日本臨床救急医学会雑誌
Online ISSN : 2187-9001
Print ISSN : 1345-0581
ISSN-L : 1345-0581
22 巻, 1 号
選択された号の論文の15件中1~15を表示しています
会告
原著
  • 置塩 裕子, 上田 健太郎, 米満 尚史, 那須 亨, 川嶋 秀治, 田中 真生, 國立 晃成, 岩﨑 安博, 加藤 正哉
    2019 年22 巻1 号 p. 1-5
    発行日: 2019/02/28
    公開日: 2019/02/28
    ジャーナル フリー

    目的:和歌山県立医科大学附属病院高度救命救急センターに搬送された75歳以上の後期高齢者のCPA症例を検討し,今後の課題を明らかにする。方法:4年間に搬送された,DNAR未確認のCPA症例のうち,後期高齢者群と非後期高齢者群とを後向きに比較検討した。また,後期高齢者のROSCあり群となし群とを比較検討した。さらに,後期高齢者群の生存例を検討した。結果:対象475例中,後期高齢者は283例であった。後期高齢者群は,自宅や施設での発生が多く,初期波形VFの症例が少なかったが,ROSCや生存の割合に有意差は認めなかった。後期高齢者ROSC なし群では,目撃なし症例や初期波形心静止が多かったが,bystander CPRの有無や搬送時間に有意差は認めなかった。後期高齢者の生存8症例に初期波形VFはなく,すべてCPC4であった。結論:初期波形VFの生存症例がなく,改善の余地がある。また,事前指示書の普及が重要と考えられた。

  • 窪田 愛恵, 伊藤 栄次, 髙橋 直子, 井上 知美, 大鳥 徹, 小竹 武, 西内 辰也, 平出 敦
    2019 年22 巻1 号 p. 6-13
    発行日: 2019/02/28
    公開日: 2019/02/28
    ジャーナル フリー

    目的:薬局・薬店もしくは薬剤師が関与し救急車が出動したケースを検討し,薬局・薬店における救急対応のニーズに関して検討した。方法:大阪市消防局の救急活動記録から,薬局・薬店もしくは薬剤師が関与した救急要請のあった事例を抽出して検討した。結果・考察:薬局・薬店が関連した事例は6年間で1,075件であった。救急要請の原因としては,774例が内因性で,全身倦怠感,失神,腹痛,痙攣,呼吸困難が多かった。このうち意識レベルに問題を生じたケースは183例あった。外因性は250件で,転倒に伴う打撲,挫創,骨折が多かった。病院外心停止の事例も10件報告されていた。結論:薬局・薬店では基礎疾患を有して複数の薬剤を常用している高齢者が数多く薬局・薬店を訪れるが,内因性の救急病態とともに,転倒に伴う損傷にも対応できる必要がある。一次救命処置ができる体制も重要である。

  • 清原 康介, 北村 哲久, 矢口 有乃, 志賀 剛, 上塚 芳郎, 佐藤 康仁, 山口 直人, 小島原 典子
    2019 年22 巻1 号 p. 14-19
    発行日: 2019/02/28
    公開日: 2019/02/28
    ジャーナル フリー

    目的:diagnosis procedure combination(DPC)と消防庁の救急蘇生統計を機械的に結合させた院外心停止データベース構築の実現の可能性を検討した。方法:都内某大学病院のDPCデータ(2012〜2014年)より院外心停止が疑われる症例をICDコード(I460,I461,I469)によりキーワード抽出した。これらの症例と救急蘇生統計とを性別,年齢,病院到着日,都道府県を結合キーとして個人結合を試み,どの程度正しく結合できたか確認した。結果:DPCデータからキーワード抽出した271例のうち,救急蘇生統計と結合できたのは66%(179例)であった。期間中に当該病院に院外心停止で入院したのは286例であったが,正しく結合できたのはそのうち55%(158例)にとどまった。結論:DPCと救急蘇生統計とを機械的に結合したデータベースを構築するには方法論的な課題があることがわかった。

