日本臨床救急医学会雑誌
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6 巻, 5 号
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原著
  • 後藤 由和, 村田 義治, 村本 信吾, 稲葉 英夫
    原稿種別: 原著
    2003 年 6 巻 5 号 p. 457-463
    発行日: 2003/11/30
    公開日: 2025/01/15
    ジャーナル フリー

    平成13年次推定高齢化率が28.1%の石川県能登地域に立地した,併設型救命救急センターにおける高齢者救急搬送例を後ろ向きに調査した。対象は同センターヘ救急搬送された全症例2,693例である。高齢者群(65歳以上)は全搬送症例の53.4%を占めており,年少群(0~14歳),生産年齢群(15~64歳)と比較して有意に一次救急搬送例が少なく,内因性疾患による搬送とその後の入院が多かった(p<0.0001)。とくに75歳以上では,75歳未満の高齢者より呼吸器疾患による搬送と入院および院外心停止例の割合が多かった(いずれもp=0.0014)。これらの現状から,救急医療に携わる地域医療関係者の十分な意思疎通を図ったうえで,高齢者救急に焦点を当てた地域住民への啓蒙活動と病診連携強化へ向けた具体的な対策を早急に考案する必要があると考えられた。

  • 竹田 豊, 脇田 佳典, 丸山 伸, 今西 正巳
    原稿種別: 原著
    2003 年 6 巻 5 号 p. 464-469
    発行日: 2003/11/30
    公開日: 2025/01/15
    ジャーナル フリー

    目的:院外心肺停止症例の記録を国際的に統一するために作成されたUtstein様式をわが国で使用するにあたっての問題点を検討する。対象:Utstein様式に基づいた院外心肺停止症例のデータ集計を実施している全国の80消防機関にデータ集計に関するアンケート調査を行った。結果:救急車内時計の時刻調整を「定期」に実施している消防機関は22.2%,そのほかは「不定期」または「時刻調整をしていない」であった。覚知時刻については「119番入電時刻」を覚知時刻としていた消防機関43.1%,「指令時刻」を覚知時刻としていた消防機関51.4%であった。初回心電図を診る場所について,「現場」であった消防機関47.2%,「救急車内収容後」18.1%であった。結語:統一されていないデータ集計はUtstein様式による検証を不正確にする。

  • 上原 正憲, 高井 惣一郎, Hill Graham L, 上山 泰男
    原稿種別: 原著
    2003 年 6 巻 5 号 p. 470-472
    発行日: 2003/11/30
    公開日: 2025/01/15
    ジャーナル フリー

    目的:鈍的外傷患者の血行動態安定後の必要最低カロリーを求めること。方法:鈍的外傷患者の血行動態安定後の安静時エネルギー消費量(以下mREE)を測定し,その値より必要最低カロリーを推測した。結果:鈍的外傷患者のmREEは,ICU入室後6日目までしだいに増加し,2,295±438kcal/dayに達したが,その後10日目まではそれ以上の増加は認めなかった。結論:鈍的外傷患者の血行動態の安定はICU入室後平均3日目で得られたので,血行動態安定後のmREEはICU入室後6日目のmREEである2,295±438kcal/day以下であった。鈍的外傷患者の血行動態安定後の必要最低カロリーは,体重あたり31.9± 5.1 kcal/kg/dayでHarris and Benedictの基礎代謝量の1.4±0.2倍であると推測された。

臨床経験
  • 山田 裕彦, 皆川 幸洋, 真壁 秀幸, 遠藤 重厚
    原稿種別: 臨床経験
    2003 年 6 巻 5 号 p. 473-478
    発行日: 2003/11/30
    公開日: 2025/01/15
    ジャーナル フリー

    2002年4月以降,われわれの施設で広範囲熱傷患者に対するクリニカルパスを使用した4例について検討した。パスの導入の目的は,手術時期の早期化,手術間隔短縮,リハビリ開始時期の早期化,患者負担の軽減,スタッフの目的意識確立とした。広範囲熱傷では時期により病態が異なるため,急性期用・亜急性期用・手術期用のパスを作成した。4例の内訳は平均年齢62.8歳,平均熱傷指数23.3で初回手術時期,入院期間,医療費について過去1年の6例と比較検討した。初回手術時期は全例で目的とした1週間以内の早期手術はできず,パス非使用群と差はなかった。入院期間は有意に短縮でき,入院期間の短縮に伴い入院費用も軽減できた。パスの導入に伴い入院期間が短縮され,患者負担の軽減や医療の効率化につながるものと考えられた。また,重症度や合併症など考慮した自由度のあるパス作成やコパスの併用などが必要と考えられた。

症例・事例報告
  • 尾形 昌克, 井上 健, 山野上 敬夫, 岡林 清司, 飯田 幸治, 岩崎 泰昌, 谷川 攻一
    原稿種別: 症例報告
    2003 年 6 巻 5 号 p. 479-482
    発行日: 2003/11/30
    公開日: 2025/01/15
    ジャーナル フリー

