書や絵画による装飾が施された日本の扇は, 独自の表現様式をもつ.日本からもたされ, 西欧や中国で制作された扇面画は, 見える情景を扇形の窓で切り取ったように描かれるから, その図に歪みはない.しかし日本の扇面画の情景は歪みをもって描かれる.日本の伝統的な絵画の空間表現は, 建物などが斜投象や軸測投象的に描かれるが, 扇形画の建物は, 三点透視や逆遠近法のように見えることが多い.扇面画の構図には放射性, 彎曲性, 進行性の3つの特性があると言われる.本論では, 《源氏物語扇面散屏風》の中の扇面画から, 扇面の扇形画面を矩形画面に再現し, これらの特性の観点から描かれた空間表現を検討した.その結果, 扇面画は, 伝統的な空間表現によって描かれた図を単純に扇形画面に変換したとは言い難く, その独特な画面に絵師によって図を嵌め込むように描かれていた.そしてそれらは, 日本人の特異性が現れていると思われる.
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