日本消化器がん検診学会雑誌
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58 巻, 6 号
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巻頭言
総会長 報告
総説
  • 松田 一夫
    2020 年 58 巻 6 号 p. 972-982
    発行日: 2020/11/13
    公開日: 2020/11/13
    ジャーナル フリー

    日本の大腸がん年齢調整死亡率は1996年頃から減少に転じたが,2016年には先進7か国の中で日本がもっとも高い。日本では1992年から免疫便潜血検査2日法による大腸がん検診を開始したものの,十分に効果を発揮しているとは言えない。

    日本における大腸がん検診の問題点は,①地域保健・健康増進事業報告(2016年)による精検受診率が68.5%に過ぎず,②国民生活基礎調査(2016年)による検診受診率が41.4%と低いことである。一方で英国では便潜血検査を用いた組織型による大腸がん検診が行われていて2015年の受診率は50%を超え,精検受診率も80%以上である。加えてイングランドではS状結腸鏡による検診も開始された。米国では10年に1回の全大腸内視鏡を主とした大腸がん検診が行われ,2015年の受診率は60%を超えている。その結果,英国および米国の大腸がん年齢調整死亡率は着実に減少し,今や日本よりも低い。

    日本の大腸がん死亡率をさらに減少させるには,まず便潜血検査による大腸がん検診の精検受診率を高め,さらに職域を含めすべての国民に受診勧奨して受診率を高めること,加えて大腸内視鏡検診の検討も必要である。

原著
  • 曽我部 正弘, 岡久 稔也, 中園 雅彦, 高山 哲治
    2020 年 58 巻 6 号 p. 983-995
    発行日: 2020/11/13
    公開日: 2020/11/13
    ジャーナル フリー

    【背景】Esophagogastroduodenoscopy(EGD)検査における鎮静剤のセデーションは被検者の苦痛軽減に有用であるが,偶発症の懸念もあり鎮静剤に代わる方法や工夫が望まれている。今回我々は視覚刺激によるdistractionのEGD受診者への影響について検討した。

    【対象と方法】対象はEGD受診者130名。Control群(C群)はEGD前に15分間安静とし,Distraction群(D群)は15分間安静かつ間接照明下で自然映像を視てもらった。EGD前,中,終了10分後にバイタルサインと自律神経機能を測定した。

    【結果】EGD前(安静15分後)におけるD群の脈拍,血圧は有意に低下した(p<0.01)。EGD終了後におけるD群の脈拍はC群に比べ有意に低かった(p<0.05)。D群におけるEGD前(安静15分後)およびEGD終了後のLog HF powerはC群に比べ有意に高く(p<0.01),安静15分後のLF power/HF powerは有意に低かった(p<0.001)。

    【結語】EGD前の視覚刺激によるdistractionは被検者の循環動態・自律神経機能の安定に有用である可能性が示唆された。

  • 尾上 耕治, 宮﨑 貴浩, 吉山 一浩, 北村 亨, 篠原 立大, 木原 康, 南 寛之, 楠元 直, 石川 直人, 稲倉 琢也, 吉田 朗 ...
    2020 年 58 巻 6 号 p. 996-1003
    発行日: 2020/11/13
    公開日: 2020/11/13
    ジャーナル フリー

    宮崎市は1996年度より胃X線による個別検診を施行しているが,受診者数の伸び悩み,読影委員の補充が困難,検診のみ利用の高額な機器の更新は困難などの問題がでてきた。そのため,2013年度より胃がんリスク層別化検査(ABC分類)を開始した。2017年度までの5年間のABC分類結果を検討しその有用性を報告する。5年間の受診者数は43,990人,要精検者数(率)16,078人(36.5%),精検受診者数(率)11,173人(69.5%),発見胃がん124人(発見率0.28%),早期がん102人(早期がん割合82.3%),陽性反応適中度0.8%および胃がん1例発見に要する費用は約393万円であった。ABC分類は要精検率が高く陽性反応適中度が低いという問題があった。しかし,胃個別X線検診と比較して,受診者数は多い,発見胃がん人数は多い,胃がん発見率は高い,早期がん割合は高いおよび費用も安いなど利点が多かった。

  • 原 裕一, 小林 広幸, 恒吉 正澄
    2020 年 58 巻 6 号 p. 1004-1014
    発行日: 2020/11/13
    公開日: 2020/11/13
    ジャーナル フリー

