日本臨床救急医学会雑誌
Online ISSN : 2187-9001
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23 巻, 2 号
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会告
総説
  • 横田 裕行
    原稿種別: 総説
    2020 年 23 巻 2 号 p. 75-82
    発行日: 2020/06/30
    公開日: 2020/06/30
    ジャーナル フリー

    多死社会のなか,高齢者のQOL(quality of life)だけでなく,最近はQOD(quality of death)の重要性が強調されるようになった。しかし,在宅医療や介護を受けている高齢者が既存の疾病により予想された状態変化が生じた場合であっても,家族や介護者等は救急車を要請してしまう事例が多いことは日常の救急診療に携わっている医師や看護師であれば少なからず経験している。その結果,家族や介護者と救急隊,救急医療機関の医師や看護師等の医療スタッフの間にはさまざまな課題が発生し,何よりも患者本人にとって望まない医療が展開されることになる。このような事例に関する全国消防本部の調査では,その対応はさまざまであることが判明した。一般社会に対するACPや事前指示書の普及のための啓発活動が重要であり,消防本部もそのような場合の活動基準を作成しておく必要があると考える。

  • 江村 正
    原稿種別: 総説
    2020 年 23 巻 2 号 p. 83-86
    発行日: 2020/06/30
    公開日: 2020/06/30
    ジャーナル フリー

    チーム医療の推進を目的として,「特定行為に係る看護師の研修制度」(以下,本制度)が2015(平成27)年10月1日に創設された。救急領域では,研修を修了した看護師が,手順書を用いて特定行為を行うのは,入院診療と外来診療で大きく異なる。入院診療では,呼吸器(人工呼吸療法に係るもの)関連,循環動態に係る薬剤投与関連など手順書により,看護師はさまざまな診療の補助が可能である。一方,外来診療に関しては,まだ診断がついておらず,今後の病状変化が十分予測できないので,手順書ではなく,具体的指示により,診療の補助を迅速に,かつ的確に行っていくことが現実的と思われる。

原著
  • 橋本 真由美, 金子 直美, 安心院 康彦
    原稿種別: 原著
    2020 年 23 巻 2 号 p. 87-92
    発行日: 2020/06/30
    公開日: 2020/06/30
    ジャーナル フリー

    目的:ケースマップ(以下,CM)を用いて臨地実習の学習課題の構造分析を行った。 方法:看護学部における成人看護急性期実習における17個の学習課題を分析の対象とした。 各学習課題からブルームのタクソノミーの評価基準となる動詞(以下,基準動詞)とキーワードを抽出し,学習課題の大項目を縦軸,動詞を分類した学習フローを横軸としてCMフレームを作成し,その中にキーワードをエレメントとして配置してCMを試作した。また学習フローの構造について検討した。結果:(1)13の基準動詞を,①理解・説明,②情報整理,③立案,④実践,⑤評価,⑥改善の6種類に分類し,縦軸と合わせてCMを作成することが可能であった。(2)上記分類③〜⑥がPDCAサイクルを形成していることを明確に表示することができた。学習課題の各項目はCM化により時系列に俯瞰することが可能であった。結論:(1)看護学生の臨地実習における学習課題を1つのCMに表記することが可能であった。 (2)CM法は学習課題の構造分析に有用となる可能性がある。(3)CM表記の学習課題は,俯瞰性と構造的性質から学生と教員の双方に有用な学習資料となる可能性がある。

  • 豊田 信之, 南波 剛, 伊藤 政則, 卯津羅 雅彦
    原稿種別: 原著
    2020 年 23 巻 2 号 p. 93-98
    発行日: 2020/06/30
    公開日: 2020/06/30
    ジャーナル フリー

    目的:指令管制員が通報者から電話のみで有効に情報を得ることにより,緊急度,重症度を適切に判断するのは難しい。しかし,指令管制員には確実な判断能力が求められるため,指令管制能力向上を目的とした。方法:指令管制員に対し,キーワードチェック方式のメモを用いてPA連携出場を判断する試みを実施,合わせて総務省消防庁が示した救急テキストを用い,座学,シミュレーション教育を実施した。結果:メモの導入によりPA連携出場件数は増加した。指令管制員の口頭指導能力は向上しつつある。結語:指令管制員による適切な聴取要領は,救命率の向上と市民生活の安心・安全のために必要と考えられる。指令管制能力のさらなる向上のために,救急教育訓練および検証システムの制度化を目指したい。

