著者は阿片〓者の味覺及皮膚の空間知覺の敏さが著しく低まつてゐることを見出し,之を實地診療に應用して來たが,其れの對照として味覺閾及皮膚空間知覺閾の標準値を定めるべく且つは民族生物學的見地から健康滿人(漢人種)の調査をなしたものが本報告の内容である。
1.味覺閾に就ては第7表(p.370)に示す樣な結果を得た。
1.味覺閾には男女の差は證明されない。
3.年齢による差は苦味(鹽酸モルフイン)鹹味(食鹽)酸味(鹽酸)に於て年長者は年少者よりも稍々鈍といふ形に現はれてゐる。
4.酸味に於ては歐洲人に比して鈍感の樣に見られる結果が出たが,其の原因に就ては今後の檢討に俟たなければならない。
5.同時空間閾をエステジオメーターで測つた結果は概括して第10表及第11表に掲げた。
6.手背,足背,背部,上膊,上腿即ち總じて空間辨別の比較的精緻ならざる部位に對する閾値が諸書に引用されてゐるWeberの古典的な値に比して小さいが氏の値は一例的なものであり且つ概數で示されたものであるから,著者の成績と比較論評するのは適當でない。
7.空間知覺は年齢の長ずるにつれ相對的に鈍化する傾向が認められる。
8.男女差は背部,上膊,上腿の空間闘に於て認められ何れも女の方が敏感である。
9.空間閾の計測法として從來から慣用されてゐるものは必しも端的切實なる知覺判定の精度を見出すに適せず,思考判斷の手續による高級な辨別能力の働きが關與した廣義の知覺の精度を見てゐるものであることを指摘し,且つそれが却つて著者の當面の目的に適ふものであることを述べた。
抄録全体を表示