日本臨床救急医学会雑誌
Online ISSN : 2187-9001
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5 巻, 3 号
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原著
  • 鈴木 範行, 橘田 要一, 杉山 貢
    原稿種別: 原著
    2002 年 5 巻 3 号 p. 269-274
    発行日: 2002/05/31
    公開日: 2025/02/08
    ジャーナル フリー

    目的:救急隊活動時に再破裂した脳動脈瘤症例について検討する。方法:平成9年1月から平成12年10月において,頭部CTと脳血管撮影で確認した破裂脳動脈瘤によるくも膜下出血症例を事後調査した。結果:破裂脳動脈瘤59例のうちで再破裂は22例(37.3%)にみられた。再破裂の内訳は,急性期の救急隊活動時が9例で最も多く,次いで前医対応中6例,当施設来院後4例,救急要請前に再破裂であった症例3例であった。救急隊活動時における再破裂前の意識レベルは全例JCS 0~1であった。現場到着時の収縮期血圧の平均は216.6mmHgと有意に高かった(p<0.05)。再破裂は初回破裂2時間以内に集中していたが,初回破裂から現場到着までの時間,転院搬送開始までの時間,搬送時間について非再破裂症例と有意差はなかった。考察:救急救命士の対応として,患者は緊張状態で嘔吐しやすい状態にあることを理解し,愛護的な搬送に心がけ,急激な血圧上昇を引き起こす行為を避けることが望まれる。

  • 原田 尚二, 滝廣 潔, 金子 高太郎
    原稿種別: 原著
    2002 年 5 巻 3 号 p. 275-279
    発行日: 2002/05/31
    公開日: 2025/02/08
    ジャーナル フリー

    救急現場において救急救命士が行う除細動について,1996年から1999年までの救急救命処置録をもとに広島市の現状分析を行い,有効な除細動について検討した。救急現場において除細動施行が可能であった140例中,90.7%に対して除細動が施行されていた。未実施理由のなかに「医療機関が直近であるために施行せず」が6例(4.3%)見受けられた。また,心室細動(以下Vf)継続症例に対する除細動実施回数が29例中17例(58.6%)において2回以下であり,救急救命士に対する二次心臓救命処置(advanced cadiac life support,以下ACLS)教育の必要性が示唆された。また,予後良好例の大半は早期除細動例に多く見受けられたことから,早期除細動の必要性が再確認され,メディカルコントロール体制の確立のもと,指示なし除細動の認可の必要性が浮き彫りとなった。

  • 大河原 治平, 岡田 芳明, 島村 安治, 井沢 隆信, 吉田 聖寿, 岩崎 春徳
    原稿種別: 原著
    2002 年 5 巻 3 号 p. 280-284
    発行日: 2002/05/31
    公開日: 2025/02/08
    ジャーナル フリー

    心肺蘇生法(以下CPR)実施者の吹き込み呼気を分析し, より高い酸素濃度の呼気吹き込み法を検討した。対象は救命講習会修了者とし,単に吹き込み要領のみ指導した10名(A群),「深く息を吸った後,吹き込む」ように指導した10名(B群),「一度息を吐いた後,深く息を吸い込んでから吹き込む」ように指導した10名(C群)について比較した。測定方法はCPRを5分間実施し,訓練人形に吹き込まれた呼気を代謝モニターに誘導して酸素濃度と換気量を測定した。A群は酸素濃度16.4±0.5%,1回換気量=1,142±451mlで,B,C群はそれぞれ16.4±0.4%,1,042±310ml,17.6±0.5%,1,178±198mlであった。A―B間の酸素濃度に差はなかったが,C群はどちらの群よりも高値を示した。「一度息を吐いた後,深く息を吸い込んでから吹き込む」ように指導することで,1回換気量を増すことなく呼気の酸素濃度を高めることができると考えられた。

  • 橋本 孝来, 栗原 正紀, 井上 健―郎, 岩崎 義博, 藤本 昭
    原稿種別: 原著
    2002 年 5 巻 3 号 p. 285-292
    発行日: 2002/05/31
    公開日: 2025/02/08
    ジャーナル フリー

    救急患者の救命率を左右する因子の一つとして,収容までの所要時間が挙げられる。長崎地区において運用されている救急事務引継書を用いて,救急患者収容所要時間と2週間後の救命率(以下,救命率と記す)の関係を検討した。対象は平成9年9月1日から平成13年6月30日までの3年10か月の期間で,実態調査が可能であった42,838件のうち,死亡者数が100人以上の疾患とした。その結果,脳出血,くも膜下出血,急性心筋梗塞,急性心不全,肺炎,CPAでは収容所要時間と救命率の間にある程度の傾向が認められた。一方,脳梗塞では収容所要時間と救命率の間に明らかな傾向は見出せなかった。また,道路整備により収容所要時間が40分から10分に短縮されるモデルを設定して,各々の疾患別救命率の差から試算を行ったところ,これらの疾患に限っても人口1万人当たり年間1.84人が救命できると予想された。地域救急医療体制を考えるうえで今後,考慮されるべき観点である。