    電撃傷により心肺停止に至った傷病者に対し,救急隊到着までの13分間バイスタンダーによる心肺蘇生法が実施されていたが,それは心臓マッサージのみの心肺蘇生法であった。長時間にわたる不完全な心肺蘇生法であったため,予後不良が危惧されたが神経学的後遺症をまったく残さず社会復帰を果たした。10分を超える心臓マッサージのみの心肺蘇生法によって,完全社会復帰がもたらされたという事実は心臓マッサージのみの心肺蘇生法が有効であったことを示唆していた。そして,AHA(American Heart Association)心肺蘇生と救急心血管治療のための国際ガイドライン2000が示した「人工呼吸ができない場合には,心臓マッサージだけでも行うことが推奨される」ことの妥当性を示す1症例であり,今後のバイスタンダー教育においても上記の点を指導してもよいと考えられた。

  • 鳴尾 匡史, 金子 直之, 則尾 弘文, 清住 哲郎, 阪本 敏久, 岡田 芳明
    原稿種別: 症例報告
    2003 年 6 巻 5 号 p. 483-486
    発行日: 2003/11/30
    公開日: 2025/01/15
    ジャーナル フリー

    頸髄損傷(以下,頸損と略す)患者には体温調節障害が合併するが,乗用車を運転中に熱中症を発症した例は報告がない。われわれは運転中に発症した熱中症を経験し,興味ある知見を得たので今後の警鐘として報告する。症例:24歳,男性。17歳時に事故で頸髄を損傷したが,現在は車いすで自立した生活を送っていた。平成13年6月,黒い車を運転中に意識を失い,軽い接触事故を起こした。救急隊現着時JCS 300,体温42℃以上で熱中症を疑い当科に搬入された。来院時,痙攣はなく,四肢は除皮質硬直様であった。全身冷却を開始し,気管挿管下にバルビツレート療法を施行したところ,体温は順調に低下し4病日に意識回復,新たな後遺障害はなく10病日に退院した。 考察:頸損患者では意識下の運転中であっても熱中症を発症する可能性があり,乗用車の車内温度の上昇を防ぐ諸対策や,運行上の注意を指導する必要がある。

  • 仁科 雅良, 川辺 昭浩
    原稿種別: 症例報告
    2003 年 6 巻 5 号 p. 487-489
    発行日: 2003/11/30
    公開日: 2025/01/15
    ジャーナル フリー

    患者は48歳,女性。自宅(薬局)の硫酸銅約10 gを服用し,嘔吐した。来院時,口腔周囲に青色の粉末が付着していたが口腔内のびらんはなかった。輸液路を確保し,生理食塩液で排液が清澄になるまで胃洗浄を施行した。その後,気管挿管・全身麻酔下に上部消化管内視鏡を行った。胃壁全体に青色の硫酸銅が粘液とともに付着していた。これを直視下に徹底的に洗浄し,吸引,除去した。翌日の内視鏡検査では,ごく軽度の胃壁の発赤を認めるだけでD-ペニシラミンおよびジメルカプロールを投与した。銅の血中濃度は100 μg/dl前後と正常範囲内で,尿中濃度は第3病日454.5 μg/dlと増加していたが溶血・腎不全などを来すことなく経過は良好であった。普通の胃洗浄では除去できない硫酸銅を内視鏡下に徹底的に洗浄したことが有効であったと思われた。

  • 豊田 泰弘, 中山 伸一, 岡田 直己, 石井 昇
    原稿種別: 症例報告
    2003 年 6 巻 5 号 p. 490-493
    発行日: 2003/11/30
    公開日: 2025/01/15
    ジャーナル フリー

    症例は30歳,女性。平成■年■月はじめよりPTP,ホッチキスの針,釘,フォークなどの異食を始めた。■月■日に腹痛のため近医に受診し,腹部X線にて消化管異物を指摘された。■月■日,腹痛が増強したため当院救急部を受診した。理学的所見,X線,CT,血液検査所見などからイレウス,腹膜炎を疑い緊急手術を施行した。開腹したところ,異物を手拳大の塊として胃内に触知した。異物除去のために胃壁を電気メスで切開したところ,閃光を伴う小爆発があった。さいわい胃を含む腹腔内臓器に損傷はなかった。結腸にも異物塊を認めたが爆発を避け,電気メスを用いずに結腸壁を切開し異物を除去した。爆発の原因として,細菌による可燃ガス産生や胃酸と金属製異物の化学反応による水素ガスの発生が疑われた。消化管異物に対する手術時,消化管の切開には原則として電気メスを使用するべきではないと考えられた。

  • 濱洲 晋哉, 横尾 直樹, 白子 隆志, 吉田 隆浩, 長田 博光, 北村 好史
    原稿種別: 症例報告
    2003 年 6 巻 5 号 p. 494-498
    発行日: 2003/11/30
    公開日: 2025/01/15
    ジャーナル フリー

