が49%,「針刺しが起こった際に対応に困った点があった」が7% であった。結論:マニュアルの整備,教育体制,患者接触時の感染対策,感染事故発生時の対応に関して問題点が認められた。これらを改善するには,マニュアル作成の手引きの整備とともに地域のメディカルコントロール協議会,関連医療機関,保健所などの協力が不可欠である。

  • 原 正浩, 長山 英太郎, 印藤 昌智, 森出 智晴, 菩提寺 浩, 坂東 敬介, 稲童丸 将人, 岡本 征仁
    2018 年 21 巻 4 号 p. 578-583
    発行日: 2018/08/31
    公開日: 2018/09/01
    ジャーナル フリー

    目的:病院前救護における脳内酸素飽和度(tissue oxygen index。以下,TOI)の上昇に影響を与える要因を明らかにする。方法:2015年9月1日〜2016年1月31日の間,心肺停止傷病者に対しNIRO-CCR1を用いてTOIを測定した。結果:データが取得できた109症例でTOI上昇を従属変数としたロジスティック回帰分析を行い,「発症目撃あり,応急手当あり,気管挿管あり,薬剤(アドレナリン)投与あり,医師同乗あり,胸骨圧迫交代あり,胸骨圧迫比率」は1より大きなオッズ比を示し,「男性,心原性,初期波形VF,除細動あり」は1を下回るオッズ比であったが,いずれも統計学的に有意な結果とはならなかった。結論:TOIに与える要因として気管挿管やアドレナリン投与にTOIを上昇させる可能性があり,除細動に胸骨圧迫中断を反映してTOI上昇が得られにくい可能性が示唆されたが統計学的に有意な結果とはならなかった。TOIに与える影響やその先にある心拍再開の期待値などを確立するためには,さらなる臨床研究が望まれる。

  • 加藤 昇, 田中 淳, 中川 淳一郎, 日野 裕志, 中條 悟, 奥田 和功, 遠山 一成, 島津 和久, 岸本 正文, 塩野 茂
    2018 年 21 巻 4 号 p. 584-588
    発行日: 2018/08/31
    公開日: 2018/09/01
    ジャーナル フリー

    目的:重要な偶発病変の看過を回避するため,非常勤の放射線科医に週2回体幹のCT読影を依頼してきた。今回レポートの確認不足にも対応するため,1人の救急医がコーディネーターを兼任して主治医に情報提供する体制とした成果を検討する。方法:本体制とした2015年12月から1年4カ月間で,放射線科医が読影した1,684件(全患者1,068例うち外傷511例)を対象に,偶発病変の重要度を1(生命を脅かす病変)と2(退院後に精査を要する病変)に区分し,頻度,病態,主治医認識の有無,対処につき後方視的に調査した。結果:重要度1は43例(4.0%,大部分は悪性腫瘍),重要度2は79例(7.4%)に認められた。レポートのチェック前に重要度1の10例,重要度2の25例が転退院し,それぞれ9例,20例で主治医認識がなかったが,情報提供して対処した。結論:早期転退院例にも対応するには,コーディネーター体制が有効であった。

  • 中村 智美, 石倉 宏恭, 中野 貴文, 仲村 佳彦, 神村 英利
    2018 年 21 巻 4 号 p. 589-596
    発行日: 2018/08/31
    公開日: 2018/09/01
    ジャーナル フリー

    播種性血管内凝固症候群(DIC)治療薬の遺伝子組み換えヒト可溶性トロンボモジュリン(rTM)の急性腎障害(AKI)患者への至適用量を検討した。rTM を1日1回380U/kgまたは130U/kgで投与したDIC合併AKI患者129例を対象とし,持続的血液濾過透析(CHDF)の有無およびrTMの投与量別に,有効性・安全性を評価した。DIC離脱率は,CHDFを施行しなかった患者群ではrTMの用量による違いはなかったが,CHDF施行群では380U/kg群のほうが高い傾向であった(p=0.050)。出血率はCHDFの有無およびrTMの用量間で差はなかった。以上より,AKI合併DIC患者にはrTM 130U/kgと380U/kgで有効性,安全性に差はないものの,CHDF施行時には380U/kg投与によりDIC離脱の可能性が高まることが示唆された。

