日本臨床救急医学会雑誌
Online ISSN : 2187-9001
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26 巻, 1 号
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会告
原著
  • 上林 里絵, 池村 健治, 若井 恵里, 杉本 浩子, 平井 利典, 加藤 秀雄, 向原 里佳, 石倉 健, 今井 寛, 岩本 卓也
    原稿種別: 原著
    2023 年 26 巻 1 号 p. 1-9
    発行日: 2023/02/28
    公開日: 2023/02/28
    ジャーナル フリー

    集中治療室(intensive care unit,以下,ICU)入室患者の薬物治療は複雑であることが多く,処方の適正化には薬剤師の積極的な参画が求められる。三重大学医学部附属病院では,2019年2月よりICU専任薬剤師による翌日投与予定の注射処方発行前に処方鑑査を行う運用(注射処方発行前鑑査)を開始し,医師の指示や患者の病態に応じた薬物治療の適正化に介入してきた。本研究では,運用前後6カ月間における介入件数やその内容,注射薬の返品率に及ぼす注射処方発行前鑑査の影響について調査した。薬剤部にて注射薬の調剤・払い出しを行う薬剤師の全介入件数は,運用後に有意に減少し(p=0.030),ICU専任薬剤師の全介入件数は有意に増加した(p=0.002)。注射室と比較しICU専任薬剤師の注射オーダー反映率は運用後で有意に上昇し(p<0.001),未使用注射薬の返品率も有意に低下した(p<0.001)。以上より,ICU専任薬剤師による注射処方発行前鑑査の運用は,効率的な薬物治療の適正化に貢献したと考えられた。

  • 濱名 哲大, 大橋 明歩, 吉村 旬平, 藤田 敬子, 藤見 聡
    原稿種別: 原著
    2023 年 26 巻 1 号 p. 10-16
    発行日: 2023/02/28
    公開日: 2023/02/28
    ジャーナル フリー

    背景:中心静脈ライン関連血流感染(CLABSI)を予防するためには,不要な中心静脈カテーテル(CVC)を早期に抜去することが重要である。われわれは医師,看護師,薬剤師による医療チームでCVCの必要性を議論し,不要と判断した時点で主治医にCVCの抜去を提案している。本研究の目的は,チームの介入により,CVC留置期間を短縮し,CLABSIの発症を抑制できるかを評価することである。方法:本研究は当院の集中治療室に入院し,CVCを挿入した患者を対象とした後方視的対照研究である。患者を従来群と介入群に分類した。主要評価項目は CLABSIの発症とし,副次的評価項目は,CVC留置期間,死亡率などとした。結果:対象患者は従来群311例,介入群324例となった。介入群ではCLABSIの発生が有意に減少し[オッズ比0.262(95%信頼区間0.074-0.929,p=0.030)],CVC挿入期間は有意に短縮した(4日 vs 6日;p<0.001)。他の副次評価項目に群間差はなかった。結論:チームによるCVCの必要性を評価することにより,CVC留置期間は短縮し,CLABSIは減少する可能性が示唆された。

調査・報告
  • 岩下 具美, 岩野 英智, 水野 雅夫, 徳嵩 寿善, 返町 直也, 井浦 隆, 持田 耕一, 宮入 史行, 山﨑 晃一, 鈴木 康治
    原稿種別: 調査・報告
    2023 年 26 巻 1 号 p. 17-23
    発行日: 2023/02/28
    公開日: 2023/02/28
    ジャーナル フリー

    目的:長野地域MC協議会は3消防本部(本部)で構成する。協議会下部組織に地域指導救命士(指救士)連絡会を新設し,救急救命士の業務や教育に関する課題の抽出と方策を検討した。課題:①事後検証会は,検討事例が本部単位で抽出され選定基準が異なり,要点が多岐にわたり系統的なフィードバックが困難であった。②救急救命士の病院実習や勉強会は本部管内にある病院で実施され内容に偏りがあった。③特定行為指示要請先はプロトコルでは傷病者収容病院としており,精通した医師につながりにくい病院があった。地域指救士連絡会の活動:①事後検証会前に事案を一覧表にまとめ要点整理した。②地域MC単位で病院実習と勉強会を企画しポイント制を導入した。③精通した医師に指示要請がつながるプロトコルを策定した。結語:複数本部で構成する地域MC協議会において,指救士は必要な業務を本部から地域MCへ移行し,地域MC協議会の活動を補強した。

