老年歯科医学
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36 巻, supplement 号
選択された号の論文の17件中1~17を表示しています
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認定医審査症例レポート
  • 吉田 早織, 古屋 純一, 戸原 玄
    2022 年 36 巻 supplement 号 p. 124-127
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2022/04/28
    ジャーナル フリー

     緒言:進行性核上性麻痺を有する高齢者に対して,摂食嚥下機能の評価と外食を含めた食事支援を行い,食べる楽しみを維持しながら継続的な摂食嚥下リハビリテーションを行った症例を経験したので報告する。

     症例:82歳の女性。進行性核上性麻痺と診断され,約6年後に誤嚥性肺炎にて入院し,主治医から胃瘻を勧められたが経口摂取を継続した。退院後,入居先施設の嘱託医より嚥下機能評価と摂食嚥下リハビリテーションを目的に当科へ依頼があった。口腔内は上下顎義歯が装着されており,近医の訪問歯科により口腔衛生は清潔に維持されていた。口腔機能検査では,舌圧,口腔粘膜湿潤度,舌口唇運動機能,咀嚼能力,咬合力は低下していた。ソフト食を3食経口摂取していたが「形がある物を食べたい」という希望があり,嚥下評価に基づいた段階的摂食訓練により,家族による持ち込みで軟菜一口大レベルの摂食が可能となった。施設と相談のうえ,昼食時に同レベルの食事が提供開始となり,徐々に朝昼2食へ移行した。また,「おいしい外食がしたい」という希望が強く,摂食医療資源マップを活用した外食支援を行うことで外出頻度が向上した。食上げをして半年後,徐々に体幹保持が困難となり頸部固縮を認め,食事は全介助となりむせが増えるようになった。そのため,施設での食事は再度ソフト食へ食下げとなったが,家族の持ち込みと外食によって食べる楽しみを維持している。

  • 野村 太郎, 古屋 純一
    2022 年 36 巻 supplement 号 p. 118-123
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2022/04/28
    ジャーナル フリー

     緒言:高齢者で多い舌部分切除術では,舌の可動範囲や形態の変化に伴って,摂食嚥下障害が惹起されることが少なくない。今回,舌部分切除術後に生じた高齢者の摂食嚥下障害に対して,舌の機能印象を用いて下顎義歯を製作することにより,準備期障害を改善した1例を報告する。

     症例:舌部分切除術後の70歳男性。下顎義歯舌側への食渣滞留を訴えて当科受診となった。使用中下顎義歯の右側舌側研磨面と舌側縁の間には,切除後の舌の体積減少による間隙が生じており,主訴の原因と考えられた。咽頭期障害はなかったため,不適合義歯を原因とした準備期障害と診断し新義歯を製作することとした。

     経過:本症例は舌切除術後,舌の体積減少により生じた舌と義歯の間隙をいかに義歯で代償するかを考慮して義歯製作を行った。下顎義歯製作過程において,舌接触補助床の製作方法を応用し,下顎ろう義歯の舌側研磨面にティッシュコンディショナーを貼付し舌の機能印象を行い最終義歯の形態に反映させたところ,良好な経過を得ることができた。

     考察:一般的に下顎義歯舌側研磨面形態はやや凹面に設定するが,本症例ではそのような形態では舌と義歯の間に大きな間隙が生じ,食渣滞留が生じていると考えられた。そこで,舌の部分切除により生じた舌機能低下を下顎義歯研磨面の形態で代償した結果,主訴の改善を認め患者のQOL向上に寄与することができた。

  • 安藤 麻里子, 古屋 純一, 戸原 玄
    2022 年 36 巻 supplement 号 p. 114-117
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2022/04/28
    ジャーナル フリー

     緒言:高齢者の摂食嚥下障害における最大の原因疾患である脳卒中は長期間の療養を要し,療養環境が変わることが多い。今回,摂食嚥下リハビリテーションによって,食に対する患者の希望を実現することで,普通食の摂取が可能となった症例を報告する。

