農村婦人の肥満の動向と実態を疫学的に検策するために,同一31農協の1967-1969年および1976-1978年の健診データを用い,両年次群の肥痩度および肥満者率について比較検討し,次の知見を得た.1) 76-78年度群の肥痩度は,箕輪値103.6±12.7,ブローカ・桂変法値109.7±14.1,カウプ指数22.0±2.7,肥満者率は,それぞれ,9.4%,13.8%,8.4%で,いずれも,67-69年群に比し有意に高値を示した.2) 76-78年群の肥痩度のピークは,50-59才,肥満者率のそれは50-54才で,いずれも,10年前に比し高年層への移行がみられた.また,肥満者率の増加を年令群別に検討すると,67-69年の35-39才群(すなわち,76-78年の45-49才群)の増加率が最も高値であった.3) 肥満者率は,20-49才では男子,50才以降では女子に高値であった.また,農・非農別では,全般に非農者に肥満者率が高く,とくに男子にその傾向が著明であった.4) 肥満の傾向は,農業地域別には「天草」,経済地帯別には「都市近郊」に最も強いが,地域による差異は縮少しつつある.また,肥満の増加率は「農山村」で最も高い.また,農業粗生産額およびその伸張率(10年間)の低位にある地域に肥満者率の高い傾向をみたが,一方,土地生産性や農業収益が熊本県下で最も高い地域においても肥満者率は高値を示しており,農業生活と肥満の関連を考究してゆくうえで興味深い知兄が得られた.5) 同一者の箕輪値とブローカ・桂変法値の相関を検討したところ,身長の低い層ではブローカ値,160cm以上では箕輪値の肥満者率が高値を示す傾向をみた(r=0.88).… 方,箕輪値とカウプ指数は,いずれの身長群においても極めて高い相関が得られた(r=0.98).
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