教育実践学研究
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最新号
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原著
  • 西田 美由紀, 松村 京子
    2023 年 25 巻 1 号 p. 1-12
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/16
    ジャーナル オープンアクセス
    思考,行動,感情をコントロールする自己制御能力とその基盤となる実行機能は,学校生活への適応や学力,対人関係に影響を及ぼすことで近年注目されている.本研究では,小学2 年生と4 年生の自己制御能力と実行機能の下位要素である抑制,注意切替え,ワーキングメモリ(以下WM)を直接測定し,それらの能力の発達を検討した.その結果,2 年生に比べ4 年生は,自己制御能力および実行機能のうち,抑制,注意切替え,視覚的WM が有意に高かった.聴覚的WM には有意差がみられなかった.実行機能の下位要素を説明変数,自己制御能力を従属変数として重回帰分析を行った結果,2 年生では抑制が,4 年生では注意切替え,視覚的WM,聴覚的WM が自己制御能力を予測することが明らかになった.この結果は,聴覚的WM を除いて実行機能は2 年生から4 年生へと発達すること,そして,2 年生と4 年生で自己制御能力に影響を及ぼす実行機能が異なることを示している.
実践研究報告
  • 「初等社会科教育法」における教育方法の構築
    紙田 路子
    2023 年 25 巻 1 号 p. 13-25
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/16
    ジャーナル オープンアクセス
    近年,社会科教育研究では,教師教育に関心が寄せられている.本研究では,特に「用意されたカリキュラムや教材を自らの授業観に基づいて組み替える授業設計力」,すなわちの主体的な授業の調整力(ゲートキーピング)の育成を目指す教師教育の在り方について提案するものである.本研究では先行研究をもとに「①教科観の省察」「②授業理論の分析」「③自己の授業理論の再構築と授業プランニング」を授業の調整力育成のプロセスととらえ,それらを初等社会科教育法の講義を通して具体化した.本研究の成果は以下の点である.1つは,上記の①から③の過程を経ることで,学生が単元設計において教育のねらいを意識した教育内容・教育方法の選択を柔軟に行うことができるようになった点である.もう1つは,学生が授業の調整者としての教師の役割や責任を自覚できたことである.学生の教師のゲートキーピングの萌芽を保障することができたことにこの研究の意義がある.
  • 「言語活動の充実」を通じた資質・能力の育成
    難波 優太朗, 宮本 浩治
    2023 年 25 巻 1 号 p. 27-38
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/16
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究の目的は,授業における「めあて」の構築の過程と「めあて」を起点として展開される学習について分析し,「めあて」のあり方を明らかにすることにある.授業の分析,考察を通じて明らかになったことは,「めあて」は教師と学習者とで協同的に「目標設定」・「方略プランニング」を行う過程であるということである.その際,教師は学習の状況に応じて,学習者の学習を焦点化していくことが求められる.また,学習方法として言語活動を位置づけ,学習者の言語活動を誘うことで,主体的・自律的な学習を促進することが明らかになった.ただし,主体的になるからこそ,学習者のパフォーマンスにズレが生じてくるため,教師は学習者の学習活動の結果を,学習者が利用可能な情報に転換し,学習者の評価活動や自己調整活動を促進す ることが必要になる.
  • 小学3年生における実践から
    藤井 康子, 西口 宏泰, 麻生 良太, 伊東 俊昭
    2023 年 25 巻 1 号 p. 39-53
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/16
    ジャーナル オープンアクセス
     総合的な学習の時間における“ 蚕の飼育” の体験学習と図画工作科や理科,国語科,社会科,算数科での教科学習を組み合わせた小学3年生を対象とする1年間の学習単元を開発し実践を行った.“ 蚕の飼育” を通して得られた知識や経験,児童から新たに生まれた疑問をもとに蚕に関する学びを深める過程において美術の表現活動を課題として設定し,各教科等の資質や能力を総合的に高められるようにカリキュラム・マネジメントを行った.生きものの飼育体験から広がる教科等横断型学習を経験した児童の学習成果物や非認知能力についてみる質問紙調査を分析した結果,特殊的好奇心と根気が向上し,児童の非認知能力の向上に影響を及ぼすことが示唆された.
  • 身体表現を生かす「彫刻家と粘土」の実践を例に
    山本 直樹
    2023 年 25 巻 1 号 p. 55-67
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/16
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究の目的は,他者と共に身体を彫刻のように制止させて表現する「彫刻家と粘土」(Spolin, 1968)を実践し,その体験者の振り返り記述の全体的傾向を明らかにして,「彫刻家と粘土」を保育者志望学生が体験することでどのような協働的な学びが期待できるかを考察することである.本研究の方法は,計量テキスト分析のソフトウェアを補助的に活用し,その振り返り記述の中から,使用頻度の高い語に注目し,特徴的な内容を抽出することである.結果としてわかったことは,保育者志望学生にとっての協働的な学びの導入的活動として,三点が期待できることである.一つめは他者の存在によって活動の幅が広がることの実感が得られる学び,二つめは他者のイメージを汲み取る意欲が高まる学び,三つめは他者のもつ自分と異なる部分を大事にする学びである.
  • フリーハンドベル,グニグニ棒,ポケットオルゴール
    山之内 幹
    2023 年 25 巻 1 号 p. 69-79
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/16
    ジャーナル オープンアクセス
    重度・重複障害児の自発行動を促すための教具フリーハンドベル, グニグニ棒,ポケットオルゴールを製作し,授業等で活用した.フリーハンドベルは子どもの手の状態に合わせて柄の形を変えることができる.グニグニ棒はシリコンの中にアルミニウム線を入れた柔らかい棒であり,棒の長さは60㎝である.ポケットオルゴールはムーブメントにガチャガチャのカプセルを被せたものである.これらの教具を用いて,重度・重複障害児の見る,掴む,振る,曲げる,伸ばすといった自発行動を発現させることできた.また重度・重複障害児の教具は安全性,可塑性,衛生的であることが大切であること.さらに製作においては試行錯誤を重ねながら低コストで簡単な教具を作っていくことが大切であるということが提案された.
総説・展望
  • 研究,実践,政策の動向と今後の展望
    市川 伸一, 篠ヶ谷 圭太
    2023 年 25 巻 1 号 p. 81-94
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/16
    ジャーナル オープンアクセス
    指導要録の観点別学習状況評価の改訂(2019)に際して,「主体的に学習に取り組む態度」の一側面として「自らの学習を調整する」ということが重視された.本稿では,「予見-遂行-省察」という自己調整学習プロセスの学術研究と,「予習-授業-復習」という授業ベースの習得サイクルで学習スキルを育てる実践研究とをまず概観する.両者に共通しているのは,自立的な学習者の育成ということにほかならないが,扱っている学習状況や学習スキルは一見異なっているように思われる.そこで,本稿では両者の対応について3つの関係を想定した上で,統合の可能性を検討する.また,新教育課程や学習評価において強調されているにもかかわらず,日本の学校教育において学習の自己調整がなかなか浸透していない理由を考察する.最後に,教育政策の動向も踏まえつつ,今後の研究や実践の方向性について展望する.
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