  • ―第3報 継続開催による累積効果―
    森岡 佳菜, 酒井 智彦, 松浦 裕司, 廣瀬 智也, 平林 美寿穂, 城戸 靖章, 瀬尾 恵子, 石見 拓, 藤野 裕士, 嶋津 岳士
    原稿種別: 原著
    2020 年 23 巻 2 号 p. 99-104
    発行日: 2020/06/30
    公開日: 2020/06/30
    ジャーナル フリー

    目的:院内非医療従事者に対し,「緊急コールシステムの説明」「胸骨圧迫」「自動体外式除細動器(automated external defibrillator,以下AED)の使用法」に特化した簡易型心肺蘇生講習会(以下,講習会)を継続開催し,得られる意識の変化を検証した。方法:院内非医療従事者に講習会を開催し,受講前後でアンケートを実施した。「反応確認」「胸骨圧迫」「AEDの使用」に関する自覚的認識(自信)の変化を,受講回数別および受講前後で比較した。結果:受講前の自覚的認識(自信)は,全項目で回数を重ねるごとに増加した。反応確認および胸骨圧迫ができると答えた者は,4回目までは受講前後で増加した。AEDを使用できると答えた者は,3回目までは受講前後で増加し,4回目以降は,受講前でも自覚的認識(自信)は大幅に低下しなかった。結論:院内非医療従事者に講習会を継続開催することは,講習会単回ごとの教育効果にとどまらず,反復受講による累積効果が認められた。

  • 竹井 豊, 安達 哲浩, 長谷川 恵, 大松 健太郎, 山内 一, 神藏 貴久
    原稿種別: 原著
    2020 年 23 巻 2 号 p. 105-109
    発行日: 2020/06/30
    公開日: 2020/06/30
    ジャーナル フリー

    目的:初期評価は傷病者の処置などの優先順位を迅速に識別する重要な観察である。本研究では救急救命学科学生が呼吸・脈拍数を適切に識別できるのか確認した。方法:4年生大学救急救命学科学生105名を対象として,正常値(呼吸数12回/ 分,脈拍数80回/ 分)と異常値(呼吸数24回/ 分,脈拍数100回/ 分)に設定したシミュレータに対してモニター類を使用せず,それぞれ「遅い」「正常」「速い」の3分類で評価させた。結果:ほとんどの学生が異常所見を正しく識別できた反面,35%の学生が正常を正常と識別できなかった(呼吸12回/ 分:遅い38人・速い2人,脈拍80回/ 分:遅い8人・速い28人)。正常呼吸を正常と識別できた学生の所要時間は中央値で12秒(25-75% 信頼区間:10-16),できなかった学生は9.5秒(7-14.8)であった(p=0.007)。結論:正常呼吸・脈拍を正常と識別できない学生が35%にも上った。バイタルサイン測定の精度は高められなければならない。

  • 上村 恵理, 水 大介, 有吉 孝一
    原稿種別: 原著
    2020 年 23 巻 2 号 p. 110-114
    発行日: 2020/06/30
    公開日: 2020/06/30
    ジャーナル フリー

    ER型救命救急センターの救急外来では,小児鼻腔異物の初療を初期研修医や救急医が行うことが多い。目的:当院救急外来の鼻腔異物の疫学および初期研修医や救急医の診療の安全性を検討する。対象と方法:2015年1月〜2016年12月に当院救急外来を受診し鼻腔異物と診断された小児。カルテから年齢,性別,異物,除去の可否,方法,合併症を後方視的に検討した。結果:対象は150例。中央値3歳,男児79例,ビーズ54例。視認可能114例中94例(82%)は初期研修医や救急医が除去し,鑷子が頻用された。視認不能36例中1例が後日耳鼻咽喉科医に除去された。合併症はなかった。考察:小児鼻腔異物は救急外来で初期研修医や救急医でも除去可能である。ボタン型電池など緊急で除去が必要な場合を除き,後日耳鼻科医受診を促すことで問題なかった。結語:小児鼻腔異物は初期研修医や救急医でも十分対応できる。

