老年歯科医学
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25 巻, 3 号
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原著
  • 森崎 直子, 三浦 宏子
    原稿種別: 原著
    2010 年 25 巻 3 号 p. 289-296
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/05/25
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は, 介護老人保健施設入所要介護高齢者の口腔内日和見感染微生物の保有状況を調査し, その関連要因を明らかにすることである。A県内の介護老人保健施設6施設に入所中の65歳以上の要介護高齢者150名を対象とし, 基本属性や口腔清掃方法, 摂食嚥下機能などについてのインタビュー調査と, 口腔内検体採取による口腔内日和見感染微生物の調査を行った。その結果, 口腔内から検出された微生物は, カンジダ (30.0%), 緑膿菌 (8.7%), 肺炎桿菌 (4.7%) などであった。また, これらの口腔内日和見感染微生物の保有状況は, 残存歯と補綴状況に関連があることが明らかとなった。一方, 口腔内日和見感染微生物の検出状況と, 施設での口腔清掃の実施状況との間には, 直接的な関連性は認められなかった。これらの結果から, 介護老人保健施設においては, 日和見感染症の予防については口腔清掃以外の対策の必要性が示唆された。
  • 北川 栄二
    原稿種別: 原著
    2010 年 25 巻 3 号 p. 297-306
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/05/25
    ジャーナル フリー
    静脈内鎮静法を高齢者に適用する際には, 循環動態の変化および呼吸抑制に注意が必要とされている。そこで, 当科で管理した静脈内鎮静法症例2,020例を対象に, 年齢別に4群 (60~74歳, 45~59歳, 30~44歳, 15~29歳) に区分し, 血圧, 心拍数および経皮的酸素飽和度 (SpO2) の変化を比較検討した。その結果, 1.60~74歳群では至適鎮静に必要な薬剤の投与量は少なかった。2.60~74歳群では全経過を通じて血圧は高く推移していた。また管理中の血圧が20%以上低下した症例数の比率が多かった。3.60~74歳群のみ, 鎮静法導入後および局所麻酔後も心拍数の変化に有意差がなかった。4.60~74歳群ではSpO2は低く推移していた。また, SpO2 93%以下を記録した症例数の比率は高く, SpO2の最低値は術後酸素投与を停止した後に記録する症例が最も多かった。
    以上のことから, 高齢者では, 鎮静に用いる薬剤の投与量が少なくても至適鎮静が得られるため, 過剰鎮静にならないように投与方法や投与量に注意が必要である。また, 他の年齢群よりも術中に血圧は低下しやすいことから, 連続した鎮静度の観察と循環動態の監視が必要である。さらに, 術後にわたって低酸素血症の可能性がより高く, 術後もしばらく酸素投与を継続したほうがよいと考えられた。
  • 中川 靖子, 柏崎 晴彦, 岡田 和隆, 松下 貴恵, 松田 曙美, 井上 農夫男
    原稿種別: 原著
    2010 年 25 巻 3 号 p. 307-314
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/05/25
    ジャーナル フリー
    シェーグレン症候群 (SS) は外分泌腺に対する自己免疫反応により腺組織が破壊され, 眼, 口腔などに乾燥症状を呈する疾患である。口腔乾燥症の認知度の高まりとともにSSの疑いがある高齢者は増加傾向にあり, 今後SSの病態と口腔乾燥症状に対する一層の理解が必要になると思われる。今回, SSにおける唾液腺病変と加齢の関連性を明らかにする目的で, SS患者の年齢と各種検査所見との相関を解析した。
    2005年11月から2009年12月までに北海道大学病院第二内科および高齢者歯科におけるSS外来を受診し, SSと診断された症例のうち同意が得られた27名 (男性3名, 女性24名, 平均年齢50.1歳) を対象とした。SS診断時に行った口唇腺生検とサクソンテスト, MRシアログラフィー (MRS) に関して年齢との相関を検討した。
    その結果, 年齢と口唇腺病理像との間に有意な逆相関を認めた (p=0.017)。サクソンテストによる刺激唾液分泌量とMRS所見については年齢との相関は認めなかった。また, 病型による分類では各分類群間で年齢に有意差はみられなかったが, 若年群で続発性および腺外症状のある例が多く認められた。
    これらのことから, SSにおける唾液腺病変は必ずしも加齢に伴い進行するとは限らず, 免疫学的変化や環境因子など複数の病態修飾因子が関与することが示唆された。
臨床報告
  • 関 智行, 新井 冨生, 山口 雅庸, 石川 文隆, 齊藤 美香, 大平 真理子, 平野 浩彦, 石山 直欣
    原稿種別: 臨床報告
    2010 年 25 巻 3 号 p. 315-321
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/05/25
    ジャーナル フリー
