彫刻の古典的模刻技法に「星取り法」と呼ばれる方法がある.古代ギリシャに原理的な起源を持ち, 複雑な人物像を, 大理石から精確に彫り出すために発達した, 機械的転写の技法である.だが, 彫刻とは単純に外形に還元できるものではなく, 転写の過程には形以外の質的なものが彫り込まれなくてはならない.彫刻家の創意はここに働き, この技法を用いながらも, 複製には尽くされない同形のオリジナル作品を作り出すことが出来る.したがって, この技法による造形的な現象の解明は, 芸術作品の複製とオリジナルという問題の構造を明らかにする手掛かりとなる.その際有効なのが, 一切の機械的手法に依らない「直彫り法」との対比であり, 感覚と形態の問に介在するラインの感覚の考察である.「星取り法」による形状の固定作用を図の固定的性格から説明し, 作品のオリジナル性については, 「直彫り法」に見られるラインの感覚のダイナミズムに根拠を求めてみた.また本論末尾では, 星取り法を用いた創造的な取組の実例として, ロダンに言及する.
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