日本食品工学会誌
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11 巻, 1 号
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解説
  • 相良 泰行
    2010 年 11 巻 1 号 p. 1-11
    発行日: 2010/03/15
    公開日: 2015/06/18
    ジャーナル フリー
    食品の凍結乾燥プロセスにおける乾燥特性を計測し,材料乾燥層の移動物性値を推算する計測システムを開発した.このために固形・水溶液・細胞質材料にそれぞれ適用可能な数理モデルを提唱した.熱伝導率は乾燥層固相マトリクス構造に,透過係数は細孔構造に依存すること,さらに乾燥層構造は予備凍結によって形成される氷結晶性状に影響されるため,液状材料の固形分濃度と凍結条件は,乾燥サイクル最適化の主要な制御因子となることを明らかにした.また,「マイクロスライサ画像処理システム」を開発し,予備凍結条件-材料内氷結晶3次元構造-氷結晶性状の関連性を総合的に計測することが可能となった.これらの研究成果に基づき,材料表面温度制御方式と材料内残留凍結部への伝熱促進法による乾燥時間短縮法を提唱した.これら実験室レベルの基礎的知見や要素技術をシステム化し,即席スープ類生産プラントの設計・操作にスケールアップして商業生産を実現した.
  • 深谷 哲也, 佐久間 欣也, 堤 隆一
    2010 年 11 巻 1 号 p. 13-18
    発行日: 2010/03/15
    公開日: 2015/06/18
    ジャーナル フリー
    無菌包装米飯を組み合わせたready-to-heat食品の売上は,日本の市場において,この10年で倍増した.無菌包装米飯は,従来のレトルト米飯に比べ,味や品質に優れている.カゴメデリは,電子レンジ加熱して食する大変ユニークな調理食品で,カゴメ株式会社が,1999年から販売を開始した.これは,無菌包装米飯とレトルトパウチに充填されたメニュー調理用ソース(例えば,リゾット用,チキンライス用,ドリア用など)を組み合わされたセット食品である.これは,電子レンジ調理に対応した調理食品で,約2分の加熱で食べられる簡便性と,1食300 kcal以下の設計が若年女性に受け入れられた.私たちは,この技術をさらに発展させ,米飯メニュー対応商品のみならず,ショートパスタ,ロングパスタ(スパゲティ),穀類,豆類などを使ったメニューにも応用可能な技術とした.本報では,その中でも,無菌包装米飯製造における技術的な考察として,「微生物制御」と「容器開発」について紹介した.
    「微生物制御」について
    C. botulinumによる中毒リスクは,米飯のpHを4.9以下にすることで低減されるが,カップ容器内ヘッドスペース中の酸素濃度もリスクの大きさに影響していることがわかった.
    ②ヘッドスペース酸素濃度を約5%以上に保てば,腐敗先行,または腐敗と毒化がほぼ同時に発生することから,C. botulinumによる中毒リスクを,より低減させるためには,少なくとも,ヘッドスペース中の酸素濃度を5%以上に保つことが有効であることがわかった.
    ③pHを5.0以下に調整すれば,原料由来B. subtilisの耐熱性を低下させることができ,105℃での炊飯も商業的無菌の確保が可能となることがわかった.
    「容器開発」
    ①密封性と易開封性を同時に実現するために,それぞれの評価法を設定し,開け易さを実感できる開封強度を15~30N,目標とするシール強度を5~13 N/15 mmと設定した.
    ②連続的な実工程試験,最終荷姿での振動試験,落下試験を繰り返し,設定したシール強度が実用面でも問題ないことを確認した.
    ③容器成型工程の環境落下菌測定を行った結果,補足した菌は,全て100℃,10分間の加熱処理で死滅することを確認した.また,容器や蓋に付着している一般生菌数は,1.2個/容器+蓋であったが,いずれも耐熱生菌ではなく,無菌包装米飯の殺菌工程で十分死滅させることができることがわかった.
  • 酒井 昇
    2010 年 11 巻 1 号 p. 19-30
    発行日: 2010/03/15
    公開日: 2015/06/18
    ジャーナル フリー
    電子レンジを始めとしてマイクロ波加熱は,速く簡単に加熱・調理できることから,食品産業で良く利用されている.しかし,加熱速度が大きい半面,加熱むらも大きいなど問題も残っている.マイクロ波を照射したとき,被加熱物の加熱性を決めるのは誘電物性であることから,食品の誘電物性を知ることは重要である.本稿では,まずマイクロ波加熱の原理とマイクロ波加熱における水の役割について説明した.次に,水分濃度および塩分濃度の誘電物性に及ぼす影響について説明した.水分が減少することにより誘電率が減少し,塩分濃度が増えることにより誘電損率が増大する.最後に解凍にともなう物性変化について説明した.氷が融解するとき熱物性が変化するのと同時に誘電物性が大きく変化するため,ランナウェイ現象の原因となる.
