日本臨床救急医学会雑誌
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5 巻, 1 号
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総説
  • —全国統計と岡山市における検討から—
    井戸 俊夫
    原稿種別: 総説
    2002 年 5 巻 1 号 p. 1-7
    発行日: 2002/01/31
    公開日: 2025/02/08
    ジャーナル フリー

    救急救命士制度発足以来6年間の岡山市の救急業務について,“OHCPA”の搬送の状況とその所要時間,救急救命士の処置実績,バイスタンダーCPRの普及状況などについて分析と考察を行った。その結果として,①救急救命士制度の導入が必ずしも救命率の向上に寄与していないので,現時点では救急救命士の実地研修,医師との連携強化に力を入れるべきであること,②バイスタンダーCPRが救命率向上に大きく貢献しているので,今後,一層普及啓発に努めること,③ドクターカーの運用を中心にプレホスピタルケアの充実を図ることが救急救命士の教育や,OHCPA患者の救命のために重要であると考えること,④救急救命士の医行為については,資質の向上や医師との連携が不十分な現状では,特定行為の拡大は時期尚早と考えられること,さらに救急救命士制度の再評価については省庁間の連携が強く求められることについて述べた。

  • —とくに関連組織間連携の重要性—
    森脇 義弘, 杉山 貢, 林 秀徳, Giancarlo Mosiello, Francesco Cremonese, Vittorio A ...
    原稿種別: 総説
    2002 年 5 巻 1 号 p. 8-15
    発行日: 2002/01/31
    公開日: 2025/02/08
    ジャーナル フリー

    ローマ市で,人口密集状態(キリスト教大規模集会,サッカー試合,鉄道の運行停止による駅でのパニック状態)における特設救急医療サービス(特設EMS)体制の構築作業を視察体験し,人口密集状態で効率的なEMSが展開可能である理由を考察した。ローマ市の特設EMSは,行為そのものに特殊なものはなかったが,1)実際の活動にいたるプロジェクトは公立組織である救急医療指令センター(指令センター)が中心となって構築するが,その活動は行政活動そのもので,単なる医療プロジェクトを超越した立場にあり,警察・その他の公共施設・行政など周辺機関との事前連絡が充実していた。2)大規模イベント当日の活動は警察やボランテイアが中心で,指令センター医師の主な業務はこれらの監督であつた。3)ボランテイア活動が有効に利用され,逆にイベント時の体制がボランティア団体に活動の場を提供していた。これらの点はわが国の緊急時のEMSにおいても学ぶべき点が多いと思われた。

原著
  • 阪本 敏久, 斎藤 大蔵, 金子 直之, 岡本 健, 高須 朗, 則尾 弘文, 伊藤 敏孝, 岡田 芳明
    原稿種別: 原著
    2002 年 5 巻 1 号 p. 16-21
    発行日: 2002/01/31
    公開日: 2025/02/08
    ジャーナル フリー

    CPAに対しては一刻も早いCPRが望まれる。また,CPA時には家族が現場に居合わせる確率が高いと推察される。このような場合に家族によるCPR施行の有無,その後のCPRに対する認識の変化はCPR普及の意味からも重要な点と考える。そこで1,058例のCPA患者の家族に郵送による調査を施行し,277例より回答を得た。救急隊現着前にCPAとなったのは236例で,家族が現場近くにいたのが136人と過半数であった。その1/3が何らかの処置を施行していた。しかし,人工呼吸と心マッサージをともに施行していたのは,その半数にすぎなかった。過去にCPR実習の経験のある家族のほうが未経験の家族よりbystander CPRの実施率が有意に高く(70.3% vs 23.3%,p<0.0001),前者によるCPR例には社会復帰例が含まれた。その一方,CPAを身近に経験してもCPR実習に対する積極性を有していたのは15.8%だけであり,CPR普及への困難性を示した。

臨床経験
  • 伊藤 滋朗, 井上 仁, 佐々木 勝, 西村 隆夫
    原稿種別: 臨床経験
    2002 年 5 巻 1 号 p. 22-28
    発行日: 2002/01/31
    公開日: 2025/02/08
    ジャーナル フリー

