日本食品工学会誌
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19 巻, 3 号
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原著論文
  • 神山 伸, 田山 舞, 須﨑 奈美, 太田 ひかる, 金子 未来, 曽根 英行
    2018 年 19 巻 3 号 p. 137-144
    発行日: 2018/09/15
    公開日: 2018/09/27
    ジャーナル フリー

    本研究は,人工的に雪室環境を再現した雪室モデルを用いることにより,チーズの保存における雪利用の有効性について検討した.水分の多いカマンベールチーズを温度・湿度に変動のある冷蔵庫あるいは雪室モデルに1ヶ月間保存した場合,簡易密封した状態でも冷蔵庫保存よりも雪室モデル保存で水分の減少と色の変化が抑えられることが示された.雪室モデルに保存したチーズはテクスチャーも良好であり,官能評価においても有意に好まれることが示された.また,香気に関しても,ガス抜きバルブ付きの包材に保存したブルーチーズでは,温度・湿度に変動のある冷蔵状態で保存したものよりも雪室モデル保存のもので特徴的な香気が多く保持されていることが示された.これらの結果から,温度変化が少なく高湿度である雪室はチーズの保存と熟成においても有効であることが示された.

  • 井上 保, 塩野 剛, 伊與田 浩志
    2018 年 19 巻 3 号 p. 145-150
    発行日: 2018/09/15
    公開日: 2018/09/27
    ジャーナル フリー

    プラスチックの包装には,加熱と冷却で接着が完成できるヒートシール技術が適用されている.プラスチックのフィルムやシートを使った包装材料では,透過成分のバリア性や剛性の調節のために数種のフィルムを貼り合わせるラミネーションが行われる.ナイロンなどの親水性の材料では水分のような揮発成分を層内に保有するものもあり,ヒートシールによって高温下に曝されると気化し,溶着層で発泡を起こす.発泡はヒートシール面の美観を損ねるばかりでなく,ヒートシール性にも影響を及ぼすことが知られている.

    本研究では,レトルトパウチを試料とし,発泡に与える水分の影響について実験的に調べた.フィルムの材料構成は,透明蒸着PET12μm/ONY15μm/CPP60μmとした.その結果,発泡は,含水率が低いほど起こりにくいこと示した.低湿度の環境下で保管することが有効であることが示唆される.加えて,水分吸着等温線,粘弾性,バリア性を考慮し,発泡のメカニズムについて解析を行った.

  • 島 元啓, 安達 修二
    2018 年 19 巻 3 号 p. 153-162
    発行日: 2018/09/15
    公開日: 2018/09/27
    ジャーナル フリー

    食品や化粧品などは多種類の芳香物質を含み,香りはそれらの品質の重要な要素である[1-3].香りの放出は,芳香物質を溶解した溶液と気相の2相系のモデルで説明されてきた[6].芳香物質を含む溶液と平衡化された気相中での濃度は,溶液中での活量で記述され,溶媒,共存する溶質,芳香物質の間の相互作用の影響を受ける[7].脂溶性芳香物質の放出は,溶液中の油脂により抑制され,その挙動はオクタノール水系における分配係数により説明できることが報告されている[8].また,溶液のイオン強度も芳香物質の放出に影響を与える因子であり,塩溶や塩析効果が報告されている[10, 11].溶媒のpHや共存するタンパク質などの溶質との化学反応なども影響を及ぼす[1].

    界面活性剤水溶液では,臨界ミセル濃度(CMC)以上で脂溶性領域を有するミセルが出現し,ミセルは芳香物質の分配に影響を与える.そこで,本研究では平衡条件下で界面活性剤などの濃度が芳香物質の気相への分配に及ぼす影響を検討した.芳香物質として酢酸エチル,ゲラニオール,2-フェニルエタノールを用いた.表1に使用した芳香物質の親水性と疎水性のバランスを表す指標を示した.界面活性剤としてドデシル硫酸ナトリウム塩(SDS),ポリグリセリンモノラウレート(PGML),オブアルブミンを用いた.

    まず,一定量の芳香物質を含む,様々な濃度の界面活性剤水溶液を調製して蓋付バイアル瓶に封入し,40℃で撹拌しながら20分間保温した.溶液の上の気相中の芳香物質を固相マイクロ抽出法により分取し,ガスクロマトグラフィを用いて定量した.芳香物質の濃度が同じで界面活性剤を含まない対照溶液について同様に測定した値に対する比を正規化濃度として評価した(Fig. 1).3種類の界面活性剤において,CMC以下では正規化濃度はほとんど1に近い値を示したが,CMC以上では界面活性剤濃度の増加に応じて減少した.ただし,オブアルブミンを界面活性剤として用いて2-フェニルエタノールの分配を測定した場合のみ,オブアルブミンの濃度の増加に応じて2-フェニルエタノールの正規化濃度が上昇した.また,CMC以上の濃度領域で,ミセルとミセル以外の界面活性剤水溶液との間の分配係数Dmwを用いた界面活性剤濃度に対する正規化濃度を関連付ける式を導出し,実測値からDmwを推算したところ,この値を用いた計算線が実験結果をよく表した(Fig. 1).

    CMC以上で気相中の芳香物質の濃度が低下したことから,ミセルの親水部と疎水部の影響を個別に検討した.まず,PGMLの親水基に相当するポリグリセロール水溶液がゲラニオールの正規化濃度に及ぼす影響を検討したところ(Fig. 2),PGMLより高濃度ではあったが,PGMLと同様に濃度に依存して正規化濃度が減少する傾向が認められた.