    ビスフォスフォネート (以下BPs) 製剤は骨代謝異常疾患に対して有効であり, その使用症例が近年増加しているが, それにともないBPs製剤に関連した顎骨壊死 (Bisphosphonate-related osteonecrosis of the jaw, 以下BRONJ) の報告も増加している。今回, われわれは多発性骨髄腫に対してBPs静注剤の投与を受けた患者で, 上下顎骨壊死をきたした剖検例を経験し, 口腔露出部顎骨と骨が露出していない下顎骨を病理組織学的に比較検討を行ったので報告する。
    症例は77歳男性。初診時, 上顎右側第二小臼歯部に骨露出を認めた。多発性骨髄腫に対してBPs静注剤の長期投与の既往があることからBPs関連顎骨壊死を考慮し, 抗菌薬投与と局所洗浄を行った。また, 多発性骨髄腫による骨症状がないことからBPsを中止した。初診3カ月後, 下顎右側犬歯から第二小臼歯部に新たな骨露出を認めた。初診6カ月後には上顎右側第一小臼歯が自然脱落した。初診8カ月後に間質性肺炎悪化にともなう呼吸不全で死亡した。剖検が行われ, 口腔に露出していた上下顎骨は病理組織学的に骨壊死を呈していた。また, 粘膜に被覆され骨が露出していない右側第三大臼歯頬側の下顎骨を検体として採取し病理組織学的に検索した結果, 骨小腔には骨細胞が散見され, 骨髄組織に慢性炎症像が認められた。
    BRONJにおいては, 顎骨壊死が露出領域を超えて顎骨未露出領域まで拡大している可能性が示唆された。
  • 伊川 裕明, 佐藤 一道, 齋藤 寛一, 會田 貴久, 内田 淳, 渡邊 裕, 外木 守雄, 神山 勲, 山内 智博, 片倉 朗, 田中 陽 ...
    原稿種別: 臨床報告
    2010 年 25 巻 3 号 p. 322-326
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/05/25
    ジャーナル フリー
    高齢者では身体各部の悪性疾患に対し, 加療に伴う機能障害や全身的な予備力の低下を勘案し, 積極的な治療を行わずに余命を全うする場合も少なくない。一方, 口腔癌は直視直達が可能な環境で, 患者自身が病期の進行を知ることができ, 治療を行わない場合, 癌の進展により食事や会話が次第に障害され, 生命予後と単純に比較できない大きな不安要素となる。今回, 肺および胃に原発悪性腫瘍で根治性がない未治療高齢症例において, 重複した口腔癌の治療を行った2症例を経験した。症例1は83歳の女性。下顎左側歯肉の腫脹を主訴に来院し, 臨床的に肺癌の口腔転移と診断した。治療は肺癌に根治性がなく終末期緩和医療を行うこととした。しかし診断から1カ月後, 腫瘍の増大により摂食機能障害を認めたため再来院した。QOLの改善を目的に放射線治療を開始し, 局所腫瘍は制御されたが, 放射線治療5カ月後に永眠された。症例2は85歳の男性。食事の際の舌の痛みを主訴に来院。根治性のない胃癌を伴い未治療のまま経過していた。第二癌舌腫瘍は扁平上皮癌であり, 腫瘍増大に伴って摂食困難と出血を認めた。舌腫瘍の切除が可能と判断し, 全身麻酔下に舌部分切除術と縫縮術を行った。術後, 摂食障害や局所再発はなく, 舌癌切除1年後に他病死された。高齢者数の増加とともに重複癌の増加が推測され, 終末期医療のなかで口腔癌の姑息的あるいは根治的切除がQOLの向上に寄与し, 他臓器に未治療の坦癌状態においても口腔癌の治療を検討する意義は少なくないと示唆された。
  • 梅本 丈二, 古谷 博和, 北嶋 哲郎, 酒井 光明, 喜久田 利弘
    原稿種別: 臨床報告
    2010 年 25 巻 3 号 p. 327-332
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/05/25
    ジャーナル フリー
    進行性化骨性筋炎 (FOP) は, 進行性に全身の筋膜, 腱などの結合組織に異所性の化骨が出現し, 重度の運動障害や呼吸障害を引き起こす常染色体優性遺伝疾患である。今回, 開口不能となったFOP患者の摂食·嚥下機能評価を経験したので報告する。
    (症例) 59歳, 女性。10歳頃より頸部の運動障害が生じ, その後徐々に全身の関節拘縮, 異所性骨化が進行した。高校生時に松葉杖が必要となり, 大学病院でFOPと診断された。39歳頃から顎運動障害が生じ, 徐々に食事摂取量が減少した。2007年6月, 56歳時に大牟田病院神経内科に入院となり, 以後ミキサー食を15度リクライニング位の全介助で摂取している。顎運動範囲は1 mm以内であり, 開口は不能であった。CT像では左蝶形骨から左下顎骨内斜線にかけての内側翼突筋部に化骨を認め, 開口不能の一因と考えられた。2007年12月6日の初回嚥下造影検査 (VF) ではミキサー食摂取に問題はなかったが, 嚥下運動時にほとんど喉頭挙上はしていなかった。その後唾液嚥下時のむせが報告され, VFでも水分の喉頭侵入が認められた。2009年9月10日に嚥下内視鏡検査を施行したところ, 煎餅の小片が喉頭蓋側縁部に約2分間停滞し, 複数回嚥下や嚥下促通手技によっても通過しなかった。FOP症例の舌筋や咽頭·喉頭筋には障害が生じないとの報告があるが, 本症例では嚥下関与筋群の障害が示唆された。
調査報告
  • -アンケート結果からの検討-
    村田 俊弘, 瀧 成和, 荒尾 良治, 長妻 満, 中村 新太郎, 山本 雅也, 陸野 隆弘, 綿谷 和也, 神田 矩夫, 臼本 鏡子, 小 ...
