日本臨床救急医学会雑誌
Online ISSN : 2187-9001
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5 巻, 4 号
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原著
  • 今西 正巳, 籠島 忠, 鎌田 喜太郎, 畑 倫明, 奥地 一夫
    原稿種別: 原著
    2002 年 5 巻 4 号 p. 377-382
    発行日: 2002/08/31
    公開日: 2025/02/08
    ジャーナル フリー

    奈良県内で平成10年と11年に救急車で搬送され,蘇生対象となった内因性院外心停止症例について,ウツタイン準拠大阪版を用いて検討した。対象の内訳は男性に多く,平均年齢は男性68.4歳,女性73.3歳と女性が高齢であった。医師引き継ぎ時までの心拍再開は97例(8.1%)。心拍再開有無別の両群で,年齢,搬送時間,現場滞在時間に有意差はなく,患者の傍らへの到着時間が短いほど心拍再開症例が多かった。バイスタンダーCPRは256例(24.0%)に行われ,心停止が目撃されバイスタンダーCPRが行われた群に心拍再開例が最も多く認められた。特定行為は299例(25.0%)に実施された。特定行為が実施された群で搬送時間,現場滞在時間の延長がみられた。心拍再開は特定行為実施症例に多く, とくに除細動施行症例が高率(42.5%)であった。また,突然に心停止となるまでの普段の生活状態では,心拍再開は自立群(良好群と中等度障害群)が有意に高率であった。

  • 木内 俊一郎, 中谷 壽男
    原稿種別: 原著
    2002 年 5 巻 4 号 p. 383-387
    発行日: 2002/08/31
    公開日: 2025/02/08
    ジャーナル フリー

    関西医科大学高度救命救急センターに入院した患者のうち,精神科的介入が必要と認めた318名に対して精神科的問題の発生要因と治療内容について検討した。年齢では30~39歳と,80歳以上の群に精神科的問題を発生する患者が高率でみられた。入院日数では長期化するほど発生率が増加した。これらの患者のうち215例にコンサルテーション―リエゾン(以下CL)ワークを行った。精神科医は救急医に比して約3倍もの多くの病名で診断し,使用した薬剤も約3倍の種類であった。近年,精神科医がスタッフとして常駐し,CLワークを実践している救命救急センターも増えているが,われわれ身体科医は精神科的問題を精神科医に任せるだけでなく,自らもCLワークを通して精神科的病態の診断能力の向上に努めなければならないと思われた。

  • 小畑 仁司, 田中 英夫, 多田 裕一, 福本 仁志, 森田 大, 冨士原 彰
    原稿種別: 原著
    2002 年 5 巻 4 号 p. 388-395
    発行日: 2002/08/31
    公開日: 2025/02/08
    ジャーナル フリー

    病院到着前の脳動脈瘤再破裂の実態を明らかにするため,連続105名のくも膜下出血(以下SAH)患者(77名が救急隊からの直接搬入,28名が他院からの病院間搬送)につき検討した。再破裂は直接搬入群の26名(33.8%),病院間搬送群の8名(28.6%)にみられた。搬送時の平均収縮期血圧は直接搬入群で181mmHg,病院間搬送群でも166mmHgと高値であった。介助を要しない転帰良好例は,直接搬入群では,再破裂23名中5名(21.7%),非再破裂38名中16名(42.1%),病院間搬送群では同様に7名中1名(14.3%),20名中12名(60%)で,再破裂により転帰が悪化した。“救いうる”SAH患者を確実に救うためには,一般市民,専門外の医療従事者の啓蒙に加え,脳動脈瘤根治術が可能な基幹施設への一次搬入と,移送時の鎮静・血圧管理を可能ならしめる病院前救急医療体制の確立が重要であると考えられた。

臨床経験
  • 田中 博之, 中永 士師明, 坂野 晶司, 和田 博
    原稿種別: 臨床経験
    2002 年 5 巻 4 号 p. 396-399
    発行日: 2002/08/31
    公開日: 2025/02/08
    ジャーナル フリー

    研修医が救急車に同乗し,病院搬入後も収容先病院にとどまる研修方式を考案した。研修医は初療を見学し,許可があればこれに参加できる。これを「継続研修」と名付けた。「継続研修」を行った症例について初療記録を作成し,将来的には研修医自身に初療マニュアルを完成させることを目的とする。また多人数の研修が可能で, 3日に1回の乗務とすれば年間60人まで研修医を受け入れることができる。この研修を試験的に導入した記録を提示した。秋田市消防本部は救急救命士の資格保有率が高く,また,秋田市内では搬送先病院の数が限られ,これらの病院の規模・規格が一定の水準以上である。以上2点の秋田市の特徴から,この研修方式が可能となりえると考えられた。また,継続研修は他の地域・施設でも検討に値すると考えられる。