調査・報告
  • 冨澤 淳, 丸橋 孝昭, 服部 潤, 寺松 洋美, 神 一夢, 小林 昌宏, 近藤 留美子, 片岡 祐一, 浅利 靖, 厚田 幸一郎
    2019 年22 巻1 号 p. 20-26
    発行日: 2019/02/28
    公開日: 2019/02/28
    ジャーナル フリー

    北里大学病院救命救急・災害医療センターでは,外傷患者において静脈血栓塞栓症(以下,VTE)予防に使用される抗凝固薬のリスク評価が標準化されておらず,多職種での情報共有も効率よく行われていなかった。そこで,救急・集中治療医師,薬剤師,看護師,作業療法士で構成されたVTE事例検討に関するワーキンググループを結成し,過去のVTE発生事例から問題点を抽出した。それら問題点からVTE予防に関する抗凝固薬の適正使用に向けて,投与薬剤の選択・投与基準の標準化を目指した出血リスクスコア表を作成した。さらに,多職種で連携するために職種別アクションプランを作成した。これにより,外傷患者におけるVTE予防的抗凝固薬の出血リスク評価方法が標準化され,多職種の横断的かつ効率的な情報共有および各職種の専門性を活かした多角的な評価が可能となった。

  • 岩村 真理, 安田 果枝, 島本 千秋, 晋山 直樹, 寺田 貴史, 野田 智宏, 西村 哲郎, 溝端 康光
    2019 年22 巻1 号 p. 27-32
    発行日: 2019/02/28
    公開日: 2019/02/28
    ジャーナル フリー

    救急診療では病態の評価と治療方針の決定が同時に行われるため,医師・看護師にはテクニカルスキルに加え,ノンテクニカルスキルが求められる。今回,救急領域におけるノンテクニカルスキルの習得を目標とした研修Non-Technical Skills for Acute Medicine(NoTAM)を策定し,本研修を受講することによる看護師のチームワークに対する意識変化について検討した。NoTAM研修を受講した看護師12名を対象に,受講前と受講1カ月後にアンケート調査を行った。各質問項目を6段階で評価し,4つのカテゴリーごとに受講前後の点数を比較した。結果,『問題指摘に対する抵抗感』の項目である【はっきりしないときは自分の意見を言うことをためらう/知識不足なせいで意見が言いにくいことがよくある/他チーム員の前でわからないことを質問するとき,力不足だと感じる】が有意に低下し,チームワークにおける看護師のメンバーシップについての理解が深まったと考えられた。

  • ―簡易懸濁法の有用性―
    山口 泰弘, 德井 志野, 松尾 待池, 赤﨑 大恭, 川谷 梨沙, 園村 昌弘, 浦本 邦弘
    2019 年22 巻1 号 p. 33-37
    発行日: 2019/02/28
    公開日: 2019/02/28
    ジャーナル フリー

    水分制限は口渇が問題となるが,簡易懸濁法は災害時少ない水分量で投与できたという報告があり,今回散剤群と簡易懸濁群における服薬時飲水量を比較し水分制限下における散剤服用方法,簡易懸濁法の有用性について検討した。歯科治療中でない成人に,①散剤群:乳糖を摂取,②簡易懸濁群:乳糖を温湯で懸濁した後摂取し,水分摂取量を測定した。対象被験者10人(男性5人,女性5人),平均年齢34.2±5.7歳。簡易懸濁群において服薬時飲水量が有意に少なかった(p<0.05)。回帰式は散剤群:y=35.1x+40.7(x<1.0g),y=8.3x+66.4(x≧1.0g)。 簡易懸濁群:y=34.3x+15.2(x<1.0g),y=7.0x+42.7(x≧1.0g)〔x:服薬量(g),y:飲水量(mL)〕であった。簡易懸濁群は服薬時飲水量が少なくできることが示唆された。上記回帰式を使用すれば服薬時飲水量の概算ができる。

  • 宮安 孝行, 中田 正明, 下田 智之, 上江 孝典, 新井 純一, 古東 正宜, 森 岳樹, 石原 諭
    2019 年22 巻1 号 p. 38-44
    発行日: 2019/02/28
    公開日: 2019/02/28
    ジャーナル フリー

