日本消化器がん検診学会雑誌
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53 巻, 4 号
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巻頭言
会長講演
  • 井上 和彦
    2015 年 53 巻 4 号 p. 443-452
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/15
    ジャーナル フリー
    死亡率減少効果を指標としたがん検診ガイドラインは重要である。また, 基礎実験や臨床研究で得られた結果をがん検診に応用する態度も大切である。胃がん発生にヘリコバクターピロリ(Hp)感染は必要条件と位置づけられ, その中で進展した胃粘膜萎縮は高リスクであることが明らかになっている。Hp抗体と血清ペプシノゲン法の組み合わせであるABC分類により胃がんリスク評価が可能であり, その問題点を十分理解したうえで, 上部消化管内視鏡検査など画像検査と適切に組み合わせた胃がん検診システムの構築が望まれる。その場合も科学的検証をしつつ, 一歩ずつ, いや, 半歩ずつ, 確実に進めなければならない。
原著
  • 中野 真, 三吉 博, 須田 健夫, 吉川 廣和, 松沢 良和, 松本 雅彦, 三好 和夫, 井上 幸万, 渕上 在彌
    2015 年 53 巻 4 号 p. 453-462
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/15
    ジャーナル フリー
    胃X線検診の精度を向上させるために読影基準を見直す目的で検討を行った。さいたま市大宮地区の胃がん個別X線検診で平成17年度以降発見された胃がん症例110例の背景粘膜の萎縮度と体部大弯の皺襞を検討したところ, 早期胃がんの約23%が高度萎縮の胃小区で, かつ体部大弯の皺襞が全くない症例であった。平成24年度より読影基準を改定し, 胃小区が高度萎縮であり, かつ体部大弯の皺襞が全くない症例と, 鳥肌胃炎を疑う症例を2次読影のみでcategory3として扱い要精査とした。結果は高度萎縮症例の中から4例の胃がんが発見され, 胃がん発見率は0.15%から0.19%に上昇したが, 要精検率を0.82%上昇させた。背景胃粘膜の萎縮を考慮した新たな読影基準は, 胃がん個別X線検診における早期癌発見率の向上に寄与する可能性があると考えられた。
  • 鈴木 英雄, 齋藤 洋子
    2015 年 53 巻 4 号 p. 463-470
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/15
    ジャーナル フリー
    胃がんリスク評価のABC分類を導入している75自治体にアンケート調査を行い, 60%から回答を得た。調査項目は導入時期, 通常の胃がん検診との関係, ペプシノゲン(PG)I, I/II比, ヘリコバクター・ピロリ(HP)抗体のカットオフ値で, 一部の自治体には追加で導入前後の胃がん発見率を調査した。導入自治体数は平成23年度以降に大幅に増加していた。通常の胃がん検診とは区別して行っている自治体が多かったが, 一部は胃がん検診の代用としていた。PGI, I/II比, HP抗体のカットオフ値はそれぞれ, 70ng/ml以下, 3以下, 10U/ml未満が最多であったが, I/II比を4以下としている自治体もあった。導入前後の胃がん発見率は, がん発見数が0の自治体を除くと, 導入前が平均0.20%, 導入後が平均0.31%であった。ABC分類の運用方法は自治体間で差があり, その利点を適切に評価するためには標準化と集約的なモニタリングが望まれる。
  • 古川 尚志, 平川 克哉, 頼岡 誠, 家守 光雄, 木村 史郎, 高宮 紘士, 野尻 五千穂, 山本 勉, 北川 晋二
    2015 年 53 巻 4 号 p. 471-483
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/15
    ジャーナル フリー
    福岡市大腸がん検診の現状を概観し, 個別検診における課題の抽出を試みた。問診票の検討では, 個別検診の38%, 集団検診の45%が有症状者であり, 血便を認める者の要精検率は, 個別検診14.9%, 集団検診11.8%と高い値を示すが, 精検受診率は個別検診67.4%, 集団検診61.8%と低く, ハイリスク者の大腸がんの発見および治療の遅れが懸念される。一方, 検診プロセス指標は, 対象集団の性・年齢構成比に影響を受けるが, 個別検診の施設形態別の検討でも, その値が大きく変動した(要精検率:健診機関6.62%, 病院7.93%, 診療所9.95%。精検受診率:健診機関78.7%, 病院59.9%, 診療所73.1%)。対策型検診としての個別検診の質を向上・維持し, 検診自体の信頼性を高めるためには, 精度管理の確実な実行とともに, 問診のあり方を含め, これらのハイリスク者へのアドバイスをどのように行うのかが今後の課題である。