    東京都立府中病院救命救急センターの入院症例から,救急医療における精神科医療の現状と問題点を検討した。1995年5月から2000年4月までの5年間の入院者総数は5,833件で,約5%にあたる308件に精神科対応があり,原因は自殺企図が248件で全体の80%を占めた。自殺企図による入院患者203名中,36名が自殺企図を繰り返し入院となっており,精神疾患分類では精神科対応の全体と自殺企図患者群では分布にほとんど差異はないが,自殺企図を繰り返し入院となった患者群は,自殺企図患者群全体と比して人格障害圏が約2倍であった。また,精神分裂病患者へのインフォームド・コンセントの限界や,その法的能力の問題などが発生し,法制度が関与するために実際の救急医療現場において対処が困難であった症例もみられた。救命救急センターにおける精神科医療は,その必要性に論を待たないが,身体的治療の他に精神科的後方治療のためのさまざまな支援体制や精神科救急システム,法制度などの整備を必要とすることが示唆された。

  • 西田 浩, 田中 優司, 清水 勝
    原稿種別: 臨床経験
    2002 年 5 巻 1 号 p. 29-32
    発行日: 2002/01/31
    公開日: 2025/02/08
    ジャーナル フリー

    当院で入院治療した成人発症の急性中枢神経系感染症20例につき臨床的に検討した。原因別では単純ヘルペス脳炎が4例(20%)と最も多く,中年層に好発した。しかし,診断未確定例が9例(45%)を占め,病因確定率は55%であつた。予後は3例(15%)が死亡し,9例(45%)に後遺症を認めた。経過中,痙攣治療に難渋した例に重症が多く,痙攣発作が予後の重要な因子になると考えられた。画像検査は単純ヘルペス脳炎と急性散在性脳脊髄炎の症例に有用であった。また,発症年齢では単純ヘルペス脳炎が中年層に好発する特徴が認められた。今後の問題として診断率の向上が必要と考えられた。

  • 高木 省治, 中根 力, 山田 桂子, 井上 保介, 岩田 健, 小松 徹, 野口 宏
    原稿種別: 臨床経験
    2002 年 5 巻 1 号 p. 33-36
    発行日: 2002/01/31
    公開日: 2025/02/08
    ジャーナル フリー

    救急救命士が誕生してから特定行為としての気道確保は心肺停止症例に対して,さまざまな器具を用いて実施されている。laryngeal maskもこのうちの一つであるが,挿管が引き続き行えるintubating laryngeal maskを使用して気道確保を行う救急隊はまだ少ない。今回,当院の地域消防の一つである尾三消防本部にintubating laryngeal mask(英国ラリンゲアルマスク社製)が導入され,心肺機能停止症例に積極的に使用されている。そこで以下の6項目,①挿入時間,②頸椎保護への有効性,③搬送時の固定性,④搬送時の換気状態,⑤処置時間,⑥気管挿管への交換状態について検討を行い,心肺機能停止症例での気道確保として非常に有効であるとの結果を得たため報告する。

  • 佐々木 勝, 西村 隆夫, 平賀 正司, 加瀬 光一
    原稿種別: 臨床経験
    2002 年 5 巻 1 号 p. 37-42
    発行日: 2002/01/31
    公開日: 2025/02/08
    ジャーナル フリー

    第三次覚醒剤乱用期といわれる昨今,東京郊外にある当院に入院した覚醒剤使用者の現状を調査した。1998年1月から2000年12月までの3年間に当院を受診した覚醒剤中毒・覚醒剤精神病患者は60件55名(男:女=50:5)であり,全例に過去の覚醒剤使用歴を認めた。精神科受診件数は53件48名で,全例強制入院(医療保護入院:23件,措置入院:30件,3年間に複数回入院したが4例)であった。一方,救命救急センター受診は7件7例で,意識障害3名,呼吸苦2名,消化管穿孔1名,妄想1名であった。当院を受信した55名のその他の所見として,刺青13名,小指欠損8名,手首切創6名,HCV陽性者13名で,明らかな注射痕を認めたものは21名であった。しかし,55名中1名のみが覚醒剤取締法違反であった。覚醒剤汚染の実態が守秘義務などの法的な規制により省庁の違反件数と乖離している可能性があり,届出義務など法的整備が望まれる。

