老年歯科医学
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33 巻, 4 号
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総説
原著
  • 佐藤 裕二, 角田 拓哉, 北川 昇
    2019 年 33 巻 4 号 p. 448-454
    発行日: 2019/03/31
    公開日: 2019/04/24
    ジャーナル フリー

     口腔機能低下症の評価方法の一つとしてオーラルディアドコキネシス(ODK)が挙げられる。ODKは1秒間に/pa/ /ta/ /ka/をそれぞれ何回発音できるかをカウントする。しかし,高齢者自身が簡便に測定することは困難である。そこで,本研究ではODKの簡便な自己評価方法を考案し,従来法と比較した。

     「ぱたか」と10個書かれた用紙を順に指さしながら発音し,自分で秒針のついた時計で時間を測定した(pataka 10回法)。また,同時に測定者がストップウォッチで時間の測定を行った。ODKの測定には口腔機能測定機器を用いた。結果を1秒ごとの発音数に換算した。被験者は高齢者27名で,測定はそれぞれ2回行い,その平均をデータとした。

     pataka 10回法はODKの/pa/と/ta/と/ka/に有意な正の相関を示し,pataka 10回法で被験者と測定者の測定結果は有意な正の相関を示した。ODKでいずれかが4回/s未満を舌口唇運動機能障害の閾値とし,pataka 10回法で被験者測定が6秒以上,測定者で5.5秒以上を閾値としたときの感度はともに1.0,特異度はそれぞれ0.90,0.95であった。

     新たに考案した方法は,閾値についてはさらなる検討が必要であるものの,患者による自己評価方法として有用である可能性が示唆された。

  • 木下 直彦, 本間 美知子, 小磯 京子, 石上 和男, 神原 正樹, 瀧口 徹
    2019 年 33 巻 4 号 p. 455-464
    発行日: 2019/03/31
    公開日: 2019/04/24
    ジャーナル フリー

     目的:新潟県の介護保険施設勤務の介護4職種(看護師,准看護師,介護福祉士,介護士)の入所者に対する口腔健康管理(口腔ケア・サービス)による全身状態改善に関する体験に着目し,質的解析法を用いて口腔健康管理の質の改善に資する情報を得ることを本研究の目的とした。

     方法:実体験の自由記載をKH Coderを用いて解析した。質問票回収者数1,548人(51.6%)のうち自由記載回答者は244人(16.1%)であった。自由記載の品詞分類に基づき,26項目,223語からなるコーディング・ルールを定め,共起ネットワーク分析などを行った。

     結果:本解析結果から,介護4職種との関連では口腔健康管理と身体状況変化の観察点と経験の差異が示された。すなわち,看護師と准看護師が肺炎・呼吸障害に,看護師と介護福祉士が栄養・摂食に,介護福祉士と介護士が歯科的な口腔部位にそれぞれ関心・意識が高いことを示した。

     結論:本調査から介護4職種間で口腔健康管理に関する観察の視点が異なることが考えられた。この観察の視点の違いの影響については今後の研究が必要である。

  • 森 啓輔, 小西 有望, 坂本 典子, 山田 知子, 江本 晶子, 小向 翔, 江口 由美子, 山下 佳雄
    2019 年 33 巻 4 号 p. 465-470
    発行日: 2019/03/31
    公開日: 2019/04/24
    ジャーナル フリー

     口腔衛生状態を良好に維持するためには,適切な湿潤状態を維持することが重要である。しかし,高齢者の多くは加齢による唾液分泌能低下,内科的疾患やその治療薬の副作用のため口腔乾燥症を発症している。高齢化に伴い,この口腔乾燥症患者は年々増加しているが,その多くは対症療法として口腔保湿剤を使用している。しかし,経済的な理由から保湿剤の適正使用ができていない場合も多い。今回,安価なグリセリンを主成分とした溶液が口腔乾燥症に対して応用可能であるかどうかを,鳥ムネ肉を検体として用いて基礎実験を行った。比較溶液としては蒸留水,市販の口腔保湿剤(バトラージェルスプレー®)を用いた。水分量は口腔水分計ムーカス®を用いて測定し,水分保持能力は水分量の変化率(処置前水分量-120分後の水分量/処置前水分量×100)と定義した。結果,鳥ムネ肉における120分後のグリセリン溶液群とバトラージェルスプレー®群では同等な水分保持能力を示した。また,グリセリン溶液濃度(12・24・36%)と水分保持能力には統計学的に有意な相関関係は認められなかった。

