日本食品工学会誌
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13 巻, 2 号
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原著論文
  • 馬 鉄錚, 高橋 朋子, 小林 敬, 安達 修二
    2012 年 13 巻 2 号 p. 25-29
    発行日: 2012/06/15
    公開日: 2015/06/18
    ジャーナル フリー
    脂質が酸化すると異臭を生成し,食品としての価値を失うとともに,酸化生成物が人体にとって有害な場合もあるため,脂質を含有する食品ではその酸化を抑制することが大切である.脂質の酸化は,よく知られているように,開始,連鎖および停止の各過程を経て進行する複雑な反応であり,多くの因子がその速度に影響する[1-3].筆者らは,単一成分のバルク系におけるn-6系不飽和脂肪酸またはそれらのエステルの全酸化過程は自触媒型の速度式で表現できることを報告した[8-10].一方,脂質は単一の成分として存在することは少なく,多くの場合は複雑な組成をもつ混合物である.そのような系のモデルとして,飽和脂肪酸またはそのエステルを添加した不飽和脂肪酸またはそのエステル(基質と表記)の酸化速度について検討し,飽和脂肪酸またはそのエステルが基質を希釈する効果により,基質の酸化が遅延されることを示した[4-6].O/Wエマルション系においても,乳化剤の疎水部が油滴中に入り込み基質を希釈するので,酸化が遅くなることを示した.とくに,乳化剤の疎水部による希釈の効果が顕在化しやすいナノエマルションでその効果が顕著であることを示した[7].
    上記の報告では,飽和脂肪酸またはそのエステルは揮発しないと仮定して解析した.しかし,ガスクロマトグラフィにおいて脂肪酸は揮発しやすいメチルエステルに変換してから定量されるように,基質の酸化過程の測定中に脂肪酸エステルが揮発している可能性がある.とくに,基質を短時間に酸化させるために高温で反応する加速試験ではその可能性が高い.
    そこで本研究では,炭素数が異なり揮発のしやすさが異なると考えられるオクタン酸メチル,ラウリン酸メチルまたはパルミチン酸メチルを混合したリノール酸メチルの65℃における酸化過程を測定した.また,オクタン酸メチル,ラウリン酸メチルまたはパルミチン酸メチルの単一成分系での揮発過程およびリノール酸メチルに種々のモル比で添加したリウリン酸メチルの揮発過程を測定した.リノール酸メチルに対して1:1のモル比でオクタン酸メチル,ラウリン酸メチルまたはパルミチン酸メチルを添加した場合には,揮発しやすいオクタン酸メチルを添加した場合が最も速く酸化され,ラウリン酸メチル,パルミチン酸メチルの順で酸化が遅延された.また,リノール酸メチルに対してラウリン酸メチルを1:3,1:1または3:1のモル比で添加した場合には,添加するラウリン酸メチルの割合が多いほど基質の希釈度が大きくなり酸化が遅延された.リノール酸メチルに飽和脂肪酸メチルを添加した系において,リノール酸メチルの存在に影響されることなく飽和脂肪酸は揮発すると考え,残存する飽和脂肪酸メチルによる希釈効果を考慮した自触媒型酸化反応速度式を適用することにより,実測値を良好に表現できた.
    実際の脂質は多くの種類のトリアシルグリセロールの混合物であるため,ここで得られた知見が直ちに適用できるわけではないが,比較的揮発しやすい脂質を含有する脂質の酸化過程を考える際には,揮発による体積の変化に伴う基質濃度の変化を考慮すべきであることを示した.
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