老年歯科医学
Online ISSN : 1884-7323
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34 巻, 2 号
選択された号の論文の4件中1~4を表示しています
原著
  • 三浦 慶奈, 大久保 真衣, 杉山 哲也, 大房 航, 石田 瞭
    2019 年34 巻2 号 p. 127-135
    発行日: 2019/09/30
    公開日: 2019/10/17
    ジャーナル フリー

     サルコペニアは高齢者の口腔領域にも現れるとされている。われわれは舌の加齢変化による舌筋の萎縮と運動機能低下は,舌の厚さや筋力のみならず硬さにも影響があると考えた。本研究は,超音波エラストグラフィのうちStrain Elastography(SE)を用いて,安静時と液体保持時による舌の硬さの違いを測定することを目的とした。平均年齢26.1±1.1歳の健康成人10名(男性5名,女性5名)を対象とした。被験者座位にて,安静時と水およびとろみ水3 mLを保持した状態の舌の硬さと厚さを測定した。舌の硬さの測定には,超音波診断装置(Noblus,日立製作所,東京)のReal-time Tissue Elastographyの測定項目のうちStrain Ratio(SR)を用いた。各条件下で1人当たり7枚の画像を記録し,舌の硬さと厚さを測定して,その平均値を各代表値とした。また厚さから陥凹深度を求め,硬さとの関連についても検討を行った。被験者10名のSR値の中央値は,安静時が0.69,水保持時が0.48,とろみ水保持時が0.44であり,安静時と比較して水保持時において舌が有意に硬くなった。また水保持時の舌の陥凹深度は,安静時と水保持時の舌の硬さとの間に有意な負の相関関係が認められた。今後,超音波エラストグラフィを用いて高齢者の舌の測定を行い,他の条件や加齢変化についても検討を行っていきたい。

臨床報告
  • 湯川 綾美, 山添 淳一, 和智(千北) さとみ, 山田 朋弘, 和田 尚久
    2019 年34 巻2 号 p. 136-142
    発行日: 2019/09/30
    公開日: 2019/10/17
    ジャーナル フリー

     超高齢社会を迎えた日本では,認知症患者は2025年には700万人(約20%)になると推計されている。認知症患者の増加に伴い,歯科医療やケアの実施が困難となる患者が増加している。今回,認知症を合併している舌癌の高齢患者に対し,術前より包括的ケア技法を取り入れた周術期口腔機能管理を通して経口摂取支援を行い,良好に経過した症例を経験したので報告する。

     症例は67歳男性で,舌の疼痛を自覚し,近歯科医院受診後に当院顔面口腔外科を紹介受診した。舌・口底癌(T4aN2M0)の診断の下,腫瘍切除術および再建術が計画された。当院入院2年前に脳梗塞の既往があり,左上下肢の軽度麻痺および認知機能低下が認められた。術前より周術期口腔機能管理を行った。術後は摂食嚥下機能が著しく低下し,リハビリテーション(以下リハ)も困難と予測されたが,術後咽頭機能が維持されたため経管栄養を併用した嚥下調整食の一部経口摂取をゴールとした摂食嚥下リハを行った。リハ中は認知症患者への包括的ケア技法を取り入れた。リハに対する理解力不足や意欲低下から負担が大きい摂食嚥下リハ継続は困難と思われたが,退院時には設定したリハゴールを達成し,回復期病院転院後も口腔機能リハを積極的に継続し,現在にいたるまで約2年間機能維持ができている。口腔癌の手術後に極度に口腔機能が低下した認知症患者においても急性期病院入院中から適切にリハを行い,経口摂取を維持することでフレイルの進行を予防できることが示唆された。

調査報告
  • 大村 雄介, 小松 万純, 本田 健太郎, 田川 駿, 鈴木 大貴, 齋藤 寛一, 三條 祐介, 酒井 克彦, 野村 武史
    2019 年34 巻2 号 p. 143-148
    発行日: 2019/09/30
    公開日: 2019/10/17
    ジャーナル フリー

     本邦では急速に高齢化が進行しており,さらに高齢者の活動性が向上していることから,高齢者外傷が増加している。今回,われわれは高齢者顎顔面骨折の特徴や傾向を分析することを目的に,当科を受診した高齢者の顎顔面骨折症例について統計解析を行った。対象は,東京歯科大学市川総合病院歯科・口腔外科を受診した顎顔面骨折患者320名を65歳以上の高齢者群90名および64歳以下の非高齢者群230名に分類し後方視的に調査した。また,年齢・性別・既往歴・受傷原因・骨折部位・治療法について統計解析を行った。高齢者群は男性53.3%,女性46.7%であり,非高齢者群は男性75.7%,女性24.3%であり,高齢者群では非高齢者群と比べて女性の占める割合が多く(p<0.01),既往歴は循環器疾患,脳血管疾患,糖尿病を有する患者が多かった(p<0.01)。高齢者群における受傷原因は,非高齢者と比較して転倒の割合が有意に多く,スポーツや殴打の割合は少なかった(p<0.01)。骨折部位は,高齢者群では非高齢者群と比較し中顔面単独骨折の割合が有意に多く,下顎骨骨折の割合は少なかった(p<0.01)。治療法は高齢者群では観血的整復固定を行う割合が少なく,顎間固定や保存的治療を行う割合が有意に多かった(p<0.01)。本研究において64歳以下の非高齢者とは異なる高齢者顎顔面骨折の特徴と傾向が明らかとなった。高齢者の顎顔面骨折患者の特徴を把握し咬合機能回復を得るために補綴治療を含めた適切な治療法を選択する必要があると考える。

講演抄録集
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