日本臨床救急医学会雑誌
Online ISSN : 2187-9001
Print ISSN : 1345-0581
ISSN-L : 1345-0581
5 巻, 5 号
選択された号の論文の12件中1~12を表示しています
原著
  • 一救急車と同時出動体制の影響―
    林 靖之, 女川 格, 寺田 浩明, 向仲 真蔵, 甲斐 達朗, 藤井 千穂
    原稿種別: 原著
    2002 年 5 巻 5 号 p. 471-476
    発行日: 2002/11/30
    公開日: 2025/02/08
    ジャーナル フリー

    2000年7月に救急車と同時出動を原則としたドクターカー出動基準の変更を行った。その前後の1998年と2001年とでドクターカー出動症例について比較検討した。現場出動件数は1998年は644例であったが,2001年には1,272例と倍増した。覚知から現場到着までの平均時間は1998年は約21分であったが,2001年には約12分に短縮された。出動症例の内訳は,1998年は心停止症例が大部分を占めたが,2001年には呼吸循環不全などの非外傷症例が増加した。出動症例への対応は,1998年は現場での死亡確認や外来死が6割弱を占めたが,2001年には途中出動中止,二次施設搬送,三次施設搬送症例が増加した。出動基準の変更によってドクターカーはより多くの症例に,より短時間で出動することができるようになった。しかし,消防の傷病者統計に基づいた事後検証は依然実施できておらず,今後,消防とのさらなる連携のもとに,より精度の高い出動を目指していく必要があると考えられた。

  • 松裏 裕行, 竹内 邦子, 蜂矢 正彦, 月本 一郎, 小山 信彌, 上嶋 権兵衛
    原稿種別: 原著
    2002 年 5 巻 5 号 p. 477-482
    発行日: 2002/11/30
    公開日: 2025/02/08
    ジャーナル フリー

    小児救急医療体制改善のための提言を行うことを目的に,当院小児救急患者の現況を検討した。対象は1996年4月から5年間に小児科を受診した救急患者で後方視的検討を行った。年平均11,764人の小児が救急外来を受診し,最多は平日,土曜,休診日に各々69人,103人,157人であった。転送例を含め急患の3.7%が入院を要したが約95%は帰宅可能だった。全診療科に対する小児科患者の割合は7.9%であるが救急患者に限れば小児は27%,また小児科における救急患者数は22%だった。小児救急患者が集中する原因は,①小児科標榜施設の減少,②当番医の不十分な周知,③当番医の輪番性,④保護者の専門医指向,⑤大病院指向,⑥24時間救急体制の安易な利用,⑦乳幼児医療の無料化,などである。問題解決には救急初療施設が,①固定性で,②二次救急機能も併せもつこと,③地域の全小児科医が参画すること,④小児科診療に対する経済的支援,⑤住民への積極的な広報活動などが必要である。

  • 野上 恵嗣, 粕田 承吾, 川井 廉之, 關 匡彦, 西口 貴司, 則本 和伸, 奥地 ―夫
    原稿種別: 原著
    2002 年 5 巻 5 号 p. 483-489
    発行日: 2002/11/30
    公開日: 2025/02/08
    ジャーナル フリー

    救命救急センター開設以来,11年間に搬送された小児の心肺停止(CPA)89症例を後方視的に検討した。1歳未満がもっとも多く男児に多かった。原因として内因性では,乳幼児突然死症候群がもっとも多く,また基礎疾患を有する児が多かった。外因性では,交通外傷と󠄁溺水が多かった。来院時CPA症例の心拍再開率は30.9%,再開までの時間は約60分であり,bystanderによる心肺蘇生(CPR)施行率は非再開群に比べ有意に高率であった。小児CPAは心拍再開しやすいが,予後不良例がきわめて多く生存退院は3例のみであった。いずれもbystander CPRにより来院前に心拍が再開していた。小児CPAの治療成績向上には,bystanderによる迅速な一次救命処置,すなわちCPRの重要性および予防教育の充実を養育者ならびに社会全体へ強く啓発していくことが必要である。

  • 石田 浩美, 松岡 哲也, 横田 順一朗, 溝端 康光, 久保田 芽里, 小島 義忠, 福田 篤久
    原稿種別: 原著
    2002 年 5 巻 5 号 p. 490-494
    発行日: 2002/11/30
    公開日: 2025/02/08
    ジャーナル フリー

