本研究は, 上顎概形印象採得時において高齢患者の血圧を測定し, 印象採得にともなう不安感, 不快感などの心理状態を分析することによって, 心理的背景が血圧変動に与える影響を明らかにすることを目的とした。
被験者は, 問診により循環器系疾患の既往のない高齢患者17名である。血圧測定には非観血的連続血圧測定装置を, 不安尺度の判定はSTAIを, また不快尺度の判定はVASを用いた。実験は, STAI (特性不安, 状態不安) ならびにVAS検査を行ない, 血圧が安定したことを確認した後に上顎概形印象採得を行った。印象採得後, 再度STAI (状態不安) ならびにVAS検査を行った。
心理的背景と血圧変動量との関係を分析した結果, 以下のことが明らかとなった。
1. 概形印象採得時の血圧変動量は, 印象前後の状態不安のクラス間に差は認められないものの, 特性不安のクラス間には有意な差が認められた。特に特性不安のクラスIII (普通) とクラスIV (高い) との間に有意な差が認められた。
2. 概形印象採得時の血圧変動量は, 状態不安減少値, VASの減少値との間に有意な関係は認められないものの, 印象前VAS値, 印象後VAS値との間には有意な関係が認められた。
以上のことから, 印象採得時の血圧変動量は, 特性不安によって示される患者の性格特性や, 不快感などの患者の心理的背景によって影響を受ける可能性が明らかとなった。
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