臨床経験
  • 林 靖之, 女川 格, 寺田 浩明, 向仲 真蔵, 甲斐 達朗, 藤井 千穂
    原稿種別: 臨床経験
    2002 年 5 巻 3 号 p. 293-299
    発行日: 2002/05/31
    公開日: 2025/02/08
    ジャーナル フリー

    消防本部が複数存在する医療圏で,良好なメディカルコントロールを実施するためにはどのような方策が必要なのかを当救命救急センターの現状から検討した。オンラインメディカルコントロールでは,救急救命士に対してホットラインによる特定行為の指示や,判断に迷う症例の助言,さらにはドクターカー医師による現場での指導を実施している。オフラインメディカルコントロールでは,救急救命士による病院内研修とドクターカー同乗研修,当救命救急センター搬送症例に返書を作成することによる事後検証,さらには救急救命士会での助言,指導を行っている。しかし,消防本部側からの組織としての取り組みは実施されておらず,これを改善するため当救命救急センター医師と各消防本部実務担当者で構成する救急業務に関する委員会を立ち上げた。救急医は消防本部実務担当者に種々の指導を行うとともに,医師にしか実施できない部分を補完し,これにより良好なメディカルコントロールが実施できると考えられた。

  • 池田 昌樹, 安田 守孝, 石丸 剛, 渡辺 謙介, 河野 匡彦, 加納 繁照
    原稿種別: 臨床経験
    2002 年 5 巻 3 号 p. 300-304
    発行日: 2002/05/31
    公開日: 2025/02/08
    ジャーナル フリー

    超急性期中大脳動脈塞栓症に対する再開通に際し,手技の工夫を行った。これらの血管内治療を施行した症例について報告する。対象は1999年3月から2001年10月までに治療を行った8例。症例1~5に対してはウロキナーゼの動脈注入を行った。症例6~8に対しては,出血性梗塞などの合併を考慮しウロキナーゼは使用せず,バルーンカテーテルによりdirect PTA(percutaneous transluminal angioplasty)を施行した。その結果,PTAの安全性と有効性を経験した。今回,direct PTAにて血管造影所見・症状が改善した症例を経験し,合併症予防などの点から今後はdirect PTAが望ましいと思われた。

  • —18例からの経験—
    山田 直人, 一氏 俊世, 安田 吉宏, 熊谷 謙, 片岡 祐一, 新藤 正輝, 西巻 博, 相馬 一亥, 大和田 隆
    原稿種別: 臨床経験
    2002 年 5 巻 3 号 p. 305-309
    発行日: 2002/05/31
    公開日: 2025/02/08
    ジャーナル フリー

    頸部の刺創は鋭利な刃物で受傷することが多く,創は外見から判断するより深部に達していることが多いため,損傷組織を速やかに診断し治療を行う必要がある。最近の5年間に北里大学病院救命救急センターにおいて18例の頸部刺創患者を経験した。これらの症例より頸部刺創患者の術前の画像診断について検討した。受傷部位はZone 2が最も多く,自殺企図症例が15例と大半を占め,そのなかの14例に何いかの精神科疾患を認めた。すべての症例は手術室で処置を行った。また,術前に血管造影やCTなどの画像診断を行うことで創の状況を把握することができた。受傷部位がZone 1や3の症例はもとよりZone 2であっても術前の画像診断を行うことは,損傷組織の診断や術中操作の参考になるものと考えられた。

症例報告
  • 川出 尚史, 熊田 恵介, 山根 一和, 福田 充宏, 小濱 啓次, 平野 一宏
    原稿種別: 症例報告
    2002 年 5 巻 3 号 p. 310-314
    発行日: 2002/05/31
    公開日: 2025/02/08
    ジャーナル フリー

    急性散在性脳脊髄炎(acute disseminated encephalomyelitis,以下ADEM)は大脳白質を中心に散在性に病変を認める自己免疫性脱髄性疾患である。今回,大脳白質から脳幹,小脳,脊髄にかけて両側性かつ連続性に病変を認めた症例を経験した。症例は35歳,男性。感冒様症状を先駆として,意識障害,痙攣を併発し当救命救急センターヘ紹介となった。ウイルス性脳炎の診断にて治療を開始するも,意識レベルが低下,弛緩性の四肢麻痺を呈した。MRI T2強調画像およびFLAIR法において,大脳白質から内包後脚,脳幹,小脳,脊髄にかけて両側性に広範囲の高信号域を認めた。臨床経過と画像所見からADEMと診断し,ステロイド薬のパルス療法を開始したところ,神経症状の回復とMRI上で病変の縮小を認めた。また,SPECTでは血流量の低下を認めた。ADEMを疑った場合には,MRIは必須の検査であり,病変部位の同定だけでなく治療経過を追ううえで重要である。

