老年歯科医学
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25 巻, 1 号
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原著
  • 川名 弘剛, 菊谷 武, 高橋 賢晃, 平林 正裕, 田代 晴基, 福井 智子, 田村 文誉
    原稿種別: 原著
    2010 年 25 巻 1 号 p. 3-10
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/02/02
    ジャーナル フリー
    継続的な歯科医療者によるかかわりが要介護高齢者の義歯装着に与える効果を検討する目的で, 本研究を行った。対象は, 東京都同一区内に立地する介護老人福祉施設5カ所に入居中で臼歯部の咬合支持の喪失している要介護高齢者のうち, 平成18年4月 (調査開始時) より, 平成21年3月 (調査終了時) の間継続して観察が行えた者とした。うち介入2施設には, 歯科医師および歯科衛生士によって定期的な口腔機能の維持·向上を目的とした管理が行われ, 歯科医療の介入が必要な場合には, 積極的な働きかけが行われた。非介入3施設における歯科医療者の介入は, 患者の要請に基づき行われた。その結果, 調査開始時, 介入施設において義歯を使用していた43名のうち, 上顎義歯使用者は3年後に24名から19名に, 下顎義歯使用者は19名から12名に減少を示した (上顎 : 21%減, 下顎 : 37%減)。一方, 非介入施設において義歯を使用していた35名のうち, 上顎義歯使用者は3年後に24名から9名に, 下顎義歯使用者は22名から7名となった (上顎 : 62%減, 下顎 : 68%減)。介入施設では, 非介入施設よりも義歯使用が有意に維持されていた (p<0.05)。義歯の装着状況と関連を示した項目は, 障害老人の日常生活自立度の変化 (上顎 : p<0.01, 下顎 : p<0.01), 介入の有無 (上顎 : p<0.01, 下顎 ; p<0.05) であった。さらに義歯の使用に関連した項目として, 介入の有無が採択された (上顎 : オッズ比1.846, p=0.03, 下顎 : オッズ比1.301, p<0.05)。
    介入施設において義歯の使用を維持できたことから, 継続的な口腔機能管理が施設入居の要介護高齢者の摂食·嚥下機能への支援につながり, 食事に関するQOLの向上に寄与する可能性が示された。
  • 菅原 圭亮, 高橋 真言, 関根 理予, 河地 誉, 池田 千早, 藥師寺 孝, 高野 伸夫, 柴原 孝彦, 笠原 清弘, 片倉 朗
    原稿種別: 原著
    2010 年 25 巻 1 号 p. 11-18
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/02/02
    ジャーナル フリー
    超高齢社会の到来により, 近年他の癌と同様に65歳以上の口腔癌の増加が認められる。平均寿命の延長により高齢であっても根治的かつ術後機能を考慮した侵襲の大きな手術を施行する機会が増えている。1991年に提唱された全身性炎症性反応症候群 (SIRS) は, 侵襲によって全身的な炎症反応が惹起された状態で, 手術侵襲への生体反応の指標として用いられている。われわれは1998年1月より2008年3月までに東京歯科大学千葉病院口腔外科で頸部郭清術を行った口腔癌患者100名に対し, SIRSと術後合併症の発現について検討した。また, 65歳以上と65歳未満の年齢による差異と, 無作為抽出した6名の血中インターロイキン6 (IL-6) の経時的変動に関しても検討した。その結果, SIRSの発症は全例の35.0%にみられ, 非SIRS群と比較して年齢, 性差に有意差は認められず, 手術時間および出血量はSIRS群と非SIRS群を比較して有意差があった。65歳以上と65歳未満の2群間ではいずれも有意差は認めなかった。SIRS持続日数は平均1.9日であった。SIRS群では肺炎などの術後合併症は54.3%にみられ, 非SIRS群では9.2%であり有意差を認めた。術後1日目の血中IL-6が33 pg/ml以上である場合, 有意に術後合併症が認められた。口腔癌手術においてSIRSが発現した場合は, 術後合併症に対して十分な配慮をした患者管理が大切であると考えられた。
  • 成田 達哉, 塩田 洋平, 内藤 善仁, 福本 宗子, 黒崎 俊一, 山崎 彰啓, 祇園 白信仁
    原稿種別: 原著
    2010 年 25 巻 1 号 p. 19-25
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/02/02
    ジャーナル フリー