     症例:脳卒中発症3日目に歯科受診となり,口腔管理と摂食嚥下リハビリテーションを言語聴覚士とともに開始し,ゼリーを用いた直接訓練が可能な段階まで改善した。転院先の回復期病院には歯科がないため,看護師と言語聴覚士に情報提供を行い,継続した口腔管理と嚥下リハビリテーションを訪問診療にて行い,早期の自宅退院を支援した。回復期病院入院中から食事への不満が聞かれており,生活期の自宅への訪問診療の際に,市販の嚥下調整食を勧めたが,患者の嗜好に合わず,対応に難渋した。

     経過と考察:急性期,回復期の継続的な摂食嚥下リハビリテーションによって経口摂取を回復できたが,生活期の自宅に戻ると食事への不満が強くなった。そのため,患者の希望する食事内容の調理方法と摂食方法を介護者に指導することで,日常生活のなかで段階的摂食訓練を継続し,最終的には患者の食に対する希望を実現できた。本症例から患者の希望は嚥下訓練ではなくあくまでも生活の一部として好きな食事をすることであり,それを可及的に実現したかかわり方が重要であることが示唆された。

  • 堤 康史郎, 柏崎 晴彦
    2022 年 36 巻 supplement 号 p. 109-113
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2022/04/28
    ジャーナル フリー

     緒言:乳癌術後再発骨転移に対してデノスマブを使用し,骨吸収抑制薬関連顎骨壊死(Antiresorptive Agent-Related Osteonecrosis of the Jaw:ARONJ)による腐骨形成を発症した患者に対して,大学病院専門外来と連携して歯科訪問診療にて義歯を作製し,良好な経過を得た1例を経験したので報告する。

     症例:初診時69歳女性。2016年11月,患者を担当しているケアマネジャーより依頼を受け歯科訪問診療を開始した。同年12月,相当部周囲歯肉に発赤・排膿を認め,義歯調整・消炎処置を行ったが改善されず,2017年1月,精査加療目的で福岡歯科大学医科歯科総合病院口腔外科(以後,福歯大口腔外科と略す)を紹介受診した。

     経過:2017年1月,福歯大口腔外科外来にてARONJの診断の下,消炎を目的に左側下顎骨の腐骨を開放創とした。その後,週1回の歯科訪問診療と月1回の福歯大口腔外科受診を並行して義歯調整と消炎処置を継続した。同年6月,露出した腐骨をリリーフする形態で下顎義歯を新製した。9月,福歯大口腔外科入院下で腐骨除去術を実施した。退院後も歯科訪問診療を継続し,2018年5月,下顎義歯をリライニングしてさらなる適合改善を図った。その結果,以前より摂取可能な食物が増えて体重増加を認めた。

     考察:ARONJを伴う要介護高齢者に対して,地域歯科医院による歯科訪問診療と大学病院の専門外来との連携を取ることで,義歯作製および腐骨除去は可能であった。適切な病診連携により要介護高齢者のQuality of Lifeを維持できることが示唆された。

  • 大森 友花, 古屋 純一, 佐藤 裕二
    2021 年 36 巻 supplement 号 p. 47-50
    発行日: 2021/12/31
    公開日: 2022/01/19
    ジャーナル フリー

     緒言:わが国における要介護の原因第2位は脳卒中であり,脳卒中後遺症を有する高齢者の口腔管理は歯科においても重要な課題である。今回,特別養護老人ホームに入所中の脳卒中後遺症を有する高齢者に対して,歯科訪問診療を行い,栄養状態と食事の自立度の改善につながった1例を報告する。

     症例:患者は初診時78歳の男性。脳出血後遺症による左片麻痺と認知機能低下があり,要介護状態となった。最近ADLの著明な低下を認め,特別養護老人ホームに入所した。入居時より喫食量が少なく,低栄養および虚弱の状態にあり,施設職員から訪問診療の依頼があった。診断は,上下顎義歯不適合による咀嚼障害および構音障害,口腔衛生不良とした。また,患者は義歯を自力で外すのが困難で,義歯を口腔内に装着したまま口腔清掃を行っていた。