原著論文
  • 飛塚 幸喜, 安食 雄介, 野内 義之, 宮脇 長人
    2010 年 11 巻 1 号 p. 31-36
    発行日: 2010/03/15
    公開日: 2015/06/18
    ジャーナル フリー
    凍結濃縮は加熱を伴わないマイルドな濃縮手法であるため,香気成分など熱に不安定な物質の濃縮に適している.そこで我々は界面前進凍結濃縮法による,西洋ナシ(ラ・フランス)香気成分の濃縮を試みた.
    ラ・フランス果汁を減圧蒸留してラ・フランスの香気成分を含む凝縮水を採取した.得られた凝縮水を界面前進凍結濃縮し,ラ・フランス香気成分を濃縮した.凝縮水を体積比で11.5倍に濃縮したところ,主なラ・フランス香気成分(酢酸ブチル,酢酸ヘキシル,その他)の濃度は,およそ10~11倍前後となり,理論値に近い濃縮率となった.一方,界面前進凍結濃縮操作で生成した氷に取り込まれた香気成分量は,多いものでも投入量の3%未満であった(1-プロパノールで約2.4%,1-ブタノールで約2.8%).界面前進凍結濃縮法により,ラ・フランス香気成分は効率良く濃縮されることがわかった.
  • 小林 功, 堀 祐子, 植村 邦彦, 中嶋 光敏
    2010 年 11 巻 1 号 p. 37-48
    発行日: 2010/03/15
    公開日: 2015/06/18
    ジャーナル フリー
    連続相となる液体の中に分散しているラージ微小液滴(直径50~1000μm)は,微粒子や微小カプセルを製造するための基材として食品産業,医薬品産業などでよく利用されている.サイズが均一な単分散微粒子・微小カプセルは,細胞・微生物の内包および微粒子・微小カプセルの内部で産出された生理活性物質の徐放に有用な微小キャリアである.前述の微小材料のサイズ分布は基材となるラージ微小液滴のサイズ分布に大いに依存するため,単分散微粒子・微小カプセルを製造するためには均一径ラージ微小液滴を利用することが必要である.
    ラージ微小液滴の製造は,多重ノズルを用いて連続相の中に分散相を滴化させて行うのが一般的である.この手法では直径200μm以上の均一径ラージ微小液滴を製造することが可能であるが,各々の液体の流量を精密に制御する必要がある上に,ノズルの並列化も容易ではない.また,回転膜乳化法とよばれる手法を用いて直径100μm程度の均一径ラージ微小液滴を製造することも可能であるがロチャ,この手法で適用可能な素材は高粘性液体に限定される.
    筆者らの研究グループは,独特な構造をもつ多数の並列微細流路であるマイクネル(MC)アレイを利用したMC乳化を1990年代後半に提案した.MC乳化では,MCアレイを介して分散相を圧入することで液滴径が精密に制御された均一径微小液滴を製造可能である.MC乳化の液滴作製プロセスは極めてマイルドであり,なおかつ各々の液体の流量の影響も受けにくい.筆者らが最近開発した非対称貫通孔型MCアレイは,均一径微小液滴を安定かつ高生産速度で製造可能な高性能MC乳化チップである.しかしながら,非対称貫通孔型MCアレイを用いて製造可能な微小液滴の直径は50μm未満に限定されている.そこで本研究では,新たに設計した非対称貫通孔型MCアレイを用いた均一径ラージ微小液滴の製造を目的として種々の検討を行った.
    単結晶シリコン製の非対称貫通孔型MCアレイは,WMS3チップ(表面サイズ24-mm四方)の中央部(10-mm四方)に加工されている.非対称貫通孔型MCアレイには,マイクロスロット(出口側)と円形マイクロホール(入口側)が連結された均一サイズの非対称貫通孔型MCが集積されている.本研究では,マイクロホールの直径とマイクロスロットの短辺が20~50μmの三種類の非対称貫通孔型MCアレイを用いた.MC乳化実験では分散相として精製大豆油を用い,連続相としてTween20水溶液(1.0 wt%)を用いた.本研究で用いた実験装置は,WMS3チップを搭載したモジュール,シリンジポンプ,顕微鏡観察システムから構成される.液滴作製実験は,非対称貫通孔型MCアレイを介して分散相を連続相領域に圧入させて行った.なお,分散相と連続相の供給流量はそれぞれ1.0~12.0 mL h-1と0~1000 mL h-1の範囲内で制御した.
    三種類のWMS3チップを用いて液滴作製を試みた結果,平均液滴径が75.1~178.5μmで変動係数が2%未満の均一径ラージ微小液滴を製造できることが示された.製造されたラージ微小液滴のサイズはMC断面のサイズに依存することがわかった.作製直後のラージ微小液滴はマイクロスロットの出口に一時的に留まり,その後マイクロスロットを通過した分散相に押し出される形で離脱した.この時,ラージ微小液滴と分散相の接触による合一は観察されなかった.