    目的:来院時心肺機能停止症例における高アンモニア血症の臨床的意義を明らかにするために,血中アンモニアの上昇に影響を与える因子について検討した。対象:1997年10月から2000年6月までに当救命救急センターに搬入された内因性心肺機能停止症例で,心肺停止の目撃者が存在し初療時に血中アンモニア値の測定が可能であつた67例。方法:血中アンモニア値と心肺機能停止持続時間,pH,PaO2,PaCO2,BE,乳酸(La)値との相関について単回帰分析を行った。さらに ステップワイズ重回帰分析を実施し,これらの因子のうちで血中アンモニア値の上昇に影響を及ぼ す因子を検討した。結果:来院時心肺機能停止症例における初療時血中アンモニア値は112±74.8μmol/lで,67例中58例が異常高値を示した。血中アンモニア値の上昇は,心肺機能停止持続時間 (r=0.47),pHの低下(r=0.50),BEの低下(r=0.49),PaCO2の上昇(r=0.31)およびLa値の上昇(r=0.60)と有意に相関していた。ステップワイズ重回帰分析の結果,La値と心肺機能停止持続時間がアンモニア値を規定する独立変数として選択され,とくにLa値の上昇が強く影響していた。 まとめ:La値の上昇は糖の嫌気性解糖の亢進により生じることから,CPA症例における高アンモニ ア血症も細胞のエネルギー不足に起因していることが示唆された。

  • 田邉 俊司
    原稿種別: 原著
    2002 年 5 巻 5 号 p. 495-500
    発行日: 2002/11/30
    公開日: 2025/02/08
    ジャーナル フリー

    心停止傷病者の救命率向上を目指し救急救命士に除細動治療が認められたが,心室細動症例は少なく救命率はそれほど向上していない。その原因として,欧米との心停止原因疾患の差が挙げられている。本調査は単にそれのみが原因であるのか否かを,ウツタイン様式のデータを基に別の視点で分析した。その結果,半数以上が心停止から心電図測定まで10分以上経過していると推測できた。また,心室細動を認めにくい70歳以上の年齢層が心停止症例の59%を占めており,これらの要因が心室細動を認めにくくしていると考えられた。現状では,心停止から心電図測定までの時間が長く,早期除細動治療が実施できていない。心停止から除細動治療にかかる各時間の短縮が今後の課題である。

臨床経験
  • 岡本 健, 則尾 弘文, 伊藤 敏孝, 清住 哲郎, 阪本 敏久, 岡田 芳明
    原稿種別: 臨床経験
    2002 年 5 巻 5 号 p. 501-506
    発行日: 2002/11/30
    公開日: 2025/02/08
    ジャーナル フリー

    近年の救急医療の発展と同時に,人工呼吸器に依存する重度四肢麻痺患者も増加している。患者の多くは,転出先が見つからないまま救命救急センターのベッドを長期間占有し,QOLの低い入院生活を強いられる。今回,救命救急センターに搬送され人工呼吸器から離脱できない高位頸髄完全損傷3例の転出について検討し,その問題点を考察した。一般病院への転院では,積極的なリハビリテーションを受けることが期待できず,他方リハビリテーション専門施設では,退院の見込みが少ない患者の収容を拒否する傾向がみられた。また,在宅での人工呼吸管理は,ホームヘルパーが気管内吸引などの医療ケアを行えないなど,不十分な在宅ケア支援体制上の問題から現状では実現困難であった。今後も増加が見込まれる人工呼吸器依存の四肢麻痺患者に対し,在宅ケアの導入を容易にする法的整備や在宅ケア支援体制の整備が急務である。

症例・事例報告
  • ―たこつぼ様の左室壁運動異常を示した症例―
    甲原 一郎, 居原田 善司, 藤崎 剛斎, 羽田 哲也, 橋本 洋一, 榊原 毅彦, 山木 垂水, 瓦葺 健太郎, 松井 淳琪, 松井 道宣
    原稿種別: 症例報告
    2002 年 5 巻 5 号 p. 507-511
    発行日: 2002/11/30
    公開日: 2025/02/08
    ジャーナル フリー

    症例は52歳,女性。突然の意識障害と嘔吐が出現し救急搬入された。意識レベルはGlasgow Coma Scale 10で,頭部単純CTでくも膜下出血を認めた。心電図ではⅠ,aVL,V2〜6でST上昇を認め,心エコーでいわゆる“たこつぼ”様の左室壁運動異常を認めた。急性心筋梗塞の合併を疑い緊急心臓カテーテル検査を行った。冠動脈に有意狭窄は認めなかったが,肺動脈楔入圧は23 mmHgと軽度上昇を認めた。引き続き脳血管撮影を行い,前交通動脈に動脈瘤を認めたためneck clipping術を施行した。peak CKは820 IU/lまで上昇した。ST変化は第2病日に基線に復し,第3病日に巨大陰性T波が出現したが異常Q波は形成されな かった。また,心エコーの壁運動異常も第18病日には正常化した。くも膜下出血でST-T変化を来す例には,われわれが経験した症例のように広範な心筋障害を来す例もあり,心エコーなどで心機能を評価する必要があると考えられた。

  • 植草 英恵, 寺沢 秀一, 田中 國義, 木村 哲也, 森岡 浩一, 山田 就久, 大滝 典夫, 和田 嗣業, 高森 督
    原稿種別: 症例報告
    2002 年 5 巻 5 号 p. 512-515
    発行日: 2002/11/30
    公開日: 2025/02/08
    ジャーナル フリー