調査・報告
  • 細川 康二, 西田 優衣, 吉野 雅人, 岸田 正臣, 久保 富嗣, 山賀 聡之, 志馬 伸朗
    原稿種別: 調査・報告
    2020 年 23 巻 2 号 p. 115-118
    発行日: 2020/06/30
    公開日: 2020/06/30
    ジャーナル フリー

    心停止で救急要請された後に,蘇生処置の中止希望が関係者から提示される事案(do not attempt resuscitation;DNAR事案)がある。その実態を知るために広島市消防局職員にアンケート調査を実施し,1,079名から回答を得た。27%が1回以上のDNAR事案を,そのうちの約半数が複数回経験していた。発生場所は自宅と回答したものが多く,大半で現場活動中にDNAR事案であることが判明したと回答された。医師から心肺蘇生の中止を指示された際,医療機関への搬送を指示された経験と搬送しないように指示された経験とがあった。また,蘇生処置の中止希望の意思を確認するために主治医等と連絡を取った際に困ったことがあったと回答したものが38%であった。

  • 小田 有哉, 井上 貴昭, 小島 正幸, 小泉 澄男
    原稿種別: 調査・報告
    2020 年 23 巻 2 号 p. 119-124
    発行日: 2020/06/30
    公開日: 2020/06/30
    ジャーナル フリー

    背景:覚知から病院収容までの時間が全国平均より17分長い常陸大宮市において, 2018年5月より第二次救急医療機関を基地病院とする地域型夜間ドクターカーを導入した。 目的:地域型夜間ドクターカー導入効果を検討すること。方法:2018年5月〜2019年4月までのドクターカー事案137件と夜間帯通常救急搬送598件の性別,年齢,疾患,重症度,搬送先,現場滞在時間,救急活動時間を比較検討した。結果:救急活動時間はドクターカー群40分[IQR27-55]vs 通常救急搬送群51分[IQR36-66]p<0.0001 とドクターカー群で有意に短縮した。市内搬送率はドクターカー群で有意に改善した(ドクターカー群111件(81%)vs 通常救急搬送群379 件(63%)p<0.001)。結論:地域型夜間ドクターカーにより適正に医療機関が選定され,覚知から搬送先医療機関収容までの時間が短縮した。

  • 一柳 保, 田邉 晴山, 佐々木 光晴, 中村 雄治, 平石 明彦, 北小屋 裕, 中野 浩, 藤本 伊祐, 田中 秀治, 野口 宏
    原稿種別: 調査・報告
    2020 年 23 巻 2 号 p. 125-131
    発行日: 2020/06/30
    公開日: 2020/06/30
    ジャーナル フリー

    背景:『JRC蘇生ガイドライン2015』でファーストエイド(FA)の章が設けられたが,消防機関がFAに特化した指導内容の標準的なカリキュラムや教材はない。目的:消防機関が市民に対してFA講習を実施するためのカリキュラム,指導方法を作成する。方法:①消防機関におけるFA講習実施状況の実態調査,②現状を踏まえた教材案と講習カリキュラム案の検討,③作成した教材案を用いて消防職員を対象にしたパイロット講習会の実施,④講習会参加者へのアンケート調査の順に行った。結果:実態調査から,止血帯止血法など7項目で構成された教材案を作成した。パイロット講習会で使用した教材はFA講習で需要があるものと認められた。また,FA講習は上級救命講習で職種や年齢層を限定して開催するという意見が多くを占めた。結論:消防機関が市民に対してFA講習を実施していくためには,良質な教材と多様な組み合わせによるカリキュラムの用意が必要である。

  • ―薬剤師による急変時追加薬剤バッグ運用から臨床検査技師による血液ガス分析への介入へ―
    中谷 亮介, 満田 正樹, 谷川 直人, 早田 修平, 松本 篤
    原稿種別: 調査・報告
    2020 年 23 巻 2 号 p. 132-138
    発行日: 2020/06/30
    公開日: 2020/06/30
    ジャーナル フリー

