老年歯科医学
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30 巻, 4 号
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臨床報告
  • 田中 章寛, 和田 聡子, 祗園白 信仁
    2016 年30 巻4 号 p. 363-373
    発行日: 2016/03/31
    公開日: 2016/04/23
    ジャーナル フリー
     高齢者が要介護高齢者となる主な原因は,脳血管疾患後遺症,パーキンソン病や認知症といった疾患が多い。口腔機能を維持するためには,継続的な口腔のケアおよび咬合を支持する補綴装置が必要である。今回,訪問診療において,意思疎通困難な要介護認知症患者に対して義歯作製の経過と技工操作を含めた義歯補綴の術式について報告する。 症例 1:90 歳,男性,アルツハイマー型認知症。家族の訴えは「義歯を新しくしてほしい。上の入れ歯は金属なのでそのまま使いたい」。口腔内は上下顎総義歯を装着。治療方法は,複製義歯作製や既存義歯修理などの技工操作を中心に進め,上顎総義歯の口蓋金属床部分を残して人工歯置換とレジン部のリベース,下顎総義歯は新製とした。 症例 2:81 歳,男性,アルツハイマー型認知症。家族の訴えは「飲み込みが悪くなったのが気になる」。水分摂取はトロミを付けており,舌は上下運動。口腔内は上下顎総義歯を装着。治療方法は,上顎総義歯を治療用義歯として粘膜調整材にて水分にトロミを付けて嚥下運動を促し舌接触補助床(PAP)とした。 2 症例を通じて,治療用義歯や複製義歯の活用により,義歯作製時の身体的および精神的負担を軽減することができた。そして,新義歯装着後も継続的に義歯を使用し,咀嚼および摂食嚥下機能にかかわる口腔機能の維持・向上にも繋がったと考えられた。
調査報告
  • ─プログラム実施状況の実態調査─
    岡田 和隆, 島田 英知, 中澤 誠多朗, 山崎 裕
    2016 年30 巻4 号 p. 374-381
    発行日: 2016/03/31
    公開日: 2016/04/23
    ジャーナル フリー
     介護予防事業において口腔機能向上に関わる事業の取り組みは不十分であり,地域特性を考慮して実施したという報告は数少ない。本研究の目的は,積雪寒冷地域在住の在宅自立高齢者を対象に,タブレット端末による口腔機能向上プログラムが継続的に実施可能か否かを明らかにすることである。 札幌市南区在住の在宅自立高齢者 24 名(男性 12 名,女性 12 名,66〜81 歳)を対象者とした。実施前後に聞き取り調査を行い,口腔機能向上プログラムはタブレット端末を利用して 7 つの動画で提供した。対象者は積雪期の 5 週間,プログラムを実施した。 全員がタブレット端末利用未経験者であった。実施期間中のアプリケーションの起動は,週平均 6 日以上の者が半数であり,そのうち 2 名は毎日起動していた。最も起動していない者でも 5 週間で 7 日以上は利用していた。また,一人 1 日当たりのアプリケーション平均起動回数は最終的に 2〜2.5 回程度に収束する傾向を示した。実施後のアンケート調査により,多くの対象者がプログラムを継続的に実施することができ,今後も継続してみたいと思っていることがわかった。 以上より,積雪寒冷地域に在住する在宅自立高齢者において,口腔機能向上プログラムはタブレット端末により継続的に実施される可能性が示唆された。
  • 淀川 尚子, 西田 有希, 筒井 睦
    2016 年30 巻4 号 p. 382-387
    発行日: 2016/03/31
    公開日: 2016/04/23
    ジャーナル フリー
     歯科衛生士の職域が拡大しつつある現在,歯科衛生士を配置している施設と配置していない施設において,口腔ケアに関する施設職員の認識および口腔ケアの実施状況を調査し,高齢者施設における歯科衛生士の有用性について検討した。 対象は,高齢者施設 2 施設(A 施設:歯科衛生士配置なし,B 施設:歯科衛生士配置あり)に勤務する職員 96 名である。方法は,自記式質問紙による調査を実施し,口腔ケアの認識および口腔ケアの実施内容について Key Word を抽出し,質的に分析した。 さらに,口腔ケアの実施状況について歯科衛生士の配置の有無で比較検討を行った。 調査の有効回答数は,49 名(51%)であり,歯科衛生士などを除外した 47 名(49 %)を分析した。口腔ケアの認識について抽出された Key Word は両施設とも清潔保持,感染予防,誤嚥予防,肺炎予防,口腔機能に関するものなどが挙げられたが,B 施設では,会話,美味しく食べる,表情などの QOL に関連した Key Word もみられた。 さらに,口腔ケアの実施状況について比較した結果,口腔マッサージ,口腔および嚥下体操について B 施設が有意に高かった(p<0.05)。 以上の結果から,歯科衛生士が配置されている B 施設は A 施設に比べ,QOL の向上を目標とし,清潔保持や感染予防を目的とした口腔ケアに加えて,口腔機能の維持向上を重視した包括的口腔ケアをより高い割合で実施している傾向がみられた。したがって,高齢者施設における歯科衛生士の有用性が示唆された。
  • 伊原 良明, 小池 丈司, 野末 真司, 湯浅 研, 原田 由香, 髙橋 浩二, 丸山 文恵, 桐原 仁子
    2016 年30 巻4 号 p. 388-392
    発行日: 2016/03/31
    公開日: 2016/04/23
    ジャーナル フリー
     老人福祉施設において適切に食事介助を行うことは重要であり,適切な食形態,栄養摂取経路の選択は考慮する必要があると考えられる。今回われわれは,東京都世田谷区立特別養護老人ホームにおける施設と地域歯科医師会歯科医師(かかりつけ歯科医)との連携について調査したので報告する。 対象:嚥下障害の診断にて,かかりつけ歯科医が昭和大学歯科病院口腔リハビリテーション科に嚥下機能検査の依頼をした施設入居者。 検査,対応法の決定:かかりつけ歯科医,歯科衛生士が口腔内診査,口腔機能検査を施行し,口腔衛生管理の指導,機能訓練を行う。施設栄養士が必要な食形態を用意し,関係者の立ち会いの下,当科が嚥下内視鏡検査(VE)を施行する。検査結果および訓練,食形態はその場で指導し,それを基に職員がミーティングを行う。2 カ月に 1 度食事観察に当科歯科医師が立ち会う。 アンケート:かかりつけ歯科医,施設職員に対し摂食嚥下障害を疑う症状,摂食嚥下障害の対応で悩む点,VE の利点,欠点について調査を行った。 結果:嚥下障害を疑う症状,対応で悩む点の両方で「むせる」という回答が最も多く,VE の利点は貯留状態がわかる,誤嚥の有無がわかることが多かった。欠点は嚥下に対する理解が十分でなくわからないところがあることが挙げられた。 考察:本結果より摂食嚥下障害に対する医療連携を行うためには,介助者に対する知識,技能の指導,向上が必要であることが示唆された。
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