    高齢有歯顎者および無歯顎者の味覚受容機構を明らかにすることは, 高齢者の健康寿命の延伸に対する具体的方策であり, 重要な課題である。本研究では, 高齢有歯顎者および無歯顎者を対象に味物質の温度を変えて味覚検査を行い, 味物質の温度が味覚閾値に及ぼす影響について検討した。有歯顎者については口蓋床非装着および装着時, 無歯顎者については上顎総義歯非装着および装着時の両条件で実験を行った。味覚検査には全口腔法味覚検査を用い, 基本4味における各検査液温度 (5°C, 15°C, 30°C, 45°C, 55°C) での認知閾値を測定した。その結果, 有歯顎者群口蓋床非装着時と無歯顎者群義歯非装着時の比較では, 甘味の検査液温度30, 45°Cにおいて無歯顎者群で有意に高い値が認められた。有歯顎者群口蓋床非装着時と無歯顎者群義歯装着時では, 甘味のすべての検査液温度, 苦味の5, 55°Cにおいて無歯顎者群で有意に高い値が認められた。有歯顎者群口蓋床装着時と無歯顎者群義歯装着時では, 甘味の5, 30, 45, 55°C, 苦味の5, 55°Cにおいて無歯顎者群で有意に高い値が認められた。
    以上より, 長年義歯を装着してきた高齢無歯顎者の味覚閾値は, 高齢有歯顎者と比較して甘味および苦味では上昇する傾向を示した。しかし, 味物質の温度を変化させることでその影響が小となり, 食品の温度に工夫を加えることで無歯顎義歯装着者における味覚機能の減退を補償する可能性が示唆された。
  • 大神 浩一郎, 岡田 千奈, 田坂 彰規, 荻原 俊美, 上田 貴之, 櫻井 薫
    原稿種別: 原著
    2010 年 25 巻 1 号 p. 26-30
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/02/02
    ジャーナル フリー
    口腔清掃は要介護高齢者にとって誤嚥性肺炎などを防止する重要なケアの一つである。しかし, 介護老人保健施設や病院や病院の現場での口腔清掃は歯科関係者以外の現場職員に委ねられることが多いのが現状である。そのため, 口腔清掃に携わる者の職種の多さから認識程度も多岐にわたると考えられる。本研究の目的は効果的な口腔清掃を行うために, 職員の口腔清掃に対する認識の現状を明らかにすることである。
    介護老人保健施設およびリハビリテーション病院の職員計264名を対象に配布調査法によるアンケート調査を実施し, 各項目について単純集計を行った。また, 現在一人当たりの口腔清掃にかけている時間と一人当たりの口腔清掃にかけたい時間との間で対応のある差の検定を行った。
    有効回収数は195名 (73.9%) であった。その中で, 口腔清掃に興味がある者は71%, 口腔清掃を行ったことがある者は85%であったが, 64%の者が現在自分の行っている口腔清掃を不十分と感じていた。そして口腔清掃の実技指導の受講者は36%で, 97%の者が口腔清掃の指導を受けたいと回答した。また, 1人あたりの口腔清掃にかけたい時間と現在の口腔清掃にかけている時間の差は平均2.15.2分で, 有意な差が認められた。
    以上の結果より, 職員に対する口腔清掃の認識と技術の両面での更なる指導の必要性および口腔清掃の時間を十分に取ることができるような制度改革の必要が示唆された。加えて本結果は, 職員による口腔清掃の限界も示され, 歯科専門職による継続的な指導体制の確立と介入が不可欠であることが示唆された。
臨床報告
  • 間宮 秀樹, 一戸 達也, 金子 譲
    原稿種別: 臨 床 報 告
    2010 年 25 巻 1 号 p. 31-36
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/02/02
    ジャーナル フリー
    2006年1月から2008年12月までの3年間に, 東京歯科大学千葉病院歯科麻酔科外来に来院した認知症患者を対象とし, 診療録および麻酔記録をもとに患者背景, 行動調整法, 使用薬物の種類と量, 歯科処置内容などについて調査した。その結果, 総患者数19名, 総症例数101例のうち診察を除いた88症例に対して, 静脈内鎮静法50例, 全身麻酔法1例が行われていた。静脈内鎮静法下の治療内容は, 抜歯, 消炎手術, 根管治療, 歯石除去などであった。鎮静法使用薬物の種類と総投与量は, ミダゾラム (M)単独例 (19例) では1.8±0.8 mg, Mとプロポフォール (P) 併用例 (14例) では1.8±0.7 mgおよび51.2±22.7 mg, P単独例 (17例) では173.1±47.6 mgであった。全身麻酔症例はPによる全静脈麻酔下に抜歯4本と充填処置14本が行われていた。当科では, 侵襲的な歯科治療時には静脈内鎮静法が多く行われていた。Mの使用量は, 過去の当院における高齢者に対する使用量に近かった。全身麻酔法は非協力性の強い患者に対して, 多数歯う蝕の一括治療のために選択されていた。静脈内鎮静法, 全身麻酔法ともに術中, 術後に大きな偶発症の発生はみられなかった。口腔清掃や摂食嚥下訓練は, 歯科麻酔科医の監視下に継続して行われていた。
  • 磁石の反発力を応用した咬合調整法
    堀江 伸行, 渡邉 武之, 池田 浩子, 西山 留美子, 森 晶子, 鈴木 啓介, 鈴木 潔, 中川 種昭
    原稿種別: 臨 床 報 告
    2010 年 25 巻 1 号 p. 37-42
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/02/02
    ジャーナル フリー
