保健医療社会学論集
Online ISSN : 2189-8642
Print ISSN : 1343-0203
ISSN-L : 1343-0203
27 巻 , 2 号
選択された号の論文の20件中1~20を表示しています
特集 第42 回大会(2016年度)追手門学院大学
教育講演
シンポジウム「〈薬害〉のナラティヴ――その共有と継承――」
  • 山田 富秋
    2017 年 27 巻 2 号 p. 8-11
    発行日: 2017/01/31
    公開日: 2018/07/31
    ジャーナル フリー

    「問題経験のナラティヴをきく」をメインテーマとした今大会シンポジウムでは、薬害被害当事者の経験の語りとして、特にサリドマイド事件と薬害エイズ事件を取り上げた。本稿は花井十伍氏の教育講演「薬害エイズの教訓から考える」の提起した「人権の問題」の視点から、このシンポジウム全体の意義を捉え直した。薬害のナラティヴの共有と継承にとって重要なことは、メディアによって単純化された薬害被害者の語りを、適切な社会的・歴史的文脈に位置づけ直すことによって、個々の被害当事者の多様な経験を回復することにある。さらにまた、薬害被害者の語りが証言することは、人権という概念が発効する以前の、生存そのものが脅かされる過酷な事態である。問題経験のナラティヴをきくことを通して、被害当事者の語りを断片的にではなく、トータルな時間的流れとして理解できるようになり、それは人権の問題として薬害被害を捉える時に不可欠なものとなる。

  • 増山 ゆかり
    2017 年 27 巻 2 号 p. 12-17
    発行日: 2017/01/31
    公開日: 2018/07/31
    ジャーナル フリー

    1957年にドイツでサリドマイド剤を含む医薬品が開発され、副作用がない夢の新薬と持てはやされ翌年の1958年には日本でも医薬品として承認されました。この医薬品の副作用によって、多くの人々の命が奪われた事件が「薬害サリドマイド事件」です。

    多くの消費者は、企業が示す安全性や有効性のエビデンスに国が保証し、それを製品化したのだから偽薬でも飲まされない限り、重篤な副作用は起きないと思っているのではないでしょうか。しかし、承認時におこなう治験や臨床試験だけで、すべての副作用を把握できるわけではありません。実際には、市場に出て初めて医薬品という商品は価値を問われるのです。

    何が起きたのか知る間もなく亡くなった人や、何の落ち度もない人が自分のせいだと苦しむ無念さは、今もこの国の何処かで哀しみを湛えているでしょう。副作用に科学的根拠を求めれば、被害の蓄積を待つということしかないのです。被害が何をもたらしたのか知り、それを教訓にする責任が社会にはあると思います。

  • 本郷 正武
    2017 年 27 巻 2 号 p. 18-26
    発行日: 2017/01/31
    公開日: 2018/07/31
    ジャーナル フリー

    本稿は医療社会学、とりわけ社会運動論の知見を援用することで、〈薬害〉経験を伝承するための分析枠組みを提示する。社会的な相互行為を経た上で立ち現れる運動的・政治的な概念である〈薬害〉は、「現代型訴訟」により、被害者の救済を求める方策として確立されていった。そこでは「加害–被害図式」に則った運動が展開され、救済の正統性を獲得することに成功した反面、「加害者」の側の立場や教訓を相対的に看過することにつながった。そこで「加害者」の語りを聞き出すためにライフストーリー・インタビューを採用することにより、多声的な〈薬害〉問題の記述が可能となった。多声的記述はこれまでわたしたちが保持していた〈薬害〉のリアリティを掘り崩すというよりも、他事例との対話可能性を拓くための文脈や分析概念の析出(=一般化)に寄与する。

  • 望月 眞弓
    2017 年 27 巻 2 号 p. 27-31
    発行日: 2017/01/31
    公開日: 2018/07/31
    ジャーナル フリー

    医薬品の安全管理においては、患者や薬害被害者の声に耳を傾ける姿勢が重要である。中高生向け薬害教育でも、被害者の直接の講演や対話が効果的であることが確認されている。患者からの副作用報告については正確性に疑問を呈する意見もあるが、適切な収集の仕方で集めた患者からの副作用報告は、貴重な情報源になり、新たな副作用の発見、さらにはその防止に繋がる。収集された患者からの情報は専門家内に留めることなく患者も含めて共有することが重要である。

  • 大西 赤人
    2017 年 27 巻 2 号 p. 32-34
    発行日: 2017/01/31
    公開日: 2018/07/31
    ジャーナル フリー

    筆者は血友病患者であり、様々な意味で当事者かつ被害者の側面を持つが、自らがいわゆる「当事者」であるという意識は強くはない。より正確には、「当事者性」をことさら前面に打ち出すことを避けたい想いが強い。本郷正武氏は、当事者あるいは被害者による訴訟や運動においては、“自分たちの主張は間違っていない”ことを裏付ける「正統性」が獲得されると指摘した。当事者・被害者には、一種の至上主義がつきまとい、その発言・行動は絶対化していく。筆者は、このような「当事者性」から距離を置き、第三者的ないしは客観的な立場で関わりたいと考える。血友病患者のHIV感染においても、被害者には、自分の身体・人生を壊されたという感覚——「“損なわれた”感」——が直截的で非常に大きい。しかしそこでは、患者がどんな情報を与えられ、判断を下し、それに基づいて医療が行われたかというあるべきインフォームド・コンセントの姿に基づく検証は、未だ十分ではない。

