老年歯科医学
Online ISSN : 1884-7323
Print ISSN : 0914-3866
ISSN-L : 0914-3866
36 巻, 1 号
選択された号の論文の17件中1~17を表示しています
学会の沿革
総説
原著
  • 藤本 けい子, 岩脇 有軌, 後藤 崇晴, 岸本 卓大, 永尾 寛, 市川 哲雄
    2021 年 36 巻 1 号 p. 44-52
    発行日: 2021/06/30
    公開日: 2021/07/19
    ジャーナル フリー

     目的:ATP拭き取り検査キットを用いた口腔衛生状態不良の評価方法について,口腔機能低下症で示された評価法と比較し検討することを目的とした。

     方法:2019年10月から2020年4月までの間に徳島大学病院歯科にてメンテナンスを行っている高齢者102名に対し,残存歯数の測定および口腔衛生状態不良の検査を行った。口腔衛生状態不良の検査では,舌苔付着度(Tongue Coating Index,TCI),細菌数測定装置による細菌数測定,およびATP拭き取り検査キットによるATP+AMP量の測定を行った。被検体は来院時すぐに10 mLの水で5秒間含嗽を行って吐き出した含嗽溶液と綿棒で舌背部を拭ったものとした。また,口腔内の衛生状態の包括評価として,5段階で口腔粘膜および義歯の主観的評価を行った。

     結果:舌背部の測定に関して,ATP拭き取り検査値とTCIにおけるSpearmanの順位相関係数は0.374(p<0.001),TCIと細菌数における相関係数は0.429(p<0.001),細菌数とATP拭き取り検査値における相関係数は0.388(p<0.001)であった。また,包括評価に関して,口腔粘膜の衛生状態とATP拭き取り検査(舌背部),ATP拭き取り検査(含嗽溶液),TCI,細菌数(含嗽溶液)との相関係数はそれぞれ-0.257(p=0.009),-0.274(p=0.005),-0.209(p=0.035),-0.321(p=0.001)であった。義歯の衛生状態とATP拭き取り検査値(含嗽溶液),TCIとの相関係数はそれぞれ-0.317(p=0.001),-0.232(p=0.019)であった。

     結論:ATP拭き取り検査キットによる測定は,食物残渣などを含む総合的な口腔衛生状態不良を客観的に評価できる可能性が示唆された。

調査報告
  • 靏岡 祥子, 高守 史子, 山下 佳雄
    2021 年 36 巻 1 号 p. 53-64
    発行日: 2021/06/30
    公開日: 2021/07/19
    ジャーナル フリー

     口腔機能の軽微な低下(オーラルフレイル)の放置により,要介護状態に陥る可能性があるため,早期に発見することが重要となる。

     本研究では,佐賀県の一地域歯科診療所を受診した患者52名(男性23名,女性29名,平均年齢:71.0±12.4歳)を対象とし,オーラルフレイルの自覚度合と口腔機能低下症の検査結果の相違について検討した。

     口腔機能低下症を認めた者は17名(32.7%)で,そのうちオーラルフレイルを自覚していない者は12名(23.1%)であった。オーラルフレイルの自覚度合との口腔機能低下症の検査結果との相違に関する要因は明らかにできなかったが,口腔機能低下症と年齢,要介護度,咬合支持域,身体的フレイルの関連が示唆された。口腔機能低下症を認めた群において,聖隷式質問紙,RSST検査それぞれの自覚症状と検査結果の一致率が異なっていたことから,嚥下機能の評価は聖隷式質問紙に加えてRSSTなどの客観的評価を行うことが望ましいと考えられた。今後,症例を増やすとともに検査内容を改善するなどし,さらに検討する必要があると考えられた。

  • 尾崎 公哉, 岡田 和隆, 馬場 陽久, 近藤 美弥子, 松下 貴惠, 渡邊 裕, 山崎 裕
    2021 年 36 巻 1 号 p. 65-71
    発行日: 2021/06/30
    公開日: 2021/07/19
    ジャーナル フリー

     目的:下顎腫瘍術後の口腔機能低下を補綴的に回復するためには,顎欠損や再建法,現在歯の状況など,多くの因子がその成否に関与するとされている。しかし,これまで下顎顎義歯の安定に影響を及ぼす因子について詳細な検討はなされていない。そこで本研究では,下顎腫瘍術後高齢患者に下顎顎義歯を装着した症例において,義歯の安定に関する因子を検討した。

     対象:2014年から2018年に北海道大学病院高齢者歯科にて下顎顎義歯を装着した65歳以上の下顎腫瘍術後患者で,装着後の経過を観察しえた10名。

     方法:顎義歯の安定をKapurの義歯の動揺の程度による評価法で判定した。Score 2を「良好」,Score 0および1を「不良」とし,良好群(7名)と不良群(3名)の2群に分けて義歯の安定に関係する因子を比較検討した。

     結果:下顎顎義歯の安定の良否について,いずれの因子においても2群間で有意差は認められなかったが,効果量では顎義歯の種類,デンチャースペース,皮弁の可動性・被圧縮性で顕著に大きく,支台歯数,下顎現在歯数,下顎顎義歯装着時の年齢,性別にも一定の効果が認められた。

     結論:下顎腫瘍術後に装着された顎義歯の安定は,顎義歯の種類やデンチャースペース,皮弁の可動性・非圧縮性に大きな影響を受けることが示唆された。本研究は症例数が少ないため,今後,症例数を増やしてさらなる検討が必要と考えられた。

活動報告
  • 堀内 玲, 中根 綾子, 奥村 拓真, 小谷 朋子, 米田 早織, 戸原 玄
    2021 年 36 巻 1 号 p. 72-78
    発行日: 2021/06/30
    公開日: 2021/07/19
    ジャーナル フリー

     栄養ケア・マネジメントの下,介護保険施設における経口維持の取り組みに対して訪問診療による支援を行ってきた。2020年には日本国内でもCOVID-19の感染者が増加し,介護保険施設に対し訪問診療を制限することを余儀なくされた。そこでわれわれは訪問診療で行っていたミールラウンドの代替手段としてオンライン診療を行い,対面診療とオンライン診療,電話診療について比較検討を行ったので報告する。

     対象施設は,都内にある2つの介護老人福祉施設で,緊急事態宣言下において通常の対面診療の代替としての求めに応じ,電話再診という枠組みでテレビ通話機能を利用しミールラウンドを実施した。診察は映像上で問診および指示を出しながら身体所見をとり,摂食嚥下障害スクリーニングテストの実施と食事観察を行った。おおむね対面診療に準じたミールラウンドを行うことが可能であったが,映像上だけでは判断が難しい点や,実際に口腔内や身体を触って得られる所見などは対面診療よりも情報が制限された。今後,頸部の音を拾うマイクや口腔内カメラなどを導入することで,頸部聴診,歯や歯肉,口腔粘膜の観察を行うことが可能となると考える。オンライン診療上でミールラウンドを行う準備は時間や機器の面でも医療者や施設でも整えやすく,患者は継続性のある医療を受ける権利があり,それらを実現できることが有益である。よって,今後オンライン診療の重要性は増すと考える。

feedback
Top