美和村五部落常会に属する726組の夫婦(血族婚の頻度20.5%),及び戸台部落を除外した四部落及びこの寄留者等を含めた745組(血族婚の頻度19.2%)の血族婚,非血族婚を対比して若干の分析を試み次の結論を得た.
1.血族結婚は上位生活者に圧倒的に多い.これについては資産を血族に譲ろうとする同族愛の意識が,直接間接,意識的無意識的に働いていると解訳される.
2.上位生活者には一世帯に二組以上の夫婦が同居する世帯が多いが,血族婚が特別に大家族制の傾向をとつてはいない.
3.学童の体格は身長,胸囲に於て血族婚の子女が大きく,体重,坐高に於て小さい傾向を示唆しているが,両者の間に明かな差があるとは云えない.
4.学童の智能検査成績は智能偏差値の平均値に於て血族婚の子女と非血族婚の子女の間に有意の差はなく,智能偏差値分布図も両者略同様な曲線を示している.又担任教師のつけた各個の成績順位の平均百分位の値,及び点数式の各個の能力評価の平均値を比較しても血族婚の子女と非血族婚の子女との間に差は認められない.
5.村内公職者(村長,区長,青年団長)の親が血族結婚であつた率は明かに小さい.しかしこれらの公職者自身及びその嗣子の血族結婚の率は村内の一般と比べて決して小さくない.
6.先天的劣悪形質を有する者は本村では血族結婚の子女に却て少ない.学童の智能検査に於て最劣者が非血族結婚の子女に比し,血族結婚の子女の間に比率的に多いが,絶対数は何れも少ないし(各3名),血族結婚が上位生活に多いこと,そしてこれらの家庭は低劣児童をも就学させる事情にあるから,このことを以て血族結婚が智能低劣者を生むという証拠とすることはできない.
7.子女通婚の行先をみるに転出の状況は親の血族結婚の率と平行しない.子女の通婚圏及び生活圏は親の代よりも広くなつていることを思わしめる.
8.血族結婚の要因として本村の場合には(i)資産に対する関心が強いこと,(ii)母親の社会的交際範囲が狹いこと,(iii)子女の消極性等が挙げられるが,更に最も重要な要因として(iv)産生(うぶすな)を中心として聚落を形成して來た日本の古來の風俗の根底をなしている強い同族結合感情が働いていると思われる.
かくて「子女の最優秀者は同一部落へ嫁し,これに次ぐ者は村内へ嫁し,最も低く評価される者が他村,他地方と縁付く」という部落の通念さえ存在するところがある.かくして血族結婚の頻度が高くなるのは当然であらう.
抄録全体を表示