    歯やインプラントによる維持·安定が得られない顎堤の著しく吸収した総義歯の咬合調整は, 咬合力により義歯の移動や床下粘膜の変形が生じるため, その早期接触部位の検出は通常の方法ではきわめて困難である。われわれは, そのような総義歯症例にも適正な咬合調整を可能にするために使用されるCoble balancerに着眼し, 磁石の反発力を利用して咬合接触部位の検出時に義歯を安定させる咬合調整用補助装置MAG-balancerを考案し使用してきた。今回われわれは, 上下顎顎堤が著しく吸収した総義歯症例に対して本装置を用いた咬合調整を行い, 良好な結果を得たのでその経過を報告する。患者は初診時年齢82歳, 女性。主訴は上下顎総義歯の動揺および咀嚼困難であった。上下顎残存顎堤は前歯部·臼歯部とも著明な吸収が認められ, 上顎前歯部は口腔前庭と歯槽頂が連続している。上下顎義歯を咬合させると推進現象も起きていた。通法に従い上下顎総義歯を製作した。臼歯部人工歯は咬頭傾斜35°の陶歯を選択し, 義歯の咬頭嵌合位をしっかりと決めて下顎位の安定を図った。推進現象を軽減するために排列に際して前後彎曲および側方彎曲は強めにしたが, 新義歯装着時にも推進現象が認められた。手圧による義歯床の適合試験では比較的良好な適合状態であったので, 咬合状態の不均衡が原因であると推測された。本症例のような義歯は, 従来用いられている方法では早期接触部位の検出が困難なため, 適正な咬合調整を行うことは難しい。そこでMAG-balancerを用いて咬合調整を行うことにした。MAG-balancerを用いた咬合調整後は明らかに推進現象の軽減が認められ, 早期接触部の除去を行うことができた。患者も疼痛を訴えることなく咀嚼可能となった。
  • 循環変動表示解析ソフトを用いた検討
    金 博和, 高田 耕司, 岡 俊一, 見崎 徹
    原稿種別: 臨 床 報 告
    2010 年 25 巻 1 号 p. 43-54
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/02/02
    ジャーナル フリー
    歯科治療時の循環変動をグラフィック化させるPCシステムを用いて, 静脈内鎮静法下口腔外科小手術時の年齢による循環変動の特徴について検討した。対象は, 抜歯術や嚢胞摘出術などを受けた20歳代, 40歳代, 60歳代の健常患者52例とした。プロポフォールによる静脈内鎮静法を併用し, 術前の基準値に対する術中, 術後の収縮期血圧 (SBP), 脈拍数 (PR) の変動率を二次元プロットした。座標点が軌跡する方向性を検討するために, SBP, PRから算出した変動係数 (CVSBP, CVPR) と, 座標点から算出した回帰直線の傾き (絶対値) を各年代で比較した。また, 術前に脈拍 (心拍) 変動解析 (HRV), 加速度脈波 (APG) を測定した。
    若年者では血圧に比べ脈拍数の変動が大きく, 加齢とともに脈拍数に比べ血圧の変動が大きくなり, グラフィック上で若年者では左右方向, 加齢に従い上下方向へと異なる軌跡が描かれた。すなわち, 加齢によりCVPRは小さく, CVSBPは大きくなり回帰直線の傾きは大きくなった。また, 術前のHRVおよびAPGは加齢により減少した。得られた軌跡に違いがみられた理由として, 加齢による自律神経活動の低下や血管の老化に起因することが考えられる。
    本システムによって循環変動を視覚的に描出することで, 健常患者が年齢ごとにどのような軌跡を描くかを把握することができ, 診療時のリアルタイムの全身状態の把握, 合併症の予測と早期発見の一助となる可能性が示された。
  • 冨田 かをり, 石川 健太郎, 新谷 浩和, 関口 晴子, 向井 美惠
    原稿種別: 臨 床 報 告
    2010 年 25 巻 1 号 p. 55-63
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/02/02
    ジャーナル フリー
    介護予防の柱の一つである「口腔機能の向上」プログラムの効果の経時的変化を検証する目的で, 本研究を行った。
    通所介護施設に通う高齢者のうち, 「介入群」として6名に対し, 3カ月間に6回の口腔機能向上プログラムを2週に1回提供した。その後11カ月の休止期間をおいて, 同様のプログラムを再度3カ月間提供した。この「介入群」に対して1回目の介入前後, 2回目の介入前後の計4回健診を行った。一方「健診のみ群」として, 12名に「介入群」と同時期に健診のみ行った。健診では口腔機能評価として, (1)RSST, (2)オーラルディアドコキネシス, (3)フードテスト, (4)口腔粘膜湿潤度テスト, (5)ぶくぶくテストの5項目, 口腔衛生評価として, (1)食物残渣, (2)舌苔, (3)歯·義歯の汚れの3項目を評価した。その結果, 「健診のみ群」ではオーラルディアドコキネシスで一部機能低下が認められたのに対し, 「介入群」においては期間中機能がほぼ維持できていた。しかし, RSST, 口腔衛生評価 などでは, プログラムにより検査値が向上するものの休止期間に元に戻る傾向が認められ, 継続的な介入の必要性が示唆された。さらに, 種々の理由からプログラムの中断を余儀なくされる者も少なからず存在することから, 継続できる環境づくりまで含めた支援が必要であると推察された。
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