本研究では, 二〇世紀初頭のモダニスム建築の台頭期に活躍した建築家であり, また, モダニスム建築に関する著述家としても著名なアルベルト・サルトリスをとりあげ, 図的表現法の立場から彼の建築ドローイングを再評価した.検証は主として二つの側面からなされた.第1は, 形成期における彼の受けた製図教育とその実践からの考察である.第2は, 上記に基づいて描かれたと考えられる具体的な建築ドローイング (図面) の分析である.その結果, 以下のことが明らかとなった.1) サルトリスはジュネーヴの美術学校で図法幾何学を習得し, これに基づいた幾何学的立体の製図教育を受けた.更に, これを建築へと応用する教育体系の下で製図技法を習得した.2) しかし, 彼の製図技法の習得は学校教育だけでなく自宅での実践によっており, その背景には彼のドローイングに対する並々ならぬ関心が存在する.3) 彼の現代芸術に対する関心は, 彼の父が木彫家であり, その装飾図面をよく見ていたこと, 並びに, 彼が無類の本好きであったあったことに由来する.また, 当時のアヴァンギャルド芸術家との交流も深かった.4) 彼の建築ドローイングにおける色彩利用の多様性は, 彼に先行するデ・スティルやル・コルビュジエに比して著しい.また, その多様性のピークは1932-3年と考えられる.5) 彼の建築ドローイングには自然物の形象描写が見られないという特徴が見られる.
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