1989年開始の8020運動が功を奏し,2016年には80歳以上の20歯保有者が5割を超えた。本目標の到達には,第一次予防のうち啓発活動主体のpopulation strategyのみでは限界があり,WHOが提唱するhigh risk strategyが必要である。しかるに,いまだ未導入の主要な原因に研究デザインに関する倫理上の理由が挙げられる。たとえば,歯科健診で高度の歯周疾患を有する早期の咬合崩壊のハイリスク者とされた場合,そのまま放置せずさまざまな予防処置や治療を行い,歯を喪失しない方向で比較対照群を設けず介入を行うであろう。このことはいわば「ハイリスク者という予測が当たらない方向で介入することと同義」であり,結果的に有効なハイリスク判定指標の開発を難しくしていると考えられる。本研究では,初診時に20歯以上の現在歯を保持している中高年の患者404名を対象に近未来の咬合崩壊の端緒をサロゲートエンドポイントとし,初診時の予測指標の同定を試みた。咬合崩壊の端緒を現在歯数と推定咬合歯数および咬合支持域の3条件の組み合わせで捉え,最長6年半にわたって追跡しCox比例ハザード分析を行った。その結果,有意のハイリスク項目は,①年齢蓄積性,②歯間ブラシなどの不適切使用,③歯周ポケット対策などの量と質,④禁煙指導や糖尿病管理など歯科医科連携,および⑤大臼歯数左右差などの評価未確定要因,に分類された。
患者の咬合崩壊について,交絡因子を調整するためCox比例ハザードモデルなどを用いる分析法は有用であると考えられた。
当歯科はリハビリテーション科(リハビリ科)を起点として医科歯科連携を行っており,対象は主に入院患者である。今回,当歯科での活動報告として開設した2010年10月から2011年1月までの間にリハビリ科依頼となった急性期入院患者への口腔内検診の結果と2010年10月から2016年3月までの間に歯科介入した入院患者の実績について,診療録と当科データベースより後ろ向きに調査した。開設後の4カ月間に行った急性期におけるリハビリ科依頼患者への口腔内検診の結果,歯科介入の必要性は404人中259人(64%)であることが分かった。次に開設から5年5カ月の間に歯科介入した患者数は男性2,554人,女性1,829人(平均年齢72±13歳)であった。原疾患は呼吸器疾患755人(17%),脳血管障害746人(17%),消化器疾患593人(14%)と続いた。主な歯科介入の内容は口腔衛生管理2,668人(61%),義歯治療910人(21%),処方を要する粘膜治療426人(10%),保存治療212人(5%),抜歯145人(3%)であった。口腔内検診の結果より,急性期におけるリハビリ科依頼患者の約6割に歯科介入の必要性があり,歯科ニーズが潜在していることが明らかになった。歯科介入の内容は口腔衛生管理が最も多かったが,介入の内容は多岐にわたっていた。