われわれは72歳の高齢者において, 左側上顎智歯周囲炎を発症し, その際撮影されたパノラマX線写真によって右側下顎切痕部内側に埋伏歯が発見された1例を経験した。左側上顎智歯は抜去し, 右側下顎切痕部の埋伏歯には自覚症状および他覚症状がないため, 経過観察することにした。今後, 厳重に経過を観察し, 感染症状などが生じた際には抜去する予定である。
埋伏歯に惹起される障害としては, 義歯の不適合が生じたり, 埋伏歯の萌出が既存歯列へ悪影響を及ぼすことにより咀嚼障害や顎運動障害が発生したりまた感染などが生じるなどが挙げられる。高齢者の歯科診療において埋伏歯を発見した場合, 骨内に埋伏した場合はほとんどの症例において無症状に経過するため積極的に抜歯する必要はないと考えられる。しかし一方, 粘膜下に埋伏したものや一部萌出が認められるものは, 感染を起こす可能性が高い。感染は解剖学的な埋伏状態に起因し発生するため, 一旦, 消炎してもその解剖学的埋伏状態が変わらない限り, 感染が再燃したり, 感染-消炎を繰り返すことが多い。そのため, 一度感染を起こした埋伏歯は抜歯適応であると考えられる。
しかしながら, 重度の疾患 (全身的疾患) を有する患者であったり, インフォームドコンセントが得られない場合には抜歯を回避し埋伏歯を保存しなければならない。このような場合には, 一般歯科診療所で1ヵ月に1度の間隔で感染の有無をチェックすると同時に, 患者には特に埋伏歯の存在部を中心とした口腔清掃法を指導し, 何らかの自覚症状が発生した場合にはすぐに受診するよう指導することが重要である。
本例は高齢者であったにもかかわらず, 埋伏歯に感染症状が発生すると共に, 反対側の下顎切痕部に埋伏智歯が認められた大変まれな症例であったたあ, 若干の考察を加えて報告した。
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