関東地方農家世帯におけるがん死亡を非農家世帯と比較することによって,農家におけるがん死亡の特微を明らかにした.本研究では,昭和47~53年の死亡小票をがん部位別・年齢階級別に集計し,次の二つの観点から解析した.(1)農家世帯のがん死亡の比較危険を,各部位について年齢階級別および全年齢で計算して,農家の危険の高いあるいは低いがんを明らかにした.(2)年齢階級別比較危険を用いて,特に危険の高いあるいは低い年齢層を調べるとともに,多段階発癌理論に基づいて高危険あるいは低危険の原因因子の作用年齢を推定した.なお,全国農家世帯についても同様の解析を行ない,関東地方の結果と比較検討した. 農家の危険が非農家を上まわるがんは,男女共通した部位では胃・胆のう胆管・骨・皮膚・ホジキン病・その他のリンパ腫であり,食道と肝臓は女子にのみ高かつた.これらのがんのほとんどは全国農家でも高い危険を示し,かっ専業農家の危険は兼業より高い傾向を示した.これら高危険の原因因子は,骨・皮膚の非常に若い年齢から作用している場合を除いて,ほとんど30歳代から作用していると推定され,比較的若い年齢からの農家の生活環境に問題がある. 一方,農家の危険が低いがんは,男女共通した部位では口腔・大腸・喉頭・肺・膀胱であり,食道・直腸・肝臓は男子のみで低く,また女子の子宮・乳房も低かつた.関東農家の危険が全国の場合より特に低いがんは,大腸・肺・膀胱・乳房および男子の口腔であり,肺・子宮を除いて専業農家の危険は兼業よりさらに低かつた.これらのがんの農家と非農家の差は,男子の食道・肝臓については50歳代以前の生活環境に,またその他のがんではほぼ生涯を通しての生活環境に起因すると推定される.
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