  • 岩下 具美, 前田 保瑛, 髙橋 詩乃, 岡田 まゆみ, 三山 浩, 島田 遼太郎, 栁谷 信之
    原稿種別: 調査・報告
    2023 年 26 巻 1 号 p. 24-30
    発行日: 2023/02/28
    公開日: 2023/02/28
    ジャーナル フリー

    背景:救急救命士が行う医行為の質を担保する体制として病院実習(実習)がある。 救急隊の生涯教育にかかわる長野赤十字病院救命救急センター(以下,センターと略す)の取り組みを報告する。改変前:対象はセンターを管内とする消防本部(本部)のみであった。実習は1日当たり1名を受け入れ,主な項目は静脈路確保であった。救急隊を対象とする勉強会(勉強会)は夕方に年2〜3回不定期に開催していた。改変後:対象は,実習が地域メディカルコントロール協議会に属する全3本部,勉強会はセンターが担当する医療圏にある全5本部とした。実習は1日当たり2〜3名/本部を受け入れ,救急車現場出動時の医師搭乗,他隊搬送事案の見学,救急科入院患者検討会の参加などを新規項目に加えた。病院救命士を調整役とした。勉強会は日勤帯に毎月定時開催とした。結語:実習・勉強会の刷新は救急隊活動の質向上と消防本部間格差の均等化に寄与した。

  • 伊藤 真規, 杉山 ももこ, 高橋 紀帆, 宮崎 ゆか, 坪内 希親, 松居 亮平, 今井 一徳, 山岸 庸太, 笹野 寛, 服部 友紀
    原稿種別: 調査・報告
    2023 年 26 巻 1 号 p. 31-39
    発行日: 2023/02/28
    公開日: 2023/02/28
    ジャーナル フリー

    背景:介護施設から多くの高齢者が救急搬送され,救急医療を逼迫する一因となっている。望まれない搬送の場合もあり,さまざまな要因がある。目的:介護施設における救急搬送の問題点を介護施設の視点から検討する。方法:介護施設へ,入所者の意思確認,救急要請の判断基準や看取りなどについてアンケートを行った。結果:93.9%が意思確認を行い,看取りまで可能と回答した。一方で39.4%の施設で希望しない救急搬送を行ったことがあり,医師の不在,回復可能な急変,家族の意向の変節などの理由があげられた。相談窓口があれば活用したいと69.7%の施設が考えており,医師への連絡体制が限られている施設ほど高い傾向があった。結論:看取りまで可能な介護施設において意向に反する救急搬送が行われる背景には,医療者の不在や意思確認のプロセスの曖昧さが影響していると推察される。その対処として相談窓口設置や早期からACP(advance care planning)を実践する体制整備が必要であると考えられた。

症例・事例報告
  • 守屋 まりこ, 弦切 純也, 加藤 貴久, 末永 大希, 大竹 成明, 沼田 儒志, 鈴木 健也
    原稿種別: 症例・事例報告
    2023 年 26 巻 1 号 p. 40-45
    発行日: 2023/02/28
    公開日: 2023/02/28
    ジャーナル フリー

    心房細動の既往がある63歳の男性が脳卒中症状(右片麻痺および構音障害)のため当院に救急搬送された。初療時,脳卒中症状のほかに非麻痺側の橈骨動脈,足背動脈の拍動が触知できず大動脈解離を疑った。画像検査の結果,大動脈解離は否定され,脳底動脈先端部閉塞が認められ心原性塞栓症と診断し,この時点で左上下肢の動脈閉塞と判断した。診断後,速やかに脳底動脈閉塞に対して機械的血栓回収術を行い,さらに左上下肢の末梢󠄀動脈閉塞に対しても血栓回収術を行い,いずれも良好な再開通が得られた。四肢末梢󠄁󠄀における急性動脈閉塞症は,肢のみならず生命予後にもかかわる致命的な病態になり得る。しかし,脳卒中症状を呈した患者では,急性大動脈解離など重篤疾患の鑑別を優先する必要があり,四肢急性動脈閉塞症を診断することは時に難しい。脳卒中初期診療において両側末梢󠄀動脈の拍動触知の左右差を評価する際,片側動脈の拍動消失は虚血性脳卒中と四肢急性動脈閉塞症の合併を疑う所見として重要である。