  • 鉄田 徹, 福田 充宏, 奥村 徹, 熊田 恵介, 宮軒 将, 鈴木 幸一郎, 小濱 啓次
    原稿種別: 症例報告
    2002 年 5 巻 3 号 p. 315-318
    発行日: 2002/05/31
    公開日: 2025/02/08
    ジャーナル フリー

    症例は50歳,男性。前医入院中に突然原因不明の呼吸停止を来し,救命処置を施行後,遷延性の意識障害が続くため精査加療目的のため,第7病日に当院高度救命救急センターヘ転院となった。来院時,著明な縮瞳や血清ChEの異常低値を認め,血中よリスミチオンが検出されたため有機リン中毒と診断した。第7病日のMRIではDWIでのみ両側大脳白質,両側内包後脚,脳梁に高信号域を認め,同領域の見かけの拡散係数(ADC:apparent diffusion coefficient)は低下していた。第22病日のMRIでは,前回DWIで認められた高信号域はほぼ消失し,T1強調像(T1WI)やT2強調像(T2WI)では明らかな異常所見は認めなかった。本症例における脳内病変は,AChの中枢神経系への分布障害が考えられたが,スミチオンは有機溶剤も含有されていることから,これらによる影響も否定できないものと思われた。

  • 山根 一和, 川出 尚史, 木村 文彦, 熊田 恵介, 奥村 徹, 青木 光広, 荻野 隆光, 福田 充宏, 鈴木 幸一郎 , 小濱 啓次
    原稿種別: 症例報告
    2002 年 5 巻 3 号 p. 319-323
    発行日: 2002/05/31
    公開日: 2025/02/08
    ジャーナル フリー

    Toxic shock like syndrome(以下TSLSと略す)はA群連鎖球菌によって引き起こされる重症感染症である。今回,血液培養からG群連鎖球菌が分離され,これによるTSLSと同様の症状を呈した敗血症症例を経験した。症例は62歳,男性。肝硬変と高血圧で加療中であった。左大腿部痛により発症し,鼻出血が止まらず意識混濁が出現したため入院となった。来院時ショック状態で,大腿部に皮膚紅斑と水疱形成を認め,同部位のグラム染色でグラム陽性球菌が観察された。TSLSと診断し全身管理とともに抗菌薬とグロブリン製剤を投与した。大腿部の生検では壊死性筋膜炎は認められなかった。腎臓,呼吸器,肝臓,DIC,中枢神経,心血管系の多臓器障害により入院12時間後に死亡した。血液培養からG群連鎖球菌が分離された。G群連鎖球菌によつてTSLS様の症状経過をたどった症例の報告は少なく,ほとんどの症例が免疫力低下の状態にあつた。死亡例は急激に発症,増悪しており治療はきわめて困難であると思われた。

  • 井上 健, 岡林 清司, 山野上 敬夫, 佐高 史範, 飯田 幸治, 和田 誠之, 大谷 美奈子
    原稿種別: 症例報告
    2002 年 5 巻 3 号 p. 324-328
    発行日: 2002/05/31
    公開日: 2025/02/08
    ジャーナル フリー

    自宅でペットとして飼育されていたハムスターに咬傷を受け,数分後にanaphylaxyを発症し,当院へ搬送中に心肺停止を来した症例を経験した。患者は45歳,女性で以前からハムスターによると思われる喘息症状があった。咬傷の既往は何回かあった。心肺蘇生により心拍は再開したが,重篤な蘇生後脳症を残した。Radioallergosorbent technique(RAST)ではハムスター上皮に対し12.3UA/mlと高値を示した。このことより咬傷という受傷機転はanaphylaxyを発症する原因となると考えた。このような哺乳動物咬傷によるanaphylaxyの発症は報告例が少ないが,ペットの飼育機会が増加し,喘息などのアレルギー源として注目されている現在,貴重な症例と考えられた。

  • 大眉 寿々子, 倉石 博, 齋藤 郁子, 大塚 英彦, 秋澤 孝則, 成島 道昭, 鈴木 一
    原稿種別: 症例報告
    2002 年 5 巻 3 号 p. 329-335
    発行日: 2002/05/31
    公開日: 2025/02/08
    ジャーナル フリー