  • 伊藤 美樹子
    2017 年 27 巻 2 号 p. 35-37
    発行日: 2017/01/31
    公開日: 2018/07/31
    ジャーナル フリー
原著
  • 堀 兼大朗
    2017 年 27 巻 2 号 p. 38-47
    発行日: 2017/01/31
    公開日: 2018/07/31
    ジャーナル フリー

    本稿は、自閉症スペクトラム障害と診断された子どもの母親が持つ、子どもの障害を打ち明けることへの抵抗感が、スティグマという問題に規定されながら、さらにいかなる要因に影響を受けているのかを、混合研究法から探索的に明らかにすることを目的とする。質的調査からは抵抗感を規定する3つの要因が仮説として導出された。それらを検証した量的調査では、診断からの年数が長いほど抵抗感は低くなり、加えて、特別支援学校/学級に所属している子ども、および、通級指導を受けている子ども、つまり、障害者として所属している子どもの母親は抵抗感が低かった。さらに子どもの所属に注視すると、障害者として所属している場合のみ、診断からの年数が長いほど抵抗感は低い傾向にあった。すなわち、打ち明けの抵抗感は、時間や所属といった母子の生活状況に影響を受けており、それらの要因によって母親らの抵抗感は一様ではなくなることが分かった。

  • 加藤 英一
    2017 年 27 巻 2 号 p. 48-56
    発行日: 2017/01/31
    公開日: 2018/07/31
    ジャーナル フリー

    後期高齢者医療制度が2008年から始まった。このような一定年齢以上の高齢者のみを対象とした独立の医療保険制度は、世界でも他に類を見ない。またその特徴は保険財源にもみられる。被保険者の保険料が約1割、他の保険者からの支援金が約4割、そして公費が約5割である。ここで問題となるのが各保険者からの支援金の配分、即ち費用負担の分配の公平性である。具体的には健康保険組合、全国健康保険協会、国民健康保険の3つの保険者間の費用負担の公平性が問われる。本稿ではこの問題に対して、支援金の負担額そのものの配分を問うのではなく、保険の加入による効用としての利得から分配の公平性を問題としている。方法としては保険加入による利得計算を基にゲーム理論を参考として、その特性関数から公平性を問うている。その結果、後期高齢者医療制度は、不公平なシステムとまではいえないとされる。

  • 小池 高史
    2017 年 27 巻 2 号 p. 57-66
    発行日: 2017/01/31
    公開日: 2018/07/31
    ジャーナル フリー

    現在、認知症の早期発見が政策目標となっている。本稿は、その手段となる高齢者への認知機能検査の場面で、検査者と被検者が、どのように質問を含んだ会話を行い、そこで生じる問題を処理しているのかを明らかにすることを目的とした。MMSE (Mini-Mental State Examination)の見当識の質問場面を取り上げ、検査のやり取りのなかで焦点が絞られる対象と、問題が生じたときにそれがどのように処理されるのかを会話分析の手法を用いて記述した。分析の結果、以下の点が明らかになった。1)検査の会話のなかで、応答の正誤が2通りの方法で焦点化される。2)質問の意味がわからないことによって被検者が質問に答えられないという問題が生じた場合、被検者によって修復が開始され、応答することが適切なタイミングが延期される。3)答えを知らないことによって質問に答えられない問題が生じた場合には、検査者と被検者の両者によって、認知症の症状からより離れた状況の定義がなされる。

  • 西沢 いづみ
    2017 年 27 巻 2 号 p. 67-76
    発行日: 2017/01/31
    公開日: 2018/07/31
    ジャーナル フリー

    医療供給と受療の関係に注目した先行研究では、主たる関心が、国が主張する医療制度にあったが、近年では農村部を中心に地域での具体的な医療実践も注目されるようになってきた。しかし、医師数など医療供給は充足しているにもかかわらず、受療との乖離があった都市を対象とする研究はほとんどない。本論では、1950年代の京都西陣地域に注目し、医療供給と受療の乖離がどのように埋められ高度な医療体制が形成されたのかを、医療保険や病院史に注目し一次資料を用いて検討した。その結果、同地域では保険未加入者が多かったため、医療者が住民と共に医療扶助の獲得運動を行い、受療を支援したことが明らかになった。また住民が自らの出資で医療機関を設立し、その運営に参加できる仕組みを作り、往診や設備の充実した医療が供給できる独自の体制を構築していった。同地域における医療供給と受療の乖離を埋めるには、地域的な取り組みと、医療扶助を含めた医療供給体制が重要であるといえる。

  • 野島 那津子
    2017 年 27 巻 2 号 p. 77-87
    発行日: 2017/01/31
    公開日: 2018/07/31
    ジャーナル フリー

    「論争中の病(contested illnesses)」は検査で異常が確認されないため、当事者の多くは長期にわたる未診断状態や精神疾患等の「誤診」を経験する。そのため、先行研究では未診断状態の困難と当事者における診断の肯定的帰結が強調されてきたが、診断の効果の時間的変動や他者の影響は十分に検討されていない。本稿は、こうした点を考慮し、筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群と線維筋痛症を患う人々の語りから、診断が当事者にもたらす影響について検討を行った。その結果、安心感の獲得、患い/苦しみの正統化、自責の念からの解放といった診断の効果が当事者個人に生じていた一方で、診断後も患いに対する他者の評価は低いままであり、病名を伝えても病気と見なされないという「診断のパラドックス」が生じていた。診断のパラドックスは、病者の周囲による脱正統化作用の大きさを浮き彫りにし、診断それ自体の正統性が脆弱であることを示唆する。

書評
ワークショップ報告
feedback
Top