    目的:外傷全身CT で上肢下垂はポジショニング時間の短縮に有効か自験例の後方視的検証を行うこと。方法:2011年1月〜2015年12月の間に外傷全身CTを行った1,078症例を対象とした。TRISS法による予測生存率(probability of survival;Ps),上肢挙上の有無,頭部撮影後から体幹部撮影開始までの時間(interscan delay time;IDT)を調査し,上肢挙上の有無によるIDTの差を比較した。Psより中等群(1〜0.5),重症群(0.49〜0.25),超重症群 (0.24〜0)に分類し,IDTの中央値を重症度ごとに比較した。結果:上肢挙上群と下垂群ではIDTに差を認めた。各重症群の中央値での比較では超重症群の差が156秒と一番大きい差であった。結語:上肢下垂法はポジショニング時間に差を認め,とくに重症例で有用であった。

  • ―2011年東日本大震災の場合―
    今西 孝至, 南谷 怜亜, 佐々木 孝雄, 髙山 明
    2019 年22 巻1 号 p. 45-50
    発行日: 2019/02/28
    公開日: 2019/02/28
    ジャーナル フリー

    わが国は外国と比較して災害に遭う可能性が高い。災害時には持病の悪化が考えられ,それを防ぐためにも災害に備えた準備が大切である。われわれは以前に患者・医療従事者を対象に災害時における一般的ツールおよび疾患別支援ツールの必要度について報告したが,非被災地における調査であったため,被災地における調査と乖離している可能性がある。そこで今回,東日本大震災をケースに一般的ツールおよび疾患別支援ツールの必要度に対する被災地および非被災地の医療従事者間の比較検討を行った。その結果,一般的ツールおよび疾患別支援ツールの必要度において,「お薬説明書」や「血圧手帳」「糖尿病手帳」など被災者の治療に対して何らかの情報が得られるツールが非被災地群よりも被災地群で有意に高かった。そのため,ICTを活用した新しい情報共有の仕組みやクラウドの構築など災害時に対応するための医療提供体制の確立が急務であると考える。

  • ―自動車運転時の車内騒音量とサイレン音量との比較―
    安田 康晴, 山本 弘二, 岸 誠司, 友安 陽子, 坂口 英児, 藤原 ウェイン翔
    2019 年22 巻1 号 p. 51-54
    発行日: 2019/02/28
    公開日: 2019/02/28
    ジャーナル フリー

    背景:救急隊現場到着所要時間・病院収容所要時間の延伸および救急車走行中の事故,ヒヤリハットの発生は,自動車運転者が救急車のサイレン音に気づかず救急車の接近が認識できないため緊急走行が妨げられていることも要因の一つであると推測される。目的:自動車運転者に救急車サイレン音が聴こえているかについて検討すること。方法:自動車走行時の車内騒音量と距離別に救急車サイレン音量とを比較した。結果:自動車まで20mの救急車サイレン音(46.4±1.3dB)は,自動車走行中車内音量,オーディオ視聴時(54.6±6.7dB)や会話時(68.4±1.6dB)より小さかった。考察:救急車が20mに接近してもサイレン音量は窓全閉時の走行中車内騒音量より小さいこと,音が高齢者に聴きづらい周波数帯であることなどから救急車の接近が認識できないと考えられた。サイレン音の改良やサイレン音量の基準の見直しが必要である。

  • 岩﨑 恵, 庄古 知久, 吉川 和秀, 安達 朋宏, 齋田 文貴, 赤星 昂己, 出口 善純
    2019 年22 巻1 号 p. 55-63
    発行日: 2019/02/28
    公開日: 2019/02/28
    ジャーナル フリー

    field amputationは非常にまれであるが,時間的猶予のない傷病者には救命の切り札となり得る。海外の災害では四肢切断による救助例も報告されているが,現状の東京DMATに切断資機材はない。目的:当センターにおけるfield amputationプロトコルの策定。方法:わが国のfield amputationに関する文献を医学中央雑誌で検索しその実態について調査する。 同時に海外のプロトコルや報告例も調査する。結果:わが国では過去8件の現場四肢切断実施報告があり,受傷機転は機械への巻き込まれ事案が多い。約半数で切断資機材は後から現場に持ち込まれている一方,米国では出動に関するプロトコルや資機材リストが存在した。結論:field amputationは救命のため必要な場合があり,出動段階から考慮することで救出時間短縮につながる可能性がある。出動段階から適切な対応が取れるようにプロトコルを策定すべきである。

