老年歯科医学
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32 巻, 2 号
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委員会報告
原著
  • ―テキストマイニングの手法を用いた検討方法の試み―
    高城 大輔, 林 恵美, 田中 洋平, 青木 亜梨沙, 飯田 貴俊, 藤川 隆義, 森本 佳成
    2017 年 32 巻 2 号 p. 72-79
    発行日: 2017/09/30
    公開日: 2017/10/12
    ジャーナル フリー

     本研究では,学生の感想文から本学で行っている老年歯科医学実習の有用性や改善点についての評価を行うことを目的に,学生に対して自由記述アンケート調査を行い,テキストマイニングの手法を用いて検討した。方法として,歯学部5年生を対象とした高齢者歯科学実習後に自由記述アンケート調査を実施した。その結果を基にテキストマイニングの手法を用いて解析し,サブグラフ検出と媒介中心性による共起ネットワーク図描画を行った。その結果,サブグラフ検出では全体の感想が7個の話題にグループ分けされ,多様な内容が示された。特に “もう少し” と “回数” “増やす” “臨床” が共起しており,それら感想の内容は実習回数の増加や症例写真の増量といった実習に対する要望であった。媒介中心性では,“実際” “実習” “高齢者” “歯科” “体験” “人” “悪い” という単語で中心性が高く,またこれらの単語間の共起関係もネットワーク図上に示された。これらの単語が共起している感想は,主に自身の体験を通じた高齢者への理解を示す内容であった。以上の結果から,学生は多様な感想を記述しており,特に自身の体験を通じた高齢者への理解を示す内容を中心に記載していることが示唆され,高齢者への理解の促進や教育的かつ啓発的効果が期待される点において,本実習の有用性があると考えられた。一方で,限られた時間でできるかぎりの体験を学生に提供するために,実習カリキュラムを改善する必要性が再確認された。

  • 成田 達哉, 塩田 洋平, 池田 貴之, 佐藤 仁, 濱野 裕, 細田 透, 谷口 洋平, 衹園白 信仁, 飯沼 利光
    2017 年 32 巻 2 号 p. 80-88
    発行日: 2017/09/30
    公開日: 2017/10/12
    ジャーナル フリー

     目的:本研究の目的は義歯安定剤の効果が,義歯の維持安定の状態によってどのように変化するかを明らかにすることである。

     方法:被験者の義歯をスコア化し,義歯の維持,安定が良好なG group 10名と,不良なP group 10名に層別化した。測定項目は義歯の維持力の指標として両側中切歯および習慣性咀嚼側第一大臼歯相当部の咬合力,総咬合力として歯列全体の最大咬合力,咀嚼能力,General Oral Health Assessment Index(GOHAI)とした。

     結果:G groupでは義歯安定剤非塗布時と比較して義歯安定剤塗布時でGOHAIスコアの心理社会面および合計スコアが高く,有意であった。P groupでは義歯安定剤非塗布時と比較して義歯安定剤塗布時で中切歯相当部咬合力,第一大臼歯相当部咬合力,総咬合力,GOHAIスコアの心理社会面および合計スコアが高く,有意であった。

     結論:義歯安定剤の使用は,状態が良好な義歯では主観的評価の改善に寄与していた。状態が不良な義歯では維持力,咬合力および主観的評価は改善するが,咀嚼能力には寄与しないことが明らかとなった。

臨床報告
  • 絹川 雅夫, 今田 良子, 竹前 健彦, 加治佐 枝里子, 松原 麻梨子, 田頭 いとゑ, 若杉 葉子, 中根 綾子, 戸原 玄
    2017 年 32 巻 2 号 p. 89-95
    発行日: 2017/09/30
    公開日: 2017/10/12
    ジャーナル フリー

     退院後の早期に在宅療養中の患者の食事と栄養状態を把握して,その状況に応じて栄養評価と摂食嚥下リハビリテーションを実施することは在宅療養の継続に重要である。今回われわれは,胃瘻造設して退院した在宅高齢者に対する早期の栄養評価と摂食嚥下リハビリテーションを併用した1例について報告する。