    抗好中球細胞質抗体(ANCA: antineutrophil cytoplasmic antibody)関連血管炎症候群は,毛細血管,静脈,細動脈の壊死性血管炎を主体とする疾患である。毛細血管の炎症による急速進行性腎炎や肺出血,間質性肺炎を伴うことが多い。顕微鏡的多発血管炎(MPA:microscopic polyangitis), Churg-strauss症候群,特発性半月体形成性腎炎などはMPO‐ANCA(P-ANCA)が陽性となることが多いため,ANCA関連血管炎症候群として分類される。ANCA関連血管炎症候群の病初期では,原疾患の血管炎が死因となることが多い。P-ANCAの関与により肺出血を来した場合は,致命的となることが多く,発症早期から血漿交換を行うことが重要である。病初期以降では,血管病変悪化の他にステロイドや免疫抑制剤による免疫不全を来すため,合併症とくに感染症の併発に注意する必要があると考えいれた。

  • 小林 正直, 冨士原 彰, 秋元 寛, 筈井 寛, 福田 真樹子, 西本 昌義, 日浦 正仁, 文元 裕道, 尾原 幹啓, 森田 大
    原稿種別: 症例報告
    2002 年 5 巻 3 号 p. 336-340
    発行日: 2002/05/31
    公開日: 2025/02/08
    ジャーナル フリー

    重症外傷時の低体温・血液凝固障害・アシドーシスはdeadly triadと呼ばれており,damage control surgery(以下,DCSと略す)が推奨されている。Deadly triadを呈するも,加温腹膜灌流が有効であった鈍的腹部外傷の1例を報告する。症例:41歳,男性。交通事故外傷で血圧74/42mmHg,心拍92/分,体温34.8℃であった。手術開始時,血圧が50mmHgに低下し,緊急開腹した。腸間膜断裂部からの出血を結索したが,止血不能状態に陥った。この時点でpH 7.227,体温33.1℃,血小板26,000/mm3,PT 32秒,APTT 88秒とdeadly triadを呈していた。凍結血漿,血小板を輸血し,出血部を用手圧迫で止血し,加温生食(42~43℃)で腹膜灌流を続けたところ,止血し手術を完遂し得た。手術終了時には36.7℃と低体温は改善していた。結語:豊富な血管床をもつ腹膜の加温効果は予想以上に高かった。加温腹膜灌流はDCSを考慮する場合に試みる価値がある。

  • 後藤 哲哉, 清水 幹夫, 藤田 研也, 平林 秀光, 奥寺 敬, 寺田 克, 小泉 典章
    原稿種別: 症例報告
    2002 年 5 巻 3 号 p. 341-345
    発行日: 2002/05/31
    公開日: 2025/02/08
    ジャーナル フリー

    症例は69歳,男性。うつ病の加療目的で精神科病院に入院中であったが,自殺を企図しデッキブラシの柄を肛門より突き刺し受傷した。来院時胸部X線像では,左の緊張性気胸と胃の胸腔内への脱出を認め緊急手術を施行した。手術により直腸から挿入されたブラシの柄は直腸後壁で直腸壁,後腹膜を穿破し腹腔内に進入した後,腸間膜を貫き,脾臓,膵臓の前面,胃の後面で臓器損傷を来すことなく横隔膜に達し,これを貫通したと考えられた。術後は感染症の治療に難渋した。直腸杙創により横隔膜損傷を来すことは非常にまれであり,若干の考察を加え報告する。

調査・報告
  • 松原 康博, 佐々木 晃, 豊嶋 浩之
    原稿種別: 調査・報告
    2002 年 5 巻 3 号 p. 346-350
    発行日: 2002/05/31
    公開日: 2025/02/08
    ジャーナル フリー

    当院救命救急センターヘ紹介された症例について,紹介元医療機関,重症度などを分析し,救急医療における病診・病病連携の現状を把握するとともに今後の方策を検討した。対象期間は,平成7,10,12年度のそれぞれ4月から10月までの7か月間である。総受診患者数の急激な増加にもかかわらず紹介患者比率はむしろ低下しており,救命救急センターヘの直接来院が増加していた。また,病院からの約30%,診療所からの約40%の紹介例が結果的に軽症であった。当地域の救急医療は救命救急センターに集約,依存する傾向にあり,院内の診療および責任体制の充実と,時間外診療的な部分についての地域救急医療体制の再考が必要である。一方,遠隔地からの重症紹介例は増加傾向にあった。防災ヘリコプターによる当院への搬送例の増加によるが,さらに隠岐地域以外からのヘリコプター搬送を推進することにより,本来の当院の機能である島根県全域を見わたした救命救急医療が可能となる。

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