    症例は65歳,女性。風呂場で意識消失しているところを発見され本院に救急搬送された。来院時意識レベルはJapan Coma Scale(JCS)200と低下し,左片麻痺を呈しており脳梗塞が疑われた。しかし,上肢血圧差(右95mmHg,左147mmHg)があり,胸部X線写真で上縦隔の拡大を認めたため造影CTを施行したところ,Stanford A型急性胸部大動脈解離とそれに伴う脳梗塞と診断された。緊急上行大動脈置換術を施行し救命し得た。意識障害や神経学的異常を伴った患者における胸部大動脈解離の初期診断は困難であるが,同疾患の存在を念頭において血圧の左右差,胸部単純X線における縦隔陰影の異常などへ注意を払うことが重要である。

  • 木内 俊―郎, 森河内 豊, 滝 吉郎, 山田 敦, 田中 具治, 芝田 豊通
    原稿種別: 症例報告
    2002 年 5 巻 5 号 p. 516-519
    発行日: 2002/11/30
    公開日: 2025/02/08
    ジャーナル フリー

    症例は19歳,男性。軽トラック運転中に側壁に激突して胸部を強打し,圧迫されたまま車内に閉じ込められた。入院時のX線,CT検査で気管,食道の周囲と後腹膜腔に気腫を認めた。胸部ヘリカルCTで肺動静脈に沿って肺間質に多発する空気の貯留像を認めた。これは胸部に鈍的外傷が加わった際に,肺胞より漏出し気管支血管鞘に沿って進展した空気と考えられ,Macklin effectと称される縦隔気腫発生機序の傍証所見である。胸部鈍的外傷から生じる縦隔気腫の発生機序のうち,90%近くはこのMacklin effectによるものといわれている。胸部CTスキャン,気管支鏡などを用いて縦隔気腫発生機序の検索を総合的に行い,重症度を判断しなければならない。

  • 中田 孝明, 貞広 智仁, 北村 伸哉, 平澤 博之
    原稿種別: 症例報告
    2002 年 5 巻 5 号 p. 520-525
    発行日: 2002/11/30
    公開日: 2025/02/08
    ジャーナル フリー

    高炉鉱石庫に滑落後,焼結鉱に埋没し,発症したまれな受傷機転によるcrush syndromeの1例を経験した。症例は40歳,男性。清掃作業中にすり鉢状の高炉鉱石庫に滑落し,深さ4m以上にわたる焼結鉱に全身が埋没した。事故発生時,事故現場の状況より窒息は免れず,生存の可能性はきわめて低いと判断されたが,埋没6時間30分後に生存が確認された。救出作業中は二次災害発生の危険が高いため点滴などの医療行為は行えなかったが,約1lの飲水が可能であった。救出作業は難航し埋没17時間後に救出され,救急外来に搬送された。来院時,下肢に長時間の圧迫による疼痛,腫脹を認め,筋逸脱酵素は異常高値を示しcrush syndromeと診断した。このため,ICUで輸液療法および持続的血液濾過透析(以下,CHDF)などの集中治療を施行し,急性腎不全を発症することなく救命した。

  • 中永 士師明, 和田 博, 田中 博之, 多治見 公高
    原稿種別: 症例報告
    2002 年 5 巻 5 号 p. 526-529
    発行日: 2002/11/30
    公開日: 2025/02/08
    ジャーナル フリー

    肩関節直立脱臼はまれな疾患であり,とくに腕神経叢損傷を合併した報告は本邦ではこれまでに2例しかない。今回52歳,女性の外傷性肩関節直立脱臼の1例を経験したので報告する。患者は自転車走行中,転倒し受傷した。受傷3時間後に救急搬送され,全身麻酔下に徒手整復を行った。上腕骨大結節骨折,腕神経叢損傷の合併を認めたが,三角巾固定,理学療法を行い症状の改善をみた。直立脱臼では特徴ある肢位をとるため診断は容易であるが,神経麻痺を合併する危険性があるため可及的速やかに診断・治療を行う必要がある。

調査・報告
  • 青木 郁香, 藤原 綾, 福田 充宏
    原稿種別: 調査・報告
    2002 年 5 巻 5 号 p. 530-537
    発行日: 2002/11/30
    公開日: 2025/02/08
    ジャーナル フリー

    近年,人工呼吸器が関連する医療事故が多く発生している。そこで今回,当院における人工呼吸器に関するインシデント事例を分析した。2000年9月から2001年12月までの当院におけるインシデント事例は3,142件であり,そのうち人工呼吸器に関するものは100件であった。それらは操作間違いなどの人為的エラー54件と,整備不良や故障などの機械的エラー36件,分類不能10件に分けられた。当院では2001年6月以前は部署ごとに人工呼吸器の保守管理を行っており,臨床工学技士が関与している部署で40件,関与していない部署で39件の事例が発生し,後者においては機械的エラーが多かった。これに対し2001年7月以降は人工呼吸器中央管理システムを導入することにより,人工呼吸器に関するインシデント事例を減少させることができた。人工呼吸器を安全に使用するためには,適切な保守管理,正しい使用法とその確認が重要であり,これを実現するためには人工呼吸器中央管理システムの導入を含めた組織的な取り組みが必要である。

feedback
Top