  • —船橋ACLS講習会の実施経験から—
    笠倉 貞一, 伊藤 善一, 矢走 英夫, 栗原 宣夫, 境田 康二, 蓑輪 良行, 金 弘
    原稿種別: 臨床経験
    2002 年 5 巻 4 号 p. 400-403
    発行日: 2002/08/31
    公開日: 2025/02/08
    ジャーナル フリー

    目的:ACLS導入前後での院外心停止例の治療成績の変化を分析し,医師へのACLS教育の有用性を明らかにする。対象および方法:平成10年7月からドクターカー同乗医師を対象にACLS講習会を実施した。ACLS導入前,中,後の各時期について,現場での使用薬剤の変化と,心停止例の心拍再開率,社会復帰率の変化を検討した。結果:ACLS講習会の影響は(1)同乗医師が現場で使用する薬剤の変化(エピネフリンの使用量の増加, リドカイン,硫酸アトロピン使用頻度の増加と炭酸水素ナトリウム使用頻度の減少),(2)心原性心停止例の心拍再開率の上昇,(3)心室細動例の心拍再開率,社会復帰率の上昇となってあらわれた。結論:ドクターカー同乗医師へのACLS教育は院外心停止例の治療成績を向上させた。蘇生に関与する医師にACLSが早急に普及されることが望まれる。

  • 岡村 健太, 岩崎 泰昌, 井上 健, 梶原 真二, 和田 誠之, 山野上 敬夫, 岡林 清司, 大谷 美奈子, 屋敷 幹雄, 小嶋 亨
    原稿種別: 臨床経験
    2002 年 5 巻 4 号 p. 404-408
    発行日: 2002/08/31
    公開日: 2025/02/08
    ジャーナル フリー

    有機リン中毒30例を対象として,初療時の症候および治療内容がICU在室期間に及ぼす影響を検討した。ICU在室7日以上を必要とした8例(L群)と,ICU在室7日未満の22例(S群)の両群間における来院前の因子,来院時および来院後24時間までの所見,治療内容についてretrospectiveに比較検討を行った。L群において有意に多かった因子は来院後24時間までの縮瞳,頻脈,気道および口腔内の分泌亢進であり,S群において有意に多かった因子は,来院前の嘔吐,来院後の胃洗浄・活性炭投与の施行であった。来院時の血中ChE濃度の中央値は両群間に有意差を認めなかったが,L群では全例で低下し正常濃度の症例はなかった。縮瞳,頻脈,分泌亢進が認められ,初診時血中ChE濃度が極度に低下した症例では,集中治療を要する期間が長期に及ぶ可能性が示唆された。S群に有意に多く認められた因子は,いずれも早期の消化管からの排泄,血液中への吸収の防止に関与しており,これらが集中治療期間の短縮化につながった可能性が考えられた。

  • 近藤 恵, 安田 是和, 栗原 克巳, 土屋 一成, 岡田 真樹, 永井 秀雄, 河野 正樹, 山下 圭輔, 鈴川 正之
    原稿種別: 臨床経験
    2002 年 5 巻 4 号 p. 409-414
    発行日: 2002/08/31
    公開日: 2025/02/08
    ジャーナル フリー

    当科に搬入された肝損傷50例の経験より治療方針を検討した。手術が必要であった症例は,血圧が安定するまでに2,000ml以上の輸液,輸血を要し,来院時のshock indexが1.4以上であった。またTAE(transcatheter arterial embolization)が必要であった症例の大部分はCT上,多量の腹腔内出血があり,全例が造影剤の漏出を認めた。ENBD(endoscopic naso-biliary drainage),肝内ドレナージの多くはⅢ型損傷に対して施行された。Ⅲ型損傷に対し保存的治療を行った後に遅発性胆汁漏1例を経験してからは,Ⅲ型損傷に対しTAEとともにENBDや肝内ドレナージを積極的に施行しており,その後の遅発性胆汁漏や遅発性肝破裂は経験しておらず,これらのドレナージは重要であるといえる。手術死亡例は全例deadly triadの病態に移行した症例であり,このような症例は肝切除に臨む前に,あるいは肝切除に加えてガーゼパッキングによって止血し,加温,輸血によつて状態を改善させるべきである。