    今回,院内急変時における救急カート未配置・不足薬剤の対応および血液ガス分析の迅速化を目的に,急変時追加薬剤バッグの運用と臨床検査技師の介入を開始した。薬剤師による急変時追加薬剤バッグの運用により,院内急変の全症例に薬剤師は関与することができ,救急カート未配置・不足薬剤の対応も可能となった。医師,看護師は院内急変対応に臨床検査技師が必要であると考えており,臨床検査技師による介入開始後では院内急変発生から血液ガス分析開始までに要する時間が18.9±6.9分から12.7±5.2分に有意に短縮された。今後も多職種で連携しながら院内急変に対応していきたいと考える。

  • 上總 麻里子, 根岸 正敏
    原稿種別: 調査・報告
    2020 年 23 巻 2 号 p. 139-145
    発行日: 2020/06/30
    公開日: 2020/06/30
    ジャーナル フリー

    1991年に救急救命士法が制定されて以来,救急救命士の数は年々増加傾向にある。 2014年度末の救急救命士登録者数は,日本救急医療財団の調べでは56,415人である。その主な就職先は消防機関であるが,近年では自衛隊や医療機関への就職も増加傾向にある。しかし,厚生労働省が定める救急救命士法では,その趣旨に基づいて,特定行為を含めた救急救命処置が認められているのは救急用自動車内であって,その活動場所に制限が設けられている。医師の直接指示,助言の得られる病院内という特殊な環境においてすら病院で働く救急救命士にとっては,業務として容認される範囲の法的解釈が困難な状況となっている。そのために救急救命士としての資格が活かせない,モチベーションの低下につながるなど多くの問題点が指摘されている。今後は地域MC(メディカルコントロール)協議会などとも密に連携をとりながら業務内容の確認をしていく予定であるが,ここにこれまでに当院で行ってきた救急救命士の業務内容の改善,自己意識の改革に向けた独自の取り組みを提示し,病院救命士の置かれた現状と今後の課題について考察する。

  • 笠岡 俊志, 金子 唯, 原田 正公, 奥本 克己, 前原 潤一
    原稿種別: 調査・報告
    2020 年 23 巻 2 号 p. 146-150
    発行日: 2020/06/30
    公開日: 2020/06/30
    ジャーナル フリー

    救急救命士による低血糖症例へのブドウ糖溶液の投与に関して,熊本県メディカルコントロール協議会では20%ブドウ糖溶液を用いることを決定した。熊本県の全消防本部に依頼して,低血糖のため救急救命士が20%ブドウ糖溶液40mlを投与した症例を対象にして,ブドウ糖溶液投与前後の意識レベル(Japan Coma Scale)と血糖値を調査した。対象症例は30例で,男性18例,年齢は72歳(中央値)。ブドウ糖溶液投与から病院到着までの時間は7.5分(中央値)。血糖値(中央値)はブドウ糖溶液投与前の38mg/dLから病院到着時には88mg/dL まで有意に上昇した。病院到着時の意識レベルは30例中24例(80%)で改善を認めた。病院前における低血糖症例に対する20%ブドウ糖溶液の投与は,血糖上昇および意識レベル改善に一定の効果が期待でき,高張な50%ブドウ糖溶液投与のリスクを考慮すると病院前において有用かもしれない。

  • 園生 智弘, 白川 透, 藤森 遼, 島田 敦, 奈良場 啓, 高橋 雄治, 橋本 英樹, 中村 謙介
    原稿種別: 調査・報告
    2020 年 23 巻 2 号 p. 151-155
    発行日: 2020/06/30
    公開日: 2020/06/30
    ジャーナル フリー

    目的:救急外来(ER)における患者動態の把握は,業務の評価および患者予後改善の観点から重要であるが,測定が困難である。本研究では,システムログを用いてER混雑度と患者待ち時間の定量化を行った。対象:2019年6月1日〜2019年6月30日に当院ERをwalk-in受診した患者を対象とした。ERシステムNext Stage ERの記録を解析することで,ERにおける待ち時間およびER滞在時間・滞在人数を算出した。結果:観察期間中のwalk-in受診患者857名のうちトリアージ時間のデータのある者691名を解析対象とした。トリアージ待ち時間の中央値は10分36秒であった。急なwalk-in患者の増加に対して,待ち時間の延長を認めた。結語:日常診療において自動的に収集されるシステムログを活用することで,ERの業務評価,および診療の質評価と改善につながる可能性が示唆された。