症例・事例報告
  • 篠原 徹, 市川 裕平, 箕輪 勇紀, 荻原 淳, 嶋崎 剛志, 油井 信明, 古武 昌幸, 田中 啓司, 岡田 邦彦
    2019 年22 巻1 号 p. 64-68
    発行日: 2019/02/28
    公開日: 2019/02/28
    ジャーナル フリー

    患者は60代の男性。自宅にて強直間代性の痙攣と意識障害が出現し,佐久総合病院佐久医療センター(以下,当院)に救急搬送された。来院時検査で,肝胆道系酵素と血清アンモニア濃度の著明な上昇を認めた。また,プロトロンビン時間が40%以下に低下し,昏睡Ⅱ度の肝性脳症が認められたことから劇症肝炎と診断された。ステロイドパルス療法および血漿交換,持続的血液濾過透析により血液検査所見は改善した。一般用医薬品の竜胆瀉肝湯を服用していたことが第3病日に明らかとなり,劇症肝炎の原因である可能性が考えられた。 DDW-J 2004薬物性肝障害ワークショップのスコアリングにおいて竜胆瀉肝湯は6点となり,薬物性肝障害の「可能性が高い」に分類された。一般用医薬品としても使用されている竜胆瀉肝湯については,劇症肝炎の原因薬物となり得る可能性があることに留意する必要があると考えられた。

  • 奥田 和功
    2019 年22 巻1 号 p. 69-74
    発行日: 2019/02/28
    公開日: 2019/02/28
    ジャーナル フリー

    30代女性が自転車で交差点を走行中,車と接触し受傷した。ドクターカーでの現場診察ではprimary surveyで気道・呼吸・循環は問題なく,Glasgow Coma Scaleは7点で,左不全麻痺を認めた。挿管,人工呼吸を開始し搬入し,全身のcomputed tomography(以下,CT)で右急性硬膜下血腫など多発外傷と診断した。頭蓋内圧センサーを留置したところ43mmHgと高く,直後のCTで左側頭骨骨折部に硬膜外血腫が出現した。左開頭血腫除去,外減圧術を行った。術後CTでは右硬膜下血腫の増大なく,搬入後8時間40分で集中治療を開始した。第12病日に人工呼吸器を離脱,第35病日に左頭蓋形成術を施行,第45病日に自宅退院できた。今回,直達損傷に伴う左急性硬膜外血腫を手術し,集中治療により頭蓋内圧が制御できた。対側損傷である右急性硬膜下血腫への開頭術は必要なく保存的に治療できた。

資料
  • 有賀 徹, 野口 英一
    2019 年22 巻1 号 p. 75-82
    発行日: 2019/02/28
    公開日: 2019/02/28
    ジャーナル フリー

    わが国はしばしば大災害に遭遇している。そこで,医療・福祉(Healthcare)領域においても,「災害拠点病院指定要件の一部改正について」(厚生労働省,2017年3月31日)が発出され,災害拠点病院に事業継続計画(BCP,病院機能存続計画)の策定が義務化された。 ただし,これは地域のhealthcare全体を対象とするものではない。全体を俯瞰すると,医療などに特化した枠組みではなく,諸々の領域を複合していくことが求められる。具体的には食料や医薬品などの物資の流れを管理する体制,電源や上下水道を含めた社会資本など,多くの組織や社会の仕組みが協業し,新しい枠組みへ進化させていくことが重要となる。新しい枠組みへと協業する連合体(コンソーシアム)の設立は,災害への強い備えをもった地域包括ケアシステムを構築することとともに,地域の医療・福祉にあたるHealthcare BCPを具現化することであり,人々が安心して暮らし,働くための社会保障制度の維持と同じ脈絡のうえにある。

編集後記
feedback
Top