    盲腸軸捻転症は比較的まれな疾患である。今回筆者らは,精神発達遅滞患者に発症した盲腸軸捻転症の1例を経験したので報告する。患者は30歳,男性。過去に下痢と嘔吐のため入退院を繰り返していたが,食事摂取不良と嘔吐のため当科を受診した。顔面は蒼白・苦悶状を呈し,腹部膨隆と筋性防御を認めた。腹部単純X線検査で腹部中央に巨大ガス像を認め,大腸内視鏡検査では上行結腸から口側への挿入は困難であり,内視鏡下の造影検査で口側大腸の狭窄像が描出された。CT検査で上行結腸から拡張腸管へ連続する狭窄腸管と,その周囲の線維性組織の存在を認め,盲腸軸捻転症を強く疑い緊急手術を施行した。回盲部腸管は約360度反時計回転し,著明に拡張して虚血性壊死に陥っていたため回盲部切除術を施行した。精神神経疾患合併例では術前診断は困難であるが,本症も鑑別診断のなかに合めて精査し手術時期を逸さぬことが重要である。

  • 皆川 幸洋, 山田 裕彦, 佐藤 光太郎, 堀井 高文, 細谷 優子, 今井 聡子, 遠藤 重厚, 小泉 淳一, 中島 隆之, 川副 浩平
    原稿種別: 症例報告
    2003 年 6 巻 5 号 p. 499-503
    発行日: 2003/11/30
    公開日: 2025/01/15
    ジャーナル フリー

    サッカーの試合中に相手と衝突し受傷した膝窩動脈断裂例はまれであり,本邦では検索することができなかった。症例は39歳,男性。ゴールキーパーをしていて相手と衝突し転倒した。右膝関節に相手の体が乗り,前後に圧迫される受傷機転により発症した。来院時,右下腿の腫脹,疼痛,冷感を著明に認め,足背動脈,後脛骨動脈を触知しなかった。血管造影で膝窩動脈の閉塞を認め,緊急手術を施行した。compartment syndromeの予防のため下腿内,外側に筋膜切開を置き,腹臥位にて膝窩動脈を小伏在静脈で置換した。筋腎代謝症候群の予防目的に持続的血液濾過透析を術中から1病日まで施行したが,その後の経過は良好であった。膝関節の外傷では,つねに膝窩動脈損傷を念頭におくことが重要であり,迅速で積極的な動脈造影検査,筋膜切開によるcompartment syndromeの予防,血行再建,術中からの血液濾過が救命のためには重要であると思われた。

調査・報告
  • 野口 覚, 永井 昌寛
    原稿種別: 調査・報告
    2003 年 6 巻 5 号 p. 504-511
    発行日: 2003/11/30
    公開日: 2025/01/15
    ジャーナル フリー

    愛知県下,全46消防局・本部におけるメディカルコントロール体制の意識実態調査(アンケート調査)を実施し,集計結果をもとに分析を行い次のことが分かった。1)小規模本部では慢性的な人員不足のため,定期的な病院内実習が実施できていない状況にある。2)一部の大規模本部以外では,救急活動の医学的側面からの事後検証体制が整えられていない状況にある。3)救急活動記録・救急救命処置録などの報告書について,記載事項などの様式が一致していない。4)救急医療体制に関して精通している医師が必ずしも指示要請の対応者となっている状況ではなく,その傾向は小規模本部で強い。5)指示要請の初回対応者が医師以外である場合が多かった。必ずしも迅速な指示体制が構築されている状況ではなく,その傾向は小規模本部で強い。6)救急医療情報システムの利用状況および方法は,地域性(都市部と郡部)による違いがみられる。

  • 川岸 久太郎, 奥寺 敬, 瀧澤 雅人
    原稿種別: 調査・報告
    2003 年 6 巻 5 号 p. 512-516
    発行日: 2003/11/30
    公開日: 2025/01/15
    ジャーナル フリー

    信州大学医学部解剖学第2講座では,病院前救急医療を担う救急隊員の資質向上を目的とし,平成12年度から長野県消防学校救急標準課程において解剖体を用い解剖学講義および実習を伴う「人体解剖見学」を行っている。今回,本教育が救急隊員にどのような心理的影響をもたらしたかについて調査を行った。その結果,多くの者が「諸臓器の構造や立体的配置の理解」(72%),「今後の救急救命活動・学習への抱負」(98%)などの項目を挙げた。また,消防職員としての経験年数により有意に変化をみせた項目として,「生命の尊厳の再認識」(p<0.005)などがあった。人体解剖見学によりもたらされる心理的影響には,消防職員としての経験年数に相関しない共通の部分と,経験年数に相関し異なる部分があった。どちらも救急隊員の意識向上には有用であり,人体解剖見学を救急標準課程や救急隊員の生涯教育に取り入れられれば,医学教育のみならず情操教育の面でも有効であると考えられた。

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