  • ―学習テキストを利用して―
    山田 晃弘, 大森 健太郎, 山口 均
    原稿種別: 調査・報告
    2020 年 23 巻 2 号 p. 156-161
    発行日: 2020/06/30
    公開日: 2020/06/30
    ジャーナル フリー

    急性腹症における異常所見の認知能力の向上に向けた取り組みを行った。今回の取り組みは緊急を要する症例を『急性腹症診療ガイドライン2015』より選び出し,その症例ごとの異常所見をまとめた独自の学習テキストを作成し,そのテキストを使用した学習法を採用した。 また読影手順についても,誰もが簡単に認知できるように学習テキストに記した。その学習テキストを使用し学習前後で異常所見の認知能力がどのように変化するのか検討した。対象者は当院の診療放射線技師16名とし,学習前後で30問ずつ解いてその点数を比較した。結果は,学習前の平均点が12.6±4.43点に対して,学習後は18.8±4.19点(p<0.05)であり,平均点は有意に向上した。独自に作成した学習テキストは,異常所見の認知能力の向上に有用であった。

  • 佐藤 圭介, 石川 秀樹, 坂本 哲也
    原稿種別: 調査・報告
    2020 年 23 巻 2 号 p. 162-167
    発行日: 2020/06/30
    公開日: 2020/06/30
    ジャーナル フリー

    東京都区西北部に位置する当院は1971年9月の開院以来,医学部附属の総合病院として幅広い患者を受け入れてきた。2017年1月には高度救命救急センターの指定を受け,東京都の二次医療圏内のみならず,都外からも患者を積極的に受け入れている。今後も増えつづける重症救急患者を断らずに受け入れるために,地域医療機関との連携が不可欠であるが,当院では2010年から救命救急センター専従の医療ソーシャルワーカー(medical social worker:以下,専従MSW)が配属されており,MSWの専従化により救命救急センターの滞在日数がどのように変化したかを検証した。年間受け入れ患者数はMSW専従化前より大幅に増加したが,応需率も上昇した。一方で患者の救命救急センター滞在日数は短縮し,病床満床日は減少した。専従MSWが救命救急センターの医療チーム内で果たす役割は大きく,満床日の減少,応需率の向上,滞在日数の短縮をもたらし,常に新たな重症救急患者を受け入れつづけるという救命救急センターの社会的使命の実現に寄与することができた。

症例・事例報告
  • 西岡 秀郎, 田口 志麻, 山本 勇一, 中川 智晴
    原稿種別: 症例・事例報告
    2020 年 23 巻 2 号 p. 168-170
    発行日: 2020/06/30
    公開日: 2020/06/30
    ジャーナル フリー

    アナフィラキシーショックに対する第一選択薬はアドレナリンであり,迅速な投与が死亡率を低下させる。また輸液も重要な治療である。わが国では救急救命士の処置として,アドレナリン自己注射製剤(エピペン®)所持者が自己注射できない場合のエピペン投与,および心肺機能停止前の静脈路確保と輸液が認められている。著者らはアナフィラキシーショックにより意識レベルと血圧の低下を呈した患者に対し,救急救命士がこれらの処置を実施し,症状の改善に寄与した症例を経験した。

  • 小林 晃, 鈴木 真紀, 村雲 芳樹, 宮上 寛之
    原稿種別: 症例・事例報告
    2020 年 23 巻 2 号 p. 171-174
    発行日: 2020/06/30
    公開日: 2020/06/30
    ジャーナル フリー

    Collagenous colitis(以下CC)は近年報告例が増加しているが,その認知度の低さから日常診療では見逃されている可能性がある。わが国では,欧米に比べてCC 患者のプロトンポンプ阻害薬(以下PPI)服用率が高いことが報告されているが,当院で経験した6例も同様に全例PPI服用症例で,2例がエソメプラゾール服用症例,残りの4例がランソプラゾール服用症例であった。エソメプラゾールは他のPPI同様にCCを発症するリスクのある薬剤として注意が必要である。当初,著者を含め当院の医師におけるCCの認知度は低く,病理診断医および消化器病専門医であってもCCと診断できなかった症例もあり,診断までに時間を要し病悩期間が長い症例が多かった。急性腹症を契機にCCと診断される症例もあり,一般医および救急医のいずれもCCを認知する必要がある。