     今回の実験結果から,グリセリン溶液は市販の口腔保湿剤と同等な水分保持能力を有することが判明した。グリセリンは安価なことから,経済面からも長期使用が可能な口腔保湿剤の一つになりうると考える。

  • ―健常有歯顎者を対象とした予備的検討―
    𡈽田 優美, 古屋 純一, 大木 明子, 鈴木 哲也
    2019 年 33 巻 4 号 p. 471-481
    発行日: 2019/03/31
    公開日: 2019/04/24
    ジャーナル フリー

     舌機能低下を原因とする口腔期障害に対し舌接触補助床(Palatal Augmentation Prosthesis,以下PAP)が使用されている。PAPの形態は術者の経験に依存する部分が大きく,その形態に関する研究は少ない。本研究では,相同モデル理論を応用してPAPの三次元的形態を解析し,また,PAPの形態決定において重要とされる嚥下時舌圧との関連についても分析を試みた。

     健常有歯顎者11名(平均年齢26.7±8.4歳)を対象にスプリントによって実験的に咬合高径を挙上し,通法どおりPAPを製作した。このうち6名(平均年齢28.8±20.2歳)はスプリントとPAPを装着した状態での水嚥下時の舌圧をシート型舌圧センサにて測定した。PAPの形態分析には,PAPを光学スキャナでスキャンし,相同モデルを作成後,主成分分析を用いた.また,Pearsonの積率相関分析にて舌圧との関連を分析した。

     主成分分析では,PAPの形態で個人差が大きい部分は口蓋の高さ,正中部の厚み,前方部豊隆,全体の厚み,側方部豊隆であり,これらの形態によってPAP全体の形態が決定づけられることが示唆された。また,PAP前方部と側方部の豊隆は,嚥下時舌圧が低いほど豊隆が大きくなるという相関関係を認め,固有の嚥下時舌圧に合わせた調整の際には,PAP前方部・側方部の豊隆調節が重要である可能性が示唆された。

     相同モデル理論の応用により,形態決定時の参考となりうるPAPの基本的な三次元的形態が明らかとなり,また,PAP前方部や側方部の豊隆と嚥下時舌圧に関係があることが明らかとなった。

活動報告
  • 森田 浩光, 加藤 智崇, 太田 秀人, 久保田 潤平, 山添 淳一, 重冨 照子, 原口 公子, 川端 貴美子, 山口 真広, 熱田 生, ...
    2019 年 33 巻 4 号 p. 482-490
    発行日: 2019/03/31
    公開日: 2019/04/24
    ジャーナル フリー

     自然災害大国であるわが国において,今後起こりうる災害時の保健医療支援の取り組みとして,全国的に災害医療コーディネーター・災害歯科コーディネーター養成研修会が行われている。一方で,災害時歯科保健医療支援に派遣される歯科医療従事者の育成および支援者登録は十分とはいえない。そこでわれわれは,高齢者を含めた災害時要配慮者の口腔機能支援を行う支援者の養成を目的とした災害口腔医学研修会を企画し,開催した。

     研修会は,災害時歯科保健医療支援チームの一員として即時に歯科的トリアージ,口腔アセスメント,保健医療支援活動を多職種と連携して行うことができるよう研修会プログラムおよびテキストを作成し,講義と実習を織り交ぜた形式で1日コースとした。

     研修会は九州内で全3回開催し,歯科医師,歯科衛生士,歯科技工士のほか,看護師,医療事務および歯学部学生まで幅広い職種・学生の参加を得て,計104名の修了者を輩出した。

     研修会の前後にプレ・ポストアンケートで理解度を確認した。その結果,研修後に災害時歯科保健医療活動についての理解度の有意な向上がみられ,特に口腔衛生管理や食支援に対して歯科の役割を認識した参加者が大きく増加した。

     さらに,研修終了時には所属職能団体および大学などの災害時歯科保健医療支援者リストへの登録を依頼し,今後の災害時歯科保健医療支援活動へ積極的な参加を促した。

     今後は,さらなる支援者の養成や学生教育・臨床研修への導入を視野に入れて,活動を継続する予定である。

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