    次に,PGMLとドデカンまたはトリカプリリン(C8TG)を含むエマルションを用い,これらの油脂がゲラニオールの正規化濃度に及ぼす影響を検討した(Figs. 3,4).ドデカンを含むエマルションは,ドデカンを含まない界面活性剤水溶液と比較して,ゲラニオールの気相中への分配にほとんど影響を及ぼさなかった.C8TGのエマルションでは,界面活性剤濃度の低下に伴い,油脂を含まない溶液と比較して正規化濃度がやや減少した.なお,高濃度の界面活性剤を用いた場合に可溶化が生じたが,正規化濃度の変化に影響はみられなかった(Fig. 5).

    本研究で用いた芳香物質はCMC以上で気相中への分配が減少するものの,疎水性核の増加を意図したドデカンを加えても相対的に疎水性の高いゲラニオールの正規化濃度にほとんど影響がなかったことから,ミセル中の疎水性領域が単独で分配に及ぼす影響は少ないと思われる.また,エステル基によりやや極性をもつC8TGでは多少の影響が認められ,極性基の存在が重要であることが示唆された.さらに,ポリグリセロール水溶液では高濃度で正規化濃度の減少がみられた.また,ミセルへの分配はドデカンへの分配と比較して明確に大きい値を示したが,それらの間には相関関係がみられた(Fig. 6).これらの結果から,ゲラニオールが主としてミセルの疎水部と親水部の両方に接する領域に分配することが示唆された.

    以上のように,SDS,PGML,オブアルブミンの水溶液の芳香物質保持能を,酢酸エチル,2-フェニルエタノール,ゲラニオールについて検討した.オブアルブミンと2-フェニルエタノールの組み合わせ以外では,界面活性剤のCMC以上で芳香物質の正規化濃度が減少した.これらの結果は,ミセルとミセル以外の界面活性剤水溶液との間の分配係数Dmwによりよく表現できた.ドデカンやC8TG,ポリグリセロールを用いた検討に基づき,芳香物質のミセル中への分配を考察した.

  • 小林 敬, 中川 究也
    2018 年 19 巻 3 号 p. 165-171
    発行日: 2018/09/15
    公開日: 2018/09/27
    ジャーナル フリー

    食品流通において,食品の定温保持は極めて重要である.植物油を芯物質とした可食性蓄熱マイクロカプセルを調製し,定温保持に対する性能を評価した.ココナッツ油とゼラチン,アラビアガムからなる複合コアセルベートを調製し,蓄熱マイクロカプセルとして,性状および蓄熱能を評価した.マイクロカプセル化により,11℃前後に油脂の凝固点が観測され,バルクの油脂よりも高い凝固点を示した.また,67%以下の含油率では,マクロカプセルからの明確な油脂の流出は観測されず,付着性の低い粉体(オレオゲル)が得られた.これらの蓄熱性能を評価するために,蓄熱マイクロカプセル中に疑似食品片を入れ,その温度変化を測定したところ,-7.2~39℃の範囲での空気の温度変化に対して,疑似食品片のそれは3.6~29℃の範囲に収まった.このことから,食用油を芯物質として用いることによる,可食性蓄熱マイクロカプセルの開発の可能性が示唆された.

技術論文
  • 三好 扶, 佐藤 秀太, 佐々木 誠, 明石 卓也, 小笠原 正勝, 津田 保之
    2018 年 19 巻 3 号 p. 173-184
    発行日: 2018/09/15
    公開日: 2018/09/27
    ジャーナル フリー

    食品加工業は労働集約型産業であり,原材料処理工程に近いほどその作業工程は人手に頼らざるを得ないのが現状である.しかしながら人手不足,後継者不足が顕在化している昨今では,ロボットシステムによる人手不足解消が喫緊の課題となっており,作業工程をロボット化することで省人化・省力化を図る意義は高い.本研究では缶詰製造工程の定量充填作業を具体の事例とし,作業者によって実施される「定量となる適正な組み合わせ判別」を機械学習によって判別アルゴリズムとして構築し,このアルゴリズムを実装した定量充填作業用ロボットシステムの試作機の開発を目的とする.適正な組み合わせ判別アルゴリズムは焼成切身の3次元特徴量(平均高さ,水平投影面積,およびこれらの積として得られる体積)を教師データとし,その正答率は約95%を得た.このアルゴリズムを実装したロボットシステムは,1缶分(焼成切身腹部および尾部1対を充填)を30秒程度で把持・搬送・充填を可能としたが,現時点では75%の作業精度(達成率)となった.作業者が1缶あたり5秒程度で充填することから,動作速度向上ならびに作業精度の向上といった課題を残すが,作業者による定量充填作業の作業代替となるロボットシステム化が可能であることが示唆された.

ノート
  • Keita NAKASHIMA, Shiori OKI, Rumiko TOYOSHIMA, Sakiko TOZAWA, Mayu NAK ...
    2018 年 19 巻 3 号 p. 185-189
    発行日: 2018/09/15
    公開日: 2018/09/27
    [早期公開] 公開日: 2018/08/10
    ジャーナル フリー

    Potato starch was rendered digestion resistant by the addition of fatty acids (lauric, myristic, palmitic, stearic, oleic, or linoleic) and heat treatment. The effect of different fatty acids on starch digestibility was investigated, as well as the relationship between digestibility and the quantity of fatty acids able to form starch complexes. Although myristic acid reduced digestibility by the greatest degree in samples adjusted to 15% moisture content, no significant difference (p0.05) among fatty acid types was observed in samples adjusted to 20% moisture content. Digestibility tended to decrease with increasing internal free fatty acid (IFFA) content up to 4 mg per 1 g of starch (dry basis) but did not change substantially for IFFA content greater than 4 mg. This result suggests that starch-fatty acid complex formation reaches saturation when IFFA content is approximately 4 mg and that further addition of fatty acid has no remarkable effect on digestibility.

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