  • 松永 亮, 渡辺 徹, 田中 敏春
    原稿種別: 症例・事例報告
    2020 年 23 巻 2 号 p. 175-178
    発行日: 2020/06/30
    公開日: 2020/06/30
    ジャーナル フリー

    傷病者は20代の女性。自ら左上肢を切ったようだと家族から救急要請された。現場到着時,傷病者は自宅2階の廊下で倒れていた。初期評価で意識障害を認め,冷汗を認めないものの全身の皮膚は著明な蒼白であった。一見したところ左上肢に切創はなく,皮膚に血液の付着を認めるのみであった。家族の同意を得て傷病者の自室内を確認すると,ゴミ箱の中に血液が入った調理用計量カップと医療用注射針,さらにベッド上に駆血帯を確認した。傷病者の左上肢を詳細に観察すると左肘正中皮静脈に注射痕を確認したことから,傷病者自らが左上肢に医療用注射針を刺して失血させたものと考えられた。本症例では,傷病者と家族からの状況聴取が困難であったが,詳細な状況評価と全身観察を実施することで,自損行為の手段を把握することができた。本症例の自損行為の手段である瀉血は,SNS上で広く流布しており,今後も発生する可能性があるため十分な認識が必要である。

  • ―ドクターカーによる現場活動を通じて―
    服部 潤, 丸橋 孝昭, 片岡 祐一, 浅利 靖
    原稿種別: 症例・事例報告
    2020 年 23 巻 2 号 p. 179-185
    発行日: 2020/06/30
    公開日: 2020/06/30
    ジャーナル フリー

    目的:わが国でもテロリズムの可能性は高まっている。事例を踏まえた対策が必要であるが,わが国での発生数は少ない。2016年の津久井やまゆり園で起きた多数傷病者事案をもとにテロ対応を考える。事例:刺創による45名の傷病者にトリアージが行われ,赤20名,黄4名,緑2名,黒19名であった。重症者14名は分散搬送,残りの12名は北里大学病院へ集中搬送され,搬送された傷病者はすべて救命された。考察:北里大学病院ドクターカー活動の課題は,初動対応の遅れ,安全管理,頸部穿通性外傷のトリアージ,があがった。重症者の分散搬送,軽症・中等症者の集中搬送は現場の混乱を軽減した。結語:初動対応と安全管理の改善は多数傷病者対応,とくにテロ対策で重要である。わが国の少ない事案でテロ対策を進めるには課題と教訓の共有が大切であり,今後に継承すべき事案であった。

資料
  • 佐々木 淳一, 椎野 泰和, 加藤 康幸, 工藤 大介, 藤田 昌久, 宮入 烈, 望月 徹, 奥田 拓史, 長門 直, 鍋谷 佳子, 高橋 ...
    原稿種別: 資料
    2020 年 23 巻 2 号 p. 186-220
    発行日: 2020/06/30
    公開日: 2020/06/30
    ジャーナル フリー

    救急外来部門では,新興感染症も含め,様々なヒト‐ヒト感染症と遭遇する危険性があり,その感染対策は十分かつ適切に行われるべきである。しかし,救急外来部門での感染対策について十分なエビデンスに基づいて作成されたガイドラインなどはこれまで世界的にも作成されておらず,各施設で独自の対応策を検討・実施している。日本救急医学会は「救急外来部門における感染対策検討委員会」を設置し,日本感染症学会,日本環境感染学会,日本臨床救急医学会,日本臨床微生物学会とともに5学会連携の救急外来部門における感染対策について検討する合同ワーキンググループを組織した。この合同ワーキンググループにおいて,救急外来における感染対策およびそれに関連する事項について総合的かつ多面的に検討を行い,「救急外来部門における感染対策チェックリスト」を公開するに至った。本チェックリストは,救急専従医が少数あるいは配置されていない小規模な救急外来部門であっても,このチェックリストに従い準備をすれば大きな間違いをせずに感染対策が行えることを目的に作成された。この中には,感染対策の管理体制,教育・検診・予防接種体制,感染が疑われる患者への対応,ハード面の感染リスク管理などが含まれており,さらにチェックすべき時期やその間隔については,それぞれカテゴリーとして明示している。本チェックリストが,救急外来部門における感染対策の充実に資することを期待したい。

編集後記
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