     患者は大脳皮質基底核変性症が原疾患の80歳男性で,認知機能障害と摂食嚥下障害が進行して誤嚥性肺炎を併発したことを契機に胃瘻を造設して退院した。われわれは,訪問歯科診療を実施した。在宅療養における状態は意思疎通が困難で寝たきりであった。身体計測と血液検査からの栄養評価は軽度栄養異常で,食事は胃瘻より濃厚流動食を摂取していた。在宅では経口摂取していなかったため,嚥下内視鏡検査を実施して経口摂取改善を目標とした。覚醒状態の改善や姿勢の保持が困難だったため,摂食機能訓練は間接訓練から開始して徐々に直接訓練も併用して介護者への指導も実施した。胃瘻からの経管栄養で栄養状態は改善したが嚥下障害の改善はされなかった。しかし,歯科訪問診療で栄養評価後に,摂食嚥下障害に対する間接訓練および直接訓練の実施や介護者への指導を実施して,さらに嚥下内視鏡検査を併用することで,患者本人の摂食意欲や介護者の摂食嚥下リハビリテーションに対する意欲が向上すると考えられた。

  • 大内 謙太郎
    2017 年 32 巻 2 号 p. 96-101
    発行日: 2017/09/30
    公開日: 2017/10/12
    ジャーナル フリー

     前頭側頭型認知症(FTD)を有する患者に対して,亜酸化窒素吸入鎮静法にクラシック音楽の聴取を併用することにより,歯科処置を終了しえた症例を経験したので報告する。

     患者は67歳,男性。義歯修理が予定されたが,連続する顎タッピングのために通常の治療は困難と判断され,全身疾患を有する患者の全身管理を専門とする全身管理歯科治療部へ紹介となった。既往歴として3年前にFTDと診断され,神経科精神科で外来加療中であった。

     全身管理を担当する歯科麻酔科医が口腔内を診察したところ,患者は口腔内に飴玉を含んでいた。今回,口腔内の飴玉除去への拒否感が強く,また顎タッピングのために歯科治療の実施が困難であったため,亜酸化窒素吸入鎮静法とクラシック音楽の聴取を併用して精神鎮静を図り,3回の歯科処置を行うこととした。

     1回目の歯科治療では,亜酸化窒素の投与開始3分後に飴玉を容易に吐き出した。2回目および3回目の歯科治療では,経鼻カニューラを装着したところ自発的に飴玉を吐き出した。亜酸化窒素吸入鎮静下で,顎タッピングなく3回の治療を終えた。

     理解度の低い認知症患者に対しては,静脈内鎮静法や全身麻酔法が適応となる。前頭側頭型認知症患者の歯科治療において,亜酸化窒素吸入鎮静法を用いたところ,円滑に歯科治療を施行できたことから,亜酸化窒素吸入鎮静法も認知症患者の行動調整の一方法となりうることが示唆された。

  • 市村 和大
    2017 年 32 巻 2 号 p. 102-109
    発行日: 2017/09/30
    公開日: 2017/10/12
    ジャーナル フリー

     摂食嚥下障害により誤嚥が起こると,炎症が生じることがある。今回,簡易CRP測定器の使用が摂食嚥下指導の一助となった症例を経験したので報告する。

     症例1は79歳の男性。食事中のむせが目立つようになり,平成28年12月中旬過ぎにCRPの測定を行ったところ3.5 mg/dLで中等度の炎症反応を認めた。摂食嚥下指導の結果,むせなどの症状は改善したが,翌年の1月上旬にCRPを測定したところ,3.7 mg/dLで依然炎症を認めたため,看取り対応に移行していくよう伝えた。その後同月の下旬,再度CRPの測定を行ったところ,20 mg/dL以上(測定器の上限)という結果となったため,本人の希望を聴取しながら食べたいものを中心に摂取させるよう指示した。そしてその翌朝,苦しむことなく眠るようにして亡くなっていった。

     症例2は90歳の女性。食事中のむせが目立つようになり,平成28年11月中旬CRPを測定したところ,2.9 mg/dLと中等度の炎症を認めたため摂食嚥下指導を行った。その後むせは減少し,同年12月上旬CRPを測定したところ0.8 mg/dL未満(測定器下限)という結果になったため,前回行った指導で問題ないと判断した。その後も安定した状態が続いたので,患者の希望に合わせ食形態を変更し,その都度定期的にCRPを測定し炎症が認められないことを確認することで,その変更が問題ないか判断していった。

     本症例により,簡易CRP測定器を摂食嚥下指導に用いることは有用である可能性が示唆された。

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