  • 島田 剛延, 相澤 宏樹, 西野 善一, 内海 潔, 千葉 隆士, 加藤 勝章, 渋谷 大助
    2015 年 53 巻 4 号 p. 484-496
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/15
    ジャーナル フリー
    2004年4月から2005年12月の大腸がん検診受診者延べ111,510名を宮城県がん登録と照合し, 便潜血検査(マグストリームAS;カットオフ値は原則40ng/mlとした)から1年以内に発見された大腸癌346名を把握した。これらを発見契機別に検診発見癌304名と中間期癌42名(便潜血偽陰性36名, 精検未受診4名, 精検偽陰性2名)に分類し, 中間期癌の特徴とその減少策を検討した。プログラム感度は87.9%(粘膜内癌を除くと86.2%)と算出された。便潜血検査の感度に性差は認めず, 70歳以上あるいは近位大腸で低い傾向を認めた。便潜血偽陰性で遠隔転移が多く, 検診発見癌より予後不良だが, 外来発見癌とは同等だった。中間期癌減少数と要精検数から考えると, 陽性率5%となるカットオフ値30ng/mlが望ましいと思われた。逐年検診も中間期癌を減らすうえで重要であり, 継続受診を推進する対策が求められる。今後地域や施設間で比較を行う際には, 中間期癌の定義や検討方法を統一する必要があるだろう。
  • 高島 東伸, 乾 和郎, 廣瀬 光彦, 岩間 汪美
    2015 年 53 巻 4 号 p. 497-502
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/15
    ジャーナル フリー
    腹部超音波検診75,802例から発見した肝細胞癌12例, 転移性肝癌12例, 胆管細胞癌2例, 胆嚢癌1例, 膵癌10例, 腎癌33例の70例(0.092%)のUS所見をカテゴリー分類(以下, C:No)することで, 有用性や妥当性について検討した。結果はC:5が24例, C:4が39例, C:3が7例であった。肝細胞癌はモザイクパターンの3例がC:5で, 9例はC:4であった。転移性肝癌は9例(75%)が多発性(C:4)であった。膵癌は6例(60%)に主膵管の途絶(C:5)を認めた。腎癌では辺縁低エコー帯および内部の無エコー(C:5)は11例(33.3%)であったが, 均一な高エコー充実性病変(C:3)を7例(21.2%)に認めた。70例中63例(90%)がC:4以上で, カテゴリー分類によるがんの拾い上げは有用と考えられた。がんの早期発見にはC:3病変に伴う癌の特徴的所見や間接所見を見逃さないようにする必要がある。
  • 村松 和美, 佐々木 知美, 松本 直樹, 小川 眞広
    2015 年 53 巻 4 号 p. 503-508
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/15
    ジャーナル フリー
    2011年9月に日本消化器がん検診学会より「腹部超音波がん検診基準」が発表された。当施設でも試験的にカテゴリー分類を行った。対象は当施設で人間ドック受診の328名のうちカテゴリー3とした22症例を臓器別・事後指導区分別・超音波所見別に分け, その内訳について検討した。肝臓10例, 胆嚢5例, 膵臓2例, 腎臓3例, 脾臓2例あり, その内11例が経過観察, 残り11例は要医療と判定された。また直接所見13例, 間接所見8例, 高危険群1例に分類でき, 直接所見13例の内6例は過去画像と比較でき変化を認めず経過観察, 初指摘は要医療と判定された。間接所見は過去画像との比較に加え血液検査結果を考慮し事後指導が決定された。原因不明の管腔拡張症例では原因追究の為に要医療と判定された。高危険群は検査時の超音波所見が重視され事後指導が決定されていた。今回の検討からカテゴリー3症例を事後指導の観点からさらに分類できるのではないかと考えられた。
症例報告
  • 斎藤 健一郎, 宗本 義則, 高嶋 吉浩, 天谷 奨, 飯田 善郎
    2015 年 53 巻 4 号 p. 509-513
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/15
    ジャーナル フリー
    症例は58歳女性。毎年当院で人間ドックを受けており, 便潜血検査は陰性であった。直近の人間ドックは2013年1月で, 便潜血陰性であった。同年7月に腹痛を主訴に当院を受診し, CT検査で直腸癌による腸閉塞と診断された。高度の腹痛を認めたため, 緊急でハルトマン手術を施行した。切除標本の肉眼型は4型, 大きさは50×45mmで, 病理診断はtub2>por2, pT3(ss), ly3, v2, pN2(23/25)であった。造影CTおよびPET-CT検査で多発肝転移を認め, これらは切除不能と判断し, 化学療法を開始したが, 術後13ヵ月で原病死した。定期的な検診を受けていたにも関わらず進行した状態で診断された教訓的な症例であり, 文献的考察を加えて報告する。
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