  • 野々内 裕紀, 眞継 賢一, 伊藤 博美, 大橋 直紹, 端野 琢哉, 濱口 良彦
    原稿種別: 症例・事例報告
    2023 年 26 巻 1 号 p. 46-50
    発行日: 2023/02/28
    公開日: 2023/02/28
    ジャーナル フリー

    80歳代,女性。2週間前からの動悸と胸痛が改善しないため当院の救急外来を受診し,発作性上室頻拍に伴う急性心不全の診断で入院となった。入院時の血液検査でクレアチンキナーゼ(CK)が6,259IU/Lの高値を示し,推算糸球体濾過量(eGFR)は入院3週間前の62.5mL/分/1.73m2から入院時24.6mL/分/1.73m2まで低下しており,尿中ミオグロビンは87.0ng/mLと高値であった。ICU入室後にアトルバスタチン(ATRC)とシクロスポリン(CyA)の併用が確認され,薬剤性横紋筋融解症による高CK血症および腎機能低下と診断された。 ATRCはCyAとの併用によりAUCが8.69倍に上昇することが報告されており,両剤の併用によるATRCの血中濃度高値が薬剤性横紋筋融解症の原因であったと考えられた。ATRCの中止と輸液負荷により退院時にはCK 259 U/L,eGFR 73.2mL/分/1.73m2に回復した。ATRCとCyAの併用は禁忌ではないが,ATRCの血中濃度を著しく上昇させ,薬剤性横紋筋融解症の発症リスクを高める恐れがある。

  • 金澤 将史, 竹本 正明, 中野 貴明, 若山 功, 田井 誠悟, 杉村 真美子, 大野 孝則, 朝比奈 謙吾, 井上 幸久, 伊藤 敏孝
    原稿種別: 症例・事例報告
    2023 年 26 巻 1 号 p. 51-54
    発行日: 2023/02/28
    公開日: 2023/02/28
    ジャーナル フリー

    新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の第7波では,高齢者施設で多くのクラスターが発生した。高齢のCOVID-19患者に対してその使いやすさもあってモルヌピラビル(ラゲブリオ®)が投与された。今回われわれは,COVID-19罹患後にモルヌピラビルを投与され症状が改善して療養解除となった後に,呼吸困難を発症し入院した症例を2例経験した。同じ抗ウイルス薬に分類されるニルマトレルビル/リトナビル(パキロビッド®)使用例では,COVID-19から回復して2〜8日後の症状再燃または検査での陰転化後の再陽性で定義されるリバウンドの報告があり,モルヌピラビルでもリバウンドが認められた。リバウンドは療養解除後の時期に起こり得るが,その際の救急診療における感染対策や隔離解除などの対応に注意が必要である。今後の対応のため疫学調査ならびに病態解明の必要性が示唆された。

  • 多賀 匠, 畠山 淳司, 山本 太平, 室谷 直樹, 帯川 史生, 愛知 省吾, 尾本 健一郎, 栗原 智宏
    原稿種別: 症例・事例報告
    2023 年 26 巻 1 号 p. 55-60
    発行日: 2023/02/28
    公開日: 2023/02/28
    ジャーナル フリー

    症例は47歳,男性。既往歴として,菌状息肉症があり,ショックバイタルで当院搬送となった。腫瘍崩壊症候群,敗血症性ショックが疑われた。敗血症性ショックによる相対的副腎不全に対してステロイド投与を行ったところ,速やかに循環動態は改善した。その後,ステロイド中止による循環不全が2回みられたため,詳細な病歴聴取を家族より行ったところ,長期間にわたるステロイド外用薬の使用が判明した。ステロイド離脱症候群が疑われたため,ステロイド投与を継続したところ,全身状態は改善傾向にあったが,経過中に肺炎・敗血症性ショックから多臓器不全が進行し,死亡退院となった。剖検の結果,副腎の肉眼的菲薄化を認めた。救急集中治療領域において,ショックの鑑別として,内服薬だけでなく,ステロイド外用薬中止によるステロイド離脱症候群を疑うことも臨床上重要である。

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編集後記
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