    原稿種別: 調査報告
    2010 年 25 巻 3 号 p. 333-339
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/05/25
    ジャーナル フリー
    急激な高齢化の進行にともない, 歯科訪問診療の需要も増加している。今回, 患者からの意見として, 歯科訪問診療が自立支援や介護軽減にどのように寄与しているかを調査するため, 受診者および家族に対してアンケートを実施した。
    平成11年4月から平成17年3月までに歯科訪問診療を受けた患者および家族 (181件うち65歳以上151件) に対して, (1)日常生活における介護負担の変化 (5項目), (2)口腔機能の変化 (3項目), (3)歯科訪問診療への評価 (3項目) について, 選択·記入式のアンケートを実施した。
    対象者の多くは, 脳血管疾患, 骨折·リウマチ, 神経筋疾患であり, 依頼内容は義歯調整, 摂食機能療法, う蝕·歯周病処置に関することであった。
    アンケートの回収は, 66名 (36.5%) であった。アンケート結果より, (1)介護負担の変化について「軽減した」が約40%, (2)口腔機能の変化について「改善した」が約40%, (3)歯科訪問診療の継続について「希望する」が約80%であった。多くの患者および家族が歯科訪問診療を受けて満足していると推察された。今後, 歯科訪問診療を受診した後の歯科保健に対する意識変化についても調査の必要性が考えられた。
活動報告
  • 菅原 圭亮, 高橋 真言, 河地 誉, 池田 千早, 藥師寺 孝, 山本 信治, 野村 武史, 高野 伸夫, 柴原 孝彦, 片倉 朗
    原稿種別: 活動報告
    2010 年 25 巻 3 号 p. 340-346
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/05/25
    ジャーナル フリー
    口腔癌の罹患率は他臓器癌と同様に増加傾向にあり, 超高齢社会の到来に伴い高齢の口腔癌患者の増加が認められる。他臓器癌と同様, 口腔癌においても早期発見·早期治療が治癒率の向上のためには最重要である。対策型検診により発見される癌の予後は非対策型検診群に対してきわめて良好であることはよく知られている。すでに胃癌·子宮癌·乳癌·肺癌·大腸癌においては対策型検診が普及しているが, 口腔癌においては対象になっていないのが現状である。当講座では千葉県下のさまざまな地域において歯科医師会と協力し, 毎年口腔がん検診を実施し併せて口腔保健の啓発活動を行ってきた。市原市において2005年から2009年まで5年間口腔がん検診を行ってきたが, 他の地域の検診と異なり市原市保健センターによる行政主導型の検診である。2004年に市原市行政より検診事業の要請が当講座にあり, 翌年から開始することとなった。検診は年2回, 市原市保健センターにて40歳以上の男女を対象に行われ, 検診業務は当講座が担当した。5年間で総受診者は1,047名, 男性271名, 女性776名であった。平均年齢は60.7歳 (男性62.4歳, 女性60.1歳) であった。「特に症状はないが, 機会があったので受診した」が最も多かったが, 約半数は痛みや腫れなどの受診動機をもっていた。生活歴においては男性のほうが女性より飲酒率, 喫煙率ともに高かった。口腔がん検診受診者の他臓器対策型検診の受診率では男性より女性のほうが高かった。前癌病変である口腔白板症10名を含め計51名を高次医療機関に紹介した。5年間で口腔癌は発見されなかった。行政主導で行うことで市のホームページや広報を使用し, 多くの市民の受診が可能となり, 予算の措置により継続性のある検診を行えている。また, 年齢制限をすることで口腔癌の好発年齢をターゲットにできている。喫煙·飲酒習慣のある口腔癌ハイリスク患者の受診率を向上させることが今後の課題である。
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