     経過:初診時に使用中義歯の調整を可能なかぎり行い,口腔清掃指導を行った。その後,着脱の容易さに配慮した上下顎新義歯を製作した。新義歯装着後は,調整により疼痛なく経過し,食形態はペースト食から常食に改善することができ,喫食量も増加した。その結果,体重が増加し,低栄養の改善につながり,発語の増加や簡単な会話が可能となったと考えられた。また,適切な口腔衛生管理により,自力で着脱可能となるなど義歯の取り扱いを含めたセルフケアが向上した。脳卒中後遺症を有する高齢者では,義歯に起因する食事の問題を有することが多いが,歯科訪問診療によって改善できる可能性が示唆された。

  • 南 慎太郎, 菊池 雅彦
    2021 年 36 巻 supplement 号 p. 39-43
    発行日: 2021/09/30
    公開日: 2021/10/29
    ジャーナル フリー

     緒言:高齢者の増加により,循環器疾患を抱える患者が多くみられる。今回,循環器疾患により抗凝固療法を長期にわたり継続していた患者の全身状態と安全に配慮した処置が有効であった症例を経験したので報告する。

     症例:65歳,女性。20代に左頸動脈の高安動脈炎(大動脈炎症候群)を発症後,大動脈弁閉鎖不全を合併し,弁置換術・抗凝固療法を行っている。口腔内は,左側臼歯部ブリッジの動揺による咀嚼障害が認められた。

     経過:医科歯科連携を行い,全身状態を把握したうえで,安全に歯科的観血術(抜歯)施行,その後の補綴処置で咀嚼機能の改善が認められた。

     考察:数カ月の血液データの推移を分析し,ガイドラインに基づき,抗凝固薬継続下・術前抗菌薬投与下での観血的処置,患者希望に寄り添った補綴設計を行えたことが,予後良好の要因となったと思われる。

  • 河野 立行, 中島 純子, 上田 貴之
    2022 年 36 巻 supplement 号 p. 34-37
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2022/06/03
    ジャーナル フリー

     緒言:義歯不適合を主訴として来院した患者に対し,義歯製作を含む口腔健康管理を行うことで良好な結果が得られたので報告する。

     症例:86歳の男性。義歯が緩く,疼痛もあり食事しづらいことを主訴に来院した。上下顎総義歯を装着し問題なく使用していたが,近年,義歯安定剤を使用しても下顎床下粘膜に疼痛があり,食事がしづらくなってきたため来院した。口腔内は,上下顎床下粘膜に義歯性口内炎と思われる発赤があり,下顎に褥瘡性潰瘍を認めた。上下顎義歯は維持・安定不良であり,義歯の染め出し試験の結果から全体的に清掃不良であった。さらに,無歯顎であることや義歯の汚染が著しいことから,口腔機能の低下も疑われた。また,間質性肺炎のため在宅酸素療法を施行中であり,活動量や筋力低下も疑い,義歯不適合以外の食事困難感の要因の精査目的に口腔機能精密検査を施行した。その結果,口腔衛生状態不良,舌口唇運動機能低下,咀嚼機能低下および嚥下機能低下が該当した。以上より,上下顎総義歯不適合および口腔機能低下症と診断し,上下顎総義歯の製作を含む,口腔機能管理を実施した。なお,口腔機能訓練は段階的に行った。

     経過:義歯装着2カ月後には,主訴が改善した。舌苔の付着程度,佐藤らの咀嚼機能評価,グルコース溶出量による咀嚼能率,嚥下機能(EAT-10),反復唾液嚥下テスト,改訂水飲みテストでの改善が認められた。また,オーラルディアドコキネシスでは検査値の向上が認められた。

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