事例・症例報告
  • —消防・救急活動の立場から—
    渡辺 勝也, 清水 法男
    原稿種別: 事例報告
    2002 年 5 巻 4 号 p. 415-419
    発行日: 2002/08/31
    公開日: 2025/02/08
    ジャーナル フリー

    平成12年10月6日,鳥取県西部を震源とするM7.3,震度6強の地震が発生した。激しい揺れにもかかわらず死者や火災はなかった。今回,被害が最小限に抑えられたのは多くの好条件と阪神・淡路大震災の教訓が活かされたこと,住民が高い自主防災意識をもっていたこと,さらには被害が地域の医療と防災能力を上まわらなかったことによるものと思われた。しかし,地震直後には医療機関,消防機関,行政機関,各機関間の連携に混乱がみられた。今後の課題として,各組織間を統括する機関の設置,通信手段の確保,負傷者搬送におけるヘリコプターの活用,救助側への身体的・精神的配慮,さらには夜間・休日における医療機関の大災害時対応策の検討などが挙げられる。

  • 井上 仁, 佐々木 勝
    原稿種別: 症例報告
    2002 年 5 巻 4 号 p. 420-424
    発行日: 2002/08/31
    公開日: 2025/02/08
    ジャーナル フリー

    意識障害のなかでも心大血管系病変の看過は生命予後そのものにかかわる。1995年から5年2か月間に急性大動脈解離が37例搬入され,そのうち8例が意識障害を収容依頼の理由としていた。これらのうち,局所神経症状などのために頭蓋内病変が強く疑われた5例の診断に至るまでの経過を提示する。加えてプレホスピタルケアにおける問題や,救急医療機関での初期対応における早期診断の重要性を考察した。頭部挫創や下肢麻痺のために頭蓋内病変が考えられた症例で,下肢の循環障害やショックの進行に留意しなかったこと,意識障害に先行する胸痛の意義を救急隊から救命救急センターヘ情報伝達を仲介する消防指令センターが十分認識していなかったことがプレホスピタルでの重要な問題点であった。ホスピタルケアにおいては,片麻痺やCT上で明らかな梗塞像を有しても表在動脈の触知や循環動態の異常,胸部単純写真での縦隔の変化に留意する必要がある。

  • 野中 暁子, 渋井 敬志, 西川 幸宏, 清田 和也, 末永 松彦, 藤田 浩, 内田 研一, 濱邊 祐―
    原稿種別: 症例報告
    2002 年 5 巻 4 号 p. 425-430
    発行日: 2002/08/31
    公開日: 2025/02/08
    ジャーナル フリー

    症例は40歳,男性。意識障害を主訴に来院した。神経症状,腎機能障害,血小板減少,溶血性貧血より血栓性血小板減少性紫斑病(以下TTPと略す)と診断した。頭部MRIではT2強調像で脳幹,基底核,大脳白質においてびまん性に高信号を示した。また,眼底所見,腎生検ではいずれも高血圧性の変化に加えて細動脈レベルでの狭窄・閉塞が存在しており,同様の変化が脳幹,基底核,大脳白質でも生じていることが推測された。

  • 山口 均, 山口 芳裕, 辻 晋也, 村田 厚夫, 島崎 修次
    原稿種別: 症例報告
    2002 年 5 巻 4 号 p. 431-436
    発行日: 2002/08/31
    公開日: 2025/02/08
    ジャーナル フリー

    てんかん発作後に,冠動脈病変を伴わない心電図ST上昇がみられた1症例を経験した。症例は64歳の女性。てんかん後の意識障害を主訴に来院した。来院時,胸痛の訴えはなかった。しかし心電図でSTの上昇がみられ,血液検査などから急性心筋梗塞と診断し,心臓カテーテル検査を行ったが有意な冠動脈狭窄はみられず,左室造影で壁運動異常がみられた。入院後2日目にてんかんの再発作が起き,その際にも心電図でST上昇がみられた。以上のことから,てんかんを契機として“たこつぼ心筋症”が起こったものと考えられた。てんかん発作後の“たこつぼ心筋症”の報告はきわめてまれであるが,その原因としてくも膜下出血などの際にみられるようなカテコラミンの大量放出が考えられる。中枢神経系の疾患でも全身状態をよく診ることが必要と考えられた。