    好酸球性食道炎(eosinophilic esophagitis;EoE)は本邦では稀な疾患と考えられていたが,近年その報告数が増加している。当院で2010年12月から2019年1月までに人間ドックを中心として行われた上部消化管内視鏡検査にてEoEに特徴的とされる内視鏡所見及び食道上皮からの生検で好酸球浸潤(15個以上/HPF)を認め,EoE疑いと診断した症例を90例経験した。そのうち症状の有無を確認できた67例を対象とし,有症状群,無症状群に分類し臨床像,内視鏡所見を検討した。臨床像では有症状群のほうが無症状群より診断時年齢が若く,びらん性逆流性食道炎の合併を多く認めた。EoEに特徴的な内視鏡所見の比較では有症状群の方が無症状群と比較し,輪状溝が多くみられた。EoEは近年報告例が増加しており,今後胃がん検診目的の内視鏡検査でもEoEに特徴的な内視鏡所見に遭遇する機会が増加すると考えられる。その場合は不必要な生検はさけるべきであるが,EoEを念頭に置いて症状の有無を再確認し治療介入を検討すべきと思われる。

  • 大島 奈々, 入口 陽介, 小田 丈二, 水谷 勝, 冨野 泰弘, 山里 哲郎, 依光 展和, 園田 隆賀, 岸 大輔, 橋本 真紀子, 清 ...
    2020 年 58 巻 6 号 p. 1015-1024
    発行日: 2020/11/13
    公開日: 2020/11/13
    ジャーナル フリー

    3年以内に当センターで全大腸内視鏡検査(以下,TCS)歴がある進行癌を「経年発見進行癌」と定義し,その特徴を解析し,大腸内視鏡検査の精度向上を目的として検討を行った。2010年4月から2018年3月の8年間に当センターで施行したTCS43,852件のうち,全悪性腫瘍発見数は3,020例で,このうち経年発見進行癌は19例(0.6%)であった。盲腸や上行結腸などの高い半月ヒダの裏や屈曲部,憩室による伸展不良部位に多く,これらはTCSでの観察不良部位と考えられた。その他,前処置不良による偽陰性症例や大腸術後の術式把握不足,憩室内発生,ポリープ癌化などの症例が存在した。大腸がん検診の二次精密検査であるTCSの精度向上に向けて,観察不良部位を念頭においた検査の工夫を行うことは重要である。

  • 川中 美和, 浦田 矩代, 石井 克憲, 谷川 朋弘, 中村 純, 笹井 貴子, 末廣 満彦, 春間 賢, 眞部 紀明, 角 直樹, 鎌田 ...
    2020 年 58 巻 6 号 p. 1025-1036
    発行日: 2020/11/13
    公開日: 2020/11/13
    ジャーナル フリー

    【背景】Non-alcholic fatty liver disease(NAFLD)を含む脂肪肝において,肝線維化進展は予後にかかわる重要な因子である。人間ドック症例で腹部超音波を行った症例の肝線維化進展例についての検討を行った。

    【対象および方法】2018年1月から12月までに人間ドックで腹部超音波検査を施行した1,141症例に対して,肝線維化進展群をFIB-4 index(ALT,AST,血小板,年齢から肝線維化高リスク群を算出,<1.3,1.3-2.66,≧2.67)を用いて検討を行い,それにかかわる因子とALT値との関連につき検討した。

    【結果】高リスク群は42例(3.7%)に認められ,その因子として男性,脂肪肝あり,HbA1c≧6.5%,高血圧などの生活習慣病の因子があげられた。また,高リスク群とALT値に関連はなく,ハイリスク群の26.2%がALT51 IU/L未満であり,血小板10万未満の症例は認めておらず,検診では異常を指摘されない可能性が示唆された。

    【結語】肝線維化進展例を拾い上げるためには,ALT値では不十分であり,FIB-4 indexなどの簡便な非侵襲的な線維化の診断を検診にとりいれる必要があると思われた。

症例報告
  • 村尾 高久, 松本 啓志, 塩谷 昭子, 角 直樹, 鎌田 智有, 藤田 穣, 眞部 紀明, 末廣 満彦, 春間 賢
    2020 年 58 巻 6 号 p. 1037-1042
    発行日: 2020/11/13
    公開日: 2020/11/13
    ジャーナル フリー

    胃内視鏡検診にて発見された十二指腸腫瘍性病変の5例を報告する。4例は表在型非乳頭部十二指腸上皮性腫瘍(superficial non-ampullary duodenal epithelial tumor;以下SNADET)で1例は十二指腸原発濾胞性リンパ腫であった。すべての病変は十二指腸下行部に認めた。3例のSNADETは内視鏡的粘膜切除術が施行され,1例のSNADETは外科的切除術が行われた。十二指腸原発濾胞性リンパ腫に対しては化学療法が行われた。5例とも治療後は再発なく経過している。今回我々が経験した5例とも十二指腸下行部に病変を認め,胃内視鏡検診でも十二指腸下行部まで観察することが望ましいと思われた。

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