  • 福島 英賢, 今西 正巳, 畑 倫明, 野坂 善雅, 小延 俊文, 奥地 一夫
    原稿種別: 臨床経験
    2002 年 5 巻 1 号 p. 43-47
    発行日: 2002/01/31
    公開日: 2025/02/08
    ジャーナル フリー

    目的:心肺機能蘇生後,当救命救急センターに入院した心原性院外心肺機能停止症例(以下,心原性OHCPA症例)のプレホスピタルケアの因子について検討する。対象:ドクターカー導入後の平成10年7月から平成11年12月までに搬送され,蘇生後に入院した心原性OHCPA症例22例を生存退院群(6例)と死亡群(16例)に分けてretrospectiveに検討した。結果:bystander CPRは両群ともに低率であった。生存群では死亡群に対しVf/VT症例数,プレホスピタルでの電気的除細動施行率,ドクターカー搬送数が多く有意差を認めた。結語:bystander CPRのさらなる啓発により,電気的除細動の適応症例が増加し,救急救命士やドクターカーによるプレホスピタルでの積極的な電気的除細動が増加することで心原性OHCPA症例の予後改善が期待できると考えられた。

  • 神頭 定彦, 代田 とみ子, 林田 弘, 木下 文良
    原稿種別: 臨床経験
    2002 年 5 巻 1 号 p. 48-56
    発行日: 2002/01/31
    公開日: 2025/02/08
    ジャーナル フリー

    長野県消防,防災ヘリコプター(以下ヘリ)搬送対象地域(8村)から,半年間の救急車搬入41例(A群)とヘリ搬入7例(H群)の搬送実態を比較検討した。A群中19例が搬送手段としてヘリが望ましいと判定し,当医療圏の年間ヘリ搬送対象者は100人前後と推定した。ヘリ搬送の利点は,患者搬送時間の47分(A群)から9分(H群)への短縮と,傷病者安静度の向上であった。診療所からの転院例では,収容所要時間が61分とA群の71分に比し有意(p=0.003)に短縮され,ヘリ待機中も医師の監視・治療下にあり有用であった。ヘリ搬送の課題は,ヘリ離陸時間とA群14分のほぼ2倍の29分かかっている現場到着時間の短縮,24~42%に及ぶ整備運体の解消などで,ヘリの増機と県南部への配備が強く望まれる。当医療圏の現状では,ヘリ・救急車併用システムの構築が重要で,対象地域のヘリポートをさらに整備し,診療所医師,住民,行政への啓蒙も不可欠である。

症例報告
  • 満尾 正, 竹内 栄一, 宮野 收, 本條 喜紀
    原稿種別: 事例報告
    2002 年 5 巻 1 号 p. 57-60
    発行日: 2002/01/31
    公開日: 2025/02/08
    ジャーナル フリー

    救急救命士活動の現況を把握し,その問題点を明確にするために救急救命士国家試験受験前の救急隊員300名に対するアンケートを行った。アンケート実施時期は平成11年5月である。救急隊員として救急救命士による特定行為を実際に見学したことがある者は,気道確保48%,電気的除細動31%,前胸部叩打22%,静脈路確保35%であった。所属機関の教育体制については,II課程または標準課程で十分な実技訓練指導がある機関が15%,救急活動基準などのマニュアルが整備されているのが42%,定期的な実技訓練や学習の機会があるのが55%であった。救急活動経験5年ないしは2,000時間以上の救急隊員のうち,現場で特定行為を見学したことがあるものは,特定行為による気道確保でも約半数ときわめて少ないことが判明した。また所属機関の教育体制や実技指導に関しても十分に整備されているとはいえない結果が得られた。現況では救急隊員が資格取得後,直ちに特定行為を問題なく施行することは難しく,実地研修期間を設けるなど各所属本部における教育体制の改善がメディカルコントロール体制を充実させるうえでも重要と考えられた。