調査・報告
  • 岩下 具美, 合津 さや香, 上田 美紀, 江田 望美, 清水 謙治, 竹内 ミカ, 鈴木 良美, 岨手 善久
    2018 年 21 巻 4 号 p. 597-604
    発行日: 2018/08/31
    公開日: 2018/09/01
    ジャーナル フリー

    背景:医療機関では現場活動救急隊(現救隊)の傷病者収容依頼(収容前情報)から病態を想定し診療準備をする。収容前情報の不備は初期治療の遅れにつながることがある。多職種参加のoff-the-job trainingを企画し課題を検討する。方法:現救隊役は意識障害事案の観察・処置を5分間で行う。次に現救隊は医療機関および現救隊以外の消防職員へ2分間で収容前情報を送る。その後,参加者全員で現場活動と通報内容を検証する。病態の違う5シナリオを実施する。結果:現救隊は想定された疾患をすべて正答したが,初期評価の順番・呼吸数や意識レベルの評価・痛み刺激のタイミングと回数にばらつきがあった。医療機関では,収容前情報で異常な病態の強調・意識清明期と家族の救急車搭乗の確認を求めた。考察:現場活動をみることは他職種のみならず同職種間の振り返りを客観的にさせた。制約された救急現場で洗練された情報伝達をするために多職種合同のシミュレーション教育が有用である。

  • 今村 浩, 高山 浩史, 新田 憲市, 三山 浩, 望月 勝徳, 嘉嶋 勇一郎, 岡田 まゆみ, 竹重 加奈子, 清水 幹夫
    2018 年 21 巻 4 号 p. 605-611
    発行日: 2018/08/31
    公開日: 2018/09/01
    ジャーナル フリー

    メディカルコントロール(MC)協議会は病院前救護の質を担保するだけでなく,救急救命士をはじめとした救急の最前線で活動する医療者と他の医療関係者の貴重な接点であり,地域の医療に関する多くの問題が提起される場となり得る。松本広域医療圏MC協議会ではドクターカーやドクターヘリ担当者に加えて在宅医療にかかわる医師会関係者などの参画に取り組んでおり,一部のメンバーは近隣救急医不在地域のMCに参加している。今回これらの活動を調査し,効果を検証した。その結果,事後検証会はドクターカー,ドクターヘリの効率的な活用を客観的に議論できる場となっていた。また,徐々にではあるが在宅医療患者の急変時対応が患者家族の意向に即したものになるなどの効果が認められた。さらに近隣救急医不在地域の病院前救護の質が向上した。MC協議会の充実により,急性期医療のみならず在宅医療を含めた地域の医療全体の質向上に貢献することができる。

  • 落合 秀信, 長野 健彦, 松岡 博史, 金丸 勝弘
    2018 年 21 巻 4 号 p. 612-617
    発行日: 2018/08/31
    公開日: 2018/09/01
    ジャーナル フリー

    目的:高齢者施設における蘇生処置を含む急変時対応の問題点を明らかにするために検討を行った。対象と方法:宮崎県内の高齢者施設174施設を対象に,急変時対応に関する事前確認,エンディングノートやDNAR(do not attempt resuscitation)意思確認,急変対応マニュアルや救急要請基準の有無などについてアンケート形式で調査を行った。結果:84施設(48.3%)から有効回答を得た。急変時対応は94%が事前に確認していた。エンディングノートは93%が確認していなかった。DNARについては62%が意思確認をしていた。急変対応マニュアルは86%が作成していたが,救急要請基準の作成は54%で,救急要請の判断者は80.5%が施設長,嘱託医,看護師であった。また,急変時に施設車で搬送困難な場合は救急搬送となり,希望の終末期を迎えられない,本人らが終末期医療に関心が薄いという意見もあった。結論:本問題は,施設側の視点に立った問題を解決しないかぎり,いくら国が在宅医療推進の施策を行って在宅医連携強化を掲げても解決は困難と思われた。

編集後記
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