    次に,連続相流量(Qc)の影響について検討を行った.連続相の流動状態については,算出したレイノルズ数が最大で27.7であったことより層流であることが示唆された.平均液滴径が100μmより大きくなるWMS3チップの場合では,Qcが臨界値を超えた範囲において液滴径が縮小していくことが明らかとなった.一方,平均液滴径が75μm程度になるWMS3チップの場合では,液滴径は本研究で適用した範囲ではQcに依存せず,液滴径が30μm程度になる既存の貫通孔型MCアレイと同様の傾向を示した.製造されたラージ微小液滴は,Qcが臨界値より低くても問題なく回収できることが確認されており,平均液滴径が100μmより大きい均一径ラージ微小液滴を連続的に製造することは可能であった.マイクロスロットの出口から膨張した分散相液滴の中心部における連続相流速は,Qcが同一の場合では液滴サイズの増大に伴って増加することが示唆された.上述の分散相液滴に作用する力のバランスについて検討したところ,液滴作製に関与する主要な力は液滴作製を促進する連続相流れに起因する抗力(FD)と浮力(FB)ならびに液滴作製(Fγ)を抑制する界面張力であることが示された.また,Qcが臨界値を超えた範囲において液滴径が縮小した結果は,Qcの増大に対して比例的に増大するFDの影響によるものであると考察された.
    さらに,分散相流速(Qd)の影響についても検討を行った.Qdが5.0 mL h-1以下の場合では,変動係数が2%未満の均一径ラージ微小油滴(平均液滴径117.6~130.8μm)を製造できた.Qdが臨界値より大きい場合では明確に大きな液滴の作製も観察され,液滴径分布もラージサイズ側が拡がる結果となった.上述の臨界Qd値は50 L m-2 h-1の分散相流束に相当し,微小液滴(直径40μm)の製造に用いられる既存の貫通孔型MCアレイと同等の高い生産能力を有していることが示された.
  • 川上 春菜, 鄧 傅宗, 福岡 美香, 酒井 昇
    2010 年 11 巻 1 号 p. 51-58
    発行日: 2010/03/15
    公開日: 2015/06/18
    ジャーナル フリー
    調理において,流体の挙動は食品の品質に影響する.本研究では新しく開発したトレーサ粒子を用いて,IH加熱とガス加熱において,鍋内対流の可視化および定量化を行った.粒子径の大きなトレーサ粒子は流れに対する追従性が悪くなり,粒子径が小さいほど対流に及ぼす影響は少ないと考えられる.その反面,トレーサ粒子が小さすぎると,対流の観察に支障を生じてしまう恐れがあるが,チップ先端口1 mm,粒径平均2.5 mmの粒子は充分視認性もあることから,この粒子を使用した.トレーサ粒子を用いることで,水を対象としたときの鍋内対流の可視化を行うことができた.また,IH加熱とガス加熱において,鍋上部と鍋内の2方向からの撮影により,3次元でのトレーサ粒子の運動を定量化することができた.IH加熱とガス加熱で同量の熱量で加熱を行った場合,加熱初期ではガス加熱よりもIH加熱の方が,流速が大きかった.
  • 陳 介余, 張 函, 繆 冶煉, 朝倉 弘仲
    2010 年 11 巻 1 号 p. 59-64
    発行日: 2010/03/15
    公開日: 2015/06/18
    ジャーナル フリー
    じゃがいもの糖成分の非破壊測定法の開発のため,可視および近赤外分光法の利用を検討した.光ファイバを利用したインタラクタンス法でじゃがいもの可視および近赤外スペクトル(400-1100 nm)を非破壊的に測定できた.測定されたスペクトルと糖成分の関係を検討した上で,PLS回帰分析法を用いて糖含量の予測モデルを開発したところ,2次微分スペクトルとフルクトースおよびグルコース含量の間に有意の相関関係が認められ,標準誤差がそれぞれ0.26 mg/gと0.46 mg/gの予測モデルが得られた.本研究では,インタラクタンス測定法を用いた近赤外分光法がじゃがいもの糖含量の非破壊的測定法として利用の可能性があることを示唆した.
ノート
  • Yusuke MURAYAMA, Takashi KOBAYASHI, Shuji ADACHI
    2010 年 11 巻 1 号 p. 67-71
    発行日: 2010/03/15
    公開日: 2015/06/18
    ジャーナル フリー
    Soy sauce cake was demineralized by washing with distilled water. After freeze-drying, the demineralized soy sauce cake was treated using water or subcritical water in the temperature range of 50 to 250℃ to produce the extracts. The total saccharide, protein, and total phenolic contents, and the DPPH radical scavenging ability of each extract were measured. The protein and total phenolic contents and the radical scavenging ability were higher for the extracts obtained at higher temperatures. The total saccharide content increased with treatment temperature up to 210℃ but rapidly declined at temperatures higher than 210℃. The extracts obtained at 210℃ or higher exhibited antioxidative ability against the oxidation of linoleic acid.
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