  • 岡本 博照, 小林 良三, 仁科 雅良, 福田 充宏, 鈴木 幸一郎, 藤井 千穂, 小濱 啓次
    原稿種別: 症例報告
    2002 年 5 巻 1 号 p. 61-65
    発行日: 2002/01/31
    公開日: 2025/02/08
    ジャーナル フリー

    症例は56歳の男性で主訴は発熱と左側腹部痛。10年前からの潰瘍性大腸炎の加療歴と1年前の大腸亜全摘術の既往がある。今回,他医に入院中であったが左側腹部痛が増強し,血圧の低下後に乏尿となり敗血症性ショックを疑われ,発症6日後,当救命救急センターに転院した。搬入時,ショック状態を呈し,左季肋部から左側腹部に限局した筋性防御を認めた。腹部超音波検査および造影CTで脾臓内と脾外側周囲に低吸収域を認めた。経皮的ドレナージによリー時的に循環動態が改善したが,左腹部全体に腹膜刺激症状が拡大したため,18時間後に脾摘術を施行した。脾膿瘍の原因は不明であった。術後経過は良好で,第15病日に独歩退院した。経皮的ドレナージの適応は,未破裂の単発性脾膿瘍で手術を要する基礎疾患がないものとされるが,術前管理としても経皮的ドレナージは有用に思われた。脾摘術に至った経緯を含め,脾膿瘍の治療法について文献的考察を加え報告する。

  • 米川 力, 中永 士師明
    原稿種別: 症例報告
    2002 年 5 巻 1 号 p. 66-69
    発行日: 2002/01/31
    公開日: 2025/02/08
    ジャーナル フリー

    比較的まれな石灰硫黄合剤による中毒の1例を経験した。患者は49歳男性で,自殺目的に石灰硫黄合剤約50mlを服用した。直ちに胃洗浄,血液吸着,持続血液濾過透析を行った。腐食性胃炎を合併したが,保存的療法で軽快した。血中スルフヘモグロビンは約48時間も陽性であった。本剤服毒による中毒症状の大きな要因は硫化水素の発生による硫化水素中毒である。治療法としては,硫化水素の発生を抑えることが必要であり,分子量から血液吸着の適応は低いと考えられるが,本例のように来院後も併用薬物の摂取が不明な場合や,アシドーシスの進行を認める場合には時機を逃さず持続血液濾過透析のような積極的な治療が必要と考えられた。

  • 葛本 雅之, 横瀬 喜彦, 斎藤 学, 井ノ上 博也, 杉本 靖, 西川 徹, 高橋 精一, 笹内 信行, 桜井 尚子, 桜井 立良
    原稿種別: 症例報告
    2002 年 5 巻 1 号 p. 70-74
    発行日: 2002/01/31
    公開日: 2025/02/08
    ジャーナル フリー

    屋内での催涙ガススプレー噴射により集団患者が発生した事例を経験したので報告する。被害者は約50名で,そのうち症状の強い8名が事件発生から約30分後に当院に搬入された。症例は男子3例,女子5例,年齢は15~16歳。症状は,眼痛,咽頭痛,咳嗽,嘔気,頭痛,過換気,呼吸困難,顔面紅斑などであり,呼吸性アルカローシス,低酸素血症,自血球増多などの異常値を示す例もあった。事件現場からの通報後,直ちに催涙ガスの成分分析と毒性に関する情報提供を奈良県警察本部科学捜査研究所と日本中毒情報センターに依頼した。ガス成分は1時間後,診療開始30分後にカプサイシンであることが判明した。救急処置は,結膜洗浄,肝庇護薬点滴静注などの対症療法を行うとともに,患者の精神的動揺に対するケアも必要であった。いずれの症例も翌朝には軽快した。集団災害の観点からみた場合,救急医療を行うにあたり関係各機関との連携が重要と考えられた。

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