目的: 近年, 歯の喪失が, 学習・記憶能力の低下を引き起こす一つの原因であることが明らかになってきた。一方で学習・記憶能力の低下は加齢とともに自然発症する。しかし, これまで, 歯の喪失が学習・記憶能力に及ぼす影響を, 個体の加齢に伴う全身的変化とともに検討した研究はみられない。そこで我々は, 老化促進モデルマウス (以下SAMと略す) を用い, 歯の喪失期間の違いと個体の加齢が, 学習・記憶能力に及ぼす影響を検討した。
方法: 実験には, 2ヵ月齢のSAMP8//Ymiのオス60匹を用いた。それらを, 対照として, それぞれ3ヵ月齢 (若齢期), 5ヵ月齢 (中年期), 8ヵ月齢 (老齢期) まで飼育したマウスをA群, B群, C群とした。これに対し, 上顎臼歯をすべて喪失させ, それぞれ3ヵ月齢, 5ヵ月齢, 8ヵ月齢まで飼育したマウスをa群, b群, c群とした。臼歯喪失方法は, 全身麻酔下で, 上顎両側臼歯すべてを抜歯した。学習・記憶能力については, 飼育期間終了後, 受動的回避実験により評価した。また老化度には, Grading Score System (老化度判定基準) を用いた。
結果および考察: 臼歯喪失を伴うSAMP8//Ymiでは, 臼歯喪失を伴わないものより早期に学習・記憶能力の低下を起こし, また, 老化が促進する現象も認められた。以上から, 臼歯喪失により, 個体の加齢現象が早まり, 同時に学習・記憶能力の低下も早期に出現したと推察された。
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