  • 金子 直之, 則尾 弘文, 川上 正人, 柳川 洋一, 齋藤 大蔵, 阪本 敏久, 岡田 芳明
    原稿種別: 症例報告
    2002 年 5 巻 4 号 p. 437-441
    発行日: 2002/08/31
    公開日: 2025/02/08
    ジャーナル フリー

    von Recklinghausen氏病(以下R病)に合併する自然血胸の報告は非常にまれであるが,死亡率は50%以上にのぼる。今回,著者らはショックで来院し,いったん心停止に陥ったが蘇生し血管造影で内胸動脈破裂を認め,動脈塞栓術(以下TAE)で救命した1例を経験した。来院時,緊張性気胸も疑われたが身体所見から血胸を疑い,画像診断を優先し十分な準備をしたうえで気管挿管・胸腔ドレナージ・血管造影を行ったことが救命につながったと考えられた。本邦の過去の報告では,術前血管造影が行われたものはすべて開胸術で止血できていたが,死亡例には術前血管造影が行われたものはなかった。R病の血管病変は血管壁自体の脆弱性に起因するため,血管造影自体の危険性も報告され,開胸術ではより大きな危険を伴う。これまでにはTAEのみで救命した報告はないが血管内手術の発達した今日,R病に合併する動脈破裂の治療にはTAEが第一選択と思われる。

  • 水野 泰行, 松尾 吉郎, 廣岡 大司
    原稿種別: 症例報告
    2002 年 5 巻 4 号 p. 442-446
    発行日: 2002/08/31
    公開日: 2025/02/08
    ジャーナル フリー

    門脈ガス血症は一般に予後不良の兆候とされるが,近年,保存的に軽快した症例も報告されている。今回,われわれが経験した4例はいずれも腸管壊死を伴わず,胃腸粘膜障害や内圧上昇が誘因と考えられた。門脈内ガスはいずれも腹部超音波検査にて確認され,2例ではCTでも確認された。全身状態や腹部理学的所見などを参考に慎重な経過観察を行ったところ,全例において保存的治療にて軽快した。後日確認できた症例では門脈内ガスは1日以内に消失していた。門脈ガス血症の診断,経過観察には腹部超音波検査が有用である。その原因疾患としては,腸管壊死所見の有無を念頭におくべきである。手術適応の判断は,原因疾患によっては保存的治療のみで軽快する症例もあることを念頭において,全身状態,腹部所見,各種検査所見などを参考にして慎重になされるべきである。

  • 山川 聖史, 井口 浩一, 福島 憲治, 上村 直子, 間藤 卓, 堤 晴彦
    原稿種別: 症例報告
    2002 年 5 巻 4 号 p. 447-451
    発行日: 2002/08/31
    公開日: 2025/02/08
    ジャーナル フリー

    A群レンサ球菌感染症には致死的になる劇症型が知られているが,二次感染・集団発症した例は非常に少ない。今回,兄弟間で接触感染したと考えられる症例を経験した。症例1:57歳(兄)。両下肢痛にて発症し,来院時は左下肢全体に壊死がみられたため緊急で左股関節離断術を施行した。左下肢および動脈血よりA群レンサ球菌が検出された。症例2:54歳(弟)。兄の世話をした後より左母指に発赤,腫脹が出現し,来院時には左前腕から腋高まで拡大していた。左手から前腕を切開し排膿を行い,同部よりA群レンサ球菌が検出された。両者に接触の機会があり,傷のあった弟の手に軟部組織感染症が発症し,かつ両者の菌株のM型,T型などが一致したため,兄から弟へ劇症型A群レンサ球菌感染症が二次感染したと考えられた。このことより医療従事者への二次感染にも注意する必要があると考えた。

調査・報告
  • 阪本 敏久, 齋藤 大蔵, 金子 直之, 岡本 健, 高須 朗, 岡田 芳明
    原稿種別: 調査・報告
    2002 年 5 巻 4 号 p. 452-457
    発行日: 2002/08/31
    公開日: 2025/02/08
    ジャーナル フリー

    心肺蘇生(CPR)の市民啓発・教育が重要であることは論を待たないが,既往歴を有する心肺機能停止(CPA)症例が多いことより,日常診察する開業医の役割も重要である。そこで開業医のCPAに対する意識調査を行った。方法:1)他院の医師が関与し当院へ搬送されたCPAを後視的に検討した。2)周辺の医師会々員のうち無床の開業医478人に郵送による調査を施行した。結果:1)前医療機関内でのCPA15例中3例でCPRが施行されなかった。2)有効回答数は179で,CPAに関する基本的質問をしたが,全4問正答者は39人(21.8%)であった。自分の医療機関でのCPA経験者は59人(33.0%)に上った。CPRにある程度自信があると回答したのは157人(87.7%)あったが,知らない医師が11.2%あり,今後CPAに遭遇してもCPRをせずに救急車を要請するとしたのが16人(8.9%)あった。結語:一般市民だけでなく,開業医にもCPRの教育は必要と考えられた。

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